白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

幽玄の間その2

2016年08月26日 16時52分24秒 | 幽玄の間
皆様こんにちは。
昨日に引き続き幽玄の間の中継棋譜紹介コーナーです。
テーマはまたしてもサバキです。



下島陽平八段(黒)と羽根直樹九段の対局です。
白1はプロなら当然の切りですが、黒2、4と強硬に取りに来ました。
白どうしますか?





白1のようにまともに動くのは無理です。
周囲は黒石ばかりです。





そこで白1と外しました。
少々石を取られても巨大な黒地さえ作らせなければ十分という発想です。
さあ、ここからの羽根九段のサバキをご鑑賞ください。





もし黒が2子を取って来れば白8まで脱出します。
無理なく黒地を制限する事が出来ました。





そこで実戦はすぐに2子を取らず、黒1と頑張りました。
もし白2ならそこで黒3、前図より白の形にゆとりがなくなっています。





ところが実戦は白1と凄い所にツケ!
部分的な形としてはあり得ない手で、黒Aと受けられると右辺の黒を固めてしまいます。
白の狙いは何でしょうか?
皆さんも考えてみてください。







黒1と受けさせてから、白2子を担ぎ出す予定でしょう。
白6の後出口を塞がれるのが心配ですが・・・





黒1には白2、4で両当たりです。
白△が見事に働いています。





黒1には白2、4でAのシチョウとBのハネが見合いになります。





という事で黒1と守ったのは止むを得ず、白2と連打出来ました。
白に楽をさせまいと、黒もAと強手を繰り出しますが・・・





今度は白△を捨てて右辺に入り込んで行きました。
あくまでサバキの姿勢を貫いています。





最終的にはこのような分かれになりました。
白は計7子取られましたが、一度も苦しまなかったのがポイントです。
なんとも鮮やかなサバキでした。
なお碁の方は下島八段がしぶとく半目勝ちを収めています。


<おまけ>



腕に覚えのある方はこの場面で疑問を持たれた事でしょう。
白1の押しに対して、黒2、4と両方助けて頑張ると?
これは難問ですが、恐らくは・・・





まず白1と手数を伸ばし、白3から攻め合いに行こうという事でしょう。





一例として白8までは白攻め合い勝ちです。
変化が無数にあって、もし読み違いがあったら逆に取られてしまいます。
サバキには力も必要なのです。

幽玄の間

2016年08月25日 22時24分38秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
本日は棋士の手合日です。
いつものように幽玄の間で中継された対局をご紹介しましょう。
王銘エン九段(黒)と溝上知親九段の対局です。



白が下辺の黒模様を制限しようとしたのに対して、黒△から迫って行きました。
「ゾーンプレス」で知られる王九段らしい着想です。





白が逃げている間に右辺を大きくまとめようという作戦です。
白としてはこんな事になってはたまりません。
黒が圧倒的に強い場所ですから、サバキを目指さなければいけません。
そのためには柔軟な発想が求められます。





実戦はまず白1と入りました。
いわゆる様子見で、軽いジャブという所です。
黒2の後すぐ動こうという訳ではありませんが、後に現れる白Aなどから生きる余地を残しました。





白の侵入に対して、黒1から根拠を奪って取りに行くのは無理です。
白4まで脱出する事が出来ます。
しかし周辺に黒石が増えると、こういう手も成立する可能性があります。
今のうちに確実に手を残しておこうという用心深い発想でした。





そして本線である下辺白のサバキですが、実戦は白1!
黒の勢力圏で両断されてしまいますが、大丈夫でしょうか?





白1と動くと下辺の2子が危険です。
白困った?





もちろんそんな事はなく、実戦白1、3が予定の行動でした。
軽やかな動きですが、黒Aと切られてしまうようだと困ります。
それを防ぐための白△で、サバキのための囮でした。





それでも黒1と切って来れば白6までとなります。
黒は見事に嵌ってしまいました。





黒1には白2を利かしてから白4です。
しっかりした形になり、もう攻められる心配はありません。





実戦は黒1と禍根を断ちましたが、白2、4で左辺白と繋がる事が出来ました。
安心したので今度は白6と踏み込んで行きましたが、これも好手です。
次に白Aと中央を止められてはいけないので・・・





黒1と裂いて出る一手ですが、白12までが一連の構想です。
白△との間は離れていますが、ダメ詰まりの黒は手を出しにくくなっています。
白△を助けつつ上辺白も広げるという目一杯の構想でした。

白は石数で圧倒的に不利な状況でしたが、苦しまずに立ち回る事に成功しています。
サバキのお手本ですね。

業界用語

2016年08月24日 22時44分16秒 | 囲碁について(文章中心)
皆様こんばんは。
本日は囲碁界の「業界用語」についてお話ししたいと思います。

世の中には様々な業界があり、それぞれの業界の中でしか通用しない言葉があります。
主に円滑に意思疎通を行うために使われているでしょうか。
プロの囲碁界にももちろん業界用語があります。
日本語でありながら意味がわかりにくい、あるいは全く違った意味になっている言葉も多いですね。
にも関わらず囲碁界では解説などのシーンで業界用語がそのまま出てしまう事がしばしばあります。
解説が分かり難くなる原因にもなりますから、この際そんな業界用語について解説してみるとしましょう。
ちなみに将棋界でも使われている用語も多いですね。
囲碁と将棋は古来から隣同士の世界ですから、言葉の行き来も頻繁にあったのでしょう。

<普通>
油断すると普通に使ってしまうのがこの普通という言葉です。
打つべき場所が皆目見当もつかない局面で「どう打てば普通なのかな」などといった使い方をします。
一般的に普通と言うと可も無く不可も無くといった意味合いになりますが、業界用語においてはニュアンスが大きく変わります。
意味において近いのは「常識的」でしょうか?
囲碁には絶対的な答えが出ない場面が多く、棋士はそういう時に基本を大事にした手やあからさまなマイナスを生まない手を好む傾向があります。
それが「普通」の手で、言わば「最低80点はある手」です。
それ以上の手が見つからない時は普通の手がほぼ最善と見做される事も多々あります。
しかし碁には常識を超えた世界もあります。



第2期名人戦挑戦手合最終局、藤沢秀行名人(黒)と坂田栄男本因坊の1局です。
黒△には白Aと左右の白を繋げるのが「普通」です。
すると黒Bと繋がって形勢は黒が良く、藤沢名人の防衛は確実と思われました。





ところが実戦は白1!
黒Aに白Bとなると中央の景色が一変しました。
「普通」から程遠い手ですが、それ遥かに上回る最善手でした。
この名人位を奪取した「逆ノゾキ」は伝説となっています。


<打てる>
「この分かれは黒が打てる」「黒が打てる形勢」
などといったフレーズがあります。
意味としてはポイントを挙げた事や形勢のリードといった優位性を示すものです。
囲碁は最終的には目数(点数)を争うゲームですが、序盤や中盤、あるいは部分戦でどちらが何目に相当するリードをしているか把握するのは非常に困難です。
そこで感覚的に表現するのですが、それが「打てる」という言葉になります。

ではどのぐらいかと言えば、「確信出来るほどの優位ではないが少なくとも悪い感じはしない」、つまり互角からほんの少しの優位の間と感じている事を示します(記号で表せば≦)。
「やや黒良し」「やや黒持ち」といった表現だと互角のニュアンスが消えます。
この微妙な差を表現出来る所が業界用語たる所以でしょうか。
しかし微妙過ぎて棋士も違いが良く分かっていない事があります(笑)
アマ向けには使うべきではありませんね。
正確でなくても分かりやすい言葉を選ぶべきでしょう。

<面白い>
これも独特な使い方をする言葉です。
「黒が面白い形勢」などと言われてもピンと来ない方が多いのではないでしょうか。
humourousとかfunnyといった意味ではありません。
納得がいかないという意味の「面白くない」の対義語と考えるのが正解に近いでしょう。
ニュアンスとしては「打てる」から「やや黒持ち」の間のどこか・・・私も良く分かりません(笑)
棋士も良く分からない言葉は使うべきではありませんね。

<碁になる>
「ようやく碁になった」などといった使われ方をします。
最初から碁を打っているじゃないかと言われそうですね(笑)
ハンデや大きな失敗によって形勢に大差がついてしまう事がありますが、そこから互角かそれに近い状態まで挽回した事を示しています。
「意外と碁になっている」などと言う事もあります。
この場合は「常識にない打ち方をしたにも関わらずほとんど互角」「実力差があるにも関わらず互角に打てている」といったケースが考えられますね。

また対義語で<碁になっていない>という言葉も使われます。
形勢が大差である事を示しています。
きつい表現なので、対局相手や他の人に対してこの言葉を使わないようにしましょう。
喧嘩になるかもしれません(笑)

<カラい>
大抵カタカナで書かれますが理由があります。
「黒が辛い」と書かれたらカラいのかツラいのか分かりません。
「こすからい」から来た言葉でしょうか?
「あの人は地にカラい」「地にカラい打ち方」といった表現には地を重視する、しているという意味があります。
地が好き、地を大事にすると言い換えても全く問題ないでしょう。

またこの言葉はややこしい事に良し悪しの評価にも使われます。
「黒がカラい分かれ」などと言った時は黒が地を重視したという意味ではありません。
「黒が地を稼いでうまくやった」という意味です。
では「黒はずいぶんカラいね」などと言った時はどういう意味でしょうか?
これはむしろ「黒はそこまで地を重視するの?」といった意外性を含み、どちらかと言えば否定的な評価になります。
このニュアンスの違い、分かりますか?
これまた難しい言葉なのです。


以上、色々な言葉を挙げましたがこれもほんの一部でしょうね。
囲碁の解説を多くの方に楽しんで頂くには、直感的に理解出来る言葉を使って行かなければいけません。
囲碁のルールを知らない方でも、少なくとも日本語として理解出来るようでないと囲碁のハードルが上がってしまいます。
しかし私も含め、業界にどっぷり浸かっている人はつい忘れてしまいがちです。
意識して行きたいですね。


<手合い(手合)>
番(盤)外編です。
手合いという言葉は一般的には「ああいう手合いは相手にしたくない」といった使い方をしますね。
しかし囲碁界では棋士の対局の事をこう呼びます。
当ブログでも時々出て来ますね。
手合わせなどと同じ語源でしょうか?
ハンデの事を手合割とも呼びますね。
ちなみに、以前は棋士の昇段は大手合という対局の成績で決まっていました。
棋士は手合という言葉に愛着を持っています。
一言で言い表すのは難しいですが、公式戦というニュアンスが強いでしょうか。
よってイベントなどでの対局が手合と呼ばれる事はまずありません。

記事が出来るまで

2016年08月23日 23時59分59秒 | 当ブログについて&バックナンバーまとめ
皆様こんばんは。
ブログを始めてから143日、各方面から反響を頂いています。
感想の声が多いのですが、こういうご質問を受ける事もあります。
「運営には高度な知識が必要なんでしょうね?」
いやいや、全くそんな事はありません。
むしろ誰にでも出来ると言っても過言では無いでしょう。
本日は私の記事が投稿されるまでの流れをご紹介したいと思います。

手順0、ブログに登録する
記事を書いても読まれなければ意味が無いので、まずは利用登録です。
私はgooブログを利用しています。
無料で利用可能ですが、当ブログでは広告が入らないように有料サービス(月515円)に加入しています。

手順1、画像を用意する

ここから日々の記事の作り方に入ります。
まずは画像を用意します。
別に文章だけでも記事は成立するのですが、当ブログでは大半が画像付きです。
碁盤の画像の作り方ですが・・・



棋譜ソフトはKiin Editorです。
この図を画像ファイルにするにはキャプチャソフトを使います(別の方法もあります)。
私が使っているのはWinShotというソフトです。
操作説明は省略しますが、キャプチャしたい範囲をドラッグするだけなので非常に簡単です。

手順2、画像をアップロードする

画像が用意出来たらgooブログのサーバーにアップロードします。

まず、ページの右側にある「画像アップロード」のボタンを押します。
すると新たにウインドウが開いて「画像を選択してアップロード」のボタンが出て来るので押します。


こういうウインドウが出るのでアップロードしたいファイルを選択(複数可)して「開く」を押します。
これで画像がアップロード出来ました。

手順3、記事を書く
後は「新規投稿」を選択して書くだけです。
画像を貼りたい時は、その都度右側に表示されている画像をクリックします。

画像を貼りたい場所(上の画像の場合矢印の中)にカーソルを合わせておいて、右に表示されている画像をクリックすると・・・




画像へのリンクが挿入されました。
この状態でプレビューを確認してみると・・・



指定した場所に画像が貼れていますね!

なおリンクを貼るような場合は・・・


上の画像のように、リンクを貼りたい文字列を選択した状態でオレンジのボタンを押します。
するとURLを入力する画面が出るので、リンク先のURLを入力してOKを押します。



するとこのようにリンクが貼られました。
プレビューを確認してみましょう。



リンクもOKですね!
覚える事はこのぐらいで、後は好きなように文章や画像を組み合わせて書くだけです。
コメントの許可・SNSでの自動シェア等の設定はお好みでどうぞ。


さて、随分と長くなってしまいました。
何故ここまで詳しく書いたかと言えば・・・棋士の皆さん、ブログやりませんか?という事です。
当ブログは棋士も読んでいますが、棋士向けに記事を書いたのは初めてです(笑)
これからはネットの時代ですから、パソコンが苦手な方も是非!

石の流れ

2016年08月22日 16時17分00秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんにちは。
本日のテーマは石の流れです。
碁には流れがあります。
といってもオカルト的なものではありません。
水が上から下に流れるようなごく当たり前の現象です。
相手の流れを止めるのはともかく、自らの流れを止めてはいけません。
それでは実例を見て行きましょう。



5子局で白△に打たれた所です。
黒はどこに打ちますか?
現在の石の流れを見極めてください。





実戦は黒1でした。
私には全く気が付かないのですが、不思議とこの手は人気です。
アマ5級から初段ぐらいの方に多いでしょうか?
白地が気になってしまうのでしょうね。





実際は白1などと囲われても、白地が数目しか増えないのですが・・・
地だけの問題で考えても、この段階で20目以上の手は沢山あります。
それはともかく、黒が打つべき所を逃したので・・・





白1と飛ばれてしまいました。
これが絶好点です。
遅ればせながら黒2と止めましたが薄い形です。
白3にAと打ちたいですが、白Bから切断されそうなので・・・





黒1の方を守りましたが、白2でせっかく打った黒△を切り離されてしまいました。
さらに中央を突破された事で周囲の黒石の連携も悪くなり、白4と踏み込まれています。
最終的に右辺はがらがらに荒らされてしまいました。





これまで黒はひたすら右辺を大事にしています。
天元の石を生かしつつ、この流れを継続するには・・・





難しく考える必要はありませんでした。
素直に黒1が正解です。
白2には黒3で天元の石とも繋がります。
全ての石が繋がったので、もし右辺に打ち込まれても怖くありません。
自然と右辺は大きな黒地になるでしょう。


その場その場で目移りしてしまうと、今まで打ってきた石が台無しになってしまう事になりかねません。
流れを意識して打つように心がけたいですね。