白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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書評・第2回 鬼手

2017年06月11日 23時59分59秒 | 書評
皆様こんばんは。
本日は故・上村邦夫九段の名著・鬼手をご紹介します。

上村九段は大変才能のある棋士として有名で、碁盤を見る目は超一流でした。
その上村九段が、古今の鬼手をまとめたのが本書です。
鬼手とは聞き慣れない言葉ですが、本書のまえがきによると・・・。

 鬼手は「おにでと読んでも、「きしゅ」と読んでもかまいません。「相手の意表を
衝いて配布をえぐるような辛辣な手」と一般的には理解されていますが、確かに鬼手は
「まさか」と「恐ろしい」が集約された一手というべきでしょう。


とのことです。
類似の言葉に妙手というものもありますが、鬼手という言葉にはより凄みを感じますね。



本書は問題形式を採っています。
例えば、本図で左辺白に対し、黒からどんな手があるのか? といった問題です。
何しろ棋士が驚くような手やハッとするような手が多いので、問題として考えれば高段者向けでしょう。

しかし、本書は上達のために読む必要は無いと思います。
むしろ、鬼手の凄み、格好良さを鑑賞するための本だと思います。
アマの皆様に「なるほど!」「すごい!」といった感動を得て頂く事を目的としているのでしょう。
例えるなら、スポーツの試合でのハイライトシーンを集めたものと言えるでしょうか。
ですから、級位者の方でも十分楽しめる本になっています。

本書でもう一つ面白いのは、鬼手の1つ1つに名前が付いているところです。
「快手」「辣手」「妖手」など、名前だけで雰囲気が伝わって来そうですね。
打った本人の気持ちの高ぶり、打たれた相手の驚きまでも想像でき、まるで自分が傍で観戦しているかのような気分になります。

私は勝負に疲れた時、この本を手に取ります。
すると、「やっぱり碁は面白いなぁ」ということを再認識できるのです。