芳野星司 はじめはgoo!

童謡・唱歌や文学・歴史等の知られざる物語や逸話を写真付でエッセイ風に表現。

政治の家業化とその業態

2016年06月13日 | コラム
                                                         


 仙台藩の玉蟲左太夫であったか、勝海舟であったか。そして勝から話を聞いた坂本龍馬であったか。
 幕末、アメリカに渡った玉蟲や勝が、アメリカの政治体制で驚いたことのひとつに、初代大統領ワシントンの子孫が、今何をしているかを誰も知らないということであった。
 大名の子が大名家を継ぎ、家老の子が家老となり、足軽の子は足軽という制度下に生きていた彼、彼らは、民主主義的な政治制度を知って感銘を受け、それを日誌に書き留めたのである。玉蟲の「航米日録」にある。(ちなみに夏目漱石の東京帝大時代の仙台出身の友人・玉蟲一郎一は、若死した玉蟲左太夫の遺児であったか、眷属であったか。)

 しかるに現代の政治家たち、特に自民党議員の半分余は世襲議員なのである。しかも二世、三世ばかりか、曽祖父の地ゴロ時代から数えて四世までいるのである。
 初めて選挙戦に打って出る世襲候補の当選率は7割を超えるそうで、そうでない候補者より圧倒的に優位にあるらしい。
 先の北海道5区の補選も、故町村議員の娘婿が、ムサシによる不正疑惑の噂が囁かれるものの、当選した。おめでとチャンリン「親馬鹿チャンリン、政治屋の風鈴」である。娘婿だから岳父からの世襲である。「町村代議士の弔い合戦」とは嗤わせる。政治屋という家業の世襲ではないか。

 世襲候補は「地盤」「看板」「カバン」を継承するという。地盤は先代の親の選挙地盤でほぼ確定した支持者がいる。看板は親の知名度である。カバンは金である。
 どうも地盤とカバンは重複するらしい。有力な支援者からの政治献金、有象無象の支援者にばらまく金、選挙に使える金であろう。こうして親の後を継いだ若先生は、有利に選挙戦を戦い、晴れて国会議員になる。
 地元の有力者や支援者たちが若先生に陳情する。陳情には当然のように斡旋や仲介、口利きの依頼が含まれる。若先生は彼らの陳情に応えなければならない。次の政治献金や選挙での働きを思えば、一生懸命に斡旋や口利きに汗をかく。誰も見返りもなく、また無料ではお願いに来ない。若先生も先代から教えられている。彼らのために汗をかけ。最初は少ないかも知れないが、彼らは幾許かの政治献金をしてくれるし、パーティ券の購入もしてくれる。

「うちの倅はいま大学三年生なんだが、広告代理店に入りたいと言っている。先生、どこかご紹介いただけませんか」「わかりました。秘書に履歴書と第一志望の会社を伝えておいてください。やはり電博かな。うちの親父も電博の今の経営陣に目をかけていたし…。いやあ、今度の選挙もいろいろ大変そうで…」「わかりました、先生。応援しますよ。先生、これは些少ですが政治献金として…」
「どうも若先生、うちの娘がテレビ局で働きたいと言っているのですが…」「分かりました。やはりうちの党に協力的なフジ系列か読売系かな…。すぐ当たってみますよ」「よろしくお願いします。先生、これは些少ですが献金させていただきます」…。

 こうして世襲議員たちは「地盤」と「カバン」とともに、政治を家業化していき、次の代にも引き継がせるのである。家業化された政治家の仕事の大半は、斡旋、口利き、仲介、それと陳情内容によっては、その利権化なのである。
 やがて若先生が大物政治屋に育ち、副大臣や大臣ともなると、地元有力者以外の人たちからも陳情が引きも切らない。商売繁盛で慶賀の至りである。
「先生、実はURと揉めておりまして…」「よし、分かった。うちの秘書に詳しく話しておいて。すぐ当たらせるよ」「ありがとうございます先生、これは些少ですが…」「おう、いつもすまないな」
 こうして、斡旋、口利き、仲介、利権化が時の与党議員らの本業となるのである。万一のことがあっても、日本の検察は権力の味方だから、ほとんど起訴されることはない。ことが発覚してからしばらくは、表向きは睡眠障害で安静にし、爆睡していればすむのである。政治屋は三日やったらやめられないそうである。

 自民党の議員たちは、いわゆる族議員として、党内の部会、調査会、推進調査会などに所属する。しかし世襲議員(お坊ちゃん、お嬢ちゃん)たちは、文部科学部会、厚生労働部会や電力・エネルギー調査会、建設部会、経済産業や成長戦略部会などの大きな利権が期待される部会ではなく、あまり利権とは縁のなさそうな外交部会(ODAは利権になる)や、憲法改正推進本部などに所属することが多い。
 彼らは選挙でも金でも比較的安定しているので、がつがつと利権を漁らなくても済むらしい。いま、自民党の憲法改正推進調査会は、世襲二世、三世たちで占められているという。
 彼らが、一番輝いていた「美しい日本」は1930~40年代だとし、その時代への回帰、さらに明治維新の頃の王政復古的な祭政一致を掲げ、権力を縛る憲法はおかしい、権力を縛るだけなんて公平でない、もっと国民を縛るべき、公としてもっと義務を負わせるべき、あげく、国民に主権があること自体がおかしい等とほざき、「日本の誇りを取り戻す」等と獅子吼するのである。
 もちろん、彼らのバックには神社本庁、神道政治連盟、旧生長の家信者、日本会議などがおり、自民党議員や保守政治家の多くが、この日本会議や神道政治連盟国会議員懇談会に政属している。第一次、第二次安倍内閣の8割が日本会議メンバーで、第三次安倍内閣の閣僚20人のうち19人が神道政治連盟国会議員懇談会(会長・安倍晋三)の所属である。

「門閥は親の仇でござる」と福沢諭吉は言った。…、政治の世襲、政治の家業化の現代は、それよりずっと退嬰的らしい。ちなみに議会制民主主義の発祥地イギリスでは、その長い歴史の中で、世襲の国会議員は二例しかないそうである。