日本最大の日雇い労働者の街、大阪市西成区のあいりん地区(通称・釜ケ崎)の周辺を「中国マネー」が席巻している。中国人女性のカラオケ居酒屋が商店街に軒を連ね、「中華街」をつくろうという中国人経営者らの構想も出てきた。最近は地価が上がり、急激な街の変化に戸惑う住人もいる。

 あいりん地区東側に広がるアーケード商店街。「1曲100円」の看板が並ぶ。「どうぞ。いらっしゃいませー」。中国人女性がドアを開けて、カウンターだけの店内に手招きする。

 1泊1300円の宿泊施設で暮らすとび職の男性(76)は数軒の行きつけの店がある。「千円で酒を飲んで店員と話し、歌えるので楽しい。だけど店が増えすぎて、街が中国になった感じだ」

 大阪市によると、カラオケ居酒屋は2012年ごろから急増し、街全体で150軒ほどに。長さ100メートルの今池本通の商店街は店舗の半数を占める。理髪店主の男性(72)は「化粧品やお好み焼き店、居酒屋が店を閉め、次々にカラオケ居酒屋になった」と話す。

 西成で22年暮らす中国人の林伝竜(りんでんりゅう)さん(54)はこの商店街で不動産店を経営する。建設現場などで働いてきたが、05年に歌える中華料理店を開き、08年に不動産業に。空き店舗をカラオケ居酒屋に改装し、20店以上を貸し出す。当初は金融機関から融資を断られたが、最近は複数の信用金庫の担当者が店を訪ねてくる。周辺で開業する中国人経営者も次々と現れた。

 昨年12月、近くの商店街のパチンコ店舗跡を競売で落とした。1階をカラオケ居酒屋や郷里・福建省の中華料理店、2階を民泊に改装。3階に中国人経営者らの親睦団体・大阪華(おおさかか)商会を設立した。

 華商会の会員は40人。中心は林さんら福建省出身の6人だ。「華商会を拠点に力を合わせて本場の料理店や物産品店を出して西成に大きな中華街をつくりたい。街をにぎやかにして西成を変えたい」と林さんは話す。

 不動産会社を営む商会監事の薛偕松(せつかいまつ)さん(42)は数軒の物件を購入し、カラオケ居酒屋に改装。複数の宿泊施設の運営にも乗り出した。「西成は大阪の中心に位置するが、比較的少ない資金で商売に挑戦できる」。地区を拠点に活動する中国人経営者は10人を超えるという。

 近くの住宅地でも中国人経営者の姿が目立つ。1961年にできた大阪府簡易宿所生活衛生同業組合(61店加盟)によると、2年前に中国人経営者が初めて組合員に加わったという。