父が白内障の手術を受けることになった。これまで事前の検査をしてきたが、今日は検査結果を聞いて手術に備える手続きをすることになっていた。
病院の指示通り、11時に受付を済ませて内科の診察室前で待つことになった。
それからが大変だった。1時間、2時間、3時間と待ち続けた。
いくらなんでもひどいのではないかと思ったので、窓口に掛け合った。
「あと少しですから、もう暫くお待ち下さい」
言葉は丁寧だったが、事務的だった。結局、4時間半待つことになってしまった。
私は、ついプロジェクトXの「奇跡の心臓手術に挑む」を思い出した。神の手を持つと言われた一人の医師が大病院の外科部長から直接患者と向き合いたいと地方の病院に移って間もないときのこと。評判のその医師に会わせてほしいと訪ねてきた患者に対して、「先生は、今忙しい。後にしてください」と応対している受付の人を見て、激しく叱った。
「ここは大病院ではない! 困っている患者とすぐに向き合わなくてどうするんだ」と。
そのほかに、
「医者は医者のためにいるんじゃないでしょう。医者は患者あっての医者でしょう」
「医者は、患者さんから教えられることが多いんですね。患者さんが医者に力を与えてくれるんです」
と、当たり前と言えば当たり前のことだが、言葉の一つ一つにハッとさせられたものである。
K病院は大病院だった。しかし、担当の先生はとても親切で、散々待たされて不機嫌だった父も、心臓の状態がよくないこと、薬の服用や食事の改善が必要なことをこんこんと説かれ、感謝していた。
患者の立場に立てる医師は多いのかもしれない。問題なのは大きく膨張した組織の運営システムに忠実にならざるを得ないという人間の弱さにある。
(飼い主)