貧乏石好き

つれづれなるままに石をめぐりてよしなきことを

国産スギライト……の母岩?

2023-06-30 20:35:05 | 国産鉱物

ヤフオクを見ていて(まだ続くのかいな) 美しい淡青の石が出ていた。「杉石」とある。え? スギライトって赤紫でしょ? 国産のものは淡黄緑に褐色が混じった、mindat いわく「薄汚ねえ」色だったはず。(そうは言ってないって)
出品者さんいわく、「瀬戸内の岩城島の杉石です。この岩城島へは20年程前に京都地学会の採集会で行ったその時の標本です。今では採集できなくなった珍品の岩城島の杉石標本です。」
面白そうだったから入札しておいたら呆気なく落札。

ネットで調べたら、そっくりな石が売られていて、説明には「この標本は、愛媛県が天然記念物に指定し現在採集は出来ません。昭和40年代に某鉱物同友会の採集会で許可を得て採集したものになります」とある。
おやおや、また天然記念物かよ。
「愛媛県指定天然記念物」のサイトには「エジル石閃長岩 越智郡上島町岩城暮坂」というのがあって、次のように説明されている。
《岩城島北東部にある暮坂山山頂を中心とした半径50m以内の地域に、我国では他にほとんど例をみないエジル石閃長岩(火成岩の一種)の小岩体が花崗岩を貫いて、露出している。曹長石が大部分で石英を含まないアルカリ岩であり、所々に小孔がある。黒や緑の小斑点はエジル石であり、アルカリ輝石の一種である。珪灰石にナトリウムの入ったソーダ珪灰石ユーディアライト様の鉱物を伴っている。》

さらにサイト「鉱物の庭」さんの「杉石と片山石」にも、似たような石が掲載されていて、
《杉石と片山石 -愛媛県越智郡岩城村船越産(杉石は灰褐緑色/片山石は白色粒、蛍光して青色/黒色はエジリン/へき開のある白色粒は曹長石)
この標本を暗所で紫外線に当てると、母岩が暗赤色に蛍光する。その中に青く光る小さな粒が散らばっている。昼光下では白色で、母岩と見分けのつかないこの部分が、もうひとつの新鉱物、片山石だ。》
Katayamalite は KLi3Ca7Ti2(SiO3)12(OH)2。けっこう複雑。

あれ、何かえらいことになってきたな。

さらにさらに、山口大学のサイト「新鉱物フェロフェリホルムキスト閃石の発見」というのも出てきた。
《山口大学大学院創成科学研究科の永嶌真理子若手先進教授……らの共同研究グループは、リチウムを含む新鉱物を愛媛県上島町岩城島から発見しました。
新鉱物は2022年6月2日付で国際鉱物学連合 (IMA)の新鉱物・命名・分類委員会により新種として承認され、「Ferro-ferri-holmquistite」(フェロフェリホルムキスト閃石)と命名されました。
愛媛県上島町岩城島には特異なリチウムに富むアルビタイト(かつて「エジル石閃長岩」とよばれていた)が分布することが知られており、Liに富む多様な鉱物が産します。これまでこの岩石から3種類のリチウムに富む新鉱物が発見されています。
・1976年 新鉱物「杉石」(発見者:村上允英 山口大学名誉教授ら)
・1983年 新鉱物「片山石」(発見者:村上允英 山口大学名誉教授ら)
・2016年 新鉱物「村上石」(発見者:今岡照喜 山口大学名誉教授ら)
今回発見された新鉱物「フェロフェリホルムキスト閃石」は岩城島から発見された4種目の新鉱物で、美しい青色の針状結晶として産します。この新鉱物の詳細は今後論文として公表される予定です。》

ありゃりゃんりゃん。すげーね。

要するにこの石は、岩城島産アルビタイト(曹長岩)。アルビタイトというのは、アルバイト=曹長石中心の岩石ということですな。旧名エジル石閃長岩はエジリンを含んだ角閃石含有長石岩。何か同語反復っぽい。アルバイト・エジリン混合石といった方がわかりやすい。

さて、杉石、片山石は入っているのか。さすがにフェなんとか(こら)はないでしょうけど。
「鉱物の庭」さんの説明に教わって、観察してみる。
杉石は……ううむ。ぼわっとした灰青色の部分かな。自信を持ってこれだとは言えない。劈開面のある曹長石も似たような色をしているからわかりにくい。黒っぽいのはエジリンでしょう。

UVライト。

母岩はえらく鮮やかな赤に蛍光する。リチウムのせいですかな。で、確かに青く輝く細粒があちこちにある。片山石なのかな。

まあ、はっきりとしたことは言えません。「だったらいいな」程度。
けど、そういう稀少石が入っていなくても、この岩石はとても美しい。アルバイトの白が何とも言えない柔らかさと輝きを見せている。

しかし「花崗岩を貫いてエジル石閃長岩が露出している」というのはどういうことなのか。花崗岩が固まりかけたところ、あるいは亀裂に、ほとんどシリカを含まない特殊なマグマが嵌入し、固化したということ? リチウム、エジリン、アルバイトからなるマグマとは何? どこからやってきた?

君は一体誰なんだね。


布賀鉱山産スパー石&ブルー・ヒルブランダイト

2023-06-29 20:23:18 | 国産鉱物

国産鉱物に無知だったので、布賀(ふか)という土地が世界的にも有名な、特別な産地だとは知りませんでした。

岡山県備中町布賀鉱山は「高温スカルン鉱床」という珍しい鉱床で、これは通常のスカルン鉱床よりも高温でマグマおよびその熱水と石灰岩がぶつかってできたものだとされる。
そのため、同地では逸見石、大江石、岡山石、布賀石、備中石、森本柘榴石といった新鉱物や、五水灰硼石(ペンタハイドロボライト)やニフォントフ石といった稀少鉱物が産出された。
とのこと。いやあ、すごい場所なんですねえ。
地図で見ると、中国地方の山の中。別になーんにもない感じ。(おい)
高温マグマが上がってきたというのは、巽先生が論じている「瀬戸内火山帯」が関係しているのでしょうか。

で、そこで採れたスパーライト。Spurrite。ヤフオクでゲット。

組成は Ca5(SiO4)2(CO3)。もろ石灰石とケイ酸ですな。平凡ちや平凡。
汎産の鉱物で、結晶も形成されない、取り立てて見所のある石ではないのだけれど、1970年に布賀で発見されたものは美しいラベンダー色をしていて、世界的に有名になったとのこと。紫の発色原因はチタンあるいは希土類と推察されているがはっきりしたことはわかっていない。ふうん。
商品説明では「綺麗な紫色の部分の少ないスパー石で、 脈状の青い鉱物がヒレブランド石です」
まあ、確かに少ない。しかしなかなかいい色。全部がこれだったら確かに美しい石だったろうねえ。
けど脈石になっている「ヒレブランド石」とかは明るい青に澄んで美しい。



しかし「ヒレブランド」は Hillebrandite で、これ米国人名由来だから「ヒルブランド石」でしょう。トンカツ屋じゃああるまいし。(こら)
組成は Ca2SiO3(OH)2。炭酸が飛んじゃってるのね。高温下でスパー石と熱水が反応してできる鉱物で、肉眼的な結晶にはならずカルサイトと混ざり合っている、ということらしい。珪灰石に水酸基がくっついていると言えなくもない。ブルー・ドロマイトは美しい稀少石だったけど、ブルー・ヒルブランダイトも案外稀少石だったりして。

まあ茫洋としていて、包みを開けた時は「は?」みたいな感じだったけど、じっくり眺めているとそれなりの味わいがあります。こういう雑石でもなく、美石でもない石というのは、何か心落ち着く感じ。
それに何つったって超有名産地のものだし、珍しいスカルン鉱物だし。


ねっとり緑水晶

2023-06-27 21:34:50 | 国産鉱物

ヤフオクを見ていたら、妙な緑水晶があった。
ヘデンバージャイトの放射状結晶と同じく柿野鉱山産とある。
色がかなり濃い。面白そうだからポチッた。

通常光だとかなり暗い。淀んだ沼のよう。表面も割合マット。
何かこんな羊羹なかったかな。そんなふうに思うほどねっとりした感じがある。
透明度がほとんどないのかと思うと、そうでもない。強い光を当てるとかなり透過する。

スカッとした水晶らしさはないけれど、全体が緑に染まったまま光を通す。こういうのはなかなかないような。
発色要素はクローライトでしょうかね。それが満遍なく混ざっている、溶けているという感じ。
ちょっと不思議な緑水晶です。「わあきれい」というふうにはならないだろうけど、ねっとり感が妙に魅力的で、いろいろな水晶を集めている人には、変わり種の水晶としてお薦めかな。


幌満の橄欖岩:ダナイト

2023-06-26 21:51:14 | 国産鉱物

ダナイト、ダン橄欖岩。何かださいね。アメリカのちゃらちゃらした兄ちゃんが出てきそう。ハルツベルクだと変人のドイツ系ユダヤ人が出てきそうだし、橄欖岩の名前、もう少しどうにかならなかったんかねえ。(こらこら)

これも幌満の橄欖岩。ヤフオクで同じ出品者から。
ダナイトは90%が橄欖石、輝石などは10%以下のもの。よりペリドットに近い。
と期待していたのだけど、あんまり変わらん。



ダナイト、レルゾライト、ハルツバージャイトを並べて、どれがどーれだっ? とやられても、答えられない自信はある。これが前に出したほかの2人ね。



レルゾ君(左)が濃い色の単斜輝石結晶が多いことは、まあわかるかな。
ダン君は確かに薄緑の大き目の結晶がたくさんある感じ。まあでもね。
裏側には単斜輝石の濃色結晶があるし。

隕石のセイムチャンだかなんだかみたいに、透き通ったペリドット結晶がごろごろしているのかと思っていたけど、そういうことはなさそう。岩石中では無理なのか?

     *     *     *

と思っていたら、先日ツイッターに上がっていた動画を見て、頭の中で小さな地崩れが起こりまして。
玄武岩の上に澄んだペリドットのクラスターが乗っている。
「は? 逆じゃん」

ペリドットは橄欖岩の主要構成鉱物。橄欖岩というのはマントル。で、マントルが溶けてマグマになると玄武岩になる。
だから、海洋地殻では、橄欖岩の上に玄武岩が乗っている。
けど、これ玄武岩の上に橄欖石が乗ってる。だから「逆じゃん」と。

そもそも、ペリドットのクラスターなんて見たことなかったですね。
自形っぽい分離結晶はよく見るし、まあ一つ持ってる。



クラスターをネットで探してみると、あることはあるけど、えらく高い。
これどうやってできるんじゃい。
「はあ、純粋結晶というのは水成か?」

つまりですね、あちきは単純だから、ペリドット≒橄欖岩≒マントルとイメージしてしまっていたわけです。だから玄武岩の上に乗っかってはいけない、そんなものがあるものではない、と思った。
しかし、ペリドットは別の経路でも生成する。『岩石と宝石の大図鑑』によれば、
①橄欖岩中はもとより、玄武岩中でも多く産する。秋田県一の目潟では玄武岩中のノジュールとして産出する。
②さらに橄欖石結晶はマグマだまりの中を沈降し、分厚くたまることがある。
③玄武岩マグマが火山から噴出した際に橄欖石の塊が含まれることもある。
④苦土橄欖石は変成を受けた石灰岩や苦灰岩中に生成する。岩手県根市鉱山では苦灰石の接触変成帯で産出する。

おやおや。こやつ、いろんな所に顔を出す。神出鬼没、変幻自在ですな。
ということは、あちきらが鑑賞するペリドットの結晶やクラスターは、
マントルとは関係ない」ペリドットではないですか。
関係ないとは言い過ぎか。①~③では、マントル=橄欖岩から玄武岩が生成し、そこから「先祖返り」する形でペリドットができている。②の「マグマだまり」がどういうマグマなのかは不明ですけど、たぶん玄武岩マグマなのでしょう。
④はこれ、完全にマントルとは無関係。堆積岩 (Ca,Mg)CO3 にシリカ SiO4 熱水がぶつかって、MgSiO4 ができたということでしょう。

じゃあ、玄武岩の上に乗った橄欖石クラスターはどうやってできたのか。
ううむ、わからん。②で、
・玄武岩中の空洞に玄武岩マグマが流れ込み、そこで橄欖石結晶が沈殿
・残りの成分は安山岩マグマになって上昇、空隙は何かが埋めた
ということですかねえ。何か変か。

どうも、美しいペリドット結晶というのは、多くの場合、
「マントルとは関係ない、先祖返り橄欖石」
だと見たほうがいいのかもしれません。
しかし、シリカ熱水が他の岩石と反応するといろいろな石ができる中で、どうして純粋古形な橄欖石ができるのか。たまたま他の成分がなかったから?

ペリドットというやつ、なかなか謎ですねえ。


愛知県新城市産中宇利石

2023-06-25 20:38:17 | 国産鉱物

中宇利石(なかうりせき)。ナカウリアイト(Nakauriite)。
愛知教育大学の鉱物学者鈴木重人などにより、愛知県新城市の中宇利鉱山で発見され、1976年に発表された日本産新鉱物。

日本で新発見された鉱物で、IMA承認のお墨付きだというのに、なぜかあまり有名でない。ヤフオクでいくつか出ていて初めて知った。なんででしょう。(君が無知なだけじゃない?)

組成が未確定のようで、最初は
(Mg,Ni,Cu)8(SO4)4(CO3)(OH)6・48H2O
とされたけど、
(Mg3Cu2+)(OH)6(CO3)・4H2O
が最新説らしい。mindat には
「Cu8(SO4)4(CO3)(OH)6・48H2O 微量の Mg、Ni が含まれる場合がある」
とある。Mg や硫酸基が必須なのかどうか、微妙。組成が確定していないのに「承認済み」とはこれいかに。
比重は2.39。直方晶系。オーストリア、アメリカなど各地で出る。

銅の二次鉱物で、青針銅鉱あるいは炭酸青針銅鉱(シアノトリカイト/カーボネイト・シアノトリカイト)(Cu4Al2SO4(OH)12・2H2O/Cu4Al2(CO3,SO4)(OH)12・2H2O)に近い。青針銅鉱はアルミニウム、中宇利石はマグネシウムでニッケルが時に加わるという形。

ああめんどい。

色は明るい青緑で、青針銅鉱とテイストは近い。針状結晶を作るところも似ている。
ただ、結晶が小さい。オジジの老眼では見えないし、震える手では写真もうまく撮れない。







銅の二次鉱物はアタカマ石を始め、こうした微結晶のものが多い。透明度もあまりない。中宇利石が人気がないのもそのあたりのところが関係しているのでしょう。
けど、この青はすごく美しい。ナカウリアイトもシアノトリカイトも、も少し広まっていいのではないかしら。