伊佐子のPetit Diary

何についても何の素養もない伊佐子の手前勝手な言いたい放題

写実絵画の世界展

2025年03月20日 | 展覧会・絵

写実絵画は好きだ。
今回、京都駅直結のJR伊勢丹内の美術館「えき」KYOTOで開かれていた、
「写実絵画の世界」展は思った以上にずっと面白く、美しい展覧会だった。
すてきな良い作品ばかりを見ることが出来て、とても嬉しい気持ちになったのだった。


美術館「えき」KYOTO
https://www.mistore.jp/store/kyoto/museum.html


https://www.mistore.jp/store/kyoto/museum/event_list/event05.html
鶴の来る町ミュージアムコレクション 写実絵画の世界
Tsuru No Kuru Machi Art Museum Collection 
The World of Realistic Paintings
2025年2月19日(水) ~ 2025年3月30日(日)




この展覧会は有名画家ではなく、
主に若手の日本画家たちの作品を集めたもので、
鹿児島県の出水市という市にある「鶴の来る町ミュージアム」
という美術館の所蔵品を紹介した作品展である。

スマホなど写真で誰でも手軽に対象を写し取れる時代に、
画家の手になるリアリズム絵画は、だからこそ画家の対象を見る眼や、
対象を写し取る技術の高さを改めて堪能できる、
写真とは別の鑑賞する楽しみを与えてくれる。






写実絵画━
対象を客観的に描いた絵画はルネサンス時代にさかのぼる。
が、ルネサンス期から18世紀にかけて西洋絵画にある静物画はすべて寓意画で、
花瓶に活けられた花を描いた絵であれ、楽器であれ、果物であれ、
それらにはすべて意味があった。
ヴァニタスという、人生のむなしさを表す事物を集めて描いたものであった。

自分はその写真と見まごうヴァニタスに惹かれ、
西洋のリアリズムには恐るべきものがあると思って来た。


時代が下るにつれ、絵画は宗教や歴史、寓意とは別に、
風景や市井の人物を描いた肖像や美しい花など、
対象をそのままに描く写実絵画が登場した。
市民社会が成熟してくると、絵画が教会や貴族の城だけではなく
市井の人々の家の壁を飾るようになったからだ。

19世紀の印象派から始まり、西洋絵画は写実を離れ
だんだん抽象へと画家の自己主張が強くなってゆく。


写実絵画はそうした強烈な自己表現とは一線を画し、
丁寧に現実を写しだすもの、と解釈している。
自分はその丁寧な作業を見るのが好きなのだと思う。

そして現在も写実的なリアリズム絵画が
こうして連綿と続いていることに歓喜したのである。






「鶴の来る町ミュージアムコレクション 写実絵画の世界」展は、
一部を除いて写真撮影可能だった。

多くの作品には、作品の横に画家の説明がついていた。
そこには若手画家の対象を誠実に見る眼、
懸命に対象に向かい合う意識、写し取ろうとする矜持が感じられた。


展示は静物、人物、風景の順番に進んでいく。



テーブルの上の静物を描いた絵は
まるでファンタン・ラトゥールのように美しく静謐だし、
なすを描いた絵はまるで本物のようで面白かった。



作品は殆どがガラスに入っていて、後ろの背景がどうしても写ってしまい、
うまく写せなかった。
斜めから写したり、工夫したものの、時には自分の姿が入ってしまった(>_<)。





それでもあまりにも見事なのでどうしても撮りたくなったのだった。



単に写生をするだけでなく、絵のために事物を組み合わせてみたり、
タペストリーのように描いたり、工夫されているのが楽しかった。





レタスを描いた作品やデコポンを描いたスーパーリアリズム的なものも。






人物像も沢山あった。
画家たちの説明ではいかにモデルの魅力を引き出せるか、
モデルたちとコミュニケーションを取りながら、
モデルの内面まで美しく定着させようとする画家たちの努力が読み取れた。


美少年を描いた絵、
西洋絵画のような椅子に座って本を読む横顔の絵も美しい、、



まるでジョルジュ・ラトゥールのようなろうそくを用いた肖像画もあったのだが、
上手く写真に撮れなかった。。



黒板の前の少女の絵は印象的だった。
黒板の字も彼女が書いたものだということだ。



多くの画家にとって、
絵を時間をかけてこつこつと仕上げてゆく時間が楽しいのだという。




テーブルの上の小物など、細部まで丁寧に描かれた作品も見惚れるばかりだった。


見たままというより工夫を凝らした個性が出た作品も。




どこかで見たことがあると思った作品は
フェルメールの「絵画芸術」へのオマージュだとのこと。



食洗器?の棚を描いた作品は、
まるで18世紀にヨーロッパで流行した棚のだまし絵を見ているようでうれしくなった。


本や食器が置かれた棚だけを描いた絵画があったのだ。
部屋にその絵を飾っておくとまるで本物の棚のように見えたのだという。


最後に風景画もあった。
これらの作品も恐ろしいほどリアリズムに徹した作品群で、
丁寧に鮮やかに描かれた風景はもの言いたげで美しかった。







ここに展示された画家たちの名前は誰一人知らなかったが、
手間と時間をかけて細部まで丁寧に描かれた作品は、
思ったよりずっと見応えがあった。
作者の名前ではなく作品そのものを見てもその面白さ、
豊かさに心が満たされる思いだった。
良い展覧会を見たと思う。






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安野光雅・旅と空想の風景

2025年03月13日 | 展覧会・絵



安野光雅は画家・絵本作家、装丁家などとして、
マルチに活躍していたが惜しくも2020年に生涯を閉じた。

その創作活動はおもに絵本作家や装丁家としてが最も有名だ。
今回の展覧会でも宮沢賢治作品の装丁を手掛けた文庫本が並んでいたが、
ひと目で安野作だと分かる端正な装丁で、
独特のメルヘンな詩情漂う表紙に目を奪われた。


京都の大丸ミュージアム京都で開かれている展覧会、
「安野光雅 旅と空想の風景」展はそんな安野光雅の、
絵本作品やスケッチ、装丁など
デザイナーとしても卓越した才能を発揮した彼の多彩な作品を揃えた展覧会だった。


大丸・松坂屋の展覧会
https://dmdepart.jp/museum/kyoto/annomitsumasa/
安野光雅 旅と空想の風景
2025年3月11日(火)→31日(月)
大丸ミュージアム〈京都〉[大丸京都店6階]





安野光雅は彼の絵本にM.C.エッシャーの迷宮的な錯視作品を取り入れたこともあり、
そのころから面白くて楽しい絵だと、興味を持っていた。
もちろん端正な水彩で細かい描線で丁寧に風景を描いた作品たちに、
惹かれていたからでもある。



細かい描線で輪郭のはっきりした、淡い色彩が特徴である。
そしてどこかメルヘン的な部分とさりげないユーモアも漂っている。
見ていると和やかな気持ちになる絵でもある。
絵本ということもあり、見ていると対象を細かく細部まで描き込んだ絵なのに
暖かな気持ちになるのだ。




今回の大丸ミュージアム京都で開かれた展覧会では
最後の一室のだまし絵のものだけ撮影可能だったが殆どが撮影禁止だった。





展示はヨーロッパを旅した時の風景を描いた絵から始まっていた。
オランダ、スペイン、イタリア、フランス、英国などなど、
安野光雅独自の切り込み方で欧州の風景を描いた作品だった。





安野らしい遠近法を用いた古いヨーロッパの街並みや、
家が点在する田園風景などが淡い色彩で細かく細部まで描き込まれていて、
思わず隅から隅までずっと眺めていたくなる作品ばかりだった。

イギリスのトラファルガー広場を描いた細かい作品には、
よく目を凝らすと広場の一角でビートルズが演奏しているのだった。
リンゴのドラムも描かれ、ポールはちゃんと左利きになっていた。

それほど大きい画面ではないので、よほど注意深く見なければ分からない。
安野光雅の遊び心がこんなところにも発揮された作品だった。



イタリアの「ピサの斜塔」の絵は、ピサの斜塔を真っ直ぐ描き、
横の建物が斜めに建っているというこれも遊び心に溢れた作品だった。


こんな感じで、安野光雅の風景はユーモアがあって、
ずっと目を凝らして眺めていたい絵ばかりなのだった。





切り絵作品もあった。
安野が切り絵に挑戦していたことは知らなかったので、
その細かい作業にも驚嘆した。


「昔噺きりがみ桃太郎」という絵本のための切り絵だった。


安野はだまし絵も大好きだった。
鬱蒼とした森を描いた連作では、
森の中に動物たちをだまし絵として沢山描いていて、
いくつ分かるかな?というクイズになっていた。
が、一目見ただけでは分からない。
よくよく目を凝らすとなんとなく見えて来る。

このだまし絵の複製の4作品のみが撮影可能だった。



安野光雅の絵本や風景作品は細い描線で対象を細かく描き、
その中にいろんな仕掛けを施しているものや、
童心に帰るようななつかしく感じるものなど多彩だが、
故郷の津和野の田園風景を描いた作品は、郷愁を誘う暖かな空気が漂っていた。


安野光雅の心にはいつも津和野の原風景があったのだろう。






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カナレットとヴェネツィアの輝き

2025年03月07日 | 展覧会・絵

イタリア18世紀の画家・カナレットは精密な都市景観図で有名である。
都市が発展するにつれ、西欧の風景画は単に自然を描いた田園風景のみではなく、
都市の景観も描き出すようになった。

「ヴェドゥータ」と呼ばれるカナレットの景観図は、しかし、
必ずしも単に現実を忠実に写生しただけではない。

現実にはあり得ない建物を一つの画面に組み合わせたり、
名所を一つ所に集めたり、建物ごとに目で見た角度が違っていたりと、
現実の写生ではないが人々が見たいと思っている、
理想の風景を描き出したと言われている。




京都文化博物館がこうした西洋絵画の展覧会を催すのは珍しい。
今回はカナレットとヴェドゥータの歴史的展開を、
「日本初の大規模展」として開催した。


京都文化博物館
https://www.bunpaku.or.jp/


カナレットとヴェネツィアの輝き
https://www.bunpaku.or.jp/exhi_special_post/20250215-0413/
2025.2.15(土) 〜 4.13(日)




カナレット(1697―1768)は好きな画家の一人と言ってもいい。
始めて見たのは何かの画集での図版だったと思うが、
都市・ヴェネツィアの景観を描いたリアリズムの風景画・景観図なのに、
どこか幻想的で不思議な感じがした。
そこに惹かれたのだと思う。
何より通常の自然を描いた風景画ではなく都市図というのに惹かれた。


文化博物館の展示はまずエレベーターで4階へ上がり、3階へと降りる。
写真撮影が禁止と表示されているもの以外は撮影が出来た。
おおむね撮影可能だった。




カナレットは18世紀イタリアの画家で、ヴェネツィア共和国で活躍した。

当時、貴族・上流階級でグランド・ツアーというものが流行った。
グランド・ツアーとは、17世紀末ころから始まったそうで、
支配階級の貴族の子弟たちが卒業旅行のような形で行う長期旅行のことで、
ヨーロッパ各地を旅することが流行った。
とくに英国で最盛期を迎え、
目的地はフィレンツェやヴェネツィアを擁するイタリアが人気だったという。

そこでイタリアの旅の記念やお土産として、
イタリアの都市の景観図を描いたヴェドゥータを買い求める子弟が多くなった。
写真のなかった当時はヴェドゥータがあたかも観光地絵はがきのような役割をして、
重宝されたのだ。
とくにカナレットの景観図はイタリア土産として大人気だったそうだ。





展示はまずカナレット以前の都市景観を描いた画家たちの作品から始まる。
地図のような都市鳥観図やティエポロなどの作品があった。

次の部屋にカナレット作品が並ぶ。



《モーロ河岸、聖テオドルスの柱を右に西を望む》1738年頃


遠近法を用いた都市景観図は壮大で手前には人物像も描かれ、
精細を究めている。
旅の記念やお土産に買い求められたのを実感する。
明るい色彩で都市の光景が描かれていて、
まるで写真のようだが実際の建物とは配置が違うようだ。




「昇天祭 モーロ河岸のブチントーロ」
沢山あるヴェネツィアの祝祭の一つ、キリスト昇天祭で、
ブチントーロという御座船での儀式を描いたものという。
開放的な空のもと、華やいだ様子がとても壮麗だった。
額縁が豪華なのも印象的だった。

カナレットの作品は写実の極致のように思えるが、
それでいてどこか現実離れしていて幻想的でもあると思える。
写実を究めると現実を超えるのだろうか。
都市そのものがキラキラ輝いていて、
調和しておりそれが理想の景観と見えるからだろうか。



「ローマ、バラッツォ・デル・クイリナーレの広場」
ローマの広場を描いた作品は、
巨大な建築を描いた何気ない風景画のようだが、
左手前の2基の騎馬像が人物たちと比べてありえないほど巨大で、
そのため不思議な幻想空間が出現している。



ナヴォナ広場を描いた図も写実的で何気ない空間のように思えるが、
細かく細部まで綿密に建物や人物が描き込まれ、
噴水や聖堂の壮麗さをより強調していている。
広場の広い空間が体感できるようだ。



ヨーロッパで戦争が起き、ヴェネツィアへの旅行者が減ったことから、
カナレットは1746年に渡英した。
英国で約10年間も過ごしたという。
英国でも精力的に風景画・景観図を描いた。



テムズ川を描いた図もあった。
何気ない風景画に見えるが橋を中心に、向こう側の建築群、
手前にいくつもの遊興船を浮かべているのがカナレット流というべきかと。



図版で見てかつてカナレットに衝撃を受けたのが、
この「ロンドン、ロトンダの内部」という作品のヴァリアントだったと思う。



巨大な建物の内部空間を余すことなくその巨大さを描き切っている。
ロトンダとは、「円柱形建築物」のことを示すらしいが、
このような建築が現実にあるのかという衝撃と、
細部まで緻密に描かれたリアリズム、
そして円筒が絵の真ん中にあり、それを取り囲むようにカーヴを描く壁面。
何より構図の斬新さに衝撃を受けるとともに強烈に惹かれたのだった。

この作品は私がかつて見たもののヴァリアントだと思うが、
実際の作品を目で見られたのが何よりうれしかった。


3階へ降りるとそこにはもうカナレットの作品はなく、カナレットに続く、
カナレットに影響を受けた画家たちのヴェドゥータ作品が並んでいるのだった。
景観図・ヴェドゥータは流行したので、
カナレットを受け継ぐヴェドゥータの後継者・画家が多く輩出したようだ。



フランチェスコ・アルポットという画家の、
「騎馬像とオベリスクのある空想的ヴェドゥータ」という作品は、
タイトル通り風景の中に騎馬像とオベリスクが描かれているが、
現実の風景ではないだろう。
画家が自然の中にかくあれとオベリスクなどを配置したものと思える。



同じくアルポットの「オベリスクのあるカプリッチョ」は、
現実風景ではなく、オベリスクなどを組み合わせた架空の景観画である。
カプリッチョとは綺想を意味し、現実から離れて
実在する者や空想上のものを組み合わせて構成した架空のものだということだ。
18世紀にはカプリッチョは大いに流行した。




3階のカナレット後のヴェドゥータ作品は、
さすがにカナレットほどの求心力は失われていた気がした。

その後、ヴェドゥータは形を変え画家たちに受け継がれてゆく。
3階の部屋にはよく知られた画家の名前─
ホイッスラーやブーダン、シニャック、果てはモネの名も連なっており、
各画家の作品が展示されていた。



モネもヴェネツィアを描いた。
それはもはや景観図というより画家の技法をどこまでも追求する、
画家の個性を表したものになっていた。




展覧会の後半はカナレットの作品はなく後継の画家たちのものもあり、
カナレット作品としては数は少ないと感じたが、
これまで日本ではあまりスポットライトの当たらなかった景観図・ヴェドゥータが、
展覧会会場の壁に飾られていたのは感慨深かった。







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京博の雛まつりと人形展

2025年02月26日 | 展覧会・絵

毎年恒例になっている京都国立博物館の「雛まつりと人形展」へ行って来た。
特集展示という形で1階でのみ展示のちょっとした展覧会だが、
3月3日の雛まつりの時期に合わせて京博が毎年雛人形を展示するのだ。



京都国立博物館
https://www.kyohaku.go.jp/jp/

名品ギャラリー 特別企画・特集展示 雛まつりと人形
https://www.kyohaku.go.jp/jp/exhibitions/feature/b/hina_2025/
2025(令和7)年2月15日(土)~ 3月23日(日)
京都国立博物館 平成知新館1F-2


名品ギャラリーの特集展示というのは常設展示の扱いのようだ。
通常の展覧会より値段が安い。
自分は招待券で行って来た。


雛まつり展示は1階だけだが、エレベーターに乗り3階から見てゆくように促される。
3階と2階には常設展示が公開されていた。
京博の所蔵品や寄託品を折々で入れ替えての展示だ。

雛まつりの雛人形を見る前に常設展示も見て回った。
(今回はいずれも撮影禁止)





3階は陶磁と考古資料が展示されていて、
陶磁のコーナーには仁清の焼き物があり、
また尾形光琳・乾山兄弟が共作した重要文化財に指定されている、
寒山拾得を描いた角皿が思いがけず展示されていた。
すごく好きな作品なので展示されていて嬉しかった。

考古の部屋には古墳時代の巨大な銅鐸や三角縁神獣鏡などが展示。
古墳時代の甲冑には驚いた。当時、すでに精巧な甲冑が作られていたのだ。
大きくて体格が良い人のもののようだった。


2階では絵巻のコーナーにお正月に見損ねた「十二類絵巻」が
これも思いがけず展示されていて、得をした気分になった。
だが、十二類絵巻の一番有名な場面でなく、
見たことのない場面が展示されていた。
(十二支の動物とそれ以外の動物たちが戦う場面)
古いものだけあって紙がかなり劣化していたが、それもなかなか味があった。

2階には他に涅槃図がいろいろ。
そして目を引いたのは画家たちのスケッチ画だった。
狩野派の狩野探幽による探幽縮図と言われる写生画が秀逸だった。
狩野派も野に出てさまざまな植物を写生し、手控えとしたのだ。
それを手本として本画を描いたのだろう。
スケッチや写生にこそ画家の本領が発揮されると思っているので、
写生画は大好きだ。
探幽の写生画も見事だった。
単に几帳面というだけでなく、花や草に命があった。
応挙の写生画もあった(ような気がする)←記憶力が💦


1階へ降りると仏像室がある。
そこに家の近所にあるいちひめ神社という神社の所有する
赤ん坊を抱いた女神像が展示されていてびっくり。
京都国立博物館に寄託しているのだろう。
いちひめ神社は女性守護の神社である。
八坂神社所有の重要文化財に指定されている狛犬も展示されていて、
狛犬も古くなれば重文に指定されるのだと思った。



さていよいよ1階奥にあった一室、雛まつりと人形のコーナーへ行く。

雛人形の始まりとされる、紙や木で出来た簡素な人形を、
人間の穢れを祓うヒトガタとして川などに流す行事に使われた初期の立ち人形から、
江戸の雛飾りとは違う上方の豪華な御殿飾りまで、
博物館の1階の一角にさまざまな雛人形と、
京都で製作された御所人形などが飾られていた。


まず雛人形の初期、江戸時代初期の寛永雛というのは、
簡素な造りで座った姿だが腕が曲がっていなくて伸ばしたままのものだった。




その次の時代の享保雛は装束が十二単になり公家装束となり
女雛の冠が豪華に。
毛髪も毛植えとなる。
うちの家にあったお雛さまの冠も装飾がびらびらあって豪華だった。
最近の女雛の冠は省略したような簡単なものになっていて物足りない気がするのは、
昔のお雛さまの記憶があるからだろう。




江戸の雛人形は段飾りだったが、上方のお雛さまは御殿飾りが一般的だったという。
御殿飾りというのは、文字通り御殿が設えられていて、そこにお雛さまを配置したもの。



展示されていた御殿飾り2つは両者ともとても豪華で巨大だった。
屋根つきの御殿の奥にお内裏様が座っていて、
前の庭に5人囃子などがいて、
内裏へ続く廊下に三人官女が歩いているところを人形で表していた。
屋根が茅葺きと思われるほど精密に出来ていた。


手前にはミニチュアの雛道具が置かれている。
本格的な漆器の茶碗などで、実際に節句にはそれらを使って子供が食事をしたという。
奥にはおくどさんが。

いずれにしても御殿飾りの御殿が巨大なので確実に八畳くらいの一部屋が必要だし、
あのような豪華な御殿飾りで節句を祝う家は、
さぞや豪商だったのだろうと思えた。

保存状態もとても良く、漆器などの雛道具一式はぴかぴかで、
今も使えそうで驚くばかりだった。


ほぼ毎年見に行っているが家で飾らなくなった分、博物館の雛飾りは楽しみだ。
展示は雛飾りのほか、京都で作られた御所人形などもあった。

衣装人形というものもあった。
遊女や若衆など様々な風俗の衣装をつけた人形のことで、
現代の土産物にあるガラスケースに入った人形の原点かなと思った。


展示を見終えてロビーに出ると、
なんと、京博のマスコットキャラクター、トラりんがいた(◎_◎;)。


とても愛想が良く愛嬌を振りまいていて、私もハイタッチをしてもらって大喜びした。
なぜか耳に桜?の花をあしらっていた。
このトラりんは尾形光琳の「竹虎図」という絵の虎がモデルになってる。
かわいくて大好き。





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京の名工展

2025年02月04日 | 展覧会・絵


毎年楽しみにしている伝統工芸の展示会である「京の名工展」。





例年は11月の下旬の秋頃に開かれるが、
今年はどういうわけでか年が明けた1月末に開かれた。
毎回、京都文化博物館の5階であり、なんと無料である。
こんなすごく贅沢な展覧会が無料なのは勿体ないくらいだ。
府が協力しているから(京都府の西脇知事が挨拶を寄せている)
料金がいらないのだとは思うが、なんとも太っ腹だ。





わずか5日間の展示であり
展示はもう終わってしまったが─


京都文化博物館
https://www.bunpaku.or.jp/

https://www.bunpaku.or.jp/gallery_hall/20250129-0202/
京の名工展
会期2025.1.29(水) 〜 2.2(日)
会場: 5階

京都府 令和6年度京の名工展
https://www.pref.kyoto.jp/senshoku/news/r6meikouten.html
令和6年度京の名工展~京の伝統工芸品、匠の技にふれる5日間~
―京都府伝統産業優秀技術者作品展―
―京の若手職人「京もの認定工芸士」作品展―




京都の伝統工芸士の腕によりをかけた作品たちが惜しげもなく、
ずらりと並んでいる。

「京の名工」というのは称号で、
正確には京都府伝統産業優秀技術者と称し、
テストを受けて受かったものが京都府知事より「名工」の称号と盾を送られる。
「京の名工展」はこの展示会のために名工たちが一点ものを作り
(販売もしていた)、
京に根付く伝統工芸士たちの作品が一堂に会する展覧会だ。
京都の伝統工芸士たちの腕の見せ所、という感じだ。







作品は多岐にわたり、展示品を見ているだけで毎回驚きがある。
現代でもこんなものを作っているのか、
どうやって手作りするのか、
展示品を見ていると、そんな風に毎回新鮮である。
それが楽しみで毎回、名工展へ行くのだ。
京都ではこんなに伝統工芸が現代にも息づいている。
その技術や実力には驚かされるばかりだ。
もっと全国の人にも知ってほしいと思う。


会場は注意書きしてあるもの以外は撮影可能だった。
作家によって技術の流出を嫌う人がいるのだろう。
どれもこれも写真に撮りたいものばかりで、
片っ端から写して行ったがそれでもあまりにも多すぎて全部は撮影出来なかった。




まず展示室に入ると正倉院の御物を写した鏡があった。
現在でもこのような古代鏡が作られていることに驚嘆した。



次に京都らしい仏像の十一面観音像があった。
立派な観音立像に拝みたくなった。



そして仏像の背面にある、「仏像用後背」というのもあった。
錺金具師という職人が仏像の後背のみを作っているらしい。
あまりにも細かい細工が見事なので思わず撮影した。



陶器を集めたテーブルにも面白い作品が沢山あった。

後ろにも作品が映り込んでいるが…
紅葉や桜を模様に描き込んだティーカップセットはとても美しくて、
欲しいと思ってしまった。(高そうだけど💦)



「南蛮船 南蛮人」という南蛮人を描いた作品はとても面白かった。
南蛮船の形をしているのだ。
陶画師という、陶器に絵付けをする職人が作成した香炉だという。



もうひとつ、
「海の中のジムノペディ」とタイトルがつけられている色絵置物は、
サンゴを背景に泳ぐ熱帯魚がかわいかった。
陶磁器成形・陶画師という名称の職人の作品で置物らしい。



同じテーブルには蒔絵作品や漆塗作品が並んでいた。
その中から一つ、
美しい蒔絵の茶入れ。
小さな茶入れに蒔絵技術が詰まっている。



漆塗り師の茶箱・三点揃えは、模様がとてもモダンでしゃれていたので
思わず写す。




京人形、雛人形作品も毎年並んでいる。
京人形・雛人形は分業制であるので、この立ち雛は京人形着付師の作品で、
着付を担当したという。



また京人形頭師のユニークな作品は御所人形で、
人形の頭を作っている職人の作品であった。




そして京扇子があった。

写真では分かりづらいが、普通の扇子の倍くらいの大きさがある。
30間ということだ。
京扇子も分業制で、
この作品は扇子折師と扇子地紙師の共同作品として出品されていた。



京扇子からもうひとつ、扇子仕立て師作品として出品されていたが、
絵柄が北斎の春画を元にしていたのが(+ボッティチェリ)あぶな絵のようだった。
でも少しもいやらしくない。




純銀製の湯沸かし(薬缶)の光沢はあまりにも美しいので、
思わず写真に撮る。
「鎚起師」という名称の工芸士だが何と読むのか最早分からない💦
が、加工のすべてが手作業だということは分かる。
まさに匠の技と言えるだろう。



燈籠にも驚いた。「六角置燈籠」という作品。
鄙びていて新作とは思われない。
石工芸士、という伝統工芸士が現代にもいるのに驚く💦。




「写経」というタイトルの掛け軸は刺繍で般若心経を刺したものだった。
刺繍師という工芸士がいるのだ。





毎年楽しみにしているのが染色補正師の作品で、
今年は抜染画「しみぬき屋さん」というタイトルのものだった。
染色補正とは、汚れた生地をしみ抜きする技術で、
その技術を使ってひとつの作品に仕上げているのだ。
モデルはきっと自分自身だろう。




一番多いのは友禅や西陣織の着物や帯の展示で、
最後の部屋にずらりと並んでいた。きりがないのであまり撮影しなかった。
けれどもどれも斬新なモチーフ、細かい作業(総絞りの着物)、
見たことのないようなものなどが沢山で見応えがあり、力作揃いだった。






展示の最後は別室に作られた造園作品だ。
毎年心づくしの造園が展示されているが、
展示期間が終わったらどうやって解体し、持って帰るのだろう?
ちょっと疑問に思ってしまった。
多分トラックで上手に運んでいくのだろう。




会場にはもっとたくさんの作品が展示されていて、
どれも見事な作品ばかりで毎回感嘆しきりの「京の名工展」だ。
もっと撮影したが、きりがないので─

「京の名工展」を見に行くたび、
京都にはこんなに優れた技術者・技能保持者が多くいることに、
誇らしい気持ちになる。
京都はこんなに優れた伝統工芸品を今も、現在進行形で生み出している。
しかも多彩である。
いろんな職種の名工がいる。

技術が受け継がれて、
これからも京の伝統工芸が発展してゆくことを願っている。




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