写真・図版

 自治会・町内会についてのフォーラム最終回は、自治会を自分たちの手でつくり直す取り組みを紹介します。自治会は必要か、不要か、のアンケート結果と合わせて、これからの自治会のあり方のヒントを探ります。今回の企画のきっかけをつくり、取材班の一員になってくれた読者に、シリーズを通じて感じたこともうかがいました。

 以前、立ちゆかなくなって自治会をいったん解散したというメールが東京都調布市の小西久也さん(79)から届きました。現地を訪ねました。

 小西さんによると、約200世帯が14班に分かれて加入していた「杉森自治会」が解散したのは、1994年前後。直接のきっかけは、今回の読者アンケートでも目立った、役員のなり手不足でした。くじ引きで決める時に、当たった人が泣き出す始末だったと言います。議論の末、ぎすぎすした関係に陥るのは馬鹿馬鹿しいという結論に。反対者もなく、自治会は消滅しました。

 ところが、なくなって、不都合が徐々に生じてきたそうです。市や消防署からのお知らせが届かない。赤い羽根や歳末助け合いなどの募金ができない、など。阪神大震災後、地域で防災に取り組もう、との意識が高まりをみせていた時でもあり、自治会を作り直そうという意見が一部の地域で強まりました。

 小西さんの暮らす染地地区では95年、元の班を中心とした12世帯が「のぞみ会」を結成しました。

 これまでの反省をふまえ、申し合わせをしました。①会長はおかず、仕事は1年交代で全世帯が担当する②仕事は、市や消防署からのお知らせ回覧の責任者になる、赤い羽根の募金や盆踊り大会への寄付金を社会福祉協議会へ届ける③自治会費はとらない。募金・寄付金は、一律で計年2千円④年1回総会を開き、お金を徴収し、引き継ぎをする。

 「仕事はできるだけ合理化し、責任の均等を明確に。お金の徴収も会員の合意で一律の金額にして、風通しよく接することができるようにしました」と小西さんは言います。

 一戸建ての並ぶ静かな住宅地を歩くと、玄関先の掃除をする住民の人たち同士、自然に声がけしていました。各戸の家族構成や職業、病気の人がいる、空き家がある、などの状況はだいたい承知しあっているそうです。「ただ、どんなに親しくなっても、不用意に干渉しない。気持ちよく暮らすための鉄則ですね」と小西さん。

 ほぼ同じ時期に、やはり12世帯で新たに結成された隣の「むつみ会」の新井知寿子さん(73)は、より力を込めて自治会の存在意義を語りました。広報の掲示・配布や募金・寄付金を含む年会費2千円の徴収は、会長の滝田裕達(ひろさと)さん(72)が恒常的に引き受けてくれていて、会の状況は「のぞみ会」と違います。来客時に足りない座布団や、子どもが学校で使う文房具を融通しあい、在宅を知らせる黄色い旗を立てた家にお茶を飲みに立ち寄るなど、「自慢の交流」を重ねてきたそうです。

 そんな交流を支えているのが「地域を良くしたい」「互いに仲良く暮らしたい」というコミュニティー意識だと新井さんは言います。

 二つの自治会が再結成されるきっかけの一つだった「防災」については、今のところ、具体的な取り組みはされていません。一人暮らしの高齢者の見守りなども含め、今後の課題だといいます。

 調布市によると、行政が把握している自治会数は2014年度で382。加入率は45・5%です。統計を電子化し始めた06年度から加入率は7・5ポイント減っているそうです。新たに10以上の自治会が結成された年もありますが、全体としては減少の一途で、年に2~3の自治会が廃止されているといいます。(藤生京子)

消防団・PTAと連携

 自治会・町内会だけでは解決できない地域の課題を、老人クラブ、消防団、PTAなどさまざまな地縁団体が連携した「地域自主組織」で解決する。そんな活動があると聞き、島根県雲南市を訪ねました。

 雲南市は人口約4万人。全域が過疎指定を受けています。人口減や少子高齢化が著しく、地域崩壊の危機感からまちづくりの一環として生まれたのが、地域自主組織です。自治会とは併存する形ですが、世帯単位で加わる自治会とは違い、一人ひとりが対等の立場で参加します。

 地域自主組織は、おおむね小学校区単位で30あります。活動は多岐にわたり、交流センターにスーパーを設けたり、公立幼稚園で預かり保育をしたり。市地域振興課の板持周治さんは「常設の事務局があるため、平日の昼間でも活動しやすいなど、自治会の負担を軽くしている面もあります」と言います。

 多くが防災にも取り組んでいます。ただ、いざ災害時の避難となると、より小さい単位である自治会なしに考えられないそうです。

 山間部にある「多根の郷」の永瀬晃会長(73)は、防災活動で各地から講演を頼まれます。地区内に七つある自治会それぞれが、各世帯の一時避難場所と避難経路を決め、自治会内で緊急連絡網を作っています。避難場所には、個人の住宅やゴルフ場なども指定されています。地区内の自治会の加入率は100%。永瀬さんは「ここでは自治会を不要だと思っている人はいないのではないか」といいます。(八鍬耕造)

■「必要最低限」提案も

 第2回アンケートで、自治会・町内会について「必要」「どちらかといえば必要」と答えた人は合わせて45%、「不要」「どちらかといえば不要」は49%でした。

 必要派は「高齢化が進む今、最低限の共助組織として絶対に必要」(秋田・60代男性)、「自治組織として置き換えられるものはない」(大阪・60代男性)といった意見が目立ちます。一方、不要派は「掃除やごみ捨て場の設置など生活に必要なことは行政がやるべきだ」(神奈川・30代女性)、「見守りや、訪問しての声かけは行政の仕事」(京都・60代女性)などと主張。自治のあり方についての考えに、根本的な違いがあるようです。

 溝は埋まるのでしょうか。「向こう三軒両隣」の大切さは、必要派、不要派を問わず指摘しています。ヒントになる提案もありました。「活動を安全・防災など最小限にとどめるべきだ」(神奈川・60代男性)、「災害時の備えや高齢者の見守りがメインならよい」(東京・30代女性)。両派とも活動を見直したり絞ったりする案を挙げています。

 

■取材班の一員になってくれた読者は

 このシリーズの生みの親、兵庫県姫路市の水本雅子さん(57)は取材班の打ち合わせや取材にも参加してくれました。フォーラム面に関わった感想を聞きました。

 水本さんは、アンケート回答にこまめに目を通しました。自治会に関する疑問を、知人と話し合うのは難しいと感じていたので「デジタルで全回答が見られて参考になった。体験を通じて自分の言葉で問題提起している人がたくさんいてすごい、と思った。自治会は多くの人にとって身近な存在と改めて気づいた」といいます。アンケート回答を読んで、「同じような気持ちの人があちこちにいたんだなぁと、ほっとしたり、力づけられたりした人がいるかもしれない」とみています。

 ただ、以前から問題を抱えていながら、そのままになっているところに、自治会問題の難しさがあると痛感したそうです。

 日曜日のフォーラム面は通常、4週間4回の予定で始めます。アンケートの回答やメールの意見をみんなで検討し、回数を変えます。自治会シリーズは6回になりました。水本さんは打ち合わせに参加して、「意見を寄せてくれた人を取材したり、紙面のスケジュールを変えたり、読者の反応が紙面づくりに関係していることが分かった。双方向性を感じた」と話します。

 「フォーラム面は、みんなで意見を持ち寄って一緒に考える場。新聞をより身近に感じるようになりました」。最後にこう話しました。(北村有樹子)

■予想を上回る反応

 自治会・町内会の2回のアンケートに計3769の回答が集まりました。予想を上回る反応に、取材班も驚きました。アンケートに書ききれなかった意見をつづったメールや手紙もありました。自治会への不満や不信感だけでなく、自治会を改善するために、アンケートの意見を分析してくれた人もいました。批判的な声にも耳を傾け、「いい自治会にしていこう」と動くことが、自治会への理解を広げる第一歩ではないかと教えられました。

 市町村合併や度重なる災害を背景に、行政が自治会に求める役割は大きくなっています。「地域のために」という聞こえのよい言葉の陰で、多くの人が苦しんでいることも事実です。そうした状況がなくなり、よりよい、あるいは新たな自治活動を広げるにはどうしたらいいのか。取材班を新しく組んで取材、報道していきます。