鏡海亭 Kagami-Tei  ウェブ小説黎明期から続く、生きた化石?

孤独と絆、感傷と熱き血の幻想小説 A L P H E L I O N(アルフェリオン)

生成AIのHolara、ChatGPTと画像を合作しています。

第59話「北方の王者」(その1)更新! 2024/08/29

 

拓きたい未来を夢見ているのなら、ここで想いの力を見せてみよ、

ルキアン、いまだ咲かぬ銀のいばら!

小説目次 最新(第59)話 あらすじ 登場人物 15分で分かるアルフェリオン

第54話(その3) 尽きる命

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第54話 その3
 
 何らかの神を祭った聖堂、それとも、ある種の聖域を思わせるような、よく磨かれた白い石造りの廊下のあちこちに、壁や柱の隅から次第に這い出してきた夕刻の影は、近づく落日に応じてその懐を広げている。静寂を揺るがせ、足早に駆け寄る音。これに対してもうひとつの足音が止まり、そして、荒い息遣いとともに、ひとりの《女》の甲高い声が、高い天井とそれを支える柱列の間に響いた。
「ねぇ、待ってよマスター! どうして、いつまでも……」
 言葉の調子はさらにヒステリックになり、声の高さも一段上がる。
「いつまでも、いつまでも、なぜ、あんな《廃棄物》を処分しないのさ!?」
 ふんわりとした水色の簡素な上着を羽織った銀髪の若者、いや、よく見ると銀髪の娘が、自身よりも遥かに長身かつ頑健な僧衣の男を見上げ、青い瞳で睨み据えている。
「何とか言って、マスター! マスター・ネリウス」
 ネリウス・スヴァンは振り返りもせず、その体躯に似合わぬ小さな声で答える。
「ゼロツー、あれのことは捨て置け……」
 不満そうに何か言おうとしたヌーラス・ゼロツーに対し、ネリウスは繰り返す。今度はもう少し大きく、低めの声で。
「捨て置けといったのだ。《片割れのアーカイブ》など、放っておけば、じきに消える。わざわざ追うだけ時間の無駄だ」
「そんなこと言っても、あの女はもう何年も生き延びているじゃないか。それで、普通の人間のように安逸をむさぼって……」
「それでも長くはもつまい。完全でない限り、《アーカイブ》は《執行体》よりも不安定な存在。もともと単独では現世に定着し難い。それに……」
「それに?」
 なおも不満に満ち溢れたゼロツーに対し、ネリウスは一息おくと、諭すように言う。
「かげろうのような儚い命のあれに、せめて一瞬の悦びくらい、許してやっても悪くはなかろう」
「……はぁ? あはは、おかしいね。それ、本気で言ってる?」
 挑発するような物言いの後、ゼロツーは首を傾げるそぶりをした。
「本当にマスターは甘いよ。これまでに数え切れないほどの人間を泣かせ、それどころか虐殺してさえいるのに、まだ甘さが抜けない。一体、どうしてなのかな」
 彼女がそう言い終わる前に、無視して離れようとしたネリウス。
「でも、マスターのそんな強そうで脆そうなところも、大好きなんだけど」
 憎悪の眼差しから瞬時に一転、青い目は妖艶な光を帯びる。ゼロツーはネリウスの腕を取ると、絡みつくように胸を押し付け、甘えた声でささやいた。
「ねぇ……。あんな《廃棄物》にまで慈悲をかけるなら、僕にも、少しぐらいは愛をちょうだいよ」
「やめろ、エリス。いや……ゼロツー」
 ネリウスは、無表情に自身からゼロツーを引きはがすと、言葉もなく立ち去った。
 
「……ったく。これだから聖職者(坊さん)は。僕だって、いつ死んじゃうか分からないのに」
 
 夕闇がまた近づいた。
 薄暗がりの中にひとり取り残されたゼロツーは、声を喉の奥に詰まらせたかのように、引きつり狂気じみた笑いを漏らすのだった。
 
 ◇
 
「遅いなぁ。せっかくのスープが冷めちまう」
「そうですね」
 ブレンネルとルキアンは、顔を見合わせて誰かを待っていた。彼らはこれから夕食のようだ。白いテーブルクロスの掛けられた、折り畳み式の木製の食卓には、大皿に乗った鳥の燻し肉を中心に、豊かな森の恵みを生かしたキノコや山菜の煮物、同じく近隣の谷川で獲れたであろう魚、玉ねぎを思わせる根菜の入ったスープ、チーズにソーセージなど、素朴ながらも多様な料理が並んでいる。
 それらを目の前にして「おあずけ」の状態となり、ブレンネルは今か今かと体を揺すっていた。対して食べ物にはあまり思い入れがないのか、ルキアンはおとなしく椅子に座っている。
「まぁ、仕方がないか。あの年頃の子の着替えには、何かと時間がかかるんだろう。特にお洒落したいときには。《おにいさん》に見せたいだろうしな」
 ブレンネルは顔を上げた。その先に天井のかわりに広がっているのは、料理に負けず劣らず素晴らしい星空だ。日中は快晴であった今日、晩の澄んだ夜空には無数の星々が、それこそばら撒いたかのように散らばっている。なおかつ、即席の野外食堂は渓流沿いの河原に設けられており、流れる水の音も心地よい。
 
「ごめんなさい。慣れない服だったので、遅くなりました」
 燭台の明かりに照らされ、そう言ったのはエレオノーアである。隣には追加で料理を運んできたリオーネが立っている。
 声の方に目を向けたルキアンは、どういうわけか、そのままの姿勢で動かなくなってしまった。何か信じられないものに遭遇したときのように。ブレンネルは、これは参ったという顔で賞賛の口笛を吹いた。
「あの、それで」
 ルキアンと目が合ったエレオノーアは、頬を薄紅に染め、うつむき加減で尋ねる。
「この服、似合ってますか? おにいさん」
「も、もちろん……」
 当然に肯定しようにも、ルキアンは息を呑み、返答のための言葉を失っている。先ほどまでのエレオンの姿とはうって変わって、白いワンピースに身を包み、髪の流れを櫛でよく整え、衣装と同じく純白のリボンを添えた彼女は、ルキアンのいまだ知らなかったエレオノーアである。その変わり様には、好感を通り越して恐ろしいところすら感じられる。輝く銀の髪、神秘的な青い光を帯びた瞳も、その魔性の力をいっそう増したように艶めいた。
 ――どうしよう。今のエレオノーア、真っすぐ見られないよ……。
「ほら、もう格好いいところをルキアンに見せたんだから、食べ物の汁で大事な一張羅を汚さないよう、これでも付けておきなさい」
 そう言ってリオーネは、質素な木綿のエプロンを手渡した。
「先生、何ですか、これ。ご飯前の子供みたいに」
 文句を言いながらもエプロンを身につけ、エレオノーアはルキアンの隣の席に座った。腰を下ろしてから、遠慮がちに、ひそかに体を寄せる。
「やった、おにいさんの隣です!」
「ど、どうぞ……」
 背筋を伸ばし、ルキアンがわずかに身震いした。ただ、その表情はエレオノーアへの温かな想いに満ちていた。
 そんな二人の様子を見守るリオーネの眼差しも、いつもより優しく、また嬉しそうでもあった。
「さぁ、みんな。用意はいいかい」
 彼女に促され、ブレンネルがグラスを手に取り、軽く持ち上げた。続いてルキアンとエレオノーア、そして最後にリオーネが祝杯の用意を終えた。彼女は目でルキアンに合図をする。彼は不慣れな調子で音頭を取った。
「あ。は、はい。それでは皆さん。今日の日に……」
 リオーネがしきりに黙って口を動かし、ルキアンに何か言えと伝えている。それに気づいて苦笑いしたルキアンは、隣のエレオノーアに微笑みかけ、二人の目が合ったところで穏やかにつぶやいた。
「エレオノーアの未来に」
 四人の声が見事に合わさった。
「乾杯!!」
 まずリオーネが豪快に飲み干す。彼女のこだわりで、最初の酒は、薄桃色に澄んだ泡の立つワインになったようだ。話によれば、タロス共和国の某修道院で作られた貴重なものらしい。
「あぁ、生き返るね。これぞ生命の水だよ。近々こんなこともあろうかと、わざわざ街の市場で買っといてよかった」
 騎士は引退しても、酒豪としてはまだまだ現役のようである。続いてブレンネルも一気に杯を空にし、皆が気勢を揚げた。
「いやぁ、旨い! 昨日今日は大変だったから、一通り終わった後の酒は格別だな」
 ちなみにイリュシオーネでは、地域や身分によって多少の差はあれ、15、16歳程度になれば基本的には成人である。18歳のルキアンはもちろん、エレオノーアも多少童顔だが歳自体はルキアンとあまり変わらないだろうから、普通に飲酒をしていておかしくない年頃である。だが不慣れな二人は、薬でも舐めるように神妙な顔をしてグラスを傾ける。お互いのそんな格好が何だかおかしくて、二人は無邪気に笑い合っている。
 彼らを母親のような眼差しで見守りながら、リオーネは大きめのナイフを手に、自慢げに言った。
「今日は魚は釣れなかったみたいだけど、先日たまたま手に入った上等の燻製がある。ほら、ごらんよ」
 鴨か雉のような野鳥を燻したものだろう。表面に飴色のつやを浮かべ、鼻の奥をくすぐる香りを漂わせた丸ごと鳥一匹のスモークが、テーブル中央の皿に載っている。今宵の食の主役を果たそうとしているかのようだ。
 リオーネが慣れた手つきで切り分けるのを、ブレンネルが待ち構える。その表情が思いのほか真剣で、第三者が見たら噴き出してしまいそうだった。
「パウリさん。お魚でよければ、こっちにも燻製ありますよ」
 小山のごとき燻製鳥に遠慮したのか、机のもう少し端の方に置かれた皿には、スモークサーモンに似た魚肉の薄切りが、野菜と一緒に何切れも盛り付けられている。それを指さし、エレオノーアが小声で告げた。
「お、おぉ、これはこれでなかなか。渓谷の地ならではの逸品だな」
 すぐさま味見を始めたブレンネルを尻目に、エレオノーアも燻製一切れをフォークで取ると、そのまま手を伸ばし、ルキアンに差し出した。
「実はですね。これ、私が釣って、私が燻したお手製なんです。おにいさん、どうぞ!」
 フォークを口元に突き付けられるかたちとなり、ルキアンは餌を待つひな鳥のように、エレオノーアから直接、手作りの燻製スライスを口に運んでもらうこととなった。そんな彼らのやり取りを眩しそうに眺めながら、ブレンネルが笑って冷やかす。
「おうおう。見せつけてくれるねぇ」
「本当だよ。何か、いい感じの二人じゃないか……」
 便乗したリオーネの言葉に、エレオノーアは、してやったりという顔で何度も頷き、逆にルキアンは顔を赤くして固まっている。
 
 昨日のルキアンたちの状況では想像もされていなかった、思いがけぬ愉しげな晩餐はさらに続いた。こうした集いにおいて、よく分からないタイミングで、宴席がなぜか偶然に静まり返る瞬間が時々ある。そういうとき、神や精霊が通ったのだと、昔の詩人は描写したものである。そして、今ここでも、不意に皆が静まり返った。にぎやかに飲み食いする彼らをのぞけば、深い谷間のこの場所では、今日のような静かな夜に音を立てるものは、すぐ側にある渓流のせせらぎくらいであろう。
 冷涼な谷間の流れが奏でる、さらさらとした響きを背景に、エレオノーアの声だけがぽつんと響いた。
「わたし、幸せです」
 残りの三人は食事を続けながら、彼女の言葉に頷いている。
「はい。とても幸せです」
 先程と同様に、三名は黙って頷いている。
「わたし、こんなに幸せです」
 なおも……。
 だが次の場面で、エレオノーアは突然大声で泣き出した。
「私、わ、わたし、こんなに幸せで、こ、こ、こんなに幸せで……いいのかな!?」
 不意に号泣し、周囲も気にせずとめどなく涙を流して、天を仰ぎ見るエレオノーア。
 ルキアンは慌てて胸元からチーフを取り出し、彼女の涙を拭おうとする。だがエレオノーアは首を振って断ると、三人の目をはばからず泣き続けた。
「おにぃ、さん……」
 嗚咽が止まらず、エレオノーアは、倒れ込むようにルキアンの胸元に顔を埋めた。そして彼にしか聞こえないようなささやき声で、ある物語を伝える。
「あの白い花、ヴァイゼスティアーの話。続きがあるんですよ。花になった最後の一粒の涙のこと。魔界の側に堕ち、人間の世に背を向けて闇の英雄となった黒騎士、フィンスタルという人の残した言葉。《次の世では、きっと》。どういう意味だと思いますか、おにいさん」
 エレオノーアは不意に顔を上げた。涙を目に溜めながらも、真剣なまなざしで。
「人は言います。フィンスタルは、次の世では、今度こそ聖女と結ばれると……。彼自身も死の間際にそう願ったのだと。でも私は、そうは思いません」
 強い意志の力を宿した瞳だ。エレオノーアの真摯な語りにルキアンは気後れしそうになるほどだった。
「私は勝手に信じているのです、おにいさん。フィンスタルには、聖女様よりも、もっと彼にふさわしい人がいたかもしれないのです。いや、いたと思います。でも出会えなかった。彼の生きた世では二人の道が交わることはなかった。だから次の世では必ず、もう迷わずにその人と巡り合えるようにって、私はそういう意味だと思ってきたのです。ううん。もっといえばですね、フィンスタルはきっと生まれ変わって、今度は、彼と同じような黒い瞳の、似たようなちょっと物悲し気な顔をした闇の一族の娘と、静かに微笑みながらいつまでも幸せに暮らしたのです。はい、そうに違いありません」
 色々と思い込みの強い彼女の言葉に、ルキアンは、つい自分自身の妄想癖を重ねていた。沈黙したままのそんなルキアンの気持ちが、エレオノーアには自然と想像できたようだ。彼女は涙を拭いて、いくらか無理のある感じで作り笑いを浮かべてみせた。
「私はそういう都合の良い物語を作って、独りで満足していたのです。私はずっと、おにいさんのことを想って……でも、たまには絶望し、あきらめそうにもなりました。そんなとき、私は、逃げ道を作るような気持ちで、無理に自分に言い聞かせようとしました。たとえおにいさんと会えないまま死んでしまっても、今度生まれた時には必ず出会える、と。私のお話の中の、フィンスタルのように」
 ヴァイゼスティアーの白い花に、エレオノーアがそのような想いを込めていたと分かって、ルキアンは、あのとき彼女の振る舞いに戸惑って真剣に話を聞いていなかったことを、申し訳なく思うのだった。エレオノーアが差し出した花の姿を、彼は再び思い出そうとする。
 ふと、そこで我に返ったルキアンは、いつの間にかリオーネとブレンネルが川の方に降りて立ち話をしているのに気付いた。グラスを手に、とりとめのない思い出話をしているようだが、多分、ルキアンたちに気を使って席を外してくれたのだろう。まだ肌寒くもあるが、夜の清流沿いはとても心地よさそうだった。
「エレオノーア、僕らも、川の方に行ってみようか」
 ルキアンはそう言って立ち上がり、エレオノーアに手を差し出した。
「はい、おにいさん」
 エレオノーアも嬉しそうに手を取り、立ち上がろうとするが。
 
「あ、あれ?」
 突然、エレオノーアの声が震えた。
「あれ? おかしいな。何、これ……」
 戸惑いを口にする余裕もほとんどなく、彼女は椅子から崩れ落ちそうになる。ルキアンと手をつないでいたおかげで、何とか転げ落ちずには済んだ。
「おにい、さん?」
 エレオノーアは、ふらふらと椅子に座り直そうとするも、腰を下ろすことさえできず、気を失ったようにルキアンに抱き留められた。
「エレオノーア! どうしたの!?」
「え、え、え? おにいさん、私、私、これ、どうなって……」
 暗がりの中、エレオノーアの身体が青白い光を放ち始めた。気が動転して、彼女の気持ちは、まともに言葉にさえならない。ルキアンの視界の中で、エレオノーアの身体が揺らぎ、輪郭がぼんやりと薄れていく。ルキアンは思わず目を擦ったが、まぎれもなく、いま実際に起こっていることだ。
「え、やだ、ちょっと、待って! わたし……わたし、消えちゃう? い、いや、いやです!!」 
 エレオノーアがなりふり構わず叫び始めたので、リオーネとブレンネルも、ただ事ではない様子に気づいた。二人が駆け寄る中、ルキアンはどうしてよいのか分からず、ただただ、エレオノーアを抱きしめた。だが、腕の中にある大切なエレオノーアの感覚が、次第に虚ろなものに変わっていく。そしてリオーネたちが隣まで来たときには、ルキアンの胸には、もうエレオノーアの体のぬくもりも、確かな存在感も、ほとんど残っていなかった。
「エレオノーア! 何があったんだい!?」
 事情はともかく、エレオノーアの命にかかわる事態であることは、リオーネにも分かる。ブレンネルはルキアンを心配し、彼の背中を支えるように後ろに寄り添った。
 すると、今まで慌てふためいていたエレオノーアが急に落ち着き、風の音のような、しかし人の声で、静かに伝え始めた。
「私、消えちゃうみたいです……。いつか、こんな日が来ると覚悟はしていました。《片割れのアーカイブ》は、《聖体》の定着が不安定なため、独りでは長く存在できないのです」
「だめだ、消えないで、エレオノーア!!」
 しかしエレオノーアは、ルキアンの言葉に対して悲しげに首を振ると、もはや悟ったような口ぶりで答える。
「私だって、消えたくないです。生きたいよ……。だけど、私を作り出すために生贄にされた人たちは、同じように、生きたいと願いながら、命を奪われていったのですよね。そのこと、ずっと考えないようにしていました。怖かったから。それでも、本当は生きたいです。自分だけ助かりたいという私は、地獄に落ちますか?」
「そんな…そんなこと……。エレオノーアに罪はないじゃないか!」
「ありがとう。だけど、もうお別れのようです、おにいさん。会えて、一日だけど一緒に居られてよかった。それだけで、私は世界で一番幸せでした。でも、もしもひとつだけ願いが叶うなら」
 彼女は、静けさの中に寂しさがあふれ出しそうな、微かな笑みを浮かべた。
「おにいさんのアーカイブになりたかったな……。だって、私は」
 もう生身の体すらなく、影のように揺らめくだけのエレオノーアが、ルキアンに口づけをした。
 最後の言葉を残して。
 
「わたしは、あなただけのために咲く花です」
 
 ひとしずく、実体をもって最後に落ちる涙。
 
 何度も彼女の名を呼び、絶叫し、錯乱状態で首を振るルキアン。彼の腕の中で、エレオノーアが見る見るうちになくなっていく。霧散するエレオノーアをかき集めようとするように、必死に両手で空をつかんだ。だが、彼の抗いは無力だった。
 
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