盆石・水石の続き。
どうもこういうのの総称としては水石のほうが優勢らしい。水に濡らして鑑賞するからという説もあれば、「山水石」の略だという説もある。盆石だと盆栽に近すぎてジジ臭くなるからかも。(君にぴったりではないかい) あちきも多きに流れて水石と書くことにする。
同じヤフオク「信濃美術石博物館」さんから、佐治川石。銘は『峰引き』。
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全長31センチと大きい。重量は3.18kg。
佐治川というのは全国にあるけれど、佐治川石の佐治川は鳥取県。日本三大銘石の一つとされることもあるけれど、この「三大」は人によってばらばらで決まったものではなさそう。
玄武岩の変成岩が水で刻まれたものらしい。
もとは大阪のコレクターの蔵品で、館主の無粋庵さんが直接仕入れたそう。それにしては安く落札できた。石底は朱漆で塗られていて無粋庵さんの銘書きが入っている。
これの写真を見た時、妙に惹かれたのです。なんかいい姿だなあ、と。普通に見ればバランスが悪い感じだけどそのバランス悪さが妙に魅力的で。(正道をはずすのがお得意かな?)
で、落手してからよくよく考えてみると、これ、「日本鑑賞石の筆頭」、日本最初の石コレクター後醍醐天皇のナンバーワン・コレクション、「夢の浮き橋」に少しばかり似ている。徳川美術館蔵。
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片方に山がある。水石の道では、山は6:4の位置にあるのがいいとされるらしいけど、これはかなり偏り過ぎ。しかしそれが味。
ちなみにこの「夢の浮き橋」という銘は、あるサイトでは「真ん中が少し浮く」から「浮き橋」だろうと書かれているけれど、そうではなくてこれ、藤原定家の名歌「春の夜の夢の浮き橋途絶えして峰に分かるる横雲の空」から来ているのではないでしょうかね。後醍醐天皇はもちろん和歌にも精通していて定家は大好きだったはず。この先細りに延びた姿は雲なのではないかと。まあわかりませんが。
「夢の浮き橋」の良さを理解しているわけではないけれど、この「峰引き」の少しバランスの悪い横延びの姿は、日本水石筆頭の石の「本歌どり」と言えなくもない。
石底に朱漆が塗られ銘書きがされているところは「夢の浮橋」も同じ。無粋庵さんも意識していたということかな。
まあそれは素人の推察。本歌どりであろうとなかろうと、姿が気に入ればそれでいいのですよ。
素人ながら思うことは、いろいろなサイトの写真なんかを見ていると、平らな部分、あるいは凹んだ部分がある石は、魅力があるように思えるのですねえ。そこにいろいろな情景をイメージできるから。
尖った石は尖った石でいいのですけど、ちょっと張り詰め過ぎで遊びがない。平面や凹みがあると、そこで想像力が遊ぶことができる。前記事で上げた遠山石は、遙かな連山の姿としてはいいのだけど、そういう遊びはない。平らな部分を持つ「段石」とか「ドハ」という石が評価されるのは、そういうことと関係しているのではないか。
この石も、山があり、平らな所がありで、実に楽しい。
これは山頂。平らなところがあって、そこは天上の桃源郷。
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山頂下の岩窟群。修行者が籠る怖い場所。
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山の下の池。実際水が溜まる。
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中央部の「盆地」。人の住む里ですな。窪みの中央には小山があって面白い。水を入れれば湖になる。
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突出部の「岩鼻」。荒波と戦う岬の姿。地の果て。
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モノクロの世界と思いきや、頂上裏側の絶壁部分には緑と赤茶の模様が見える。緑色片岩?
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実に楽しい。
けどでかいのであちきの貧居の中では収まりが悪い。仕方なくベランダに小さな机を出して、お盆を敷いて、いかにもそれらしく眺めておるのであります。(枯淡の境地かなw)
ううん、なかなかいいですよ。水石の世界。
キラキラ石好きの方々も、一つくらいはこういう日本的鑑賞石もお持ちになってみてはいかがかなと。(余計なお世話)