伊佐子のPetit Diary

何についても何の素養もない伊佐子の手前勝手な言いたい放題

カナレットとヴェネツィアの輝き

2025年03月07日 | 展覧会・絵

イタリア18世紀の画家・カナレットは精密な都市景観図で有名である。
都市が発展するにつれ、西欧の風景画は単に自然を描いた田園風景のみではなく、
都市の景観も描き出すようになった。

「ヴェドゥータ」と呼ばれるカナレットの景観図は、しかし、
必ずしも単に現実を忠実に写生しただけではない。

現実にはあり得ない建物を一つの画面に組み合わせたり、
名所を一つ所に集めたり、建物ごとに目で見た角度が違っていたりと、
現実の写生ではないが人々が見たいと思っている、
理想の風景を描き出したと言われている。




京都文化博物館がこうした西洋絵画の展覧会を催すのは珍しい。
今回はカナレットとヴェドゥータの歴史的展開を、
「日本初の大規模展」として開催した。


京都文化博物館
https://www.bunpaku.or.jp/


カナレットとヴェネツィアの輝き
https://www.bunpaku.or.jp/exhi_special_post/20250215-0413/
2025.2.15(土) 〜 4.13(日)




カナレット(1697―1768)は好きな画家の一人と言ってもいい。
始めて見たのは何かの画集での図版だったと思うが、
都市・ヴェネツィアの景観を描いたリアリズムの風景画・景観図なのに、
どこか幻想的で不思議な感じがした。
そこに惹かれたのだと思う。
何より通常の自然を描いた風景画ではなく都市図というのに惹かれた。


文化博物館の展示はまずエレベーターで4階へ上がり、3階へと降りる。
写真撮影が禁止と表示されているもの以外は撮影が出来た。
おおむね撮影可能だった。




カナレットは18世紀イタリアの画家で、ヴェネツィア共和国で活躍した。

当時、貴族・上流階級でグランド・ツアーというものが流行った。
グランド・ツアーとは、17世紀末ころから始まったそうで、
支配階級の貴族の子弟たちが卒業旅行のような形で行う長期旅行のことで、
ヨーロッパ各地を旅することが流行った。
とくに英国で最盛期を迎え、
目的地はフィレンツェやヴェネツィアを擁するイタリアが人気だったという。

そこでイタリアの旅の記念やお土産として、
イタリアの都市の景観図を描いたヴェドゥータを買い求める子弟が多くなった。
写真のなかった当時はヴェドゥータがあたかも観光地絵はがきのような役割をして、
重宝されたのだ。
とくにカナレットの景観図はイタリア土産として大人気だったそうだ。





展示はまずカナレット以前の都市景観を描いた画家たちの作品から始まる。
地図のような都市鳥観図やティエポロなどの作品があった。

次の部屋にカナレット作品が並ぶ。



《モーロ河岸、聖テオドルスの柱を右に西を望む》1738年頃


遠近法を用いた都市景観図は壮大で手前には人物像も描かれ、
精細を究めている。
旅の記念やお土産に買い求められたのを実感する。
明るい色彩で都市の光景が描かれていて、
まるで写真のようだが実際の建物とは配置が違うようだ。




「昇天祭 モーロ河岸のブチントーロ」
沢山あるヴェネツィアの祝祭の一つ、キリスト昇天祭で、
ブチントーロという御座船での儀式を描いたものという。
開放的な空のもと、華やいだ様子がとても壮麗だった。
額縁が豪華なのも印象的だった。

カナレットの作品は写実の極致のように思えるが、
それでいてどこか現実離れしていて幻想的でもあると思える。
写実を究めると現実を超えるのだろうか。
都市そのものがキラキラ輝いていて、
調和しておりそれが理想の景観と見えるからだろうか。



「ローマ、バラッツォ・デル・クイリナーレの広場」
ローマの広場を描いた作品は、
巨大な建築を描いた何気ない風景画のようだが、
左手前の2基の騎馬像が人物たちと比べてありえないほど巨大で、
そのため不思議な幻想空間が出現している。



ナヴォナ広場を描いた図も写実的で何気ない空間のように思えるが、
細かく細部まで綿密に建物や人物が描き込まれ、
噴水や聖堂の壮麗さをより強調していている。
広場の広い空間が体感できるようだ。



ヨーロッパで戦争が起き、ヴェネツィアへの旅行者が減ったことから、
カナレットは1746年に渡英した。
英国で約10年間も過ごしたという。
英国でも精力的に風景画・景観図を描いた。



テムズ川を描いた図もあった。
何気ない風景画に見えるが橋を中心に、向こう側の建築群、
手前にいくつもの遊興船を浮かべているのがカナレット流というべきかと。



図版で見てかつてカナレットに衝撃を受けたのが、
この「ロンドン、ロトンダの内部」という作品のヴァリアントだったと思う。



巨大な建物の内部空間を余すことなくその巨大さを描き切っている。
ロトンダとは、「円柱形建築物」のことを示すらしいが、
このような建築が現実にあるのかという衝撃と、
細部まで緻密に描かれたリアリズム、
そして円筒が絵の真ん中にあり、それを取り囲むようにカーヴを描く壁面。
何より構図の斬新さに衝撃を受けるとともに強烈に惹かれたのだった。

この作品は私がかつて見たもののヴァリアントだと思うが、
実際の作品を目で見られたのが何よりうれしかった。


3階へ降りるとそこにはもうカナレットの作品はなく、カナレットに続く、
カナレットに影響を受けた画家たちのヴェドゥータ作品が並んでいるのだった。
景観図・ヴェドゥータは流行したので、
カナレットを受け継ぐヴェドゥータの後継者・画家が多く輩出したようだ。



フランチェスコ・アルポットという画家の、
「騎馬像とオベリスクのある空想的ヴェドゥータ」という作品は、
タイトル通り風景の中に騎馬像とオベリスクが描かれているが、
現実の風景ではないだろう。
画家が自然の中にかくあれとオベリスクなどを配置したものと思える。



同じくアルポットの「オベリスクのあるカプリッチョ」は、
現実風景ではなく、オベリスクなどを組み合わせた架空の景観画である。
カプリッチョとは綺想を意味し、現実から離れて
実在する者や空想上のものを組み合わせて構成した架空のものだということだ。
18世紀にはカプリッチョは大いに流行した。




3階のカナレット後のヴェドゥータ作品は、
さすがにカナレットほどの求心力は失われていた気がした。

その後、ヴェドゥータは形を変え画家たちに受け継がれてゆく。
3階の部屋にはよく知られた画家の名前─
ホイッスラーやブーダン、シニャック、果てはモネの名も連なっており、
各画家の作品が展示されていた。



モネもヴェネツィアを描いた。
それはもはや景観図というより画家の技法をどこまでも追求する、
画家の個性を表したものになっていた。




展覧会の後半はカナレットの作品はなく後継の画家たちのものもあり、
カナレット作品としては数は少ないと感じたが、
これまで日本ではあまりスポットライトの当たらなかった景観図・ヴェドゥータが、
展覧会会場の壁に飾られていたのは感慨深かった。







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