駒澤大学「情報言語学研究室」

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「七夕乃由来」─『百人一首至宝袋』から読み解く─

2024-11-07 13:33:43 | 日記
「七夕乃由来」─『百人一首至宝袋』から読み解く─
                             NR7079 立石諒
                             萩原義雄補正識
はじめに
江戸時代の往来物資料として、女子用徃来に類する『百人一首』資料があり、その一書として、『百人一首至宝袋』の頭注部に見える四季の折々の節語りについて解くところがあり、茲に取り上げた「七夕の由来」の説明部分の文章を用いて語解析することを目標に、講義演習で、各々が一つの文言を選択して分担作業にあたり、読み解くことをめざした一つの報告書からなっている。

 【影印資料】   【翻字資料】

01     七夕(たなばた)の由来(ゆらい)
02 唐土(もろこし)に瓊(けい)といふ国(くに)あり。遊子(ゆうし)伯揚(はくやう)とて
03 夫婦(ふうふ)あり。朝暮(てうぼ)月(つき)を念(ねん)じ天上((てんじやう))の
04 果(くわ)をえて二星((ふたほし))ジセイと成(なる)。夫(ふ)をひこぼし
05 婦(ふ)を七夕(たなばた)といふ。天の川((あまのがは))をへだてゝ
06 すミ給((たま))ふ。常(つね)ハ帝釈天(たいしゃくてん)寳(たから)をふら
07 し給((たま))ふに毎日((まいにち))川水((かはみづ))に番(ばん)を付((つけ))て
08 渡((わた))りかなハず。七月((しちくわつ))七日((なぬか))にハ帝釈(たいしゃく)
09 大(だい)善(ぜん)法堂(ほふだう)へ参詣(さんけい)にて川水((かはみづ))を
10 くまず。此間((こゝ)に渡((わた))り給((たま))ふをほし合((あ))
11 いといふ。夫((ふ))ハ牽牛(けんぎう)とて牛(うし)を引(ひき)給ふ也。
12 婦((ふ))ハ織女(しよくぢよ)とて機(はた)をおり給((たま))ふ也。
13 万((よろづ))の願事((ねがひごと))此((この))二星((ふたほし))ジセイを祭(まつ)る事((こと))三((み))
14 年((とせ))の内((うち))に叶(かな)ハずといふ事((こと))なし。
15 祭(まつ)りやうハ庭(にハ)を清(きよ)め茅萱(ちがや)乃
16 葉(は)を敷(しき)瓜茄子(うりなす)三寸(ミき)を供(そな)へ器(き)
17 物(ぶつ)に水((みづ))を入((いれ))星(ほし)のかげをうつし
18 竹((たけ))を七尺((しちしやく))にきり五色(ごしき)の糸(いと)七(しち)節(せつ)を
19 うへる香(かをり)をたき琴(こと)をたんじまつる也。


【翻刻】
     七夕(たなばた)の由来(ゆらい)
唐土(もろこし)に瓊(けい)といふ国(くに)あり。遊子(ゆうし)伯揚(はくやう)とて夫婦(ふうふ)あり。朝暮(てうぼ)月(つき)を念(ねん)じ天上((てんじやう))の果(くわ)をえて二星((ふたほし))ジセイと成(なる)。夫(ふ)をひこぼし婦(ふ)を七夕(たなばた)といふ。天の川((あまのがは))をへだてゝすミ給((たま))ふ。常(つね)ハ帝釈天(たいしゃくてん)寳(たから)をふらし給((たま))ふに毎日((まいにち))川水((かはみづ))に番(ばん)を付((つけ))て渡((わた))りかなハず。七月((しちくわつ))七日((なぬか))にハ帝釈(たいしゃく)大(だい)善(ぜん)法堂(ほふだう)へ参詣(さんけい)にて川水((かはみづ))をくまず。此間((こゝ))に渡((わた))り給((たま))ふをほし合((あ))いといふ。夫((ふ))ハ牽牛(けんぎう)とて牛(うし)を引(ひき)給ふ也。婦((ふ))ハ織女(しよくぢよ)とて機(はた)をおり給((たま))ふ也。万((よろづ))の願事((ねがひごと))此((この))二星((ふたほし))ジセイを祭(まつ)る事((こと))三((み))年((とせ))の内((うち))に叶(かな)ハずといふ事((こと))なし。祭(まつ)りやうハ庭(にハ)を清(きよ)め茅萱(ちがや)乃((の))葉(は)を敷(しき)瓜茄子(うりなす)三寸(ミき)を供(そな)へ器(き)物(ぶつ)に水((みづ))を入((いれ))星(ほし)のかげをうつし竹((たけ))を七尺((しちしやく))にきり五色(ごしき)の糸(いと)七(しち)節(せつ)をうへる香(かをり)をたき琴(こと)をたんじまつる也。

【一文テキスト】
 「七夕の由来」は、十二文からなり、句読点は一切用いていない。このため、筆者は便宜上、句点を添えて、かなと漢字表記の文章で用いていて、漢字の一部にはその右旁にふりがな表記が施されている。清濁の表記については、此のテキストを手に取った学び手にとって、口にのぼらせて読んでいくことを考慮された傍訓が施され、読みやすくなっている。とはいえ、当代の学び手であった童女には付訓しないでも読めていたであろう漢字表記の語が精確に読み成せるかを慮って筆者が当該漢字の右旁に「()」符合にかな読みを添えておくことにした。

     七夕(たなばた)の由来(ゆらい)
01 唐土(もろこし)に瓊(けい)といふ国(くに)あり。
02 遊子(ゆうし)伯揚(はくやう)とて夫婦(ふうふ)あり。
03 朝暮(てうぼ)月(つき)を念(ねん)じ天上((てんじやう))の果(くわ)をえて二星((ふたほし))ジセイと成(なる)。
04 夫(ふ)をひこぼし婦(ふ)を七夕(たなばた)といふ。
05 天の川((あまのがは))をへだてゝすミ給((たま))ふ。
06 常(つね)ハ帝釈天(たいしゃくてん)寳(たから)をふらし給((たま))ふに毎日((まいにち))川水((かはみづ))に番(ばん)を付((つけ))て渡((わた))りかなハず。
07 七月((しちくわつ))七日((なぬか))にハ帝釈(たいしゃく)大(だい)善(ぜん)法堂(ほふだう)へ参詣(さんけい)にて川水((かはみづ))をくまず。
08 此間((ここ))に渡((わた))り給((たま))ふをほし合((あ))いといふ。
09 夫((ふ))ハ牽牛(けんぎう)とて牛(うし)を引(ひき)給ふ也。
10 婦((ふ))ハ織女(しよくぢよ)とて機(はた)をおり給((たま))ふ也。
11 万((よろづ))の願事((ねがひごと))此((この))二星((ふたほし))ジセイを祭(まつ)る事((こと))三((み))年((とせ))の内((うち))に叶(かな)ハずといふ事((こと))なし。
12 祭(まつ)りやうハ庭(にハ)を清(きよ)め茅萱(ちがや)乃葉(は)を敷(しき)瓜茄子(うりなす)三寸(ミき)を供(そな)へ器(き)物(ぶつ)に水((みづ))を入((いれ))星(ほし)のかげをうつし竹((たけ))を七尺((しちしやく))にきり五色(ごしき)の糸(いと)七(しち)節(せつ)をうへる香(かをり)をたき琴(こと)をたんじまつる也。

【語解析】
04と11に、「二星」の数詞の語を所載する。
□『和漢朗詠集』の漢詩文言に「二星」の語例が見えていて、室町時代の古写本では「ジセイ」と訓む語例を見出す。
06「かはみづ【川水】」の和語は、『日国』第二版を繙くと、漢字表記が共通する語例は歌舞伎「」金幣猿島都」〔一八二九(文政一二)念〕四立「この川水に身を沈め」と比較的近い語例となっている。 
08「ほしあひ【星合】」の和語は、『日国』第二版を繙くと、平安朝の日記文学『蜻蛉日記』〔天德二年〕上卷を初出としている。秋の季語として、現代語訳は「天の川で(牽牛と織女とが出会うという)七日の夜に(私に逢(あ)おうと)約束なさるお気持ちならば、これからも一年に一回くらいの出会いで辛抱せよと(おっしゃるでしょう)か。」と云うところから「ほしあひひとよ【星逢一夜】」の語が生まれたりしている。 
12文に、和語「みき」を本書においては、「みき【三寸】」と記載する。『日国』第二版の古辞書欄を見ておくと、古辞書のなかで、「【三寸】文明・伊京・明応・天正」と云った『節用集』類に当該語と同じ「三寸」の標記語を収載することが判るる。

《補助資料》
小学館『日本国語大辞典』第二版
06 かわ-みず[かはみづ] 【川水】〔名〕川の水。*後撰和歌集〔九五一(天暦五)~九五三(天暦七)頃〕雑二・一一八一「ふるさとの佐保の河水けふも猶かくてあふせはうれしかりけり〈藤原冬嗣〉」*蜻蛉日記〔九七四(天延二)頃〕上・康保元年「ふぢごろもながすなみだのかは水はきしにもまさるものにぞ有ける」*太平記〔一四C後〕一一・越中守護自害事「吉野・立田の河水に、落花紅葉の散乱たる如くに見へけるが」*歌舞伎・金幣猿島都〔一八二九(文政一二)〕四立「この川水に身を沈め」【発音】〈標ア〉[ワ]〈京ア〉[ワ]
09 ほし‐あい[‥あひ] 【星合】〔名〕陰暦七月七日の夜、牽牛・織女の二星が会うこと。《季・秋》*蜻蛉日記〔九七四(天延二)頃〕上・天徳二年「あまのかは七日をちぎる心あらばほしあひばかりのかげをみよとや」*俳諧・桜川〔一六七四(延宝二)〕秋一「けふや花もほしあひおひの松のしん〈季吟〉」*俳諧・続猿蓑〔一六九八(元禄一一)〕秋「星合を見置て語れ朝がらす〈涼葉〉」【発音】〈標ア〉[0]【辞書】言海【表記】【星合】言海
12 み‐き【神酒・御酒】〔名〕(「み」は接頭語)酒の美称、または敬称。おおみき。おみき。*古事記〔七一二(和銅五)〕中・歌謡「この美岐(ミキ)は 我が美岐(ミキ)ならず」*源氏物語〔一〇〇一(長保三)〜一四頃〕行幸「六条院より御みき御くた物なとたてまつらせ給へり」*曾我物語〔南北朝頃〕二・影信が夢あはせ事「しかれば、ゑひはつひにさむるものにて、みきの三文字をかたどり、ちかくは三月、とおくは三年に、御ゑひさむべし」*諸国風俗問状答〔一九C前〕丹後国峰山領風俗問状答・一一三「但御家中にては、小豆飯・神酒等神棚へ供し、祝ひ候儀御座候」【語源説】(1)ミは御の意。「キ」は酒の古語〔円珠庵雑記・瓦礫雑考・大言海〕。「キ」は酒の意の語「クシ」の約〔古事記伝〕。(2)「ミ」は御の意。「キ」は「イキ」(気)の略。酒は「イキ(気)」の強いものであるところから〔和訓栞・言葉の根しらべ=鈴江潔子〕。「ミ」は発語。「キ」は気の義〔俚言集覧〕。ミ「イキ」(御息)の義〔名言通・俚言集覧〕。(3)「ミイキ(実気)」の義〔紫門和語類集〕。(4)「ミケ(御饌)」の義〔言元梯〕。(5)「ミ」は美称。「キ」は「カミ」の約。酒は噛んで造るものであるところから〔和訓集説〕。【発音】〈標ア〉[0][ミ]〈ア史〉平安・鎌倉●●〈京ア〉[ミ]【上代特殊仮名遣い】ミキ(※青色は甲類に属し、赤色は乙類に属する。)【辞書】色葉・文明・伊京・明応・天正・饅頭・易林・日葡・書言・ヘボン・言海【表記】【神酒】色葉・文明・伊京・明応・天正・易林・書言【三寸】文明・伊京・明応・天正【御寸】文明・伊京・天正【御酒】饅頭・書言・言海【造酒】書言【神配】ヘボン

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