伊佐子のPetit Diary

何についても何の素養もない伊佐子の手前勝手な言いたい放題

「眷属(けんぞく)」展

2024年11月05日 | 展覧会・絵
眷属(けんぞく)とは何か。

お寺の本尊の仏さまに付き従う従者のことである。
例えば十二天だとか天部、二十八部衆などが眷属だという。
有名な興福寺の阿修羅像を含む二十八部衆も眷属と言えるだろう。
言わば本尊の脇役である。

その脇役に焦点を当てた展覧会が
龍谷大学龍谷ミュージアムで開かれている。

少し遠いが歩いて行ける場所なので(交通手段が徒歩しかないこともある)、
京都新聞が大々的に宣伝しているので行ってみた。




龍谷大学龍谷ミュージアム
https://museum.ryukoku.ac.jp/

https://museum.ryukoku.ac.jp/exhibition/2024/kenzoku/
秋季特別展「眷属(けんぞく)」
会期
2024年9月21日(土)~ 11月24日(日)


展示構成
第1章:眷属ってなんだ?
第2章:護法の神々
第3章:ほとけに仕える子ども
第4章:果てしなき眷属の世界

(会場内 撮影禁止)




例えば本尊の不動明王の脇に二人配置されているのが、
せいたか童子(制吒迦童子)とこんがら童子(矜羯羅童子)であって、
文字通り童子の姿をしている。

今回の展覧会「眷属」ではこの二人が愛らしいイラストになって案内役をしている。

ただ展示品は仏像よりも絵画が多く、
その多くは古い時代のもの(鎌倉時代から室町時代)なので、
黒ずんでいて何が描いてあるか分からないものも多かった。
軸の隣りにX線で抜いたモノクロ写真が掲げてあって、
それでかろうじて何が描いてあるかが分かるものもあった。

十二天のように(月天、風天、水天など)単独で描かれる眷属もあるが、
軸物の仏画では主尊が中央に描かれ、周りに沢山の脇侍が連なっていて、
誰が誰だか分からないものが多い。

眷属というと本尊の脇に2体くらいかと思いきや、
絵画作品には8体、32体など無数の眷属たちがいるのだった。
ただそれらの沢山の眷属が多種多様で、
様々なキャラクターとして描かれているのが興味深かった。





展示数が約80件ほどでそれほど多くなく、ほとんどが絵画作品だった。

しかし何といっても見どころは仏像で、
和歌山県の金剛峯寺が所蔵している国宝、
不動明王八大童子像のうち阿耨達 (あのくた) 童子坐像がすごかった。
その横には同じく指徳童子立像があったのだが、
インパクトでは阿耨達 (あのくた) 童子がずば抜けていた。

菩薩のような半跏の姿で龍に乗る。
童子とは言っても菩薩のような美しい姿である。
普通は菩薩なら獅子や白象などに乗っているが、
龍に乗っている仏像は始めて見た。

阿耨達童子は菩薩ではなく眷属ということもあり、
動物に乗る仏像は孔雀明王など他にもいろいろあるが、
龍というのは珍しくてその造形に驚かされた。

龍があまりにもリアルに彫られていて、
細かく細部まで…細いひげまでがリアルに再現してあり、
気持が悪くなるほどだった。


他に、興福寺の東金堂から
国宝・十二神将立像のうち安底羅(あんてら)大将立像が来ていた。
薬師如来を守護する十二神将も眷属の仲間なのだ。
腰を捻った憤怒の形相で貫禄があった。





もうひとつ驚いたのは、蛇の頭の仏像があったことだ。
「厨子入 天川弁財天曼荼羅」という作品で、
「天川弁財天」という絹本着色の絵画もあったのだが、
それも3つに分かれた蛇頭の弁財天を描いたもの。

天川曼荼羅とは弁才天が三頭三面十臂の蛇頭人身の姿を現したものだという。


絵画作品で見ている限りは文字通り絵空事、とも思えたが、
それが彫刻として立体作品になっているのを見た時は、
あまりにもリアルすぎて気味が悪かった。
3つに分かれた大きな蛇の頭の像が手を合わせた仏の姿で、
厨子の中にぬっと鎮座しているのである。。

まるで宇賀神を思わす気味の悪さだった。
(宇賀神は人頭蛇身で人間の頭の下に蛇がとぐろを巻いている、
極めてグロテスクな造形なのだ)

日本の神や仏への信仰はこのような、
とんでもない想像力で奇妙とさえ言える神仏像を生み出したのだ。





というわけで眷属の世界は神の領域にも広がり、
神社の入り口に見られる狐まで眷属と言い慣わすようになったという。
「神狐像」という向かい合わせになった狐の像は、稲荷神社でよく見るものだ。


一口に仏像と言っても今回の眷属のように、
様々な種類の像を人は生み出した。
あまりにもバラエティに富んだそれらの姿を見ていると、
人間の想像力の豊かさというか、むしろあられもなさに唖然とするのだった。


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日本画家・上村淳之さんが亡くなられた。
祇園祭の懸装品でもおなじみの花鳥画の大家だった
ご冥福をお祈りいたします。






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石崎光瑤(こうよう)展

2024年10月18日 | 展覧会・絵

石崎光瑶(こうよう)という画家はまったく知らなかった。
名前を聞いたこともなかったが、例によって招待券をもらったので、
京都文化博物館で開催されていた石崎光瑶展へ行って来た。


京都文化博物館
https://www.bunpaku.or.jp/


生誕140年記念 石崎光瑤こうよう
Date2024.9.14(土) 〜 11.10(日)
https://www.bunpaku.or.jp/exhi_special_post/20240914-1110/




石崎光瑤(1884〜1947)は
鮮やかで色彩豊かな花鳥画を描いた近代京都の日本画家だという。

富山県に生まれ、登山家として立山などを登り、
山や草花などをスケッチしていた。
京都に出て竹内栖鳳に入門して腕を磨き、
また32歳でインドへ旅し、その成果を絵に描き、
文展などで入選し注目を集めたのだという。


まったく画家を知らない状態で見に行ったが、
その華麗な作風には目を奪われた。

また光瑶は私の父と同じ同郷だったこともあり、ちょっと親しみを感じた。




緻密な写生から展示が始まっていて、
昆虫(蝶やトンボ、かまきり)のまるで図鑑のような写生画があった。
山の草花や、鳥(鷺や孔雀)の写生画も日本画家らしく、
とても細かくて繊細で真面目な性格を表しているようだった。


登山家として立山へ登った時に山並みを細い線でスケッチしたり、
高山植物をスケッチしたりした写生帖が展示されていて、
それでそのうち画家を目指したのかもしれない。

鳥類にも関心があったようでインコや孔雀、カラスなどを多く描いていた。
もちろん草花類の写生も多くあった。
日本画の基礎かもしれない。

32歳の時インドへ向かい、それが画家としての転機となったようだ。
(のちにヒマラヤへも行きヒマラヤ登山をしたそうだ)





光瑶の作品は華麗で絢爛豪華。
展示室に入るとまるで森の木々のシャワーを浴びるような、
木々の中に彷徨いこんだような気がするのだった。

それは写生や写実ではなく、
光瑶の理想の世界を具現化しているのだと思った。






師の竹内栖鳳は自分の画風を受け継ぐのでなく、
弟子たちにはそれぞれの個性を大事にという方針だったそうだ。
そのため光瑶は自身の思い描く絵画世界を追求出来たのだろう。



「熱国姸春」や「燦雨」という作品はインド旅行によって、
異国の自然に触れ、その体験をもとに描かれたようだ。

むせかえるようなジャングルが上質の絵の具で色鮮やかに描写されていて、
胡粉が盛り上がっている箇所もあった。


「燦雨」では熱帯にスコールが降ってくるさまを
斜めの白い線で画面を埋め尽くし描写していた。

左隻


右隻




孔雀が好きだったようで、スケッチや写生画にも多く描かれていたが、
孔雀の華麗な羽根が描き甲斐があったのだろう。


「白孔雀」という作品は
目も鮮やかな白い孔雀の羽根が目に飛び込んで来て、眩しいくらいだ。


光瑶の華麗な画風が、伊藤若冲への興味に向かったのだろう。
若冲にシンパシーを感じたようだ。
まんま、若冲を模したような作品もあった。
雪の描き方に影響を受けている。
かなり(若冲を)研究したそうだ。



若冲に自身と共通する華麗さを見出したのだと感じた。

4階展示室は撮影OKだったようだが、
絵を見るのに集中していて全然知らなかった(>_<)。
それで実物の写真を撮ることは出来なかった。。



光瑶はまた、金剛峯寺の襖絵も描いたようで、
3階の一室は襖の展示室になっていた。



日本画の襖絵の特徴の余白を活かした上品な襖絵だった。


晩年(1944年)の「聚芳」という花かごを描いた作品は、
西洋絵画の静物を描いた絵画を思い起こさせ、
共通するものがあるように感じたが、
光瑶の写実技術を結晶させたものだと思った。



まったく名の知らない画家だったが、
その絢爛たる作風に圧倒された展覧会だった。

このような確かな力量を持つ画家が、
まだまだ人にあまり知られず日本にいることを改めて知った。
知られざる画家を発掘するという意味でも意義のある展示だと思った。






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BJ展その後・あるエピソード

2024年10月09日 | 展覧会・絵
美術館えきKYOTOで開催されていた、
「ブラック・ジャック展」へもう一度行きたいと思っていながら、
残念ながらとうとう行かなかった。
腰の具合が悪かったこともあり…💦

ただ、このえきKYOTOでの「ブラック・ジャック展」に合わせて、
京都駅ビル前ジェイアール伊勢丹(美術館えきKYOTOが入っている)
の前の自由通路の脇で京都市立芸術大学の学生による、
「ブラック・ジャックDESIGN&ARTWORK展」が開かれていた。
(「ブラック・ジャック展」と同じく10月6日までだった)





自由通路の一角なので無料。
そこへ行って見て来た。

芸大の学生がブラックジャックをモチーフに、
イマジネーションを広げたようなちょっとした作品が数点展示されていた。
あまり数は多くなく抽象的なものが多かったが、
ブラック・ジャックの黒コートの裏側を想像して作成した展示は面白かった。


手術道具のメスや麻酔薬などが見える。


学生たちが自由な発想で、
ブラック・ジャックにインスパイアされた作品を展示しているのも見られた。




新しい世代にブラック・ジャックの世界が継承されているのは、
嬉しい事だった。



YouTubeで動画を探したら、ブラック・ジャック関連は、
山のように投稿されていた。
動画のコメント欄には手塚治虫の最高作、というようなことも書かれており、
褒めているものばかり。
思った以上にブラック・ジャックは名作として浸透しているような気がした。


その一つ↓

【ブラックジャック】最終回ってどんな話?
手塚治虫全巻チャンネル
https://youtu.be/KUjMCFEcbAg?si=iRl0vCI_mDsnBNSC


もしかしたらブラックジャックは想像以上に定評となっていて、
広く認められているのかもしれない。
コメント欄では手塚治虫も漫画の神様として称えられている。
手塚は死んでもう何十年となるし、ブラックジャックは50年になるから
古くさい、と思われているのかと思った。




ブラック・ジャックのライバル?ドクター・キリコに焦点を当てた動画もあった。
お馴染みの霊夢と魔理沙のコンビで─↓
(無許可だったようで削除されてしまってた(>_<))


【ゆっくり解説】ドクターキリコは良心的な医者!?
知られざる姿等を5つ解説【ブラックジャック】
ゆっくり漫画アニメ雑学ちゃんねる
https://youtu.be/Lsicdecvoo8?si=MQ5LIp6L_yFFak-q

ブラック・ジャックの「思い上がり」を描いた挿話の一つに、
「浦島太郎」というエピソードがある。
眠ったまま何十年も生きている少年の患者を、
ブラック・ジャックとドクター・キリコが治そうとするエピソード。
55年も15歳の姿のまま眠り続け、実際には70歳なのに15歳のままという患者。

ブラック・ジャックが手術をして成功し、青年は目を覚ますが、
目を覚ました途端、急激に老化し、そのまま老衰で死んでしまうという話。
患者は言った
「なぜ僕を起こした?なぜそっとしておいてくれなかった?」

ブラック・ジャックが最後に「俺たちはバカだ」と叫ぶのが印象的な回だ。


何年も竜宮城に留まり、人間界に帰って来て、
煙で一気に老人になる浦島太郎を念頭に書かれたと思うが、
自分はエドガー・アラン・ポーの「ヴァルデマール氏の死の真相」
という作品を連想した。


短い話なのですぐ読めるがすごい恐怖小説で、とても怖い。

催眠術師の主人公「私」の友人(ヴァルデマール氏)が肺結核にかかり、
余命いくばくもない。
医者に今日明日のうちの命、と言われるが、
「私」は友人に催眠術をかけ、死を伸ばそうとする。
ヴァルデマール氏本人と医師たちの了解のもと、催眠術をかけると、
ヴァルデマール氏は死ぬこともなく眠ったままの状態が続く。
その状態で7ヶ月も眠ったまま生きている。

「私」が催眠術にかかったままのヴァルデマール氏に呼びかけると、
始めは
「そうだ、━眠ってるんだ、起こさないでくれ━このまま死なせてくれ」
と喉から絞り出すような声がした。

最後には
「後生だ!早く眠らせてくれ━
でなかったら早く!目をさまさせてくれ!早く!
俺は死んでるんだぞ!」

「私」はヴァルデマール氏の催眠術を解いた。
すると、なんと、
彼の全身は、1分もたたずに縮まり、崩れ、すっかり腐り果ててしまった!
「ベッドに横たわっているのは…(略)液体に近い塊りだった」

という恐怖話である。(恐っ)


手塚治虫がこのエピソードを知っていたか、参照したかどうか分からないが、
目を覚ますと同時に一気に老化が進むのが共通だ。

ポーの小説は恐怖ものだが、
手塚治虫の「浦島太郎」は人の生命の神秘の前には、
医療の技術も役に立たないという教訓が込められているような気がした。






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ブラック・ジャック展

2024年09月08日 | 展覧会・絵

手塚治虫「ブラック・ジャック」の展覧会が
美術館「えき」KYOTOで開かれていたので行って来た。




手塚治虫の漫画の中でも人気作品である「ブラック・ジャック」、
東京からの巡回で、
展示はブラックジャックの生原稿・原画を中心に展開されていた。
(今回は展示品の写真撮影は禁止。
但し美術館へ通じる通路のパネルは撮影OKだった)






パネルは沢山あり、手あたり次第写真に撮った。



美術館えきKYOTO
https://kyoto.wjr-isetan.co.jp/museum/
Museum「EKi」KYOTO ジェイアール京都伊勢丹7階隣接

https://kyoto.wjr-isetan.co.jp/museum/exhibition_2407.html
連載50周年記念
手塚治虫ブラック・ジャック展
50th Anniv. Tezuka Osamu’s BLACK JACK Exhibition
2024.9.1日 - 10.6 日

なんと連載から50年になるという。
思ったより生原稿の展示が多く、
ほぼブラックジャックの膨大な生原稿で埋め尽くされていた。
各エピソードごとに2ページ、もしくは4ページの原画が展示されていた。
その前後の話が分かるようにパネルでおおまかな粗筋も展示。

つい読んでしまい、時間がかかった(>_<)。
見終わるのに2時間くらいかかった。
最近の展覧会でこんなに時間がかかったことはなかった。






「ブラック・ジャック」はコミックスで揃えていたと思うが、
もしかしたら抜けがあったかもしれない。
グッズ売り場には全25巻くらいあった。



展示は虫プロ倒産、というスキャンダラスな逸話から始まる。
劇画が当時の漫画界を席巻し、手塚の漫画は古い、
手塚ヒューマニズムはぬるい、という風潮の中、
虫プロが倒産、借金に追われ自宅を手放し、
手塚治虫はどん底にいた━

当時の少年チャンピオンの編集者のインタビューが、
大きなモニターの映像で流れている。
「手塚の死に水を取る」つもりでブラックジャックの連載を持ちかけた、と。

モニターは他に手塚治虫の長男・手塚真と
長女・手塚ルミ子の映像が流れていた。

手塚真によると、家を手放した時、
一家で狭いアパートに引っ越すのかと思ったが、
一戸建てで庭もあった、のでひもじい思いはなかった、とか。




NHK大阪のローカル番組「ぐるかん」(ぐるっと関西お昼まえ)で
「ブラックジャック展」が紹介されていた。
なんと、その手塚真がゲストで解説していた。
(いっばい裏話が聞けて良かった
真さんも本籍は宝塚にある、とか)

・手塚はほとんど家に帰らず、ずっと制作スタジオにこもりっきりだった。

・「ブラック・ジャック」の連載が始まった時は中学生で、
毎週楽しみにしていた。

これによると手塚真は手塚治虫を父親というより、
漫画家として作品を楽しみに読んでいたようだ。

そして手塚の話を作る能力がすごい、と。
ブラックジャックだけで200話以上あるが、
ひとつの作品で言うと700くらいの漫画を描き、
ひとつひとつの漫画についてエピソードもあるから
全部で数千のお語を作った、と。

手塚自身、アイデアはバーゲンセールに出すほどある、と言っていた。
それくらい物語を生み出す能力があった。
彼の頭の中は一体どうなっていたのだろうと思う。
話を作るのが時に上手すぎる。
だから予定調和すぎたり手軽なヒューマニズムに寄り過ぎたりもした。
手塚は多作だった。
だから名作も多いが駄作も多かった。

「冬の時代」であったどん底の時代は本人が述懐している通り陰惨で、
グロテスクに偏った作品もあった。

「ブラック・ジャック」の連載が始まり、徐々に評価されてゆくと、
それが手塚復活のきっかけとなったのだった。








手塚真はそれまで医者が主人公の少年漫画はなかった、と言っていた。
確かに(青年向けはともかく)少年漫画、子供向け漫画は、
スポーツ選手のヒーローやSFアクションのヒーローなど、
ヒーローものが多かった。
大人の男性が主人公になることも珍しかった。
当時、医者という職業を少年漫画の主人公にしたことは画期的だった。

「ブラック・ジャック」以降、医者が主人公の漫画が増えたり、
様々な職業の人物が主人公として描かれるようになったのは、
「ブラック・ジャック」の影響ではないか、と思っている。








さて「ブラック・ジャック展」では手塚治虫の医師免許も展示されていた。
賞状で、手塚治と書かれていた。

そして医学生時代の顕微鏡を覗いて描いたスケッチも。
それが後年のブラック・ジャックの医療場面に生きて来るのだと思った。


生原稿は思っていたより小さかった。
少年雑誌の大きさより2割くらい大きいと思っていたが、
雑誌と同じような大きさだった。
小さいコマの中にとても丁寧にキャラクターが描かれている。



手塚真の言っていた通り、線描がとても美しい。
キャラクターを描く線が自在の太さで、
どことなく雪舟の筆遣いを思わせた…。

背景やベタ部分はアシスタントの仕事だろうが、
どこまで手塚の手が入っているのだろう、
キャラクター自体はすべて手塚の手によるものだと思うが、
漫画家の描く線は原画を見るとその美しさがよりはっきりと分かる。


そして手術場面のリアリティも実感したが、
あの内臓などを正確に描いた手術場面も
当然手塚自身の手によるものだっただろうから恐るべし。





しかし展示を見ているうち、つい読んでしまい、
ああこのエピソード、あったなあ、とか
このエピソードは好きだった、とか、
ついつい物語に引き込まれてしまい、
夢中になり時間をかけて読んでしまった。


宇宙人が登場するエピソードなどは突飛な発想なので、
きわ物になりがちな所を人情ものにまとめるなど、
手塚のストーリテラーぶりが発揮されていたと思う。

それと登場人物の動かし方のうまさ。
手術代金を値切りつづけるケチなキャラクターによって
(この手術は別料金か?と聞いたり💦)、
よりブラック・ジャックの思想が浮かび上がる仕掛けだったり。







手塚マンガの中でも、
ブラック・ジャックに焦点を当てた展覧会が開かれるということは、
それだけ人気があることでもあるだろうが、
恐らくリアルタイムでは読んだことのない若者に向け、
手塚マンガを体験してもらいたいという思いもあったのかもしれない。

手塚プロダクションの労力を総結集した膨大な生原稿の数々と
パネル内容の選択に熱意を感じることが出来た。







グッズ売り場では久しぶりに展覧会グッズを買った。
ブラック・ジャックのマスクケース大のマルチケースとキーホルダー。
クリアファイルは売ってなかったのでマルチケースにした




ぐるかんで手塚真が言っていた、
ドクター・キリコとのからみで京都が登場する、
というのを展示を見ているうちすっかり忘れてしまっていた(>_<)。
会期中にもう一度行ってみようかなあ💦。
今度こそ、読むより絵を堪能したいので…。






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みうらじゅんFES in京都

2024年08月07日 | 展覧会・絵
美術館「えき」KYOTOで、
「みうらじゅんFES マイブームの全貌展in京都」という、
驚くべき、呆れるような展示会をやっていた。
みうらじゅんにはどういうわけかシンパシーを感じるので、
この馬鹿げたというか、
ガラクタばかりを集めたとしか思えない💦展覧会へ行って来た。

(自分もそんなにいらないのに無料うちわを沢山集めていたり、
美術展のチラシを捨てず、ずっと保管していたりしているので💦)
(京都出身者でもあるし)

美術館「えき」KYOTO
https://kyoto.wjr-isetan.co.jp/museum/


https://kyoto.wjr-isetan.co.jp/museum/exhibition_2406.html
みうらじゅんFES 
マイブームの全貌展 in京都
2024.7.13 土 - 8.25 日

この展覧会はツアーであるらしく、各地を回っているという。



展覧会のメインビジュアルは
みうらじゅんのかわいいイラストが描かれているが、
本物はもっとむさくるしい(>_<)




マイブームやゆるキャラの名付け親としても名を馳せているが、
みうらじゅんの活動は多岐にわたる。
というより、趣味を仕事に出来た幸運な人という印象だ。




美術館の入口へ行く通路にはみうらじゅん飛び出し坊やのほかに
遺影が飾られている。



それを見ると単なるコレクションの展示ではないことが分かる。
みうらじゅんという、一人の人の人となり、思想、
生涯で残して来たもの。
みうらじゅんという人間を丸ごと表現している展示なのだった。



彼の集めているコレクションは他人にはどうでもよい、
ガラクタばかりのように思えるが、
しかし本人にとっては意味のあるものである。
積もり積もってそれらの大量のクズ?がみうらじゅんを形成しているのである。


ところどころにみうらじゅんの等身大フィギュアが置いてあったが、
それもみうらの人そのものの展示であることを強調したいからだろう。
膨大なコレクションによってその人が浮かび上がるのである。




会場内は一部を除き撮影OKだった。
撮影NGの部分もあったが、なぜNGなのか分からないくらい、
他の部分と同じようなどうでもよいパートだった((´∀`))
そうして客は殆ど写真を撮っておらず、
撮影をしているのは自分一人くらいだった(>_<)




この展覧会ではまず、子供の頃の絵画や漫画から展示されている。
みうらじゅんの人となりが分かるように。
子どものころからマイブームに憑りつかれて来た人物なのだった。



漫画家気取りブーム、エッセイスト気取りブーム、
仏像スクラップブーム・・・etc,etc...
とくに仏像スクラップの完成度には驚きを隠せない。
(まだ少年時代のもの)


みうらじゅんのスクラップは偏執狂的でさえある。
いや、律儀というか丁寧というか、
ここまで完成度が高いとひとつの作品と言ってもいい。
今でもみうらはスクラップを続けているらしく、
コクヨからゴールドのスクラップブックを贈呈された。



それほどスクラップはみうらにとって重要な作業である。
才能だと言える。


子どものころからマニアック、オタク気質を発揮していて、
大人になっても…いや、やがてそれを職業にまでしてしまった。
それはそれで才能だと言わざるを得ない。


自分の受験票まで残している(◎_◎;)
志望はデザイン学科、などと書いてあるから、
もともとグラフィック関連が好きだったのだろう。




初見はこれだけよく集めたなあと驚き呆れるばかりであり、
凄みというか、凄まじさすら感じる。
天狗に関するもの、金プラ、用をなさないような栓抜き、
ゴムへびのおもちゃ(大量)、土産物のご当地掛け軸、
観光地のへんてこな絵ハガキ(カスハガ)、飛び出し坊や、
甘えた坊主、カニパンフ、
などなど…。





それらのコレクションをみうらは(自分の中の)ブームと名付け、
テングーブーム、カスハガブームなどと呼んで大事に愛でているのである。

普段はこれらのコレクションは倉庫に入れているというが、
ガラクタがこのように美術館で整然と飾られているのを見ると、
何か価値があるようにさえ思え、これらのガラクタがとてもうれしそうで、
日の目を見て喜んでいるかのようである。


コレクションの中でとくに気に入ったのは英字の入った紙バッグのコレクション。
紙バッグは自分もなぜか捨てず、押し入れに溜まったままだが、
なるほどこのように的を絞って集めれば良いのだと気がついた(笑)。



般若心経ブームのパートは、見たいと思っていたもの。
街の中で般若心経の一文字ずつを探して写真に撮り、
お経を完成させるという(一人)プロジェクトだ。
半分しか写ってないが、下の解説札には般若心経全部が載せてある。
こういう酔狂なことに手間をかけるのがみうらじゅんの真骨頂だろう。




冷蔵庫に貼る水道屋のマグネットのコレクションも悪趣味ではあるものの、
大量に集めて整然と飾ってあると、ある種の凄みがある…。
中にみうらじゅんのマグネットがあるのがご愛敬だ。
(わざわざ作ったのかも?)



みうらはイラストレーターでもある。
いや、元来、イラストレーターとして知られているはず。

「見仏記」のイラストがずらりと並んでいた。


それだけではなくいろんなイラストが展示されていたが、
ポップな部分と写実的な部分が入り混じった独自の画風である。
ギャグ漫画家でもあるが仏像などは写実的に描きたいらしい。



圧巻だったのはコロナ画である。


コロナ禍の期間中、外に出ることが出来ないで家で籠っている間、
作品を描き続けたらしい。
パネルではなく、本物だろう。


展示室の壁一面に張り巡らされたカラフルな作品は、
各パートごと仕切りがあり、
一つの小さいパネルごとに描かれているが、繋げて描かれてもいる。
まずその大きさに圧倒されたが、細かさにも驚かされた。


描かれているのはみうらじゅんの好きなモチーフばかりで、
様々な仏像が描かれているのを始め、彼の好きなボブ・ディランや
ラクエル・ウェルチ、デヴィッド・ボウイ、松本清張など様々な人物像、
青江三奈や一昔前のグラビアアイドル、
その他数え切れないモチーフがびっしりと埋め尽くされた大作である。
その迫力、みうらじゅんの異才ぶりが発揮されていた。


モチーフは通俗的で低俗なものばかりだが、
壁一面の大作の迫力にただならぬものを感じる。



そばにモニターがあって、
みうらじゅん本人が登場して「コロナ画」のモチーフの解説をしていた。
いつものように飄々とした語り口で、何気なく喋っているが、
本人でなければ気づかないディテールを細々と説明していた。
時間があったとはいえ、相当な労力が要っただろうに、
相変わらず冗談かのように軽く喋っている。
そしてこれで終わりではなく、コロナ画はまだ続くような話もあった。


この「コロナ画」を見て、ポップアートを思い浮かべた。
市販の商品や宣伝広告をそのまま描いたり、
マリリン・モンローの写真をシルクスクリーンで刷ったアンディ・ウォーホール、
漫画の一コマを拡大してカンバスに描いたリキテンスタイン、
通俗的なテーマを描きつつアートにまで高めたアメリカのアーティストたちを。

どんなテーマであれ、これだけ手が込んでいればそれはアートになるのだ。
みうらじゅん畢生の大作が生まれたと言ってもいいだろう。



美術館えきKYOTOの来月の展示はブラックジャック─
これも楽しみ







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