姫リンゴの花
前の記事で、根っこのある人、根っこがある生き方、根っこがある会社は、なんとはなしにわかるものだと、きわめて抽象的な書き方をしてしまいました。
感覚を言葉にするという作業は、うまい具合に伝えられているかどうか、独りよがりではないかと、私自身の筆力の関係で、常に不安と隣り合わせです(汗)。
ですので、この件に関して、もう少しちゃんと、書いてみたくなりましたので、よろしかったら、おつきあいください。
根っこは、地面の下にあるので、外からはどうなっているのかわかりません。根っこが張るのに、時間がかかるものは、上の成長はその間、ゆっくりしています。
たとえば植物の苗を育てていたとして・・・
根っこが、ある程度育ってすぐにとまると、すぐに次には上が成長し大きくなるので、根っこの成長に時間をかけてなかなか大きくならないものよりも、一見強い苗だと勘違いされがちです。
でも本当に強い苗は、成長は遅くても、根っこがしっかり張った苗です。
同様に私たちは、子供の成長を、平均より背が高いとか低いとか、学校の成績だけで判断してはいないでしょうか。目に見える所や、数字に表れる評価だけで判断しては、心の根っこが育っているかどうかは、わからないかもしれません。
またまた「
奇跡のリンゴ」の木村さんの話ですが、木村さんの育てたリンゴの木の根っこは、何と20メートルもあるそうです。これだけしっかりと根がはれるのは、土がとても柔らかいから。土の中にはバクテリアや微生物など多種多様の生物が存在し、白神山地などの原生林ととてもよく似た土壌になっているのだといいます。
木村さんは言います。
「私にできるのはリンゴの木の手伝いをするだけだ」
栽培種として農薬や化学肥料を使うことでしか育たなかったリンゴの木が、自然の生態系の中で、野生種のように自ら「生きる力をつけた」、といったらいいのでしょうか…。
1991年の台風で、壊滅的な被害を受けた青森の農家のリンゴの中で、木村さんの畑のリンゴは、8割以上も残っていたそうです。
では、人の心の根っこは、どうやったら育つのでしょう。
以前偶然、見たテレビで、皇后・美智子さまが、「
子供の本を通しての平和 --子供時代の読書の思い出--」と題して、子供のころの読書の体験を話されていました。このときの講演は、「
橋をかける」という本にもなっています。印象に残った言葉を抜粋しますね。
●本の中で人生の 悲しみを知ることは,
自分の人生に幾ばくかの厚みを加え,
他者への思いを深めますが,本の中で,
過去現在の作家の創作の源となった喜びに触れることは,
読む者に生きる喜びを与え,
失意の時に生きようとする希望を取り戻させ,
再び飛翔する翼をととのえさせます。
悲しみの多いこの世を子供が生き続けるためには,
悲しみに耐える心が養われると共に,
喜びを敏感に感じとる心,
又,喜びに向かって延びようとする心が
養われることが大切だと思います。
●それはある時には私に根っこを与え,
ある時には翼をくれました。
この根っこと翼は,私が外に,内に,橋をかけ,
自分の世界を少しずつ広げて育っていくときに,
大きな助けとなってくれました。
幼いころの読書体験が、悲しみに耐え、生きてゆく心の根っこを育ててくれ、また、失意にあっても希望や喜びを持って羽ばたける翼を与えてくれた。そして、その根っこや翼は、その後の人生において、世界に橋をかける、助けとなってくれた。
…まさに民間から皇室へ嫁がれ、一般人には計り知れないほどのご苦労もあっただろう美智子さまの、心の折り合いの付け方の原点を見た気がしました。
美智子さまは、心の根っこをしっかりと張り、喜びに至る想像力の翼を広げることで、恐れずに希望を持って、「私」という個から内に外に、他者、社会、世界へとつながる橋を一つ一つかけることができたのですね。
私が言うのも、僭越かと思いますが(笑)、たくさんの歳月を重ねられて、たどり着いた境地は、木村さんの畑の土のように、調和のとれた世界観ではないかと思います。
余談ですが、ブッシュ政権は自分ひとりで、世界を動かしているというような錯覚をして、有無を言わさず自分の気に入らない者を攻撃しました。これは、行き過ぎた農薬をまくのに似ています。行き過ぎた農薬は、ほかの生物も死滅させてしまうばかりでなく、それをまいた人、食べた人にも被害を与えます。
また、自分だけの利益を優先する金融資本主義は搾取を是としました。
すべての栄養を自分だけに持ってきたら、土は死んでしまい、いずれ自分も枯れてしまうということが、わからなかったのでしょう。
ブッシュ政権は、世界との折り合いのつけ方を知りませんでした。根っこは、不安と怒りと欲望の硬い土の入った小さな植木鉢に閉じ込められて、とても細く弱かったと思います。

木の心
美智子さまが言われるように、根っこを育てるのに、読書は身近で有効な方法かもしれません。そこには、人生の喜怒哀楽が凝縮されており、楽しさから始まって、幼い人なりの悲しみの経験も知ることができます。
また、身近な人たちの、絶対的な愛情は、木村さんのリンゴの木に対する愛情と同じです。木村さんの畑の温かい柔らかい土にも似ています。
身近な愛情は、自分の社会を少しずつ広げはじめた小さな子どもが出合うであろう、さまざまな人間関係のストレスなどを癒してくれるでしょう。そこでこそ、人は安心して、「折り合い」のつけ方を学べるのだと思います。
そう、木村さんの畑で、木村さんという父親に守られて、たくさんの生物が折り合いをつけてバランスを保ち、それぞれがお互いを助けたり助けられたりしながら共存しているように。
人の心の根っこも、木村さんの畑のように柔らかく温かい土の中でこそ、強く育つと思います。
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