二つに見えて、世界はひとつ

イメージ画像を織りまぜた哲学や宗教の要約をやっています。

8 善の光

2022-07-30 20:51:00 | 光の記憶

 私はまるで抽象画の中に入りこんだかのような錯覚に陥りました。先ほどまで見つめていた〈石〉が、いまやそれが何であるのか全くわからなくなったのです。

 確かに目の前にあるので見えることは見えるわけですが、実に奇妙な見え方なのです。〈石〉としては見えずに、ただ他の場所と色が違うという区別があるだけなのです。

 言葉が失われてしまい、考えることが困難になりました。それは今まで当たり前のように呼吸していた人が、突然空気のない場所に入ったようなもので、いくら息をしようとしてもできないのと同じように、考えようとしても考えることができなくなったのです。 
 
 このような経験ははじめてなので自分の身に何か異変が起きたのではないかと不安な気持ちになり、かなり動揺しました。考えることができないということは恐怖なのです。

 まるで窒息する人がもがくようにもがき、そして記憶の中から何とか探し出し、やっとのことでソレが〈石〉であると思い出すことができました。

 その時です、ソレに向かって私が何と言ったと思いますか?私はこう言ったのです

 「お前は石になれ!」

さらに続けて私は言いました。

 「お前は、生きよ!」

そしてなぜか息をフーッと吹きかけました。すると驚いたことに、その石が飛び跳ね出したのです。まるで生き物になったかのようにジャンプするのです、ぴょんピョンと。
さらに私はそばにあったサザンカの木に向かって言いました。 
 
 「お前も、生きよ!」

そして同じようにフーッと息を吹きかけました。するとサザンカの木が踊り出したのです。枝を揺らしてダンスをはじめたのです。

   

私はアッケにとられて見ていました。私は自分が神になったかのような気がしました。
  
  その瞬間でした。
   
 8 善の光

 これまで見たこともない清らかな、それでいて強烈な光に私の全身が照らし出されたのです。

 あたり一面が高貴な白い光に覆われました。美しい光が広がり、光以外に見えるものは何もありません。  

 ただ一箇所だけ、私のうしろがポカリと穴があいたように黒くなっていました。
「何だろか?」とのぞきこむと、それは人間の形をした意識だったのです。

そしてその意識はナント
「私」だったのです。

 私は私を見たのです。しかしそこに見た私は、いままで見た私とは違っていましたそれはまさに〈悪魔〉と呼ぶのがふさわしいようなグロテスクなものでした。そのあまりのキタナサ、不潔さに、私は見たと同時に“ウッ”と顔をそむけました。こんなきたないものを今のいままで「自分だ」と思い込んでいたのです。

 •••気がつくと私は歩道を歩いていました。私のほかには誰も歩いている人はいません。通る一台の車もなく、あい変わらず音もしないのです。ボンヤリ歩きながら私は思いました。「すべてが終わった。完全に救われた」と。

 するとどこからか声がしました。「受け取れ!」とはっきり聞こえました。私は反射的に「ハイ!」と言ったのですが、何を受けとったのかは今でもわからないのです。

 空を見上げるとドンヨリとした曇り空でした。映画の終わりのシーンのように雲の間から神々しい光が射してくるかとジット見ていましたが、そういうことは起こりませんでした。

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 その日の夜のことです。フッと気がついたのですが、頭の中を猛烈な勢いで信号が駆けめぐっているようなのです。この日の出来事を一体どのように理解すればよいのか
私の脳が当惑しているのだと思いました。

 駆けめぐる信号のせいで脳がコソバユイ感じがしましたが、これは3日ほど続いておさまりました。

 無意識下ではまだドラマが続いているようですが、もう私の意識には入ってきません。私の宗教ドラマは終わったようです。


画 パウル•クレー「新しい天使」