■ブドウ糖に代わるクリーンなエネルギー
ブドウ糖とは異なり、ケトンは「クリーンに燃える」燃料と考えられている。
なぜなら、ブドウ糖より少ない代謝プロセスで、
取り込んだ酸素からより多くのエネルギーをつくり、
その結果、エネルギー変換時に生成されるゾンビ分子
(フリーラジカル)が少なくなるためだ。
また、フリーラジカルを中和する力が強いグルタチオンという
天然の抗酸化物質を使える機会も大幅に増える。
つまりケトンを利用することで、
アンチエイジングが半額セールの状態になる。
ケトンの恩恵は、そこで終わらない。ケトンが脳にあると、
BDNFを増産する遺伝子経路が活性化されることが研究で示されている。
BDNFは気分を改善したり、学習能力や可塑(かそ)性を促したり、
神経細胞を日常的な損傷から守ったりといった、
いわば脳の「成長ホルモン」だ。
ケトンは脳への血液の供給にも一役買い、
39パーセントも血流を増やすという。
炭水化物をふんだんに摂る「普通の」西洋型の食生活において、
この有益なケトンの合成は、ほぼ抑えられた状態にある。
なぜなら、高炭水化物食によって
膵臓(すいぞう)のインスリン分泌が刺激され、
インスリンが増えるたびにケトンの合成が止まるからだ。
一方、絶食や、炭水化物を極端に減らした食生活によって
インスリンが抑えられると、ケトンの合成が誘発される。
■体内でケトンを合成する方法
飢餓の状態で皮膚の下や胴まわりの脂肪組織が分解されると、
脂肪酸が血液中に流れだし、肝臓によって「ケトン体」、
もしくはシンプルに「ケトン」と呼ばれる燃料に変換される。
ケトンは脳細胞に簡単に取り込まれ、必要なエネルギーを
最大60パーセントまで補給できる。
農耕生活を始める前の祖先たちは、食料供給の見通しが
立たなかったため、定期的に絶食を経験していた。
彼らの脳(と私たちが受け継いだ脳)は、
この不確実性のなかで鍛えられ、食べる時期と
絶食の時期を振り子のように繰り返す生活に見事に適応した。
食料の摂取を周期的に制限することによって、
身体は生理学的な適応を強いられ、ケトンを合成する。
断食(ファスティング)の方法はいろいろあるので、
好きなものを選ぶといいだろう。お勧めは、
最後に栄養を取り込んでから16時間、
何も食べない状態を維持する方法だ。
これは一般的に普及している「16:8」メソッドという
ファスティングだ(つまり16時間は何も食べないが、
残りの8時間は食べてもいいというものだ)。
このファスティングは毎日行うことができて、
ファスティングの多くの恩恵が得られる。
具体的にはインスリンの分泌量が減り、
蓄えられた脂肪の分解が促される(女性には16時間ではなく、
12~14時間から始めることを勧めている。
女性のホルモンのシステムは、食料難のシグナルに対して
敏感に反応する可能性があるためだ。
たとえば絶食時間が長くなると、
生殖能力に悪影響がおよびかねない)。