二つに見えて、世界はひとつ

イメージ画像を織りまぜた哲学や宗教の要約をやっています。

2 私がいた

2022-07-25 19:44:00 | 光の記憶
 2  私がいた

 つぎの瞬間ものすごい衝撃を受け、私はまるでハジキ飛ばされたかのようにベッドに跳び移りました。なぜなら私は「自分自身」を見たからです。それは圧倒的な感覚でした。いわば“絶対的な確実性”と言えるものです。


 私がいる!
 私が存在している! 

この絶対性とこの確実性です。

 私はこのことを知りませんでしたし、全く気づきもしませんでした。私は自分が存在していることを知らなかったのです。この瞬間に、はじめて、自分の存在していることを知ったのです。
 
 もうこのあとはメチャメチャです。涙があふれ出てきてどうしょうもどうしょうもありません。フトンに顔を押しつけて泣いて泣いて泣きまくりました。喜びと後悔とが入り混じったものです。

 •••やがて落ち着きを取り戻し、ベッドから降りてティッシュで涙をぬぐい、しばらくの間ボーゼンとしてすわっていました。

 

 すると今度は胸の奥深くからとてもアタタカイものが流れ込んできて、私の心をそのあたたかさで包みこみました。それは感情のようなものでしたが、今までに一度も味わったことがなく、このときに初めて味わうものでした。

 それは「愛の心」であり「慈悲の心」なのでした。この愛、この慈悲に包まれたなら、そのありがたさに誰であろうと涙があふれてこないはずがありません。

 これが  
  愛の心なのか

 これが
  慈悲の心なのか

そう感じつつ、私はまたベッドに移らねばならなくなりました。そして先ほどのように泣いていた最中に、どこからか声が聞こえてきました。

「あの人」が、内から話しかけてきたのです。しかし泣いていたせいもあってか、よく聞き取ることができませんでした。それでもしだいにハッキリと聞こえてきました。
「わたしは•••」と言っているようでした。私はその言葉を記憶しながらあわててノートとペンを探し、それをひったくるようにして、急いで書きなぐりました。そうしてなんとか終わりまで書きとることができました。

 •••言葉は消えてあたりは静かになりました。私は余韻に浸ったままヘタリ込んでいました。内心ではずっとこのままの状態でいたかったのだけれども•••すると少しの間をおいてあの人はささやくように言いました。「わがままを言うな」と。そしてどこへともなく消えてしまいました。

 私は一人取り残されたような気分になりました。私はあんなにハッキリとあの人を見たし、その声も心の内で確かに聞いたのです。しかしもうあの人はどこにもいません。部屋の中は何事もなかったかのように静まりかえり、聞こえてくるのはファンヒーターの音ばかり。

 時間にして30分、いや、さらにもっと短かったかもしれませんが、今しがたの出来事は本当に現実だったのだろうかと思いながらベッドに目をやると、そこには一冊のノートが開かれていて、そこには一編の詩が書き留められていました。私はその詩に題名をつけ、今でも大切にしまっています。 


  私はあなたである


 私は

 道ばたに転がる石、


 そよぐ風、

 ゆれる木々である。


 私は、あなたの

 踏みしめている大地、


 あなたの

 見上げる天空である。


 私は

 あなたの見る光、


 あなたの見る

 暗い闇である。


 あなたの苦しみは

 私の苦しみである。


 あなたの涙は

 私の涙


 あなたの喜びは

 私の喜びである。


 そして

 あなたの幸福こそが

 私の幸福なのである。


 なぜなら私は、


 あなた自身

 なのだからである。



画 パウル•クレー「星の天使」



1あらわれた光

2022-07-25 09:30:00 | 光の記憶

 1 あらわれた光


 20**年1月28日。


 妻は仕事に子供は学校にとそれぞれ出かけたあと、私は一人ノソノソと起き出しました。特別する事もないありふれた仕事休みの一日の始まりです。

 外は寒いし遊びに出かけるのもおっくうなので、昼までゴロゴロして過ごし、午後から自分の部屋にこもって図書館から借りてきた本を開き、ゆっくり過ごしていました。べつに何の変哲もない平凡な日々の、ただ何となく時間が過ぎるだけの休日の昼下がりです。

 物憂くて眠くなるような時が流れます。そんな記憶の片隅にすら残らないはずだったこの日が、このあと一瞬にして、私の人生で最も忘れられない日になったのです。 

 午後の2時を過ぎた頃だったでしょうか、読み疲れたのでヒト息入れようと視線をあげ、ボンヤリと目の前の書棚を見つめていました。

 すると何となく辺りが明るくなったような気がしました。オヤッ? と思う間もなく、不思議な光がどこからともなく射し込んできて、部屋の中が明るくキラキラと輝きはじめたのです。それが普通の光でないことはすぐに分かりました。

 「あの光が現れた!」

「来た!」と思いました。この光は以前に見たことがあったからです。この光に照らされたものすべてはキラキラと輝きだすのですぐにわかるのです。

 じっと見つめていると、部屋にみちていた光がその輝きとともに動きはじめ、スーッとひと所に集まりました。それは、散乱していた光がレンズを通して一点に集まるような、あるいはカメラのピントがピタリと合えば、それまでボヤケて見えないでいたものがはっきりと見えてくるような、そんな感じでした。

 それはスーッと集まり、一つの円のようなまとまった形になりました。それを見た瞬間、私は「オーッ!」と心の中で叫びました。

 それは何とも言いようのない奇妙なものだったからです。その集まった光、それがひとつのかたまり、<意識>のようなものとなり、ひとりの人の「顔」のように見えたからなのです。

 それはじつに不思議な光景でした。光だけでできたひとりの人間の、その<顔>が私の目の前に、それこそ手を伸ばせば届くほどの近くで、空中に浮かんで存在しているのです。

 私はギョッとしました。なぜなら、その<顔>が、その光の中から私を見つめたからです。そして目があった時、さらに信じがたいものを見ました。

 驚いたことに私の見たその人は私なのです! アチラから見つめているのが、こちらにいるこの私なのです。二人の「私」がいて顔を突き合わせて互いに見つめ合ったのです。

「アッ! 同じで別々だ」

これがその時の第一感です。

見ている私と見られている私、意識している私と意識されている私、これが同じ私であり、しかも別々の私だったからなのです。奇妙な表現ですが実際にそう見えるからこれでいいのです。