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・2001年(平成13年)
6月2日(土)
暑いせいか、パパ(カモカのおっちゃん)は、
あまり機嫌がよくなく、一日テレビの前に坐っている。
母は昼寝ばかり。
老いると赤子に帰るのかもしれない。
しかし、起きているときは元気なんてもんじゃなく、
ちょっと新聞を持って行くのが遅れると、
「この家には新聞というものはないのですか」
と皮肉を言い、老眼鏡をかけて、
更に大きい天眼鏡をふりかざして社説なんて読んでる。
全くかわいくない。
庭のテッセン、紫と白、ともに咲く。
今日、植木屋さんが入り、お隣との境のヒマラヤ杉を、
短く刈り込んでくれた。
・6月4日(月)
京都日航ホテルで講演。「源氏の魅力」について。
このタイトルで各所で話しているが、
少しずつ内容は変えているものの、
要は「源氏」のすごさである。
千年前にこんな近代的小説が女流の手に成ったということは、
信じられない。以後の日本文化の原型を形作り、
日本文学をリードしてきた。
圧倒的な存在感、民族の財産である。
肉声で源氏を語ると、私自身が今まで思いもしなかった、
細部の意味が生彩を帯びて立ってくる。
人間がみずからしゃべり、その肉声を聞いてもらうという、
ナマ身同士の交歓は新しい発見と感動をもたらす。
三百人あまりの聴衆が一時間半ものあいだ、聞いて下さる。
私は「源氏物語」の研究家でも専門家でもないが、
小説書きだから、語り部にはなりたいと思っている。
今日は作者の紫式部の目で物語を語り、
新機軸を出そうとした。
・6月5日(火)
パパは少し足にむくみが出て、やや熱あり。
みんなでお医者さんに来て頂こうかと相談し、パパに言うと、
「うっせえ、やかましい!」
というからやめた。
それに今日は火曜日、訪問看護士さんが来て下さる日だ。
若い看護士さんはパパの熱をはかり、
もう平熱ですから、心配ないでしょう、
血圧も正常と報告して下さる。
パパと看護士さんの対話。
「あんた、べっぴんやなあ~」
「いや~、それはゴマすりでしょ」
「うん、ちょっとだけな」
・6月6日(水)
今日からパパはショートスティ。
迎えの車、福祉施設の車は後部が開いて、
車イスを持ち上げ、そのまま車内へすべりこませる、
いじらしくてかしこげなキカイである。
「行ってらっしゃい!」
とみんなで手を振るが、
黒ガラスの向こうのパパはよく見えない。
しかし、いやがらずに行ってくれるので助かる。
午後は読売新聞から川柳についての取材。
大阪の川柳について。
<大阪は よいところなり 橋の雨> 岸本水府
<道頓堀 帰るに惜しい 時間なり> 篠村力好
プロの川柳家は言葉の配置や音の流れに、
デリケートな注意を払うから、しらべが美しい。
よくあるサラ川(サラリーマン川柳)や投稿川柳の我流句は、
ゴツゴツして覚えられない。
これは素人の句の特徴で、ちょっと先達について、
勉強するとしらべが変ってくるようだ。
でも、私は実作はしない。
<気張らんと まあぼちぼちに いきまひょか>
が唯一の作品。
「大阪は」「道頓堀」の句のように、
帰るには惜しい、と市民に思わせるような魅力的な町にしてほしい。
・6月7日(木)
今日は東京のテレビ朝日の方が来宅。
「徹子の部屋」の出演につき打ち合わせ。
・6月8日(金)
「婦人公論」のインタビュー。
大人の女の遊び方、楽しみ方の取材。
私はお恥ずかしいことに、
音楽は聞くばかりで楽器はいじることも出来ない。
絵は見るのは好きだが、描くとなるとスケッチ程度。
お茶、お花、ダメ。
昔の私の気分転換は、小物の刺繍や袋物を作ることだった。
今は針に糸を通すのが面倒なので、美しい千代紙を集め、
小箱やノートの表紙に貼り、楽しんでいる。
身辺、花やかな彩りにあふれていい。
また、好きな本が出来ると我流に装丁する。
布や和紙、千代紙を貼ったりして、これは本当の愛蔵本。
その他、西洋骨董や、貝、万華鏡のコレクション、市松人形。
そんなものを並べて下さいと言われ、足の踏み場もないありさま。
あとで元へ戻すのに半日かかった。
しかし、これらもそろそろ手元から散らせるべき。
他人さまからご覧になれば、タダの紙クズだろう。
いつか私も逝ってしまうんだし・・・
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(次回へ)