病院に出かけた。
手術が終わってからは、母の様子が変わってきた。一番の変化は病人そのものになってしまったことだ。「迷惑かけるね。悪いね」と言いながら、話題は自分の気分や思い出話をどこまでも続け、周囲のことに気持ちが回らない。
看護師の方にはすっかり甘え、わがままを言うらしい。ほかの患者さんがほとんど黙って横になっているのに、ひとりお喋りしている感じだ。元気に話すときと弱々しく話すときの落差が激しいようだ。
そんな母に、父は長い時間、よく相手をしている。毎日、午前10時ごろに家を出て、午後3時過ぎに帰ってくる。朝夕の犬の散歩もそうだが、父の1日のリズムは実に確かだ。それもあるからかもしれない。母は、病院を家庭の延長のように受けとめている。
変わらないのは、入れ歯を外されたことが残念だとこぼしたことだった。櫛を欲しがったことといい、身だしなみに関することにはこだわっている。
(飼い主)