腐った林檎の匂いのする異星人と一緒
37 いつものおしゃべり(可愛いエマ登場)
・ありがとうございま~すっと。
帰ったね、やっと。
・ふあ。
お客さん、減ったわね。
・表は危険だからって。
風評被害。
・嫌なご時世ですよね。
抗議の意味かしら。
・コーヒーでも淹れます?
あなた、どう思う?
・お砂糖、いくつでしたっけ。
身を投げるのって、あれ、抗議なのかね?
・ミルクは要らないっと。
空から人が降って来るのよ。
・上を向いて歩こう。
元何とかも増えてきてるし。
・他人事じゃないですよね。
さっきのお客さん、元何だか、知ってる?
・元詩人?
あら、誰でもそうよ。
・ですよね。
人間は生まれてすぐ詩人になるの。それがね。
・ええ、ええ。
詩を書いた途端、元詩人になるの。
・元司書じゃないんだ。
元殺し屋なんだって、あの人。
・ああ。聞いたこと、ある。
怖いわねよえ。
・でも、「元」でしょう?
「元」だから怖いのよ。
・ええ?
だから、あんたはアマチュアなんだって。
・どうして私の話になるんですか。
プロ意識が低い。
・おぼこ?
いいこと。現役の殺し屋はね、依頼された仕事でしか、人を殺さないの。
・そうかな。
そうよ。プロ意識って、そういうもんなの。
・だったら、殺し屋って世界で一番安全なのかも。
だんだん、わかってきたみたいね。
・じゃあ、「元」はもっと安全かな。
反対。
・ぐさっ。
プロ意識がなくなって、テクニックだけ、残ってるの。
・ああ、元教員みたいなもん。
生徒でもない人間を見下すのよね。
・「元」じゃなくても、うぜ。
人間の屑。
・寄生虫。
黴菌。
・元刑事さんは忙しそうでしたよ。
死ぬまで忙しがってたね。
・死んでも忙しかったりして。
元何とかって、昔取った杵柄を振回すんだ。
・ぶらぶら。
ふらふら。
・そういうのに出会うと、むかつきません?
むかつく。むかつく。
・舌、引っこ抜いてやろうかって、あたしなんか、つい思っちゃう。
閻魔様。
・エマって呼び捨てにしてくれていいんですよ。
エマ。
・はい。
エ~マ。
・は~い。
可愛いエマ。
・はい、は~い。
エマみたいな人がいるから、殺し屋稼業が成り立つわけよ。
・元少年Aのお仕事ですかね?
しっ。壁に耳あり。
・誰がプロだか、見ただけでわかるんですか?
わかるわよ。
・どうして。
だって、私もプロだもん。
・えっ? マダムも元殺し屋?
失礼ね。現役よ。
・武器は? もしかして、あのチェーン・ソー?
武器はね、この目。
・どっちの?
どっちもよ。ほら。これ、これ。斜めに見てから、すっと流す。
・やだ。ぞくっとしましたよ、今。あたし、女なのに。
うふふ。
・でも、流し目なんかで人が死ぬもんですかね。
死ぬわよ。
・嘘だ~
死ぬというか、参っちゃうのね。
・ああ、わかった。男殺し。
知らなかった?
・はい。いえ、てっきり「元」だとばっかり。
まあ、何ということを仰せられるか。
・今、誰かを狙ってんですか。
ほら、いつも本みたいな箱みたいなの、持ってる。
・箱みたいな本じゃなくて?
どうせ中身は空っぽよ。
・元刑事さんが探してたのって、あれかな。
あの男、元何だか知ってる。
・興味な~い。
そこを何とか。
・元異星人?
惜しい。元冷凍人間よ。
・人は見かけによらないんだ。
見かけ?
・あの人、女性恐怖症だって。
知ってる。
・知ってるのに?
知ってるからよ。
・すっご~い!
でしょ?
・うふふ。
あはは。
・でも、どなたのご依頼?
それはねえ……
・はい。
ひ・み・つ。
・ですよねえ。
あなたって、元乙女?
・やだ~。現役ですよ~。プンプン。
それ、やめな。
・じゃあ、プリプリ。手は、ええっと、こうやって……
……おや。噂をすれば何とやら。
・こほん。いらっしゃいませ。