ロシアの制空権獲得を阻止する戦い、
ウクライナの戦闘機パイロットに聞く
ウクライナ・キエフ(CNN)
インタビューの途中、戦闘機の轟音(ごうおん)で
アンドリー氏は沈黙を余儀なくされた。
【映像】空の戦いでロシアと対峙、ウクライナの戦闘機パイロットが思いを語る
同機の離陸を待つウクライナ人戦闘機パイロットの顔の半分はフライトマスクで覆われていて、身元は分からない。だが、細めた目には陽気な笑みが浮かんでいる。
「そう、あれは我々の機体だ」 ロシアとウクライナの軍事対決で、航空ほど戦力バランスに差がある分野は他にない。ロシアはより高度な航空機をより多く保有するが、戦争開始から4週間近くたった今なお、ウクライナ空軍の機体は轟音を立てて飛行している。
CNNとアンドリー氏のインタビューが遅れる原因になった戦闘機もその1機だ。 アンドリー氏は戦況は自分たち優位に傾きつつあると語る。 「状況は落ち着いてきている」「最初は量で勝る彼らが優勢だったが、いまは状況が好転しつつある」とアンドリー氏。
「多くのロシア人パイロットが戦闘を拒んでいる。我々が撃墜しているからだ」とも主張した。 アンドリー氏は完全な身元や階級、居場所(こうした情報が漏れるとロシア軍から標的にされやすくなる可能性がある)を明かさない条件で取材に応じた。
同氏はロシア製のSu27を操る。 「私は地上支援を行う航空機のバックアップとカバーを務めていて、ミサイルや敵の戦闘機を破壊することに集中している。空対空のようなものだ」「何機かは言えないが、複数のロシア機を撃墜した」
入念な計画と巧みな戦術が奏功し、これまでのところ、ウクライナ空軍はロシア優勢とみられる状況で持ちこたえている。アンドリー氏はこうした戦略の中身について詳しく語らないが、そこには他のウクライナ軍部隊と緊密に連携したり、時に極めて大きなリスクを冒すことも含まれる。
「ロシアのパイロットはより現代的な機体に乗っており、より遠方からミサイルを発射できる」「たとえば、80キロ離れた距離から発射されるミサイルを抑止するには、我々は40キロの距離まで接近する必要がある。もし既にミサイルが発射されていたら、何とか途中で撃墜しなければならない」
同氏らが戦場で採用している動きのいくつかは、米国など北大西洋条約機構(NATO)諸国との訓練のたまものだ。 「数年前、我々はここウクライナで『クリアスカイ』演習を行い、F15やF16と並んで飛行した」とアンドリー氏は振り返る。
「そのときに戦闘機を抑止する戦術を編み出した。そうした戦術の一部がいま本当に役立っている」 成功の秘けつの一端はこうした戦略にある。残りの要因はそれを実践するパイロットの存在だ。
「ロシアのパイロットの訓練水準はそれほど高くない」とアンドリー氏。「外国のパートナー国から中距離、近距離など様々な防空装置を送られてくるようになって以来、空中での自信が一層深まった」 「多くのロシア人パイロットは恐怖心から動員を拒否している」とも語った。
ウクライナの空をめぐる戦い
ロシア機が最初にウクライナ領空に侵入してから1カ月近くたったが、ウクライナ上空では今も制空権争いが続く。 ウクライナ軍によると、22日の時点で、ウクライナ軍はロシアのジェット機100機以上とヘリコプター123機を撃墜した。CNNはこの数字を独自に検証できていない。
ロシアは侵攻中に失った航空機の数について公式データを発表していないものの、米国や北大西洋条約機構(NATO)同盟国はロシアが航空機を含むあらゆる装備品を失っていると指摘する。
国防総省のカービー報道官は22日、記者団に対し、「我々はロシアがウクライナ上空の航空優勢を獲得したとは考えていない」と述べた。 ウクライナ軍は抗戦が可能になっている理由について、ロシア兵がキエフへの進軍を開始するはるか前から侵攻の可能性に備えていたからだと指摘する。
ウクライナ空軍の報道官は「我々は8年前からこのシナリオに備えてきた」と説明。ロシアによる2014年のクリミア半島占領・制圧をきっかけに準備を始めたと明かし、「この8年間、我々は手持ちの兵器でどう敵を撃退するかを学んできた。ロシアはそれを理解している」と述べた。
「彼らが空からのテロ攻撃に切り替えているのはそれが理由だ」とも述べ、ロシアが民間インフラを標的にしていることを非難した。
「ロシアは500~1000キロの爆弾を投下し、子どもや女性、病院を含む住宅地全体を攻撃している。軍事テロ、人道に対する罪のように見える」 ロシアはウクライナの民間人に死傷者が出ていることを再三否定しているが、国際メディアやオブザーバーは民間人および民間インフラへの被害を幅広く記録。戦争犯罪の可能性をめぐる国際捜査も進行中だ。
ウクライナ軍報道官は米国やNATOの武器供与への「感謝」を示しつつも、もっと優れた兵器が大量に必要だと指摘する。 「ロシアはミサイルや極超音速ミサイルといった現代兵器で戦っている。我々にはロシアのものと技術的に遜色ない西側の兵器が必要だ。私が言っているのはNATOの統合防衛システムやF15イーグル、F16ファイティング・ファルコンのことだ。これらはもう使われていないか、あるいは退役済みかもしれないが、ウクライナ軍の役に立つ可能性がある」
「こうした兵器があれば、我々は単独で敵に対峙(たいじ)し、空域を閉鎖することができる」
米国はソ連時代の戦闘機ミグ29をウクライナに移送することを拒んだ。F15やF16については、ウクライナ軍パイロットのさらなる訓練が必要となるため、米国が供与を支持する可能性は低い。
アンドリー氏はそこまで踏み込まないものの、ウクライナに追加の兵器が必要との点には同意する。 同氏は肩撃ち式のスティンガー対空ミサイルに触れ、「我々が勝つにはスティンガーなどの近距離システムだけでは不十分だ」と訴えた。 「ロシアの戦術は絶えず変化していて、いまは大半の場合、高度5万フィート(約1万5000メートル)を飛行している」「我々のスティンガーでは届かない」という。
ウクライナのために死ぬ覚悟
NATOの追加装備品を待つ間、ウクライナ軍のパイロットらが戦場にプラスアルファをもたらしていると報道官は指摘する。 「戦意や英雄的な行動を否定すべきではない」「ロシア人にないのはそれだ」
ただ、おそらく予想外の成功を収めたとはいえ、ウクライナ軍のパイロットは制空権争いで劣勢な状況が続く。 「時には我々のパイロット2人で10機を相手にすることもある」
「離陸は片道切符だ。彼らはもしかしたら死ぬかもしれないことを理解している」 そうした不安定な状況はアンドリー氏も忘れていない。同氏は家族から離れていて、その家族もウクライナの戦争に参加している状況だ。自身の仕事に大きな精神的負担が伴うことは認めている。
「もちろん、できるだけ早くこの戦争が終わって欲しいが、我々は戦う。士気は高い。ここは我々の土地であり、敵が領土の一部を奪ったり破壊したりすることは許さない」 「最後まで戦い抜く」とアンドリー氏は言い添え、「誰だって死ぬのは怖い。違いは威厳を持って死ぬか、威厳を持たずに死ぬかだ」と力を込めた。