建設現場の仮設トイレ、キレイになり始めた 切実な背景
2017年6月28日
あまり清潔なイメージがない建設現場の仮設トイレ。いま、打って変わってキレイになり始めているという。なぜなのか。
「ここの現場のトイレは、他と全然違うんです」。東京湾岸の埋め立て地域。大手ゼネコン「清水建設」の道路工事現場にある仮設事務所で、同社の小縄桜子さん(31)が力説した。40人(うち6人が女性)が働くこの現場の仮設トイレは、同社でも最先端。「なんといっても、男女別なんです」
仮設女子トイレのドアを開けると、芳香剤のバラの香りが漂う。手前の洗面スペースには、ヘルメット置き場のほか、身だしなみをチェックできるように大きな姿見も据え付けられている。奥に並ぶ個室をのぞくと、すべて温水洗浄便座の洋式。中に入れば仮設であることを忘れそうだ。
建設現場では、男女兼用、和式、簡易水洗の仮設トイレが大半だったという。「これまではトイレに行きたくても汚れているのでちゅうちょして、我慢することも多かった。ここではその必要がありません」と建設現場で働いて20年になる同社の協力会社の松岡祐子さん(41)は言う。
仮設トイレの「快適化」に注目が集まる背景には、建設業界の高齢化などによる人手不足への危機感がある。業界団体の日本建設業連合会は2015年の報告書で、25年までに90万人の新規入職者の確保が必要との見通しを示した。一方、建設現場で働く女性は10万人(14年時点)と、全体のわずか3%。国土交通省は19年までに20万人に倍増させる目標を掲げる。「トイレがきれいでないと今や女性はおろか若い男性も来てくれない。トイレ環境の改善は業界にとって待ったなしの課題だ」と、準大手ゼネコン「熊谷組」のダイバーシティ推進室担当副部長・黒嶋敦子さんは話す。
女性が使いやすい仮設トイレを普及させようと、国も本腰を入れ始めた。男女別の水洗の洋式▽しっかりした施錠ができる▽入り口の目隠し板や便座除菌シートの設置、などを求め、条件を満たしたトイレを「快適トイレ」と命名。昨秋、国交省が発注する公共工事で、快適トイレの整備を入札参加の条件にした。レンタル料が月約4万円と和式と比べ3万円ほど高いことから、同省は2基分で月額最大9万円を補助し、導入を後押しする。
工事現場のトイレ環境が良くなると、一般市民にもメリットがあるという。災害時の仮設トイレも使いやすくなるからだ。
仮設トイレのレンタル大手「日野興業」(千葉県)が扱う仮設トイレは、8割が旧来の和式タイプ。大口顧客の建設業界が男性中心で美化に関心が低かったことなどが大きいという。被災地の自治体向けに送り出す仮設トイレも、和式のものになりがちで、同社が東日本大震災時に出荷した6千基はすべて和式だった。
日野興業の谷本亘営業企画部長は「建設現場に洋式が広がれば、在庫も洋式が増え、災害時に供給するトイレも洋式が増える」と話す。建設業界の意識の高まりもあり、昨年の熊本地震では、500基すべてを洋式にできた。この半年ほどで洋式の出荷量は5倍ほどに増え、住宅業界も建築現場の仮設トイレで導入に関心を持っているという。
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