駒澤大学「情報言語学研究室」

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近代の寓話集『伊蘇普物語』―黄金の卵―

2023-05-24 18:25:45 | YeStudyの知的資源

新譯伊蘇普物語上田萬年解説〔一九〇七(明治四〇)刊〕架蔵本

 

第百四十一 黄金(おうごん)の卵(たまご)

 或(ある)人(ひと)が一(いち)羽(わ)の鵞鳥(がちよう)を飼(か)つて居(い)ましたが、其(そ)の鵞鳥(がちよう)わ日(ひ)に一(ひと)つ宛(ずつ)黄金(おうごん)の卵(たまご)を産(う)みますので、殊(こと)の外(ほか)大切(たいせつ)にして居(い)ました。

 處(ところ)が其(そ)の後(ご)段々(だんだん)慾(よく)が増長(ぞうちよう)し、こんな卵(たまご)を産(う)むからにわ、腹(はら)に黄金(おうごん)の大(おう)塊(かたまり)があるに相違(そうい)ない、一(ひと)つ宛(づつ)取(と)つて居(い)るよりか、寧(いつ)そ一時(いちじ)に取(とり)出(だ)して見(み)ようと、或(ある)時(とき)鵞鳥(がちよう)を殺(ころ)して見(み)ますと、さて何(なん)にも見(み)つかりませんでしたので、大(おお)いに失望(しつぼう)したと云(い)うのです。

訓言(くんげん)】有(あ)れば有(あ)るだけ欲(ほ)しくなる。
解説(かいせつ)

 勤勞(きんろう)わ人生(じんせい)の常態(じようたい)であります。

 少年(しようねん)の教育(きよういく)にしても、單(たん)に讀書(どくしよ)數學(すうがく)をのみ教(おし)えるに止(とゞ)まらず、併(あわ)せて人(じん生)せい)の実際(じつさい)問題(もんだい)たる生活(せいかつ)の幸福(こうふく)を得(う)る爲(ため)にわ、眞面目(まじめ)な勞働(ろうどう)が必要(ひつよう)であると云(い)うことを、頭(かしら)に注入(ちゆうにゆう)しなければならぬのです。
 他日(たじつ)の不幸(ふこう)に備(そな)える爲(ため)に、或(ある)わ自分(じぶん)の高尚(こうしよう)な希望(きぼう)を達(たつ)するために、勞働(ろうどう)して或(ある)物(もの)を蓄(たくわ)えるのわ、最(もつと)も貴(たつと)ぶべき人間(にんげん)の美點(びてん)で、其(そ)の正直(しようじき)な勞働(ろうどう)わ、殆(ほとん)ど神聖(しんせい)といつても可(か)いくらいです。
 處(ところ)が世(よ)にわ、此(こ)の眞面目(まじめ)な勞働(ろうどう)を厭(いと)い、飽(あ)くことを知(し)らぬ貪慾(どんよく)を充(みた)したいばかりに、一時(いちじ)に大(おお)きな結果(けつか)を收(おさ)めようとして、却(かえ)つて何(なに)物(もの)をも得(え)ず、甚(はなはだ)しいのわ、有(あ)る物(もの)までも失(しつ)して了(しま)う人(ひと)が澤山(たくさん)あります。

 此(こ)の話(はなし)の男(おとこ)わ、其(そ)の標本(ひようほん)の一(ひと)つで、詰込(つめこみ)もも〱とした財布(さいふ)が破(やぶ)れて、尻(しり)から財寶(たから)が殘(のこ)らず脱(ぬ)けて了(しま)つたと一般(いつぱん)です。

 骨(ほね)を折(お)らずに、一足飛(いつそくとび)に何(なに)か大儲(おうもうけ)をしようなどと目論(もくろ)む人(ひと)ほど、氣(き)の毒(どく)なものわないので、絶(た)えず苦(くる)しみ悶(もだ)え、唯(たゞ)の一時(いちじ)も氣(き)の靜(しず)まる時(とき)がありませんから、死(し)ぬまで生活(せいかつ)の眞味(しんみ)を知(し)らずに終(おわ)るのです。

 此の文章では、係助詞「は」を「わ」で表記しています。口にのぼらせたときの発話に併せた表記を行っているのが特徴です。

 同じく、「大塊」「大儲」の熟語も「おかたまり」「おもうけ」と表記しています。

これ以前に編纂された『通俗伊蘇普物語』では、

第七十九 鶩黄金の卵を産む話(110)

或人鶩を飼しに、日々黄金の卵一ツを産めり。

主人是をよろこぶ事かぎりなし。

雖然かく日に一ツづゝにては益の付方甚だ遲し、 如かず一度に寶を得たらんにはと、やがてあひるをしめころして腹のうちをせんさくするに、 さらに尋常のあひるにことなる事なかりしと。

としています。上田萬年が意図した解説こそが当に「新譯」として相応しいものとなっています。

「ガチョウと黄金の卵」―学生のYeStudy提出報告書より抜粋―

  ★この物語の内容

 ある農夫の飼っているガチョウが毎日一個ずつ黄金の卵を産み、農夫は金持ちになる。しかし、一日一個の卵が待ち切れなくなり、腹の中の全ての卵を一気に手に入れようとしてガチョウの腹を開けてしまう。ところが腹の中に金の卵はなく、その自身にとって最も貴い黄金を産むガチョウまで死なせてしまう。

  ★この物語の教訓

 欲張り過ぎて一度に大きな効果を得ようとすると、その効果を生み出す資源を失ってしまうことがある。効果を生み出す資源をも考慮に入れる事により、長期的に大きな効果を得ることができる。

 Those who have plenty want more and so lose all they have.

 


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