裏甘×辛 ドラマ、映画の感想

最近は映画の感想が多いです。
あとYouTubeの宣伝とか。

優しさ

2005-07-28 06:45:50 | 人気の記事
「俺、自分じゃ何も出来んから。みんなに助けてもらってんだ」

入院病棟っていうコミュニティーは、色々ことが不自由な人の集まり。
特に整形は。元気だけど不自由。元気だけど激しい痛み。
足が不自由な人、手が不自由な人、腰、首、肩…
日々の生活の色々なことが思うようにいかない。
当たり前に出来ない。
元気なだけにこれは辛い。

もちろん、看護師さんは色々なことを手助けしたり、代わりにやってくれたりする。
天使はいつだって優しい。
でも、やっぱり完璧じゃない。
こっちも頼みづらい時もある。
「これくらいは」「忙しそうだから」「恥ずかしい」
でも自分では出来ない。フラストレーションは少しずつたまっていく。

朝の洗面所は挨拶が行き交う。かなり早い時間から混雑もする。
看護師さんも当然、忙しい。洗面所にこられない患者も多い。

「私、手術後初めて髪を洗います!」
意を決したように、一人の女性がシャワー洗顔台に向かう。
先ほどまで金髪でイカツイおじさんが洗っているのを見て、自分で洗ってみようと思い立ったのかもしれない。
周りからは、「大丈夫?」という声がかかる。
洗顔台の前に車椅子を止めたとき、さっきの怖いおじさんの車椅子が横に着いた。
「髪洗うの?」
「うん」
「シャンプーとリンスは?」
「シャンプーはある」
「ほら、リンス」
そしてシャワーヘッドを持ってお湯を出す。
「洗ってやっから、かがめるかい?」
優しい声。
おじさんは洗い流すのを手伝っている。
「気持ちいい」
女性は何度も何度も、同じ言葉をかみ締めるようにつぶやいた。
「ありがとね」
女性が何日も髪を洗えないのはフラストレーションがたまっていただろう。
表情が実に気持ち良さそうで、晴れ晴れとしていた。

「俺、自分じゃ何も出来んから。みんなに助けてもらってんだ」

だから、自分が手伝えることを他の人にもしてあげる。
ペイフォワード。
いかにもガラの悪い、そういうおじさんなのだ。

おじさんと目が合う。
いつものように「おはよーっす」と声をかける。
いつものように「おうっ」と返事をしたイカツイ顔の、目は優しかった。