拡大する写真・図版「マスクをつけた時に、鼻の両側と口の周りに隙間が出来ていないかチェックをしてください」と話す葵佳宏医師=2020年1月27日午後4時21分、東京都港区のインターナショナルSOS、今村優莉撮影

 中国・武漢市を中心に新型コロナウイルスによる肺炎が広がっています。中国では多数の死者が出ており、ヒトからヒトへの感染も報告されています。日本でも感染が確認され、2人の幼児を育てる筆者は、子ども用のマスクを探して薬局をのぞきましたが、在庫切れと言われました。街中でマスクを着ける人の姿が多く見られますが、正しい装着法ってあるのでしょうか? また、マスクで新型肺炎は防げるのでしょうか? 役立つ予防法とともに、専門家に尋ねました。

 武漢市で、公共交通の一部遮断や高速道路の封鎖が行われた今月23日。市内に住む大学教員の男性(30)は「N95」のマスクを求めて薬局をはしごした、と取材に答えました。

 「普通のマスクじゃダメだとネットのニュースでやっていたんだ。『N95』じゃないと防げないって」

 「N95」って、何ですか?

 大手マスクメーカーによると「N95」マスクとは、粉じんやウイルスの吸入を防ぐマスク。名前の由来は、米国労働安全衛生研究所(NIOSH)の規格に合格した、つまり米国規格を満たしたマスクのことです。数字の「95」が使われるのは、直径0・3マイクロメートルの粒子を95%以上除去する効率がある、ということだそうです。0・3マイクロメートルというのは、スギ花粉の数百分の1で、たばこの煙に含まれる粒子と同じです。

 中国のSNS上では「『N95』マスクでなければ意味がない」といったニュースが連日流れ、通販サイト「タオバオ」では偽の高性能マスクが出回り消費者の混乱を招いていると話題になっています。

拡大する写真・図版「装着したときに鼻の両脇を覆うようにすることが大事」と話す葵佳宏医師=2020年1月27日午後4時20分、東京都港区のインターナショナルSOS、今村優莉撮影

 ちなみに日本でN95に相当するのは、厚生労働省が定める規格を満たした、いわゆる「防じんマスク」と呼ばれるものです。

 一方で、コンビニエンスストアやドラッグストアで手軽に購入でき、花粉症の時などに使う「サージカルマスク」とは何が違うのでしょうか。

 メーカーの担当者は、「『サージカルマスク』は、口からの唾液(だえき)や飛沫(ひまつ)などを飛散させないことを目的に使うマスクです。サージカルマスクはウイルスなどの『吸入』を防ぐことを目的として設計されていません」と説明してくれました。

 サージカル(surgical)とは英語で「外科の」という意味です。医師や看護師ら医療従事者が使っており、例えば合併症などがある患者に対する喀痰(かくたん)検査をするときや、結核病棟で診察する場合に、検査対象の飛沫を吸い込んでしまうのを防ぐ効果はありますが、空気中のウイルスの吸引を防ぐことはできないそうです。

 では、新型肺炎を予防するには、やはりN95でないとだめなのでしょうか。海外で働く人に医療とセキュリティーのアシスタンスサービスを提供する

 
 

 

 

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――N95マスクで新型コロナウイルスは防げますか?

 N95は0・3マイクロメートルの粒子を除去できるフィルターがありますが、新型コロナウイルスは0・1マイクロメートルです。フィルターの穴を通過してしまい、吸引を防ぐことはできません。

 また、防じんマスクは通常丸いものが多いですが、これでは鼻周りにフィットさせることができません。隙間ができてしまうのです。さらに、フィルターの目が細かい分、呼吸が苦しくなるので、長時間つけ続けることは難しいです。

――でも、N95は一般のサージカルマスクより高価です。サージカルマスクよりは効果があるのではないですか?

 感染症を扱う頻度が高い医療従事者を対象に、N95とサージカルマスクを使って急性呼吸器感染症への罹患(りかん)率を比較したデータがあります。両者に差はありませんでした。

 別の臨床試験でも、インフルエンザを含む罹患率の比較を行っていますが、N95が優位であったという結果はありませんでした。つまり、サージカルマスクをつけていてもN95をつけていても変わらないのです。

――では、どんなマスクであれば予防できるのでしょうか?

拡大する写真・図版「マスクをつけた時、鼻の両脇に隙間が出来ると効果はありません」と解説する葵佳宏医師=2020年1月27日午後4時20分、東京都港区のインターナショナルSOS、今村優莉撮影

 基本的な考え方として、マスクに予防効果はありません。マスクは自分が風邪を引いたときなどに、くしゃみやせきで唾液の飛沫を周囲にまき散らさないため、他人を感染させないために着けると考えるべきです。その場合も、マスクの種類ではなく、どう装着するかが大事です。特に鼻とマスクの間、口角とマスクの間に隙間があると効果が半減します。顔に合ったサイズを選び、正しく装着することが重要です。

――防じん用ではなく、市販のもので構いませんか。

 構いません。その代わり、

①しっかり口と鼻を覆い、隙間をすくなくする

②汚れたら取り換える

ことが大事です。「もったいない」と言って何度も同じマスクをつけたり、ポケットに入れたりするのはだめです。口だけにして鼻を出すのも効果はありません。あごの下にマスクをつける「あごマスク」はつけていないと同じ。汚れたマスクから感染するので、あごマスクをするくらいなら捨てましょう。

――他に出来ることはありますか?

 マスクをきちんと正しくつけたうえで手洗いとうがいをしっかりすることです。

――手洗いはアルコール消毒しないといけませんか?

 アルコール消毒が出来ればより良いですが、きちんと手洗いをすれば、せっけんでも十分です。

拡大する写真・図版「手を洗うときは、せっけんを泡立て、指と指の間の『水かき』の部分まで丁寧に」と説明する葵佳宏医師=2020年1月27日午後4時22分、東京都港区のインターナショナルSOS、今村優莉撮影

拡大する写真・図版「泡立てたせっけんで、指を立てて片方の手のひらにこするようにすると、爪の中まできれいに洗えます」と説明する葵佳宏医師=2020年1月27日午後4時23分、東京都港区のインターナショナルSOS、今村優莉撮影

――きちんと、とは。

 せっけんを泡立て、指1本1本をくるくる回すように洗い、指の間の「水かき」部分も洗いましょう。また、爪の中にもばい菌がたまりやすいので、泡立てたせっけんで、片方の手のひらに指を立てるようにして洗いましょう。手首も洗い、最後は必ず流水で流し、出来れば使い捨てのペーパータオルかハンドドライヤーを使うことが望ましいです。家族間でもタオルやハンカチを共有するのはおすすめしません。

――うがい薬を使ったほうが良いでしょうか?

 水で大丈夫ですよ。その代わり、頻繁に行ってください。外から帰ってきた時はもちろん、食事をする前、人混みに行った後、電車の中でくしゃみやせきをかぶったあとは、きちんとうがいをしましょう。

――自分から感染させないために他に出来ることはありますか?

 せきエチケットって知っていますか。くしゃみするとき、手で覆うのはNGです。いま推奨されているのは曲げたひじの服の部分を口に当て、覆うスタイルです。

――なぜでしょうか?

 手で口を覆った状態でくしゃみやせきをして、その後にその手でつり革やドアノブを触ると、そこが汚染源になるからです。

――お酒を飲むと免疫が下がると聞いたことがあります。

 人の免疫はそこまで弱くはありません。普段1杯飲む人が、少し多く飲んだからといってそこで免疫が落ちて感染するということは考えにくいです。むしろ、酔っ払って帰宅して、手洗いもうがいも歯磨きもしないまま寝てしまう方が危ない。口の中は大変汚い。歯磨きなどをしないまま寝るとその間にウイルスや、ばい菌が繁殖することを懸念したほうが良いでしょう。

――私には1歳と2歳の幼児がいます。子どもに感染させないためにはどんなことに気をつければ良いでしょうか?

 現在の状況だと、発症して死亡した人のほとんどが60代以上で、持病があった方が多い傾向がみられます。2歳の子が感染したという情報がありますが軽症で、その他の若年者で重症化したということは聞いていません。今の段階では子どもが感染しても、重症には至りにくいのではないでしょうか。

 昨年流行したはしかは、患者1人から10~20人への感染力があります。インフルエンザは1人から4人程度。まだ詳しいことは分かりませんが、新型コロナウイルスは、インフルエンザと同等か、それより弱いと推測されており、過度な心配をする必要はないでしょう。

 1月27日時点では中国国外では、院内感染やコミュニティーへの感染拡大は報告されておりません。この点から見ても、インフルエンザよりは広がり方が狭いのではないでしょうか。

 人混みになるべく行かない、手洗いうがいをきちんとする、マスクは顔のサイズに合ったものを選んでフィットさせて装着することを意識すると良いと思います。(今さら聞けない世界