貧乏石好き

つれづれなるままに石をめぐりてよしなきことを

トロナ

2025-02-28 09:26:49 | 単品

近代以前のガラス製造の立役者ですね。
Trona。特別の和名はない。ナトロンとも。
Na3H(CO3)2・2H2Ol または NaCO3・NaHCO3・2H2O。
つまりは炭酸ナトリウム(炭酸ソーダ)と重炭酸ナトリウム(重曹)の合体。別名セスキ炭酸ナトリウム。なんかややこしい。掃除に使うセスキ酸ってこれかよ。何か新しい化合物かと思っていた。
ちなみにナトリウムはドイツ語系でソーダは英語系。日本では両方使うからややこしい。炭酸水をソーダというのは昔は重曹を使って作っていたからだそうで。重曹を飲んでいたわけだ。ナトリウム過多になるね。あ、「ワタナベのジュースのもとですもう一杯」という粉末のソーダの素を覚えている。あれ舐めるとじゅわじゅわしておいしかった。(やめなさい、誰も知らないw)

トロナは湖水(淡水)の蒸発によってできる。
古代のガラスは植物の灰を使った「カリガラス」だったが、えらく手が掛かるので、やがて湖水塩のトロナを用いた「ソーダガラス」が主流になっていった。こちら参照。
近代になってから、炭酸ソーダも重曹も化学合成が主流になったけれど、いまだに天然トロナを使用することも多く、特にアメリカでは多量に出るために商業採取されているとのこと。
で、ようやくご本体。



半透明でなかなか美しいではないですか。ちょっとセレナイトに似ている。夭折する美少女のようなはかなげさ。(何じゃそりゃ)
アメリカ、カリフォルニア州のデスバレーにあるサールズ湖産。「Searles」はシアリスとかシアルスとか書かれるけど、サールズが正しいみたい。開拓した米人名から。
デスバレーは海抜マイナスの部分も多く、水が流れ込んでは蒸発するので、様々な物質、鉱物が出る。サールズ湖はほとんど干上がった湖で、地下水を汲み出し蒸発させてトロナを始め様々な鉱物を生産しているとか。これは天然結晶でしょう。こんなのをちまちま拾っていたら工業生産にはならないわな。

トロナとか岩塩=ハライトとかジプサム/セレナイトといった鉱物は、湖水や海水が蒸発してできたもので、地中で圧力や熱を受けてできた鉱物ではない。だから何となく「鉱物と言えるのかねえ」みたいなイメージがある。水で溶けちゃうのもあるしね。コールマナイト、コキンバイト、カルカンサイトなんかもその類ですかね。
岩塩なんかは、すごく美しい青やピンクのものが出回っているけど、どうも「塩じぇね?」とか「絶対溶かすぜ」という思いが先に立って買えない。塩のくせに高いし。
このトロナだって、うかうかしていたら溶けてしまうでしょう。気をつけなきゃ。
しかし、古くからガラスを作り上げてきた立役者。ありがたく拝みましょう。
なめるとちょっとしょっぱくて苦い。(なめるなー)


アフガン産アウイン

2025-02-23 09:58:17 | 単品

アウインというと、前に上げましたが、ドイツのアイフェルで出る、美しい青の、しかしとてつもなく小さい石が定番でしたが。
このところあちこちで見ます。アフガニスタン産アウイン。ちと高かったけど、やはり見たかったのです。詳細な産地名は不明。

左右9ミリと大きい。少し色が濃い。大きいから当然なのかも。でも青が美しい。透過光で見ると、まさしくアウインの色。



ふうん、アフガニスタンでも出るんだあ。
と思ったけど、例の「ラピスラズリ問題」で書いたように、

実は世界で出るラピスラズリのほとんどはアウインから成っている

という mindat の衝撃の説がありまして。(またあのややこしい話かよ)

・ラピスラズリは主にアフガニスタンで取れる美しい青色「岩石」の古くからの名前。しばしばカルサイト、パイライトを含む。
・米のデーナ分類ではその青い鉱物成分もラピスラズリだとしたが、今は廃説。岩石名だから「ラピスラズリの結晶」というような表現は不適。
・19世紀に青い鉱物成分はラズライト(Lazulite、天青石)と命名されたが、その後それはアウインだとされる。
・21世紀になって改めてそれはアウインではなくラズライトだとされる。
・しかし世界で出るラピスラズリの多くはアウインを青色主成分とするとされる。
・超稀少な顔料「ウルトラマリン」はラズライトからしか採れない。
・ラズライトは蛍光しないがアウインは蛍光する。

はい、このアフガン・アウインもちゃんと蛍光します。

しかしアフガニスタンでもアウインがぼこぼこ出るとなると、アフガン・ラピスも多くはアウイン・ラピスではないかという疑いが出てくる。どうなんですかね。確かに蛍光するラピスは多い。
おまけにアフガニスタンではやはり青が美しいアフガナイトという鉱物も出て、それもラピスラズリの成分となったりするのでさらにややこしい。
本当にウルトラマリンが採れる「真正ラズライト・ラピスラズリ」はどのくらいあるのでしょうか。

はあ、めんどい。誰かちゃんとした学者さんが解明してくれませんかねえ。

まあ、くしゃみをすると飛んでしまうアウインではない、しっかりとしたアウインがあるというのは、とてもいいことですね。よくわからんけど。(何だよその感想はw)


石の和名、ちょっとどうにかならないですかねえ

2025-02-21 13:32:56 | 漫筆

暇任せに。前にもちらと書いたけど。
かなり古びてから石の世界に入って来たせいか、いささか唖然とすることがいくつかありまして。
その最大のものが「和名」。
「ええ? 明治維新ですか?」みたいな。

シャッツク石 Shattuckite さすがに最近はないみたい。シャッタカイトでもない。
ジュウエイ石 Deweylite 米人名。
エレミヤ石 Jeremejevite 露人名「イェレメーイェフ」から。
モンブラ石 Montebrasite 仏地名。「テ」はどこへ?
ワデ石 Wadeite 豪人名。
ベスブ石 Vesuvianite 伊の火山「ヴェズーヴィオ」から。
デュモルチ石 Dumortierite 仏人名「デュモルティエ」から。
フェルグソン石 Fergusonite 英人名。
プランヘ石 Plancheite 仏人名。なんで「へ」?

「トゥ」が「ツ」だったり「ディ」が「ジ」だったりというのも気持ち悪い。ツグツップ石とかエピジジム石とかね。今どきそれはないんじゃないの、と。「ヴィ」が「ビ」なのは仕方ないのかなあ。

英語名のカタカナ表記も変なのが多い。

グラナイト Granite ナイトの方が正しいように思うけど違うそうで。
ワーベライト Wavellite 英人名だから「ウェイヴェライト」。
アウゲライト Augelite 何で前半だけドイツ語風?
ゲルマナイト Germanite 同上。
ゲルハルタイト Gerhardtite 同上。
スタウロライト Staurolite au は「アウ」にはならんだろう。
ベゼライト Veszelyite。語尾に「イ」が来ようとアイトはアイト。
カーレトナイト Carletonite 大学名「カールトン」から。
ヒレブランダイト Hillebrandite 米人名。
ギラライト Gilalite 米地名「Gila」は「ヒラ」なので「ヒラライト」と読めとmindatにはある。
チャルコパイライト Chalcopyrite chal はギリシャ語の「カルコス」由来なので「カ」。
オーリチャルサイト Aurichalcite 同上。

まだまだあるでしょうけど。
まあ外国語をカタカナ表記にするというのは土台無理があるけど、あんまり変に訛らないでほしい。


ジャーゴンというのがあって、業界内の人間だけに通じるわざと変なふうにした言葉があります。通常の言葉を使うと、「ああ、あいつトウシロだぜ」と嘲笑される。「ジュモルチ」と言うと「ああ、この道の人ね」とか思われる、のかな。
そう言えば、漢語はふつうは漢音で読まれるのだけど、仏教用語はだいたい呉音で読む。お経なんかもほとんどの宗派は呉音。漢音で読むと「素人ですね」と思われる。「一期一会」を「いっきいっかい」と読むと学がないねと笑われる。あちきも昔、「秘密集会曼荼羅」を「ひみつしゅうかいまんだら」と読んで爆笑されたことがある。「じゅうえ」なんて読み方知らんよ、不愉快だなあ。
わざと普通と違った読み方をして仲間意識を確認したり、知識を誇示したりするというのは、あんまり素敵なことではないように思いますけどね。(オコ?)

しかし上記のような例は、ジャーゴンというより、あんまり国際化していない時代の苦肉の策の名残なのかも。けど、やっぱ「エゲレス」と言っているような、古くさーい感じがしてしまうのですよね。外から来るとちょっと恥ずかしい感じがしてしまう。
どうにかなりませんかね。(文句言いだねえw)

いや、失礼いたしました。


羊脂玉:ホータン・ジェイド

2025-02-19 19:14:03 | 単品

だいぶネタ切れ感があって投稿はちびりちびりにしようかと思っていたけど、そんなことをしているうちに本体がお陀仏しかねないから少しピッチを上げようかと。まあ大した記事はありませんけど。(ゴタク多いぞw)


和田玉です。「わだだま」ではありません。(しつこいw)
新疆ウィグル地区ホータン(和田)付近で出る「玉」で、その中の最高峰とされる「羊脂玉」。

ヤフオクで、なんと即決価格22300円!
なんてものが買えるはずもない。ところがスタート価格はとんでもなく安かったので、ダメもとで入札。そしたら誰も応札しなかったのでそのままゲット! やったねタエちゃん(古っ)
出品者さんは石屋さんではなく、骨董品屋さん的な人みたい。だから誰の目も引かなかったのか。ちと申し訳ない感じもする。

しかしこれ、すごいんですわ。
羊の脂と言われるだけあって、微妙に白濁した透明。しかもその質感がとっても変。
石英のような硬質感はないし、白翡翠のようなぬめっとした稠密感とも違う。ほんとに「脂」のような絶妙な質感。食いしんぼ中国人が至上の石としただけある。(こら)

しかし写真じゃ出ないですね。へただからだけど、こういうのは土台無理なんじゃないかな。やっぱ手に持って、矯めつ眇めつしつつ見るしかない。
透過光だと緑が浮き出てくる。不思議。

「玉」は鉱物学的には「ネフライト」。前に「翡翠番外編 ロシア翡翠とネフライト」でちょっと触れました。
ネフライトは広義の「翡翠(ジェイド)」に含められるけれど、本翡翠(ジェイダイト)とはまったく違う石で、トレモライト(透閃石)とアクチノライト(緑閃石)の混合「岩石」。またの名を軟玉。
和田玉は玉としては最高品とされ、さらにその中でも白い半透明のものは「羊脂玉」と呼ばれて珍重された。この「羊脂玉」は純粋トレモライトだという。
は? これトレモライトなの? ううむ。トレモライトってのは純粋だとこんな石ですぜ。クロム入り。

案ずるに、透閃石ではあるけれど、微細結晶質で、しかも稠密構造だからこういうことになるのではなかろうか。ちょうどオパールが非晶質稠密構造で妖しく透き通るのと同じように。違うかな。
まあともあれ、希望小売価格2万円以上の至高の玉ですし、値段のことはさておき(じゃ繰り返し書くなよw) 最上質の羊脂だし、実に味わいのある特別な石です。


タングステン鉱物:ヒュブネライトとシェーライト

2025-02-16 10:20:35 | 元素別鉱物リスト

タングステン。W。原子番号74の金属元素。ドイツ語ではヴォルフラム。
金属の単体では最も融点が高い。高純度タングステンは柔らかいが合金で非常に硬く熱に強いものを作るので切削用工具や戦車を破壊する徹甲弾とかに利用される。へえ。
まあ一番身近なのは電球のフィラメントですね。もう白熱電球は絶滅危惧種だけど。
タングステンを必須として含む鉱物は50種、タングステン酸鉱物は12種類しかない。地殻中の構成比はジルコニウムやバナジウムと同じくらいなのに少ない。

12しかないからタングステン酸鉱物全リスト。

 Anthoinite AlWO3(OH)3
 Cuprotungstite Cu2(WO4)(OH)2
 Ferberite FeWO4  鉄重石
 Huanzalaite MgWO4
 Hubnerite MnWO4 マンガン重石
 Langhofite Pb2(OH)[WO4(OH)]
 Paraniite-(Y) Ca2Y(AsO4)(WO4)2
 Raspite Pb(WO4) 単斜鉛重石
 Ronpetersonite BaWO4
 Sanmartinite (Zn,Fe)WO4
 Scheelite Ca(WO4) 灰重石
 Stolzite Pb(WO4) 鉛重石
  *Raspite と Stolzite は同質異形。

まあ出回っているのは灰重石=シェーライト、鉄重石=ファーべライト、マンガン重石=ヒュブネライトですかね。
以前は鉄マンガン重石(ウォルフラマイト(Wolframite、(Fe,Mn)MnWO4)という名称があったけど、今は鉄とマンガンに分けられて廃止になったそうで。

     *     *     *

まずはヒュブネライト。Hübnerite。ヒュブナーというドイツ人名から。だから u の上にウムラウトが付いてる。ヒュブナーライトの方が正しいかも。ハブネライトと表記する人もいるけどそれはない。マンガン重石。MnWO4。

Peru, Mundo Nuevo Mine産。
ピッカピカの柱状結晶クラスター。いい輝きです。
透明度はほとんどないのだけど、強い光だと角度によって妖しい赤い輝きが出現する。こういうのゾクッとしていいです。



おまけにこやつ、一つの面にチビチビの水晶がたくさんひっついている。かわゆい。
比重7.2で重たいのもいい。

お次はシェーライト。Scheelite。これもドイツ人名由来。英語で普通に読めばシーライトだけど、由来を尊重するインテリはシェーライトと発音する。かどうかは知らない。(おいw) 中には「スキーライト」と発音しているサイトもある。英語人は発音いいかげんですな。統一せいや。(余計なお世話w)
灰重石。Ca(WO4)。タングステン採取の主要鉱物らしいけど、標本はあまり売ってないし、割と高い。
前にブルーシェーライトという名の、実はブルードロマイトとの混合石を上げました。こちら
基本無色ないし黄色だけど、エヌズさんなんかにはオレンジ系の美しい結晶が出ている。お高いけど。
これはなんと紫。ちょっと珍しいのではないか。何が入っているのかは知らない。結晶面のピカピカも美しい。中華人民共和国湖南省瑶崗仙産。



エヌズさんのオレンジものは青く蛍光するみたいだけどこやつはそういうサービス精神はない。
こやつもずっしり重たい。
しかしタングステンが透明になるというのはちょっとおかしいだろ。(また言ってるw)

こうなったら鉄重石も、と思ったけど、あんまりぱっとした石ではないのでやめ。安くないし。
鉛重石のラスパイト/ストルザイトも mindat の写真だと美しいものがあるみたいだけど、国内で売ってるものはもう一つぱっとしない。

タングステンねえ……よくわからんけどそういう物質もあるということで。(どういう意味だよ)