角灯と砂時計 

その手に持つのは、角灯(ランタン)か、砂時計か。
第9番アルカナ「隠者」の、その俗世を生きる知恵を、私にも。

#239 国連人権理事会勧告・・・が、なんぼのもんじゃい。

2018-03-11 06:16:56 | 「国連」のハナシ
国際連合 人権理事会
(→http://www.ohchr.org/EN/HRbodies/HRC/Pages/Home.aspx




国連、ノーベル賞、オリンピックと言えば、日本のマスコミが大好きな三種の神器(?)ですが、この度、その中の1つ、国連様からの「勧告」を日本政府が「拒否」したということについて様々報道がありました。以下、ネット上でのアップ順に・・・


 国連人権理事会における人権状況の対日審査で出された勧告について、日本政府の見解が5日、公表された。各国から出された全217件の勧告に対して、145件を受け入れ、34件を受け入れ拒否、その他は留意などとした。
 日本政府が受け入れを拒否したのは、死刑制度の廃止や一時停止を求める勧告、核兵器禁止条約への署名を求める勧告などだった。
 死刑制度については、死刑制度を容認する国内世論を理由にした。また、核禁条約については「厳しい安全保障環境という現実を考慮していない」ことなどを拒否の理由に挙げた。
 また、複数の「先住民族」に対する差別防止対策の実行を求める勧告に対しては、「日本は、日本においてアイヌ民族のみを先住民族として認めている」との従来の見解を示した。
 この審査はUPR(普遍的・定期的レビュー)と呼ばれるもので、4年半に1回をめどに、193の国連全加盟国の人権状況全般を審査する。今回の日本政府の見解は、昨年11月の3回目の対日審査の勧告に対して出された。


*朝日新聞DIGITAL:国連の人権巡る勧告、日本は死刑廃止など拒否 見解公表
https://www.asahi.com/articles/ASL357WL1L35UHBI05D.html


 政府は6日、国連人権理事会の対日審査で韓国が求めた慰安婦問題に関する教育について「慰安婦問題を学習指導要領の中で取り扱うことはない」との見解を公表し、事実上要求を拒否した。
 慰安婦に関する教育は、韓国が昨年11月に開かれた対日審査で「将来世代が慰安婦問題を含め、歴史の真実を学べるように努力すべきだ」と主張していた。この後、理事会は日本政府に対し慰安婦問題を含む計217項目を勧告した。
 日本政府は2月末に217項目に対する見解をまとめた報告書を国連人権高等弁務官事務所に提出した。報告書では、慰安婦問題に関して「誠実な謝罪」や「法的責任」を求めた中国、北朝鮮の主張に対しても「受け入れられない」と表明した。


*Web産経ニュース:「慰安婦は学習指導要領で扱わない」 日本政府、国連人権理事会に見解表明
http://www.sankei.com/world/news/180307/wor1803070006-n1.html


 国連人権理事会による日本の人権状況の審査について、日本政府は7日までに、特定秘密保護法などで萎縮が指摘される「報道の自由」に関する勧告を拒否した。米国やオーストリアなどは、政府が放送局に電波停止を命じる根拠となる放送法4条の改正などを通じメディアの独立性を一層確保するよう求めていた。
 昨年11月の作業部会で各国から出された217項目の勧告を受諾するかどうか項目ごとに見解を公表した。145項目を受け入れたが、死刑廃止要求など34項目を拒否、38項目は一部受け入れや留意とした。従軍慰安婦問題では、中国などが要求した元慰安婦への誠意ある謝罪と補償の勧告を拒否。韓国が要求した公正な歴史教育の実施に対しては留意するとした。
 人権理は今月16日の会合で日本の見解を反映した報告書を最終的な勧告として採択する予定。勧告に法的拘束力はない。
 ドイツなどが要請した、東京電力福島第1原発事故後の住民に対する支援継続に関する勧告は受け入れた。沖縄の人々など少数派が社会的権利を享受できるよう対策強化を求めたペルーの勧告に対しては「アイヌ民族のみを先住民と認めている」として一部受け入れを表明した。
 広島、長崎の被爆2世の健康問題などでの救済措置拡大と、核兵器禁止条約の署名を求めた勧告はいずれも拒否した。
 昨年11月の作業部会は218項目の勧告を発表したが、その後、217項目に修正した。(共同)


*毎日新聞:国連人権理事会「報道の自由」勧告 日本政府が拒否
https://mainichi.jp/articles/20180308/k00/00e/040/228000c


あれあれ、政府が「見解」を公表したのは何日なのよ、とツッコミたいところですが、ま、それは置いといて・・・
前向き後ろ向きの差はあるにしても、偉大なる国連人権理事会の「勧告」を、こともあろうに日本政府ごときが「拒否」するなんて、そりゃ重大なことだ、というニュアンスでは共通しているようです。



ということで、今回はその「国際連合人権理事会」とその「勧告」について。


まずは当の国連(広報センター)による説明です。

人権理事会(Human Rights Council)(www.ohchr.org/EN/HRBodies/HRC[別窓])は、人権と基本的自由の促進と擁護に責任を持つ国連の主要な政府間機関である。理事会は、60年間にわたって活動してきた「人権委員会(Commission on Human Rights)」に代わる機関として2006年に総会によって設置された。理事会は人権侵害に取り組み、それに対応する勧告を行う。

人権理事会のもっとも革新的な特徴は、「普遍的・定期的レビュー」である。このユニークな制度には、国連の193全加盟国の人権記録を4年ごとに審査することが含まれる。レビューは、理事会の主催のもとに、共同の、政府主導のプロセスである。理事会は、各国が自国の人権状況を改善し、かつ国際の義務を果たすためにとった措置および今後対処すべき課題についての報告書を提出する機会を提供する。レビューはすべての国に対する扱いの普遍性と平等を確保するためのものである。


*国連広報センター:人権理事会
http://www.unic.or.jp/activities/humanrights/hr_bodies/hr_council/


ふむふむ、何はともあれ、国連の「主要な政府間機関」なんですね。なんですけど、下の機構図では「総会の補助機関」になってます。ま、ソコはどっちでも良いんで、とにかく、物凄い数ある国連機関の中の、その1つだってことです。



*国連広報センター:国際連合機構図pdf
http://www.unic.or.jp/files/organize.pdf



でもって、国連自らが「革新的な特徴」と言ってはばからない「普遍的・定期的レビュー」について、日本外務省は、

UPRは,人権理事会の創設に伴い,国連加盟国(193ヶ国)全ての国の人権状況を普遍的に審査する枠組みとして盛り込まれた制度。

(1)国連加盟国各国は4年半で全ての国が審査される。審査基準は,国連憲章,世界人権宣言,当該国が締結している人権条約,自発的誓約,適用されうる人権法。
(2)審査は,1年間に3回,人権理事会の定期会合以外に開催される作業部会の形で行われる。作業部会における審査においては国連加盟国全てが議論に参加し,人権理事会理事国3か国(くじ引きにより決定。「トロイカ」と呼称される。)が1チームとして被審査国の報告者国となる。NGOも作業部会を傍聴することが可能。
(3)各国の審査に要する作業時間は,作業部会における審査に3時間半,作業部会における報告の採択に30分,人権理事会本会合における審査結果の検討に1時間が当てられる。
(4)審査結果としての結果文書は人権理事会本会合で採択される。結果文書は,勧告及び(または)結論と被審査国の自発的誓約から構成される。被審査国及び人権理事会メンバー国,及びオブザーバー国(その他の国連加盟国)は,人権理事会本会議が結果文書を採択する前に右文書についての見解を表明する機会が与えられる。その他NGO等関連のある関係者も,同様の機会に一般コメントを述べる機会が与えられる。


*外務省:人権外交/UPR(普遍的・定期的レビュー)の概要
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken_r/upr_gai.html


と説明してまして、両者を合わせると、要するに今回報道されている「勧告」とその「拒否」とは、4年ごとに巡ってくるレビューの、その中のワンステップくらいのもんだということですね。

ワタクシとしては、国連人権理事会の勧告なるのもが、その程度のモノなんだということさえ伝わればそれで良いので、もうここまででも十分なのですが、せっかく乗りかけた船、レビューの内容にもちょっとだけ触れておきます。


外務省によれば、全体の流れは以下のようになってます。

第3回政府報告審査(2017年11月)
 我が国の第3回審査に先立って,我が国の人権状況に関する報告書を2017年8月に提出。政府報告審査は同年11月14日に実施された。これを受け,11月16日に人権理事会UPR作業部会において,各国・地域からの勧告をまとめた暫定版結果文書が採択された。今後,同結果文書は,第37回人権理事会本会合(2018年2月~3月)で正式に採択される予定。


*外務省:人権外交/UPR第3回日本政府審査結果概要
http://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_002899.html


で、こちら、11月14日、日本政府の冒頭発言と総括発言の一部。それなりに言うべきことは言ってますね。



*UPR第3回日本政府審査結果概要/日本政府冒頭発言
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000307977.pdf




*UPR第3回日本政府審査結果概要/総括発言
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000307976.pdf


そしてこれが、いわゆる「勧告」を含む「日本政府審査・結果文書」の一部です。



*UPR第3回日本政府審査・結果文書(英文)(第37回人権理事会で採択予定の暫定版)(PDF)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000340840.pdf


勧告にあたるものは全部で217項目。参加国がそれぞれの関心にそって様々(勝手)なことを言ってるわけですが、その中の86、87、88、89で北朝鮮(×2)・中国・韓国によるもの。
89が産経報道にあった「将来世代が慰安婦問題を含め、歴史の真実を学べるように努力すべきだ」というヤツですね。


でもって、こちらが日本政府の「見解」とされる「日本政府審査・勧告に対する我が国対応」の一部。




*UPR第3回日本政府審査・勧告に対する我が国対応(英文)(PDF)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000326823.pdf


86〜88「Not accept」受け入れない、89「Note」留意する、で、にべもないと言えば言える感じですが一応補足説明付き。
89では「慰安婦問題を学習指導要領の中で取り扱うことはない」としているわけです。


ちなみに、今回政府の回答は全部で4種類、

Note:留意する
Accept to follow up:フォローアップすることに同意する
Partially accept to follow up:部分的にフォローアップすることに同意する
Not accept:受け入れない


でして、全体217項目に対して、留意:28、同意:145、部分的に同意:10、受け入れない:34、という内訳になってます。


ということで、最後に再度・・・

人権理事会の「勧告」なんて、そんな大したもんじゃありません。

言うなれば、参加各国それぞれ自分基準で言いたいこと言ってるだけなんで、当然聞いた側が拒否することだってあります。当たり前のことです。死刑関連も、報道関連も、日本の事情をよく理解しないままに「いい人気分」でお節介焼いてきてるだけですから気にしなくて良いんです。ま、ちょっとは気にしても良い話もあるようですけどね。


上の「日本政府審査・結果文書」と「日本政府審査・勧告に対する我が国対応」は、今のところ英文のみですが、そのうち和訳(仮訳)が出てくると思います。
っていうか、報道各社「政府が見解公表」って簡単に言ってますけど、どういうカタチで公表されたのか言ってくれないので、これで合ってるのかどうか、当方素人さんにつき確信は持てません。
っていうか、きちんと情報源を明示して全文に当たれるようにしてほしいんですけど、いや、それは、毎度のことながら、無い物ねだりかしら?



参考までに、前回(第2回レビュー)の「日本政府審査・結果文書」と「日本政府審査・勧告に対する我が国対応」を一部キャプチャーで紹介、リンクも貼っておきます。全体に目を通すと「勧告」がどれくらい「俺基準」で「お節介」かが分かってそれなりに面白いです。



*UPR第2回日本政府審査・結果文書(仮訳)(PDF)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken_r/pdfs/upr2_kekka.pdf




*UPR第2回日本政府審査・勧告に対する我が国対応(仮訳)(PDF)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken_r/pdfs/upr2_taiou.pdf


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