貧乏石好き

つれづれなるままに石をめぐりてよしなきことを

キンバーライトとは何か

2024-10-20 09:42:50 | おべんきょノート

キンバーライトおよびその噴火についてはわからないことが多いが、おおむね次のようなことが言われている。

・kimberlite、キンバリー岩。鉱物名ではなく岩石名。
・特異な「キンバーライト噴火」によってできる火成岩で、ダイヤモンドを含有することで有名。
・名前は南アフリカのダイヤモンド鉱山がある町「キンバリー」から。(1867年発見、1869年に83.5カラットのダイヤモンド「スター・オブ・サウス・アフリカ」が発見され、ダイヤモンドラッシュが起こった。)
・マントル物質にきわめて近い「超塩基性岩石」で、12%以上のMgOを含む。他にカリウム、ニッケル、クロム、コバルト、レアアースも多く含まれる。
・主に橄欖石と雲母からなり、しばしば発達した金雲母の結晶を伴う。他にパイロープ、クロムダイオプサイド、イルメナイト、サーペンティン、カルサイト、ルチル、ペロブスカイト、マグネタイトなどを含むことがある。
・基本的には青みがかった「ブルーグラウンド」と呼ばれる岩石だが、風化すると黄褐色になり「イエローグランド」となる。(主要なダイヤモンド鉱山はイエローが多い。)
・キンバーライト・マグマはCO2や水を大量に含んでいるため、上昇減圧によって急激に膨張し、周囲の岩石を破壊しながら上昇する。さらに含まれている炭酸塩が周囲岩石の珪酸塩と反応して、大量のCO2が発生するとも言われている。
・周囲の岩石に大きな熱変成が見られないことから、比較的低温の結晶混合マグマではないかという説もある。
・マントル内の鉱物や上昇経路にあった鉱物を「捕獲」していることがある。マグマ内で結晶した「斑晶」も見られるが急激な上昇・冷却のため大きな斑晶はない。
・キンバーライトの構成鉱物は周囲の岩石を含み込んだり、岩石から溶出した成分との化学作用によって形成された鉱物もあるので、「純粋なマントル鉱物」ではない。「純粋なマントル鉱物」を探し出すには複雑な分析をしなければならない。
・主にキンバーライト噴火口(キンバーライト・パイプ)に産する。アフリカ、ロシア、中国、アメリカなど古い大陸内部にあり、現在6500ほど発見されている。特定の地域に同じ年代のものがまとまって存在することがある。
・パイプは上部ほど太くなるニンジン型で、地上口の径は数十~数百メートル、深さは500~3000メートル。その深部には水平板状岩体などがある。さらに深い部分ではマグマは垂直板状に上昇してきたらしい。通常の火山噴火に見られるようなマグマ溜まりはない。
(参考:磯崎2002より。)


・キンバーライト噴火の際のマグマ上昇速度はきわめて速く、時速100kmとも300kmとも音速(1224km)以上とも言われている。(速くないとダイヤモンドが変質してしまうから)
・主に白亜紀(1億4600万年前から約6550万年前)に起こり、最後は2500万年以上前か。
・2億5000万年前ごろ地球のあちこちで起こり、超大陸パンゲアの分裂や古生代・中生代の境界となる生物大絶滅を引き起こしたのではないかという説もある。(磯崎2002)
・キンバーライト噴火を起こすマグマの由来ははっきりしていない。ダイヤモンド形成条件(5万気圧以上)を考えると150km以上(マントル上部の流動性部分)の深さで生まれると言われるが、そのダイヤモンドに稀に含まれる「マグネシオウスタイト」は660kmの下部マントル上部でできたものなので、より深い可能性がある。さらに、核とマントルの境界部分からの「スーパープルーム」に由来するという説もある。ただしスーパープルームがそのままキンバーライト噴火になるのか、スーパープルームが原因となってキンバーライト・マグマが生まれるのかは不明。
・なお、キンバーライト岩体でダイヤモンドが見つかる確率はかなり低く、砕いた岩石数千個に一つくらいではないかと言われる。ダイヤモンドは大陸衝突の超高圧変成帯でも出るがきわめて微小なものである。
・キンバーライトに含まれている鉱物、さらにキンバーライト・ダイヤモンドに内包されている鉱物は、マントルの実像を探る貴重な資料であり、地球科学上、重要な意味を持つ。

参考資料
兼岡一郎「キンバーライト:地球深部の化学的環境を探るための鍵」『地球化学』48、2014年
英語版ブリタニカ「キンバーライト噴火
英語版ウィキペディア「キンバーライト
磯崎行雄「分裂する超大陸と生物大量絶滅」『プルームテクトニクスと全地球史解読』岩波書店、2002年
ネットサイト「iStone」キンバーライト
ボネウィッツ『岩石と宝石の大図鑑』誠文堂新光社、2007年


雑記:日本列島って何だよ

2024-09-25 18:49:53 | おべんきょノート

変成帯の話を齧っていたら、日本には大きな変成帯が2つあるということを知った。
「領家〔りょうけ〕変成帯」と「三波川〔さんばがわ〕変成帯」。変成帯は他にもたくさんあるけれど、大きいのはこの2つ。
この2つは間に「中央構造線」をはさんでいて、上=北が領家、下=南が三波川。
都城秋穂博士はこれを「対の変成帯」として、北米大陸西側にも同じものがあると指摘、その後他の地域でも見つかって、有名な概念になった。
で、これは何か。両方とも大陸地殻の下に海洋プレートが沈み込む「プレート・テクトニクス」によって造られたもので、下の三波川は沈み込み部分の深部でできたもので「低温高圧」変成、上の領家は沈み込みで生まれたマグマが上昇して地殻浅部で造られたもので「高温低圧」変成。都城博士は同時にできたとしたが、最近の研究では少し時間的ずれがあるとのこと。まあ大勢に影響はないらしい。
間に挟まってる中央構造線って何だよ、という話になるけど、まあこれは「断層」。
上の領家と下の三波川は本来かなり離れているのにどうしてくっついたのか、中央構造線の断層とは何か、というのはまだはっきりと解明されたわけではない。

で、この2つの変成帯と真ん中の断層、これ、「日本列島がまだ大陸のへりだった時にできたもの」だという。
え? そうだったの? 恥ずかしながら、そんな話、知らなかった。沈み込み帯の火山からできた島、いわゆる「島弧」だと漠然と思っていた。
で、ちょいとそんな関係の啓蒙書を見てみた。割合最近の学説らしい。オジジの「最近」は全然最近ではなくて「生まれる前だぜ」と言われるだろうけど、何せ地球のテクトニクス研究が始まったのが1970年代で、オジジにしてみればちょっと前の話なのだわ。日本列島の「大陸からの分離説」なんかはもっと後だから最近。ついこないだ。(オジジを自慢しなくてよろしい)
この分離説、ものすごく雑に言うと、ユーラシア大陸の東のへりが突然割れて、日本列島の主要部分にあたる小陸塊が海へと進撃、間に日本海ができたということらしい。今も列島は東へ進み、日本海は拡大している。はあ、大陸から逃げたいのね。意味深。(おいw)
この分離の原因もはっきりわかっていない。都城博士は「マントルからのマグマの上昇」つまり「ホットプルーム」説を唱えた。例の「プルーム・テクトニクス」の先駆けの一つ。
マントル最深部から上昇してくる「ホットプルーム」は確かにあるらしい。ハワイ諸島とか、アフリカ東部の大地溝帯とかはそれによってできていると考えられている。ただ、「なぜ」「どこに」発生するのかは不明。神のみぞ知る。つか、これちょっと何でも説明できちゃう「デウス・エクス・マキナ」みたいな感じがしないでもない。マグマが上がってきているのに凹んでいるというのも素人にはよくわからない。

で、ともあれ、日本列島は大陸から分離してどんどん遠ざかっていく。その時に、細長い陸塊が二つに折れ、あの「フォッサマグナ」ができた。この「フォッサマグナ」もいろいろ複雑で、諏訪湖あたりで北部と南部に分かれていて、南部は「丹沢―伊豆半島―伊豆諸島……」と続く「フィリピン・プレート」上の「島弧」の衝突によって大きく影響を受けているらしい。難解。
つまり、中央構造線は列島がまだ大陸のへりだったかなり古い時代のもの、フォッサマグナはかなり最近のもの、ということなんですね。へえ。
ただ、「なんで二つに折れたのか」とか、「フォッサマグナの東の崖はなんでぐちゃぐちゃではっきりしないのか」など、はっきり解明されていない部分もある。
まあ「地べた」のことはまだまだわからないことだらけ。「プルーム・テクトニクス」ってほんとなのか、「プレート・テクトニクス」はどこまで適用できるのか」とかも、いろいろ異論があるようで。
でも面白いですねえ。

しかし、「大陸のへりが割れて海へ進撃した」とか「世界に類を見ない、海溝に直角で巨大な溝がある」とか「すぐ海側には3つのプレートがぶつかる珍しい三重合点がある」とか、日本列島はきわめて特殊な地形らしい。世界の活火山の1割が集中するとか、地震が頻繁に起こるとか、災難も多いけれど、とても面白い地質のようです。そんな上に住んでる人間もちょっと特殊かもしれない。

参考資料
都城秋穂『変成岩と変成帯』岩波書店、1965年
大鹿村中央構造線博物館サイト「対の変成帯
藤岡換太郎『フォッサマグナ』2018年、講談社ブルーバックス


「変成」に関して 3.変成と「水」

2024-09-22 09:41:20 | おべんきょノート

もう一つ、変成作用において熱や圧力と共に重要な役割を担うのが、水や二酸化炭素などの揮発性成分であるという。

《変成作用を受けつつある岩石のなかにはH2OやCO2を主成分とする粒間流体がある場合が多いらしいが、そういう流体が移動すればそのなかに溶解している物質が移動する。これは、場合によってはかなり大きな量に達しうるであろう。……そういう水は他の場所へ流れて行って、温度や圧力が下がると岩石のなかに石英を沈殿させたり、石英脈をつくることになる。》

沈み込み帯におけるマグマの生成の場合と同様、水は鉱物の結晶構造を切り、融点を下げる作用がある。原岩がどれだけ水やCO2を含むかによって変成作用の起こり方は変わる。
脱水反応の例としては、
  パイロフィライト=カイヤナイト+3石英+H2O
  白雲母+石英=珪線石+カリ長石+H2O
脱CO2の例としては
  方解石+石英=珪灰石+CO2
水とCO2両方の例としては
  トレモライト+3方解石+2石英=5ダイオプサイド+H2+3CO2
  2エピドート+CO2=3アノーサイト+方解石+H2O
  5ドロマイト+8石英+H2O=トレモライト+3方解石+7CO2
などがある(都城1996)。
おやおや、変幻自在ですね。

さらに、変成作用の中で発生した「水」は、火成岩で発生した水と同様に、熱水鉱脈やペグマタイトのようなものを形成するかもしれない。つまり、何度か書いてきたように、「火成岩系水成鉱物」と同様、「変成岩系水成鉱物」というものもあるのかもしれない。

     *     *     *

非常に面白いのは、変成作用においても、「花崗岩」が生成するということ。
ヒマラヤやアルプスなどの「大陸が衝突して盛り上がった変成帯」で、花崗岩が出る。これはプレート衝突の超高圧状態で岩石が融け、花崗岩マグマが生まれた可能性がある。

「K2ストーン」というのがあります。「K2アズライト」とも言われる。前は青いのは何じゃいという感じだったのが、どうもアズライトだということになったらしい。

カラコルム山脈にある世界第二の高峰、K2の麓で採れたという触れ込みの石。大陸衝突の造山運動の中で生まれてきたわけですね。解明されたわけではないけれど、これも超高圧変成で岩石が融けて生まれた花崗岩かもしれない。普通の花崗岩にはアズライトなんてあんまり入らない。そういう特殊な石が入っているということは、ちょっと特殊な生成なのかもしれない。

で、花崗岩が生まれれば、当然のことながらそこから派生する熱水も存在する。前も書いたけど、ヒマラヤやアルプスの水晶なんかは、変成岩由来のマグマ熱水から生まれてきたのかもしれない。

これはチベット産のショール、ブラックトルマリン。九角柱という不思議な形。

トルマリンというのはペグマタイトでしか出ないと言われる。しかしチベットなんかに火山マグマ由来のペグマタイトなんかあるでしょうかね。これはひょっとしたら、変成岩由来の花崗岩ペグマタイトでできたのではないだろうか。まあ空想ですけど。

石集めをしているだけの素人にとって、ちょっと興味があるのは、マグマ由来のペグマタイト・熱水鉱脈の「水成鉱物」と、変成岩由来のペグマタイト・熱水鉱脈の「水成鉱物」は、同じなのか違うのかということ。ある種の石はマグマ熱水からだけでき、ある種の石は変成作用熱水からだけできる。そんなことがわかると、なかなか面白いのではないでしょうか。ん? 面白くない? そうですか。

まあこんなところで、変成岩・変成作用のごくごく大雑把なアウトラインは浮かび上がってきたのではないかなと。いや、わかんないか。とりあえず、今回はこんなところで。ああ疲れた。


「変成」に関して 2.「変成岩」って何じゃい

2024-09-20 10:24:26 | おべんきょノート

変成岩が特徴的に見られる場所がある。
・接触変成帯
・広域変成帯

接触変成帯というのは、マグマ及び付随する熱水が上がってきて、岩石が変成されるもの。スカルンなんかはこれですな。しかし広域にわたったら広域変成帯になる。
広域変成帯というのは、いろいろ。最初この言葉を聞いた時、「これ、何も言っていないじゃない」と思ったものでした。「広い地域で岩石が変成している」。ただ情景を述べただけ。こんな学術用語ってあり?と。
で、もちろんちゃんとした説明がある。広域変成帯の中には次の二大派閥がある。
・プレート沈み込み帯の広域変成帯。いろんな温度・圧力あり。
・大陸衝突帯およびそれに伴う造山帯の広域変成帯。主に高圧変成。
ほかにも「厚い地殻内の放射性崩壊熱による変成帯」「大陸伸展に伴うマントル上昇の熱による変成帯」などがあるようですけど、ちょっと棚上げ。
で、変成岩を調べていけば、そこがプレート沈み込み帯だったとか、プレート衝突による造山帯だったとかがわかる。
といってもそんなに単純な話じゃなさそう。
たとえば日本には領家変成帯とか三波川変成帯という大きくて有名な変成帯がある。領家は低圧変成で、沈み込み帯で生まれた花崗岩マグマが貫入したもの、三波川は高圧変成で、沈み込み帯の深部で変成したものとされている。両方とも列島がユーラシア大陸の縁にへっついていた時にできたらしいけれど、詳しいことはまだわかっていないらしい。
あるいはヒマラヤ山系で見られる花崗岩は大陸衝突の高圧でできたものなのか、下部からのマグマの上昇があったのか、なかなかはっきりとは言えない。
まあほんとに難しい世界です。岩石は様々だし温度や圧力も様々。どんな石がどんなことを示すのかはそう簡単にわからない。とっても素人には歯が立たない。

     *     *     *

変成岩にはどんなものがあるか。
代表的なものには次のようなものがあるらしい。ただし他の環境でも出たりするからあくまで参考。

・泥質堆積岩起源のもの
  雲母、藍晶石・紅柱石・珪線石、クロリトイド(硬緑泥石)、十字石、菫青石
・石灰質堆積岩起源のもの
  方解石・アラゴナイト、ドロマイト、珪灰岩、角閃石、輝石、斜長石
・塩基性火成岩起源のもの
  角閃石、斜長石、輝石、緑簾石、ローソン石、パンペリー石、葡萄石

カイヤナイト三姉妹、アイオライト、タンザナイト、プレナイト、翡翠なんかはもっぱら変成岩由来ということのようですね。ガーネットなんかは変成岩・変成帯で多く出るけど、マグマ由来のペグマタイトなんかでも出る。
翡翠というのはわからないことが多いみたいだけど、だいたい次のような感じらしい。
 橄欖岩/玄武岩 → 蛇紋岩 → 角閃岩 → 曹長石/曹沸石 → 翡翠
ずいぶん長い道のりですね。しかも低温・高圧環境でできるらしい。6億年以上前では地殻温度が高すぎて翡翠はできないとも言われる。不思議な石です。
ヴェスヴィアナイト(ベスブ石)なんかは接触変成のスカルンなんかでもっぱら出るらしい。これは甲武信鉱山産のもの。甲武信ヶ岳を作った花崗岩マグマ上昇によってできたスカルン鉱物ですかね。


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変成岩の形状には以下のようなものがある。形状というのは見た目の姿のことらしいけどよくわからん。一応メモ。
1.スレート(板岩、Slate) 主に泥質性堆積岩から。
2.千枚岩(phyllite) 主に泥質性堆積岩から。
3.片岩(schist) 主に泥質岩起源、低温の火成岩起源は緑色片岩。
4.片麻岩(gneiss) 中・粗粒で平行組織を持つ
5.角閃岩(amphibolite) 主に火成岩から。低温では緑色片岩。
6.グラニュライト(granulite) 白粒岩とも言われる結晶の目立つ白っぽい岩石。高温でできる。
7.エクロジャイト(eclogite) 柘榴石とオンファス輝石を主とする超高圧変成岩。大陸衝突帯や沈み込み帯深部でできる。
8.ホルンフェルス (hornfels) 細粒・無方向性、主に接触変成でできる。
9.マイロナイト (展砕岩、mylonite) 破砕細粒・縞状の変成岩。
10.ミグマタイト(migmatalite) 混合岩。

ホルンフェルスってよく聞くけど、何度説明読んでもすっきりとわかった試しがない。しかしこれ「ホーンフェルス」じゃね? マグマに近い所から遠い所へと帯状の模様ができるから面白いみたいだけど、本来は粒も筋筋もない姿の形容らしい。ミグマタイトなんてのもよくわからない。マイロナイトに至っては聞いたこともなかった。どうも形状のことを言っているのか生成過程のことを言っているのか、ごちゃごちゃしているような気がしないでもない。

それとは別に「変成相」というのがあって、「温度・圧力による(化学平衡状態の)相」ということらしいけれど、これも素人にはよくわかりません。温度・圧力がだいたいわかって、そうすればその領域の構造運動の歴史がわかるということなのでしょう。
Eskola という人が8つを提案、それに新たに2つ加わって10種ある。都城1965より。

1.緑色片岩相
2.角閃岩相
3.エクロジャイト相
4.ホルンフェルス相
5.サニディナイト相
6.緑簾石角閃岩相
7.藍閃石片岩相
8.グラニュライト相
9.沸石相
10.葡萄石-パンペリ石変成グレイワッケ相

大まかな図はこんな感じ。あくまで大まか。


 10の変成相の概念図(都城1965、307頁を簡略化したもの)


難しいですねえ。
この石はこういう石に変わる、この石はこういう石がどうなった時に生まれる、というようなことがわかればいいのでしょうけど、そう簡単に問屋は卸さない。鉱物なんかも、変成作用で出たりマグマ関連で出たりするから、なかなかはっきりは言えないようです。ううむ。


「変成」に関して 1.「変成」って何じゃい? 1

2024-09-18 20:52:53 | おべんきょノート

基本中の基本の話で、岩石には3種類ある、とされる。
 火成岩 igneous rocks。イグニアスと読むそうで。マグマから出来た岩石。
 堆積岩 sedimentary rocks。いろんなものが堆積して固まった岩石。
 変成岩 metamorphic rocks。すでにある岩石が変成してできた石。メタモルフォーゼ。かっこいいね。

といっても、自然現象というのは多様複雑で、明確な線引きができないことが多く、どっちとも言えない曖昧な領域もある。「こりゃそれですね」とはっきり言えるものもあれば、「ううむ」というものもある。「厳密な定義」というのは困難。「クソジジイ」というのは定義不能だけれどもクソジジイは確かに存在する。あちきがそれに入るかどうかは知らない。(たぶん入るんじゃないの?)

マグマからできた火成岩やいろんなものが積もった堆積岩というのは、まあわかりやすい。しかし「変成」でできた岩石とは何ぞや。
これが難しい話で、素人にはなかなか歯が立たない。首を突っ込まないのが得策なのだけれど、それも面白くないので、不遜ではあるけれど変成岩学の泰斗・都城〔みやしろ〕秋穂博士の本をぱらぱらとめくりながら、ごくわずかだけど理解した範囲でメモを作ってみることにした。
ちなみにこの都城先生(1920-2008)、変成岩研究では世界的に有名らしいけど、日本の学界ではいろいろと軋轢があったとか。ウィキペディア参照。まあね、学界というのはね。(しーっ) 大隅石やインド石の命名者でもある。
参考文献は、『変成岩と変成帯』(岩波書店、1965年)と『変成作用』(岩波書店、1994年)。ちょっと古くて、特に前者はプレートテクトニクス革命前のものだけど、岩石分析の基本はそう劇的に変化していないのではないかと思われ。

で、「変成岩」とは「変成作用でできた岩石」。はい。で、「変成作用」というのは何ですか?
どうもこれも厳密な定義というのは不能らしい。
都城1965にはこうある。
《変成作用は、まったく融解がおこらないか、またはきわめてわずかしか融解がおこらない範囲の現象である。すなわち、変成作用は、本質的に固体の岩石におこる現象である。》
とはいえ、それは「理想形」であって、実際にはかなり融解したり、それが出て行ったり、さらに外から何かが入ってきたりと、もっと多様で重要な現象が起こっている。理想形だけに限定していたら変成岩学は成り立たない。
しかしあまりに広く捉えると収拾が付かなくなる。堆積岩が押しつぶされてある程度結晶構造が変われば変成岩になるだろうけど、どの程度からだよという話になる。1904年にヴァン・ハイズが著した変成岩の本は1286頁、5.4㎏になったという。は? 5.4㎏の本って何だよ。って、先生、計ったの?
だから「どれをもって変成岩とするか」というのは、人と場合によってまちまちらしい。
基本的には、「すでにできている岩石が、圧力・温度、さらに水などの揮発性成分によって別の岩石になったもの」という大まかな括りでいいのでしょう。細かく揚げ足取りをすると切りがない。

この変成岩というもの、日本ではあまり広く見られるものではない。
《わが国では、再結晶化作用の進んだ変成岩の露出面積は全面積のなかの約4%にすぎない。》
だから、変成岩と言われても一般人は「ふうん、変わった石ですか」くらいに思ってしまう。(それはないw)
ところがどっこい。
《大陸地殻の中央部の大きな部分を占めている先カンブリア盾状地は、そのほとんど全体が変成作用を受けた地域である。》
先カンブリア盾状地というのは、古~い大陸。27億年前に大規模火成活動によって大陸地殻の急激な生成があったというから、その頃の大陸ということかな。
あちきらは「大陸地殻は火成岩である安山岩と花崗岩からできている」と教わるわけだけれど、この大陸地殻火成岩、そのまんまのほほんとしているわけではない。重みで押しつぶされたり熱せられたり、さらには大陸衝突でぶつかり合ったりして、多くが「変成」している。大陸地殻のかなりの部分は変成岩なのである。らしい。
《大陸地殻の深所にはいちめんに広域変成作用がおこっているのであるが、造山帯でのみそれが地表に露出しうるほどの大規模な隆起がおこるのかもしれない。造山帯の広域変成岩は一般に強い変形運動をうけているとしても、造山帯よりほかの大陸地域では地殻の深所に変形運動をうけていない広域変成岩が形成されているかもしれない。たとえば玄武岩質の岩石は、造山帯でなくても長い時間のあいだには角閃岩やグラニュライトになっているであろう。このことは、現在の地殻やマントル上部の構造や組成を考える上で重要である。》

そう言われると、変成岩というのはむしろ地殻の大部分なんじゃないかと思えてくる。えらいことですな。

     *     *     *

元になる岩石(原岩)も様々、温度や圧力などの条件も様々。そういう厖大な領域を研究するとはどういうことなのか。
都城博士はこんなふうに言っている(都城1991)。

《1970年代にプレートテクトニクスに基づく地質学の大系が組織されるより前には、岩石学、層序学、構造地質学というような地質学のなかの諸分野は、相互にほとんど無関係な独立した研究領域であって、全体をつなぐような論理的な結びつきはきわめて弱かった。そのころは、変成作用の研究は岩石学の一分野とみられていた。岩石学自体は、火成岩の研究と変成岩の研究と堆積岩の研究に分かれていて、それぞれは一つの独立した分野であって。それらをつなぐような論理的な結びつきはほとんどなかった。
 このように小さく分かれた個々の分野には、それぞれの価値意識があった。たとえば岩石学についていうと、その初期には珍しい岩石(岩型)や造岩鉱物に対する強い興味があった。したがってたとえば、火成岩の新しい岩型をみつけるというようなことが、重要な業績であった。(中略)
 岩石学に物理化学が入ってくるようになって後、そういう個々のものに対する単純な記載的興味はいくらか減じて、その代りに物理化学的手段によって知られる個々の事実に対する興味が生れた。たとえば、変成岩研究の目的は変成作用の温度と圧力を明らかにすることにあるとよくいわれた。もちろん変成作用の温度を知ることは望ましいことに違いないが、そういう研究をすすめて、たとえばある変成岩の生成の温度が400℃でなくて450℃であることがわかったとしても、それ自体を人類の知的進歩に対する貢献として、どの程度に評価できるであろうか。
 プレートテクトニクスに基づく地質学の大系ができ、変成作用の研究もそのなかに組みこまれて後は、そういう疑問はしだいに少なくなってきた。(後略)》

岩石学や鉱物学というのはもともとは近代西欧の「博物学」から生まれたもので、帝国主義的拡張や科学の勃興とあいまって、「珍しいものを見つけて、記述して、分析して、分類する」といういわゆる「記載的」学問であったわけですね。人類学や宗教学なんかも同じトレンド。こういう「記述・分析・分類」はもちろん学問の基礎だし、それがなくては始まらないのだけれど、そればっかに終始しているのでは単に知識・情報の羅列でしかない。
それが一変したのが、20世紀後半の「地球科学」の勃興。大陸移動説に始まった「プレート・テクトニクス」の誕生、化学的分析や高圧・高温実験の進化、地震波解析やボーリング調査、コンピュータによるシミュレーションなどなどによって、「地べた」の研究はコペルニクス的転回を遂げたわけですね。
それ以降、鉱物学・岩石学・地質学などは「地球テクトニクス〔構造運動〕研究」の一翼を担うことになった。まあ今でも多くの鉱物学・岩石学の記述は「記載的」段階に終始しているような気もしますけど。(しーっ)
で、そういうトレンドの中で、変成岩学は一躍重要な学問に躍り出た。なぜなら、「変成岩は地殻の動きの過去を記録するもの」だから。「ある“地べた”はどうやってできてきたのか」「昔のその場の環境条件はどうだったのか」は、変成作用を分析することでわかってくる。
ううむ、何とも重要な学問ではないですか。

変成作用が作り上げた至高の宝石、翡翠。