1 あらわれた光
20**年1月28日。
妻は仕事に子供は学校にとそれぞれ出かけたあと、私は一人ノソノソと起き出しました。特別する事もないありふれた仕事休みの一日の始まりです。
外は寒いし遊びに出かけるのもおっくうなので、昼までゴロゴロして過ごし、午後から自分の部屋にこもって図書館から借りてきた本を開き、ゆっくり過ごしていました。べつに何の変哲もない平凡な日々の、ただ何となく時間が過ぎるだけの休日の昼下がりです。
物憂くて眠くなるような時が流れます。そんな記憶の片隅にすら残らないはずだったこの日が、このあと一瞬にして、私の人生で最も忘れられない日になったのです。
午後の2時を過ぎた頃だったでしょうか、読み疲れたのでヒト息入れようと視線をあげ、ボンヤリと目の前の書棚を見つめていました。
すると何となく辺りが明るくなったような気がしました。オヤッ? と思う間もなく、不思議な光がどこからともなく射し込んできて、部屋の中が明るくキラキラと輝きはじめたのです。それが普通の光でないことはすぐに分かりました。
「あの光が現れた!」
「来た!」と思いました。この光は以前に見たことがあったからです。この光に照らされたものすべてはキラキラと輝きだすのですぐにわかるのです。
じっと見つめていると、部屋にみちていた光がその輝きとともに動きはじめ、スーッとひと所に集まりました。それは、散乱していた光がレンズを通して一点に集まるような、あるいはカメラのピントがピタリと合えば、それまでボヤケて見えないでいたものがはっきりと見えてくるような、そんな感じでした。
それはスーッと集まり、一つの円のようなまとまった形になりました。それを見た瞬間、私は「オーッ!」と心の中で叫びました。
それは何とも言いようのない奇妙なものだったからです。その集まった光、それがひとつのかたまり、<意識>のようなものとなり、ひとりの人の「顔」のように見えたからなのです。
それはじつに不思議な光景でした。光だけでできたひとりの人間の、その<顔>が私の目の前に、それこそ手を伸ばせば届くほどの近くで、空中に浮かんで存在しているのです。
私はギョッとしました。なぜなら、その<顔>が、その光の中から私を見つめたからです。そして目があった時、さらに信じがたいものを見ました。
驚いたことに私の見たその人は私なのです! アチラから見つめているのが、こちらにいるこの私なのです。二人の「私」がいて顔を突き合わせて互いに見つめ合ったのです。
「アッ! 同じで別々だ」
これがその時の第一感です。
見ている私と見られている私、意識している私と意識されている私、これが同じ私であり、しかも別々の私だったからなのです。奇妙な表現ですが実際にそう見えるからこれでいいのです。