男子50キロ競歩は史上初の複数メダル、出場3人ともが入賞と、日本が世界で戦えることを証明した。銀メダルの荒井は終盤まで競り合った小林、5位の丸尾を満面の笑みで、フィニッシュラインで出迎えた。

 リオ五輪金、銀の両メダリストが出場しなかった今大会。この種目の日本勢最年長、29歳の荒井には、仲間をリードする余裕があった。隣で歩く小林が歩型違反の警告を受けると「まだ一つだから冷静に」とささやいた。給水では水を2本とって渡す場面もあった。

 残り13キロ。小林と一緒に集団を抜け出した。そのとき、荒井にはまだ余裕があったが、小林の呼吸の乱れに気づき、なんと自ら「ペースメーカー」を買って出た。2人で確実にメダルをとる戦術をとり「メダルいけるぞ」と励まし続けた。

 ここまで荒井が仲間思いなのは、日本競歩界を盛り上げたい一心だからだ。

 今春、男子50キロ競歩廃止の可能性が一時浮上した。存続が決まり胸をなで下ろしたが「もっと活躍しないといけない」と感じた。

 競歩の現状を広く告知しようと、ツイッターのアカウントも開設。7月に北海道であった合同合宿では、女子20キロ代表で今大会18位だった岡田に「将来メダルをとるんだろ。女子競歩を引っ張れ、しっかりやれ!」と励ました。

 ロンドンは5年前に五輪代表から漏れた、人生の分岐点だった。夢だった舞台で、荒井はすっかり日本のエースになって、5年越しに躍動した。

 

【ダブル表彰台一問一答】小林、早大時代は箱根駅伝目指していた「途中で荒井さんが何度も声をかけてくれた」/世界陸上

 
【ダブル表彰台一問一答】小林、2回目の50キロ競歩で銅!「途中で荒井さんが何度も声をかけてくれた」/世界陸上: 2位でゴールした荒井広宙(左)と3位の小林快 =イギリス・ロンドン(撮影・川口良介)© サンケイスポーツ 提供 2位でゴールした荒井広宙(左)と3位の小林快 =イギリス・ロンドン(撮影・川口良介)

 陸上・世界選手権男子50キロ競歩(13日、ロンドン)バッキンガム宮殿前付近の周回コースで行われ、リオデジャネイロ五輪銅メダルの荒井広宙(29)=自衛隊=が3時間41分17秒で銀、小林快(24)=ビックカメラ=が3時間41分19秒で銅メダルを獲得。日本勢はこの種目で2大会連続の表彰台となり、初の複数メダルとなった。丸尾知司(26)=愛知製鋼=が3時間43分3秒で5位に入り、全員が入賞した。世界記録保持者ヨアン・ディニズ(39)=フランス=が3時間33分12秒の大会新記録で初優勝した。

 小林は昨年10月の全日本50キロ競歩高畠大会でこの種目に初挑戦。日本歴代4位の好タイムで優勝し、ロンドン切符を手にしていた。秋田工高では長距離と競歩を両立し、早大入学後に箱根駅伝を目指したが実力を発揮できず、3年時から競歩に専念していた。

 レース後の日本勢との一問一答は以下の通り。

 --レースを終えて

 荒井「何とかメダルを取ることができてホッとしている」

 小林「途中で荒井さんが何度も声をかけてくれて、『2人でいこう』といってくれて、何とか粘りきることができた」

 丸尾「何とか2人のメダルに続くことができてよかった」

 --北京大会は4位、リオ五輪は銅、今大会は銀

 荒井「本当にうれしい。メダルを取らなきゃいけない気持ちがあった。仕事ができてホッとしている」

 --40キロから苦しかった

 小林「僕が1つ(枠に)入ってしまったせいで代表になれなかった選手がいる。そういう人たちが見ていると思ってがんばりきることができた」

 --本当に苦しい50キロだった

 丸尾「本当にたくさん方々の応援が聞こえて、みなさんの力のおかげでゴールすることができた」

 --競歩は日本のお家芸となった

 荒井「まだまだこれから強くなっていくと思う。日本中のみなさんにもっと期待してもらいたい」

 --初の世界陸上

 小林「50キロ、2回目の挑戦でチャレンジャーの気持ちで臨んだ。最後までレースを楽しんで歩くことができた」

 --先輩たちの努力もあった

 丸尾「荒井さんだけでなく先輩たちが敷いてくれたレールに乗って、この結果がある」