日経コンストラクションが「発注者実力ランキング2011」を7月11日号の特集記事に掲載した。
記事の主旨は、普段は受注者を一方的に評価してばかりの公共事業の発注機関を受注者の目線で逆評価しランキングしたものという。
日経コンストラクションの畠中克弘編集長の同記事の紹介文によると、「建設産業の健全な発展のためには競争が必要だと行政は言ってきましたし、現に受注者側は厳しい競争にさらされていますが、公共工事の発注機関にはその競争が働かない仕組みなのです。成長や改善を促す競争という外部要因が、初めから欠落している存在だと言えます。」とかなり手厳しい。
筆者は民間企業向けの仕事が殆どで、あまり公共機関の調達・購買業務の改善の機会に携わることがないため、その主張が正しいか否かの判断は控えるが、畠中編集長の文面からは、公共工事の発注機関の調達・購買業務に成長や改善が感じられないというという思いが読み取れる。
今回の調査の対象にした発注機関は、国土交通省の8地方整備局と北海道開発局の他、東日本、中日本、西日本、首都、阪神の5高速道路会社、47都道府県の計61機関で、2008年の前回調査と同じである。
実際にランキングされたのは51機関で、受注者評価でトップに立ったのは阪神高速道路会社。全14項目の評価項目のうち、12項目を「技術力」「マネジメント力」「意欲」に分類、阪神高速は「技術力」と「マネジメント力」で1位になった。
調達・購買業務は、傍目からはコスト削減額で簡単に評価ができると思われているが、それは誤りであり、評価が非常に難しい業務だ。一つには、調達・購買業務が作業を繰り返すオペレーションではなく、その時その時に求められているモノ、供給市場動向、サプライヤを睨みながら、攻め手を考える企画業務だからということがある。
企画業務は、物事の進め方を考えるものであり、そこには判断が求められる。前回のやり方を踏襲するのも一つの手だが、判断の要らないオペレーションとするのであれば、わざわさ人手をかける必要はない。
企画業務は判断業務であるが故に、その判断が最善であったかどうか評価できないという難しさが常につきまとう。コストが下がっているようにみえても、それは単に市況が下がったからかもしれない。別のやり方をすれば、同じ仕様で倍以上のコスト低減額が出ていたかもしれない。
一方で、コスト削減の取り組みをおこなっても、市況が上げ基調にあったり、ユーザ部門からの仕様や取引条件の縛りや、工場ラインやオペレーションの制約がきつく、調達・購買部門の打ち手が限られていたりして、マネジメントが期待するような成果が出ないこともある。それでも、その調達・購買担当者が行った判断が最善で、他の方法を取っていたら、更にコスト高になっていたり、品質や納期といった別の要素に問題が生じていたかもしれない。
この様に、結果の数字であるコストだけを見ていては、その時の調達・購買の方法が最適であったかという情報は決して得られない。
企画業務は、人に依る要素の大きな業務だ。だからこそ、正当な評価が望まれる。人は公正な評価が得られないと感じた時に、大きくモチベーションを下げてしまう。低いモチベーションの人間からは、どんなにその人の能力が高くても、良い仕事は生まれない。
弊社が実施しているストラテジックソーシングベンチマーク調査もそうした問題意識から生まれたものだ。こちらは、個々の調達・購買業務ではなく、組織や業務インフラが、個々の調達・購買業務で正しい判断が生まれるような仕組みとなっているかを評価している。日本の調達・購買業務の礎づくりという観点から、調達業務のあるべき姿や他社との比較という評価のモノサシを整備するという試みだ(
ストラテジックソーシングベンチマーク調査の概要はこちら⇒ http://www.samuraisourcing.com/service/benchmark/ )
これとは別に、個々の各回の調達・購買担当者の判断が正しかったか、改善すべき点がなかったかを確認するというミクロの視点も必要だ。こちらは、その状況を加味して評価しなければならないので、一緒に仕事をした要求元やサプライヤ、同僚・上司でなければなかなか難しい。
それをまとめて行おうとするのが360度サーベイであったり、今回の日経コンストラクションの調査であったりする。ただ、まとめて個々の判断の質を評価しては、具体的な改善のポイントを見失ってしまうので、可能であるならば、判断の度に、まとめるにしても案件毎に、判断の質の評価が行われることが望ましい。
人からの評価を素直に受け止めるのは誰しも難しい。特に、普段、厳しくコスト低減を迫っているサプライヤからは厳しいフィードバックが返ってくることは容易に想像ができる。
それでも、そうしたフィードバックには真摯に耳を傾けなければならない。自分のパフォーマンスを客観的にシビアに評価できなくなった時点で、成長は止まる。
中ノ森 清訓/株式会社 戦略調達 代表取締役社長