「姥ざかり」

田辺聖子著
昭和56年新潮社刊より

17、落語

2022年02月05日 09時08分07秒 | 田辺聖子・エッセー集










・私と落語のかかわりは、
小学生のころ聞いた金語楼のレコードである。

祖父が落語好きで、
春団治や金語楼のレコードをよくかけていた。

私は大阪の福島で育ったので、近くに吉本演芸場があり、
祖父に連れられて落語や漫才をよく聞きに行った。
その小屋はのちに映画館になってしまった。

金語楼のあとは、エンタツ・アチャコ、エノケンと続き、
ワカナ・一郎、お浜・小浜、捨丸・春代、ダイマル・ラケット、
好きなのは漫才であった。

いつごろから落語が好きになったのか、
多分、十年ほど前の上方落語が活況を呈しはじめた頃からと思う。

筑摩書房から」「おせいさんの落語」としてまとめて頂いたが、
やっぱり読む落語になってしまう。

円歌さんの、
「山の穴、穴、穴・・・」で有名な「授業中」なんかよくできている。

ところで私は、
上方のはなし家が好きで、みんないい持ち味だと思っている。

松鶴師匠の泥臭いおかしみ、
米朝さんの明晰とあたたかさ、
小文枝師匠のあかぬけたひょう逸、
春団治さんの色っぽさと滋味、
それぞれ一門にいい若手もいっぱいおり、
いい時だと思っている。

それとびっくりするのは、女性に落語ファンが増えたこと。
笑福亭鶴瓶や明石家さんまは女子高生にもてており、
三枝、仁鶴、春蝶は年増ファンが多い。

米朝師匠、小文枝師匠などは若い女の子に人気がある。

ところでトータルすると、
老若を問わず「枝雀」好きが多い。

小米のころから好き、という女たちも多くて、
「あれなあ、母性愛くすぐるねんわ」と言っていた。
何となく気弱そうに見えるところが気になるのだろう。

私は、というと、小染さん。

上方落語はもっちゃりしたところが好きなので、
色合いの濃いはなし家の芸や雰囲気が好きなのである。

上方の客は、しゃべりを楽しむはなし家、雰囲気を楽しむはなし家、
と、いろいろ使い分けをしている。

そしてその場の空気を一緒に吸っているだけで嬉しいのは、
上方のはなし家に多く、しゃべりを楽しむのは東京の落語家に多い。


(1981年 2月)






          




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