昔、床下に糠樽が収められていて、母親が床板を外して糠樽の中から漬物を出して食卓に並べてくれた。
夏のころにはキュウリの糠漬けが定番で、糠漬けだけで飯を掻き込んだものだ。
八百屋のキュウリが安くなる晩夏には、外に置かれた一斗樽には塩蔵されたキュウリが樽いっぱいに漬けこまれていた。
40kgほどの重さがある御影石が乗っていて、母親では持てなかったから、重石を上げ下げするのは私の仕事だった。
懐かしい母親手製の古漬けキュウリを真似て仕込んではみたものの、あの母親の味にはならない。
何が違うのか、もう3年も繰り返しているが、まったく別物の仕上がりだ。
母親が生きている間に、仕込みの技を聞いておけば良かった。