21世紀dotank発 引っ越しのあいさつはするな /山梨
毎日新聞2017年5月12日 地方版
山梨県
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今春、娘が大学に合格し、下宿先を探すため、東京の不動産屋を訪ねた。幸い、割と駅に近く、閑静な住宅地のワンルームマンション(アパート)を見つけることができた。オートゲートとなっており、3階の角部屋で警備会社の契約もあり、家賃の水準を考えるとまずまずで、早速契約をした。
後日、鍵を受け取りに再び不動産屋を訪ね、引っ越しに関する地元のルールなどを聞いたのだが、びっくりしたことがあった。「アパートの住民に対して、引っ越しのあいさつはしないでください。若い女性の1人暮らしを知らせて回ることになり、危険です」とのこと。
そうか。都会とはそういう場所で、今はそういう時代なのだと改めて認識した。確かに引っ越しの最中、大学生か若い会社員風の男性が2軒くらい先から出てきて目の前を通ったのであいさつしたが、無言だった。
電車の中では、大多数の人々が各自スマホを見つめる異様な光景がみられる。「人にあいさつをするな」と我が子に教える親もいる。人と関わることによるトラブルを避けたいのだろうか。
他人とコミュニケーションを図ることが難しくなってきたと感じる。物事を考えることを避け、単純な結果を求める。社会と交わりを持つことを嫌い、耳障りな話を遠ざける。「自分以外は見えない(見ない)」「価値観の異なる考えは受け入れない」といった傾向もみられる。
都会の良いところは、人の目を気にする必要がない、地域の秩序に縛られない自由さである。しかし、日本はこれから人が減り高齢者が増える。また、インフラの老朽化が進み、住民サービスの縮小は避けられない。こうした中、地域における課題解決の最後のよりどころは、人と人とのつながり、相互扶助である。「お互いさま」とも言うべき各自の自発的な取り組みがまずは必要であろう。
日本人は、周囲に気を配る民族だった気がするが、日本は大丈夫だろうか。自宅に戻ってきたら、近所の人にあいさつされ、ほっとした。あいさつなんて、ごく当たり前のことなのに。<山梨総合研究所専務理事・村田俊也>
毎日新聞2017年5月12日 地方版
山梨県
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今春、娘が大学に合格し、下宿先を探すため、東京の不動産屋を訪ねた。幸い、割と駅に近く、閑静な住宅地のワンルームマンション(アパート)を見つけることができた。オートゲートとなっており、3階の角部屋で警備会社の契約もあり、家賃の水準を考えるとまずまずで、早速契約をした。
後日、鍵を受け取りに再び不動産屋を訪ね、引っ越しに関する地元のルールなどを聞いたのだが、びっくりしたことがあった。「アパートの住民に対して、引っ越しのあいさつはしないでください。若い女性の1人暮らしを知らせて回ることになり、危険です」とのこと。
そうか。都会とはそういう場所で、今はそういう時代なのだと改めて認識した。確かに引っ越しの最中、大学生か若い会社員風の男性が2軒くらい先から出てきて目の前を通ったのであいさつしたが、無言だった。
電車の中では、大多数の人々が各自スマホを見つめる異様な光景がみられる。「人にあいさつをするな」と我が子に教える親もいる。人と関わることによるトラブルを避けたいのだろうか。
他人とコミュニケーションを図ることが難しくなってきたと感じる。物事を考えることを避け、単純な結果を求める。社会と交わりを持つことを嫌い、耳障りな話を遠ざける。「自分以外は見えない(見ない)」「価値観の異なる考えは受け入れない」といった傾向もみられる。
都会の良いところは、人の目を気にする必要がない、地域の秩序に縛られない自由さである。しかし、日本はこれから人が減り高齢者が増える。また、インフラの老朽化が進み、住民サービスの縮小は避けられない。こうした中、地域における課題解決の最後のよりどころは、人と人とのつながり、相互扶助である。「お互いさま」とも言うべき各自の自発的な取り組みがまずは必要であろう。
日本人は、周囲に気を配る民族だった気がするが、日本は大丈夫だろうか。自宅に戻ってきたら、近所の人にあいさつされ、ほっとした。あいさつなんて、ごく当たり前のことなのに。<山梨総合研究所専務理事・村田俊也>