hazar  言の葉の林を抜けて、有明の道  風の音

細々と書きためたまま放置していた散文を、少しずつ書き上げ、楽しみにしてくれていた母に届けたい

川底に潜むもの、苔の森に棲むもの (承前)

2014年01月26日 | 映画について
ふと思い立って、以前から鯰に似ていると思い、気になっていたアルトドルファーの龍を拡大してみた



ヨーロッパに自生する鯰には、ドナウ川で、体長 3 m、体重 200 から 250 kg の
個体を釣ったという Heckl と Kner の古い報告もあるそうだ



現代の何処かで、そのような鯰を釣った人 …



トルコの セミフ・カプランオール 監督が、ユスフという青年詩人の、現在 (青年期) ・少年期・
幼年期を、遡っていくように描いた、 『卵』 『ミルク』 『蜂蜜』 という三部作の中の、 『ミルク』 で、



幼い頃に、父を亡くした主人公が、母の再婚相手となる駅長が、朝、母を送って来た後、
水鳥を狩りに、丈の高い草の生い茂る、浅瀬に入って行く後をつけていく …、という場面で、
間近に銃声がし、何を思ったのか、大きな石を振り上げ、背後に迫ったか、という、その時 …
それを止めようとするかのように、目の前の浅瀬に、大きな鯰が居るのに、少年は
気づいた … 振り上げた石を下ろし、脇へ置いて、少年は、魚を捕らえるも、
思いもかけず大きな、その魚を抱いて、浅瀬に坐り込み、事無きを得る …
… 今想うと、その魚を抱き締める様子は、何か、その魚を助け、守ろうとしているようにも、
また、魚にしがみついて、自らを戒め、魚と共に、我と我身を狩り立て、駆り立てるものから、
必死で逃れようとし、隠れようとしているようにも、思われ …
… 魚を抱く裡、少年の顔色が変わり、母が、自分が留守の間に、秘密裡に再婚話を
進めていたことを、悟ったのかもしれない … 亡き父を愛し、一家の大黒柱として、必死で
母を支えてきた彼に、何の相談も、説明もなく … 彼が、徴兵されようかという、この時に …



大きな獲物を抱え、意気揚々と家に帰った少年は、母が送り届けられたばかりの、水鳥を調理すべく
夢見心地で羽を毟っているのを、目にする …
それは、その浅瀬に坐ったまま、心の眼で想い描いた、幻だったのかもしれない …
夢を諦め、無理を重ねた自分が、母と自分の二人共を犠牲にするようにして、母に贈れるもの
よりも、その男が悠々と自然に、母に贈ることができるものを、母が選んだことを …
そして、やがて去っていくであろう少年との別れを待つだけの未来でなく、
その男との新しい暮らしという未来を、母が選んだことを …
それは、もう何の心配もせずに、母の元を離れ、自分の夢を追い、素敵な娘さんと出逢って
新しい、自分の家族を築きなさい、と、彼を解放する、その為だったのだが …
少年と母の未来を守って、死んだ鯰は、がっかりした少年の腕から滑り落ちる …
のではなく、それは、母を解き放ち、独りで生きることを少年に伝えるという、役目を
終えた鯰が、亡き父の霊魂から解き放たれ、また、全てを悟り、肩の力の抜けた少年の
腕からも解き放たれて、川底へと音もなく戻っていった、瞬間だったのかもしれない …

水辺には、目には殆ど見えない位小さいが、 ガスマスクのようなものをつけ、
宇宙服と見紛うばかりのものを纏って、古くから苔の森に棲んでいるもの
もいる
電子顕微鏡に気づいているらしい、その様子 は、未知の存在との邂逅に
計り知れない好奇心を湛えている



馬の瞳の中に映る、露の一滴の中にも、広大な世界があって、
その広大さは、頭上遙かに遠ざかってゆく宇宙と等しく、揺るぎない

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