末期がんの終末期 苦しいのは痛みと限らない-緩和ケア〔7〕
10/29(火) 17:08配信
時事通信
末期がんの終末期 苦しいのは痛みと限らない-緩和ケア〔7〕
大切なのは医療者との十分なコミュニケーション(イメージ)
「(がんを患っている)家族が痛みでのたうち回って…」。インターネットを閲覧していると、がん患者の家族からなのでしょう、こんな投稿を目にする機会が少なくありません。このほかにも、「(痛み止めの)モルヒネを増やしても効かなくてかわいそうだった」「モルヒネを増やしたら意識が低下して亡くなった」というような投稿もよく見かけます。
このように周囲が感じる根底には、誤解があります。がんで亡くなるまでにどんな経緯をたどるかということが十分に知られていない、情報提供されていないことが原因です。そこで、どこに、どのような誤解があるのか、これから説明します。
末期がんの終末期 苦しいのは痛みと限らない-緩和ケア〔7〕
せん妄というとイラストのように興奮した様態を思い浮かべるが、終末期せん妄は身の置き所のない形を取ることがあり、正しく認識されにくい(イメージ)
◇最後まで意識ははっきりしている?
まだまだ社会には「がんの末期=痛い」という思い込みが広く存在していますが、これが最初の誤解です。実際、全員が全員に痛みが出るわけではありません。最期まで痛みが出ないこともあります。
一方で、最期を迎えるまで健康な時と同様にはっきりとした意識を保つことは、ほとんどありません。なぜなら、全身状態が悪ければ、意識も混濁したり変容したりするからです。
このような意識の混濁や変容を「せん妄」と呼びます。終末期のせん妄はしばしば「身の置き所がない」という様相を呈します。
末期がんの終末期 苦しいのは痛みと限らない-緩和ケア〔7〕
足だけ布団をかけたがらない。布団や足が重いと仰る方もいる。身の置き所のなさを示す一つと考えられる(イメージ)
◇「身の置き所がない」
こうなると、ベッド上で体位を頻繁に自分で変えたり、掛け布団を「重い」とはね飛ばしたりします。自分でできなければ、こうしたことを行ってほしいと周囲へ訴えます。
このほか、「だるい」とおっしゃることもあります。一般に、死期が迫った段階では思うように体を動かすことができず、顔をしかめ、体位が定まらなくなります
このような状況で周囲から「痛い?」と質問されると、うなずくことはあります。でもこの段階では、「だるい?」とか「気持ち悪い?」とかの質問に対しても、同じようにうなずくこともしばしばあるのです。
これらの具体的な身体症状があるというよりも、せん妄などで意思の疎通が困難になっていて、周囲からの呼び掛けの内容が理解できないままうなずいているだけ、という場合もあります。このような患者の状態は、終末期の診療に習熟している医療者ならば見分けられます。
◇他に原因の可能性
患者の家族の視点ではどうでしょう。
「痛い?」との質問にうなずかれれば、「痛がっている」と思うのが当然です。そうすれば「何とか痛みを取ってもらえませんか。医療用麻薬を使ってでも」と医師に希望されるでしょう。しかし、このような患者の反応は痛みからというよりも、他の原因が主である可能性が相当高いのです。
確かに痛みを放置することは、せん妄を悪くします。一方で、痛みに対して過剰に医療用麻薬を使うこともまた、せん妄を悪くしますから、この時期の患者さんの痛みを和らげるには、相当繊細な治療が要求されます。
しかも、痛みがないにもかかわらず医療用麻薬を用いれば、せん妄はより悪くなる可能性があり、ひいては本当に患者を苦しめている「身の置き所のなさ」を悪化させる可能性もあるのです。
末期がんの終末期 苦しいのは痛みと限らない-緩和ケア〔7〕
鎮静剤は写真のような点滴で必要時に使用する場合もあれば、皮下や静脈への持続点滴(あるいは持続注射)で行う場合もあります(イメージ)
◇最終末期に鎮静薬
これらを踏まえてインターネットでよく見る、先の言葉を考えてみたいと思います。
「モルヒネを増やしても効かなくてかわいそうだった」-。もしかしたら、身の置き所のなさが中心で痛みは感じていなかったのかもしれません。このようなせん妄による身の置き所のなさに関しては、鎮静薬を用いて対処します。
逆に鎮痛薬であるモルヒネ等の医療用麻薬は、意識を低下させる作用はそれほど強くありません。鎮静薬を使わないと取れない苦痛が、人の最終末期には起こる可能性があるのです。
「モルヒネを増やしたら意識が低下して亡くなった」という、先に紹介したネット投稿はどうでしょうか。
本来、モルヒネなどの医療用麻薬は「鎮痛薬」なので、がん自体による痛みがあって、基本的な痛み止めであるアセトアミノフェンやロキソプロフェンなどでは抑えきれない場合に、末期に限らず使うべき薬です。
◇何重もの誤解
終末期になって初めて最終兵器のように使うものではないのですが、「意識が低下して亡くなった」と記されるエピソードは、モルヒネが最後の最後に登場している例が散見されます。モルヒネについて患者とその家族だけでなく医療者にさえ、「意識を低下させる」「呼吸を弱めて死を早める」という認識があって、終末期まで使用を控えている可能性も考えられます。
特にモルヒネなどの医療用麻薬を使わずとも、終末期には意識が低下します。それでも、「モルヒネが始まった、その後亡くなった」という事態を、正しい説明が不足している中で体験すれば、「モルヒネで亡くなった」と思っても不思議ではありません。
残念ながら、まだまだ人の死に関する情報は行き届いておらず、それがゆえに「末期がんの最後の症状がモルヒネで抑えられる」「ただしそれは意識を低下させ、命と引き換えになる」など、何重にも誤解されてしまっているのです。
◇疑問があれば口に出す
このような誤解を解くにはどうしたらいいのでしょう。大切なことは、がんの終末期ケアに習熟している医師や看護師などの医療者に関わってもらうことです。
また疑問を口に出さないでいると、間違った認識で理解してしまうのはむしろ当然です。人が亡くなってゆくさまは、分からないのが当然ですし、経験していても各人ごとに経過は違います。誰もが同じに亡くなってゆくわけではなく、だからこそ医療者とよくコミュニケーションを図って、知ることが大切です。
終末期には痛み以外の症状が問題になることも多く、しっかりとした緩和ケアが必要になります。その時のために、利用でき該当する医療資源についてもよく知っておくことが重要なのです。(緩和医療医・大津秀一)
末期がんの終末期 苦しいのは痛みと限らない-緩和ケア〔7〕
大津秀一氏
大津 秀一氏(おおつ・しゅういち)
早期緩和ケア大津秀一クリニック院長。茨城県出身。岐阜大学医学部卒。緩和医療医。京都市の病院ホスピスに勤務した後、2008年から東京都世田谷区の往診クリニック(在宅療養支援診療所)で緩和医療、終末期医療を実践。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長を経て、遠隔診療を導入した日本最初の早期からの緩和ケア専業外来クリニックを18年8月開業。
『死ぬときに後悔すること25』(新潮文庫)『死ぬときに人はどうなる 10の質問』(光文社文庫)など著書多数
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gra***** | 25分前
「身の置き所がない」
初めて知りました。
「ガン=痛い」「鎮痛剤の多用→死期を早める」のイメージが強かったです。
私の両親もガンで亡くなっています。
自分はまだ30代ですが、死について考えることがあります。
苦しむことなく、眠るように安らかに逝きたい。
でも、そうならないかもしれない。
人生でたった一度の死。
痛い、苦しい、身の置き所がなく辛い…と思いながら、いつ来るか分からない死を待つよりも、自分の死に方を選択できる時代になれば良いのにと思います。
命が軽く扱われないよう、慎重に検討されるべき問題なので、難しい所もあるでしょうけど…
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min***** | 22分前
30年ほど前、伯母が癌の闘病生活を送っていました。
3度の手術後、ホスピスと同様の処置をしてくれるというクリニックで最期を過ごしましたが、とにかく痛くて痛くてモルヒネをといつも言っていました。医者の処方する量では足りず、(今では考えられませんが)他の病院で看護師をしていた実の娘から、別に打ってもらっていました。
30キロ以下になり、骨と皮にチューブだらけでしたので、痛がる分処方してくれても良いのでは?とまだ10代だった私は思いました。
痛い痛い言うのを見ているより、家族だって意識が混濁しても安らかな方がいいと思うに決まってると思うのです。自分に置き換えたらもちろんのこと︎なんとも言い表せない辛さも緩和できるものならモルヒネを使えばいい。ただ延命を望むのは家族のエゴであり、本人は苦しみが伸びるだけ。命が短くなっても苦しみは取り除いて欲しい。
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yuu***** | 2時間前
父がスキルス胃がんで告知から1ヶ月で亡くなりました。
あまり痛いとも言わず、最期は本当に安らかに息を引き取りました。
周りの人は本人同様精神的につらいのですが、何より静かに息を引き取ったことが何よりの想いでした。
どんな緩和ケアか具体的なことはあまり聞いていませんが、終末期にはどうしても意識の低下が始まるとのことをこの記事でわかったので、眠るように逝った父に「ガンとの戦いが終わって良かった」と心から思いました。
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mat***** | 1時間前
腫瘍による痛みも当然ながらあり得ますが、心身共に痛みとなり得ます。
心の部分の痛みを和らげてあげることができるのであれば、それは人であったりペットであったり、自分が今まで行ってきた生き方であったりと様々だと思います。
患者さん自身が向き合うこともですが、周りの方も患者さんに向き合えるかという部分は間違いなくあります。
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jackson_Soloist | 8分前
末期がんではないですが、私自身緩和ケア科のお世話になっています。お世話になり始めた事で、日常生活…特に睡眠時はとても楽になりました。一時はこのままどんどん鎮痛剤の量が増えていったら癖になってしまうのではないかという不安もありましたが、担当医とよく話し打ち合わせすることで薬の量と痛みをコントロールしています。
あとはガンが消えるか、上手く共存できるようになってくれれば良いんですがね…。
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blu***** | 1時間前
今年、父をガンで亡くしました。入院中真冬にもかかわらず、足元の布団を掛けないように何度も言いました。
呼吸が浅くなり、亡くなる寸前に思わず「もう少しだけ頑張って。○○(妹)が来るから。お願いだから。」と叫んでしまいました。
その瞬間、父は涙を流しました。
数分後に亡くなり、妹は間に合いませんでしたが、父には届いたと思います。
臨終間際でも意識はあると信じた出来事でした。
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わんこ | 1時間前
利用できる医療資源が身近(県内とかの範囲ですら)にあるかどうか・・。
緩和ケアを掲げていても内容は千差万別。
尊厳死等考えていく上で、緩和ケアはすごく大切な前提条件になってくると思うけど、現状内容もお粗末で、地域格差も大きすぎるよなあ。
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******+++ | 36分前
癌の最末期は痛みよりも倦怠感が苦痛というデータがある。
家族としては元気だった患者が自分の理解を超えるスピードで変わっていく様子が受け入れられずつらいのだと思う。
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uch***** | 27分前
兄が緩和ケア病棟に入った時には覚悟してたものの、私の子の誕生月を聞いた瞬間に兄が黙ってしまったので余命宣告してなかったはずなのに 自分の状態を理解してたかもしれません。
本当は自宅で看取りできれば良かったけど、痛くて辛い状態を見てた家族としては日中一人にしておけなくて仕方なかったんです。
入浴の上手い看護師さんがいて喜んでたと聞いた時は本当に感謝しかないです。
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chi***** | 58分前
ガンではないけれども、ウチの義母は、痛みなどを訴え、薬が増えていったのですが、服薬を拒否したため、最低限の薬に減らしましたが、痛みなど症状は特に増しませんでした。
不快感をうまく表せないことが、身の置き所のない苦しみなのかなぁと思いました。
mic***** | 27分前
終末期の方のご家族から最後は
身の置きどころがないような感じだったとお聞きします。
痛い?辛い?と当然聞くのは理解が出来ますが、終末期在宅看取りのご家族にはなるべく痛み等に集中しないでいい言葉がけをお伝えしています。
しんどそうにしている大切な家族が目の前で顔をしかめ身体を動かすと言いたくなりますね。自身の親の時にも大丈夫だからね、と身体を擦る位でしたが。
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ジーナ | 50分前
尊厳死を認めるべきと思います。
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tom***** | 35分前
医師や看護師・薬剤師などで緩和ケアチームをつくり 痛みの苦痛を訴えている患者のところへ訪室しどのような痛みか?どのくらい痛いのか?悩みなどいろいろな話を聞いてくれるなどその患者に適した鎮痛薬・麻薬を選び使用します。
痛みが増強すれば量を増やしたり薬を変えるほか 痛みを和らげる体位を考えてくれたりマッサージ・アロマを行なったり 昔と違い死を迎える患者が多くなってきているので もっと広めて欲しいなと思います!
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tpl***** | 54分前
親の死は子供にとって人生最大の苦痛、悲しみである。できればちょっと穏やかな笑顔のまま天国に行って貰いたい。
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sub***** | 49分前
安楽寺を選択できる議論を始めてほしいです。
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565 | 40分前
「身の置き所がない」と言うのは、この世とあの世の間にある状態なのかな。
自分も遅かれ早かれそんな状態になるから、その時の覚悟が出来るような気がした。
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hac***** | 19分前
鍼灸師です。末期ガンの治験をいくつも経て思うに、全身をほぐし血流を促し不定愁訴に対して逐一対応すべく治療を行ってきました。苦しみは少ないですよ。投薬だけでは無理だと思いました。
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ys***** | 2時間前
大津くんすごいなぁ。すごすぎる。同じ教室で勉強してたのに今や雲の上の人だわ。地元からご活躍をお祈りしています!
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has***** | 2時間前
モルヒネは、痛みは治まるが気持ち悪くなるって、ガンで死んだばあちゃんが生前言ってた
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ell***** | 4分前
オレのオヤジも7月末に癌で亡くなった。
事後報告だが月曜日からモルヒネ使ってるとのこと。
水曜日にお見舞いに行き、意識朦朧としてた。
オレの事解ったかな?
医者が来て2㎎?だと思うけど指示してた。
多分増量してた。
その後、一時間後に呼吸止まったとの連絡があり、そのまま亡くなった。
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sur***** | 1時間前
私なら、かわいそうとか痛くない?とか同情されたりするのが1番辛い。難しいだろうけどいつも通りの連続で死を迎えたい。
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adgjmptw2015 | 1時間前
一昨年愛猫が肺リンパ腫で旅立ったのだけど、最後の三日間、酸素ハウスから出たがって、家の中をうろうろ、うろうろしてた。あれ、身の置き場がない苦しみだったんだろうなあ…ほんとうにかわいそうなことしちゃった。償っても償いきれない。
それから鬱がひどくなった私はもう安楽死してもらいたい。
田舎過ぎて自殺する場所がないし。
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Edo | 24分前
現在父が終末期、意識が混濁するなか時折顔をしかめています。鎮痛の点滴や貼り薬、何をしても完全に痛みは取れないよう。元気な時に主治医に自然に死にたいと伝えて家族も了承済みだかここ二日間の容体を見て「自然に死ぬと言う事は壮絶なんだ」と感じた。自分だったら意識がある内に「鎮静を施して下さい」と懇願すると思う。
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blu***** | 53分前
自分がそういう状態になったなら、痛いもだるいも全て嫌だね。 殺してくれと言っても叶わないし、せめてバンバン薬入れて意識飛ばしてくれと言うだろうな。
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白子の黒熊 | 2時間前
患者にあまりに苦しいので安楽死させてと頼まれて、望みを叶えてやると殺人犯になる医師。
末期ではフランスへ行って安楽死することもできず、まして自殺する体力すら残っていない。
日本は民度も高く世界に冠たる先進国だけれど、安楽死に対する理解と法整備は遅れている。
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ser***** | 38分前
だから私は反出生主義です。
子作り前提でナマでやるということは、自
分の子供が将来こうなってもよいと容認することと同義です。
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