萌芽落花ノート
27 朝の約束
ガラス・ケースを粉砕しかけて君は夢精に目覚める。
あいつの残したタバコを吸う。
憧れていたオトナの味だ。
ピンポンパンのお姉さんに似ていた君はオルガン弾きになれなかった。
乾いた瞳を擡げて呻く。
「先生、懺悔したいんです」
沈黙が静寂を追っ払う。
「あいつを先生に殺させてしまいました」
白墨を五本だけ並べたみたいな先生の指はぽきぽき折れて教室の隅に転がっていった。
生徒たちは藁半紙をくしゃくしゃにしてからじんわりと丸めた。
英語の予習がまだだった。
「あいつを殺したのは私だったのかもしれない」
時間に溶け込んで気軽になった君の言葉を私は笑った。
「私たち、もうオトナだからね」
あいつとの約束があった。
優しい朝の約束。
「私たちはただ心地よいだけの風に化けるからね」
約束だけは守りたい。
(終)