<PL総括>
文責 3回生I
今回の合宿はこれまで隠れていた様々な課題が一気に噴出した合宿であった。
2022年度は近畿圏の低山で順調に経験を積み重ねていけていたように思われたが、2500mを超える初めての北アルプスであらゆる面で高山の洗礼を受けた形になった。急登や悪天候などで消耗する部員が多く、テント設営やパッキングの不備など練度不足や経験不足が目立った。テント破損等の部としての装備不備のみならず衛生装備や防寒装備などの個人装備の不備も多かった。これまでは何となくで乗り越えてこられたかもしれないが、本当の山では万全の準備が求められるということを身をもって理解できたことかと思う。
問題点ばかり浮き彫りになったが、厳しさを増す夏期合宿や冬季活動の前に大きな事故もなく多くの課題を炙りだせたことはせめてもの幸運だったと言えよう。
<反省と改善>
文責 1回生T
(反省)
- 往路の深夜バスにて多くの班員が寝付けず、初日に寝不足の班員が多発した。
- 体力・練度不足と寝不足が相まってバテ・体調不良の班員が多発し、行動計画に支障が生じた。
- テントの点検不足・破損時の対策不足により、破損したテントを強風の中で使わざるを得ず危険であった。
- 一部班員の防寒装備が不足しており危険であった。
(改善)
- 深夜バス等にて他人の睡眠の妨げになる行動を控えるよう徹底する。
- 体力・筋力向上の為、歩荷トレーニングを中心にトレーニングをより行う。
- 普段から装備の点検を行い、必要に応じ修理・新調を行う。また、リペアツールを山行に持参する。
- 防寒装備についての知識・情報を周知徹底する。
<行動日程>
文責:2回生N
<8月9日>
時間 |
場所・行動内容 |
所要時間 |
6:10 |
上高地バスターミナル発 |
|
7:00 |
明神館・ダウン1 |
0:50 |
7:10 |
同上・出発 |
0:10 |
7:55 |
徳沢・ダウン2 |
0:45 |
8:20 |
同上・出発 |
0:25 |
8:55 |
1793m地点・ダウン3 |
0:35 |
9:05 |
同上・出発 |
0:10 |
9:35 |
2004m地点・ダウン4 |
0:30 |
9:45 |
同上・出発 |
0:10 |
10:15 |
2161m地点・ダウン5 |
0:30 |
10:25 |
同上・出発 |
0:10 |
10:55 |
2285m地点・ダウン6 |
0:30 |
11:00 |
同上・出発 |
0:05 |
11:30 |
2438m地点・ダウン7 |
0:30 |
11:35 |
同上・出発 |
0:05 |
12:10 |
長塀山・ダウン8 |
0:10 |
12:20 |
同上・出発 |
0:10 |
13:05 |
2637m地点・ダウン9 |
0:45 |
13:10 |
同上・出発 |
0:05 |
13:30 |
蝶ヶ岳ヒュッテ・行動終了 |
0:20 |
19:00 |
同上・就寝 |
|
<8月10日>
3:00 |
(BC)起床・朝食 |
|
7:00 |
同上・出発 |
4:00 |
8:35 |
2212m地点・ダウン1 |
1:35 |
8:45 |
同上・出発 |
0:10 |
9:05 |
2079m地点・ダウン2 |
0:20 |
9:10 |
同上・出発 |
0:05 |
10:10 |
横尾山荘・行動終了 |
1:00 |
〈気象報告〉
文責 1回生K
一日目:
一日目蝶ヶ岳の山頂に着くまでは雨などはなく特に問題はなかった。しかし、山頂では夏とは思えないほど気温が低く、また強風の影響によりテント設営が困難になったことなどが原因でかなりの体力を消耗した。パーティーメンバーの防寒装備もアンダーを着ていなかったりダウンを持ってきていないといった問題があった。深夜には雨が降り、さらに強風の影響によりテントが大きく揺れてしまい十分な睡眠ができなかった。
二日目:
二日目早朝の山頂では雨、霧、風の影響が大きく、予定していた出発時刻を遅らせることとなった。行動を開始してから横尾分岐2600m付近では西からの強風によりペースが少し遅れてしまった。2250m付近では森林地帯に入り、風の影響はなかったが小雨が降ってきたり霧の影響は依然として残っていた。
日時 |
天気 |
気温 |
風向 |
風力 |
雲形 |
雲量 |
8/9 7:58 |
晴れ |
20度 |
西 |
1 |
積雲 |
10 |
9:39 |
晴れ |
19度 |
北 |
1 |
層雲 |
10 |
8/10 9:05 |
晴れ |
17度 |
北 |
1 |
層雲 |
10 |
<衛生装備>
文責 2回生M
衛生装備としてテーピングとサロンパスを使用した。
<装備報告>
文責 1回生W
- 団体装備
消費したカート 1缶
6人用テント1張りが整備不足と強風により張り綱、本体とフライシートの接続金具が破損、またもう1張りの6人用テントも強風により張り綱が破損したことで次のテント場での使用が困難となった。
- 個人装備
各人の防寒装備が不十分で、一部の部員はダウンジャケットなどを携行していなかった。
また通常の服装に関してもアンダーシャツの着用や重ね着の重要性の周知が足りておらず、体温調節をしにくく、汗冷えを起こしやすい状況であった。
<食料報告>
文責 1回生Y
9日
夜飯は丼ぶりであった。種類は親子丼、牛丼、中華丼の3つであった。米の量が少し多かった。水の量が少なく、炊く時間が少し短かったため、鍋の下の方の米が硬かった。レトルトの具材の湯煎は順調に進めることができた。
10日
朝飯は棒ラーメンであった。麺を束ねるテープを外さずに茹でたため、食べるときに少し手間取った。麺の量は最適であった。
2022年錬成合宿A班 撤退判断についての報告
A班PL 3回生I
- 8月10日行動記録
- 天候状況
- 装備状況
- パーティー構成および状態
- 撤退判断
【8月10日 A班行動記録】
0300 |
起床。 |
0400 |
出発予定時刻なるものの濃霧及び防風により安全確保が困難と判断しSL(1回生T)および3回生Sと協議の上、天候回復を待ち待機することを決定。 |
0425 |
0600頃までは待機してみることを決定。 監督にLINEを用いて連絡し助言を乞う。 |
0500頃 |
聞き取りやパルスオキシメーターにより班員のコンディションの把握を実施。酸素飽和度が95を下回る班員を複数把握。 |
0514 |
監督と電話にて協議。 天候状況や装備及び班員の状態を報告し撤退が現実的なものであることを確認。 |
0600頃 |
共同で撤収した6テンと3テンを装備したB班(PL3回生Y)が常念岳方面へ出発。A班はB班と比較しても状態が悪いことと天候が好転しないものの、前進-撤退どちらにしてもタイムリミットが迫っていたためテント撤収を開始。A班装備の6テン、B班残置の2テン(3回生Y私物)、女子班の6テンをA班単独で撤収。 |
0700前 |
暴風のため難航したもののテント撤収を完了。蝶ヶ岳TSを出発。 |
0725 |
横尾分岐にて協議のうえ最終判断。 女子班と共に横尾経由で上高地へエスケープすることを決定。 |
1010 |
途中数度のダウンを経て横尾山荘に到着。 |
1300過ぎ |
上高地へ撤退完了。 |
【天候状況】
前日(8月9日)の天候は悪くはなかったものの、夜間に発生した濃霧により0300起床時から撤退判断をするまで終始視程は10m以下であった。風に関しては8月9日に蝶ヶ岳TS到着時からA班の3回生は夏山では経験のないほどかなりの強風でテント設営にはかなり苦労し、翌10日午前6時になっても風雨は収まる気配はなかった。天気予報は晴れ予報であったが現実は濃霧および暴風であった。
【装備状況】
- B班装備の6テンおよび女子班装備の6テンの張り綱が強風により破損、女子班テントは浸水。翌日以降の仕様に耐えうるか当時は疑問であった。
- 防寒着を十分に持ってきていない者がいた。
【パーティーの状態】
役職 |
氏 |
状態 |
3回生PL |
I |
健在。 |
1回生SL |
T |
健在。 |
3回生 |
S |
前日(8月9日)より高山病と思わしき症状により動けず。テント設営時は休息。同10日朝も不調。 |
2回生 |
M |
前日(8月9日)の行動中に足を痛める。サロンパスを供与。 以後はPL今井装備のストックを貸与。 |
2回生 |
N |
前日(8月9日)の行動中は健在だったもののテント設営後に熱感および倦怠感を訴えたため、風邪薬(改源)を供与。 翌10日朝も回復せず、パルスオキシメーターを用いた測定では酸素飽和度93を記録。 |
1回生 |
W |
健在。 |
1回生 |
Y |
前日(8月9日)の行動中に膝を痛め消耗。靭帯に持病があることを自供。SL田部がストックを貸与。 翌10日朝にSL(T)により靭帯保護のテーピング処置を実施。 前夜の強風によるテントの揺れで十分な睡眠がとれず倦怠感を訴えるもののパルスオキシメーターを用いた測定で酸素飽和度に特に異常はなかった。 10日は前日に引き続きストックを貸与。 |
1回生 |
K |
パッキングの不備や体力不足による消耗はあったものの、前日(8月9日)の行動中には特に異常は見られなかったように思われた。 翌10日朝に疲労感、倦怠感を訴える。 パルスオキシメーターを用いた測定では酸素飽和度89を記録。 |
〈備考〉
女子班1回生(K)は体調不良および体力不足により荷物をA班班員で分割。
【反省】
練度不足 |
テントの撤収、パッキング不備等の練度に起因する問題で時間が失われ最終的にコースタイム的な撤退判断に繋がった。 |
体力不足 |
初日(9日)の蝶ガ岳までの登りで消耗しきってしまい翌日体調を崩してしまった班員が数名いた。 |
睡眠不足 |
8日夜の夜行バス移動で睡眠不足を訴える班員が多く見られた。また、9日夜のテント泊でも強風でテントが揺れ眠れなかったと訴える班員がいた。 |
装備不備 |
9日夜の強風で破損したテントもあったが、設営時点で張綱がついていなかったり防水不備があったりなど事前確認で把握できたはずの破損も大かった。また個人装備の防寒具や衛生装備を十分に持参していない部員もおり危険だった。 |
【撤退判断】
撤退判断に関わった要素は大きく分けて3つある。まず第一に天候状況。第二にパーティーメンバー及び装備の状態。第三にルートの問題である。
第一の要素である天候状況の悪さについては前述した通りであり劣悪であった。加えて天気予報も現実に即しておらずアテにできず、風に至っては強まる予報すら出ていた。またTS2の大天井は特に風が強いという事前情報を得ていたためたとえコースを踏破できても第2泊目は更なる苦闘が予想され慎重な判断に繋がった。
第二要素のパーティーの状態についての詳細も前述した通りである。10日朝時点で万全であった者は過半を割っておりI(3回生PL)、T(1回生SL)、W(1回生)の3名のみであった。
第三の要素が2日目の予定コースである。
2日目(8月10日)のコースは蝶ガ岳TS1から常念岳を超えて大天井まで踏破する予定でコースタイム7時間30分超(ヤマレコでは8時間半超)で登り1300m下り1000mであり、この道程を不完全な状態のパーティーで臨み十分な安全確保に責任が持てる状況とは言い難かった。
以上3点からA班はパーティーとして縦走を続行することは困難と考えられた。
当然、傷病者のみをエスケープさせて健在なもののみでの合宿続行についての検討も行われた。しかしパーティー内で合宿の続行が可能であった者は僅か3名のみであり、その3名のみで合宿を続行することは困難に思われた。
まず第1に装備の問題である。装備に不備があったことも前述のとおりであるが、団体装備の割振りの問題もあった。本来8名で割り振られていた装備を3名に振り直し装備させるのは重量の面から体力的にも問題があった。
第2にコースタイムの問題もあった。詳細は行動記録を参照されたいが、蝶ヶ岳TS1をA班が出発できたのは午前7時であった。これについては練度不足かつ悪天候によるテント撤収の遅れやPLの判断の遅さなど多くの反省すべき点が内包されているが、7:00に出発し仮に順調に進んだとしてもTS2大天井到着が15時前後となってしまい、日没時間等を勘案すると安全面であまりに余裕のない行程となってしまう。
また健在であった3名の構成にも不安要素はあった。上回生はPL(I)のみであり他の2名は低山での多少の経験はあるものの20㎏以上の装備を背負っての2500m級の縦走は初めてであり実力は未知数であり、悪天候のなか1人で新入生2名を統率しながらの山行の安全確保に自信が持てなかった。
パーティー外の要素も存在した。女子班の存在である。女子班には経験者を自称する部員もいたが、過去の合宿や前日までの行動を見ている限りはとても悪天候の中を単独下山させられるレベルとは思えず、またA班から分離した傷病者も経験が浅く弱っている者ばかりであり、彼らだけに任せることも危険と考えられた。実際女子班の1名は下山途中に体調不良により一時行動不能になり余力のあるA班班員で荷物を分割し下山することとなった。
以上の点からA班PLとして、現場にいた最上回生の責任として合宿続行の断念を決断しエスケープという手段を採るに至った。