白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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書評・第1回 囲碁AI新時代

2017年06月02日 23時37分25秒 | 書評
皆様こんばんは。
今回から日記に新しいカテゴリーが加わります。
それは「書評」です。
囲碁の技術書やエッセイはもちろん、一般の小説や漫画等、ジャンルを問わず書いて行こうかと思っています。
拙い文章ですが、よろしければお付き合いください。
さて、第1回は王銘エン九段囲碁AI新時代です。



本書では、一流棋士でありながら囲碁AIにも造詣の深い王九段が、囲碁AIの台頭について語っています。
時系列としてはこのようになります。

2016年1月28日    「AlphaGo」がヨーロッパチャンピオンの樊麾二段に5戦全勝したと発表される
2016年2月       「Zen」、伊田篤史八段に4子置いて勝つ
2016年3月9日~15日 AlphaGo、李世ドル九段との五番勝負に4勝1敗で勝つ
2016年11月       DeepZenGo(Zen)、趙治勲名誉名人との互先での三番勝負で1勝を挙げる
2016年末~2017年始 AlphaGoの新バージョン「Master」、棋士相手のネット対局で60戦全勝
☆本書執筆☆
2017年3月23日    Zen、井山裕太六冠に勝つ
2017年3月26日    「絶芸」、Zenが一力遼七段に勝つ
2017年5月       AlphaGo、世界最強の柯潔九段に持ち時間3時間の対局で3戦全勝

ご覧のように、本書はMaster登場後に執筆されました。
「囲碁ファンが日々あこがれる一流棋士たちが、どこの馬の骨かもわからないやつの前で、バッタバッタ倒されるのを目の当たりにして、もう阿鼻叫喚の世界でした。」
本文中のこの一節が、その衝撃の大きさを的確に表していますね。
さて、それでは章別に内容をご紹介しましょう。

第1章では、AlphaGo対李世ドル九段、DeepZenGo対趙治勲名誉名人、Master対棋士達という、それぞれ大きな大きなニュースになった戦いが紹介されています。
なお、本書は囲碁の技術書ではありません。
ここではAIが打つ碁と人間が打つ碁はどう違うのか、盤面を使って説明しているとお考え頂くと良いでしょう。
ですから、手の解説を完璧に理解できる必要はありません。

第2章では、アルファ碁とDeepZenGoの差異について解説されています。
人間のそれとはまた意味が異なりますが、AIにも個性があり、作り方によって打つ碁も大きく変わって来ます。
そのことを、やはり棋譜を交えながら解説しています。

第3章では、コンピュータ囲碁の歩みを解説されています。
数学的な解説、横文字・・・正直なところ、表現が難しいところもある気がします。
ですが、問題はありません。
分からないところは読み飛ばしましょう(笑)。
AIがどうやって成長してきたのかが分かれば十分でしょう。

第4章では、王九段自身がAI開発に携わった貴重な経験を交えて、コンピュータ囲碁について語られています。
王九段自身が打つ碁とAIの打つ碁の関連性など、興味深い内容がいっぱいです。

第5章では、将来についての展望です。
コンピューターがここまで強くなり、今後棋士や囲碁界全体はどうなるのか?
そういったことについて、本音で語られています。
私は、この章で示されている王九段の考え方には大きな感銘を受けました。
AI囲碁が人間のレベルを超えることには、プラス面とマイナス面があります。
しかし、衝撃が大き過ぎたこともあり、つい片方の面ばかり見てしまいがちなのですが、王九段は冷静に分析しているようです。
そして、今後の棋士のあり方、AIとの付き合い方などにも言及しています。
本書で最も価値の高いのが、この第5章だと思います。

AIの台頭の衝撃は大きく、今後囲碁界は大きく変わって行くでしょう。
我々棋士は、今後果たして行くべき役割をしっかりと考えなければいけません。
本書を読んで、その思いを新たにすることができました。