(大阪朝日新聞 中鮮版 1940-3/6 『朝鮮総督府官吏 最後の証言』より)
いささか古い話ですが、こんなニュース(11/30)がありました。
自民党の石破茂元幹事長は30日、早稲田大で講演し、いわゆる徴用工訴訟などをめぐり悪化する日韓関係に関し「判決は国際法的に間違っている」としつつ、「合法であっても独立国だった韓国を併合し、(朝鮮半島出身者の)名字を変えることが行われた。そういう歴史があったことをどれだけ認識するかだ」と述べ、過去の経緯を踏まえた対応が関係改善に必要との認識を示した。
また、石破氏は9月の党総裁選で自身の国会議員票が伸び悩んだ理由に触れ、「どれだけ国家を語り、人生観を共有できるか、そういう努力はまだまだ足りなかった」と振り返った。
THE SANKEI NEWS:自民・石破氏 日韓関係「併合した歴史を認識すべき」
→https://www.sankei.com/politics/news/181130/plt1811300046-n1.html
「合法であっても独立国だった韓国を併合し、(朝鮮半島出身者の)名字を変えることが行われた」ですよ。
これね、国会議員(しかも一応与党政治家)として、かなり雑で、相当に不用意な発言だと思いました。石破さんが明言してるわけではないんですが、主語は「日本(政府)」ですよね。日本が韓国を併合し、日本が(朝鮮半島出身者の)名字を変えたという意味でしょう。取りようによっては、あたかも当時の韓国および朝鮮半島出身者には、意思や主体性など全く無かったかのような物言いです。ゴメン、(国会議員じゃないけど)ワタクシ、アナタとは「人生観を共有でき」そうもないや、と思いました。
で、ですね、ひっそりと、こんなことを呟いてみたんです(12/1)。
(→https://twitter.com/kawai_yoshinori/status/1069005303864127488)
独立国だと認めていたからこそ条約を取り交わして「併合(合邦)」したんだし、国民として同等だったからこそ改名届けを認めていたんですけれどもね。いずれも強制したわけではございません。
自慢じゃありませんが、ワタクシのツイートはフォローしてくださってる方が非常に少ないので、まあ、いつもの如く、反応などほぼ無かったのですが、何の間違いか、1週間以上経ってから、こんな引用リツイートがありまして(12/9)。
創氏は法的に強制。改名は任意
これが専門家の述べるところだ。
併合は軍事力を背景とした強要
アホなの?
これ、石破さんにではなく、ワタクシに対して、ですよね。
いやあ、参りました。
ワタクシ、これでも気が小さいもんで、一読「そうなのかしら? 自分、アホなのかしら?」と思ってしまって、たぶん「コレを読め」の意味であろうツイート添付画像で「専門家の述べるところ」を熟読してしまいました。
で、結論を先に言いますと「ワタクシ、見ず知らずの方に、いきなり『アホなの?』と言われなきゃならないほど、アホではないですよね」です。
ワタクシがツイートで言ってるのは「併合も改名も強制(相手方の意思も主体性も一切認めないもの)ではなかったでしょ」ということでありまして。この方自身「改名は任意」と仰ってますし「併合は軍事力を背景とした強要」と、わざわざ別の言葉で説明しているわけで。そんなんで「アホなの?」とか言っちゃう貴方こそ・・・以下略で。
と、ここまでで終わっても良いんですが、若干腹の虫がおさまらないので、以下、長くなりますがグダグダ言います。お時間の無い方は結語まで飛ばしてもらっても構いません。
そもそもこの添付画像なんですけど、出典を明示してくれてないので、一体どういう読者層を想定しているものなのかが分かりません。それと関係あるのか無いのか、学術的に正確な記述と、やや文学的で叙情的な文章とが綯い交ぜになっていて、読んでてちょっと混乱します。お蔭様で、事実関係だけを取り出すのに、けっこう苦労しました。
こちら(↓)、クリックで大きくなりますので、お付き合いいただける方は読んでみてください。
まず、第1段落にある〈「創氏」とは、戸籍上の姓(父系血統をあらわす)を氏(一戸の家の呼称)に変えることであり、「改名」とは個人の名を改めることを意味する〉という定義は、大枠で、そうだったんだろうと思います。
ところが、第2段落になると、ほぼ筆者さんなりの「分析(批評)」です。
第3段落も、それを受けて筆者さんの「見方」を示しながら、流れるように〈戸主の名前は変わらないが、妻などの名前は変わることになったのである。これは法的な強制によるものであった〉と、何やら「名前を強制的に変えさせた」と読めてしまいそうな書き方をしています。が、すぐ前の文によれば、それは「戸籍上の氏を新たに定めた」の意味でしかないはずなんですが。
第4段落になると、いよいよワケが分からなくなります。
〈氏の届け出は、80%に及んだ〉というのは、具体的な数字も言ってるし、たぶんそうなんでしょう。けれども〈多くの朝鮮人は同化の証として日本風の氏に変えさせられたと言わねばならない〉という、その「多くの朝鮮人」って何%ですか?「総督府は、各機関を通じて(創氏の)届け出を奨励した」というだけで、何故に「日本風の氏に変えさせられたといわねばならない」ことになるんでしょうか?
〈強い奨励策をとったことを見落とすべきではない〉にしても、それはやっぱり「強制」ではないし、いや、そうではなく「創氏(戸籍上の氏を新たに定めることそれ自体)」は届け出るも出ないも「強制(届け出ない場合は戸主の姓が氏となる)」なんですよね? ご自身、創氏について届け出の「奨励」と戸籍登録上の「強制」とをめぐって混乱してる一方で、改名については〈日本風の名への変更は総人口の約10%にとどまった〉と認めているように、それならば確かに任意だったわけで、いよいよ「改名届けを認めていた」で、表現としてはOKということになっちゃいます。
第5段落は台湾についてのことですし、のっけに〈法的強制ではなかった〉と書いてあるので、その後の筆者さんの受け止め方(思い込み)に関しては、もう何も言うことはありません。
はい、引用画像(水野直樹さん)の記述については以上です。
つまりですね、朝鮮の人々にとってもともと概念の無かった「氏」(「家」の呼称、ファミリーネーム)を戸籍上新たに定めることとした。そこだけが「強制」だったということになります。
男性は、これまでの「姓」を「氏」として届け出ても良いし、日本風の「氏」を届け出ても良い。また届け出なければ、自動的に「姓」が「氏」になる。女性については、それまで父系の「姓」を継いでいたのか、あるいはそれも許されていなかったのか、ワタクシにはちょっと分からないのだけれども、いずれにせよ戸籍上新たに「氏」が定められたわけで、そこは強制です。ただ、実際に日常生活において、それを名乗ったかどうかは、これもワタクシには分かりません。
結局、(実際にそういうことがあったのかどうか分からないのだけれども)成人女性が父系の「姓」を(戸籍上にせよ生活上にせよ)名乗っていたとして、それが創氏によって夫の「姓」に変えるよう強制された、という場合に限って「名字を変えることが行われた」と言えるわけで。
ここで、改めて石破さんの話に戻ると、だったら「名字を変える」という言い方は、アチラの方から見ても、やはり「雑」だということになりますね。
ところで、ワタクシに対して、もうひと方、こんなことを仰ってきた方もいらっしゃいます。
例えばイギリスは香港やニュージーランドを獲得・植民地化する際に清やマオリ族と条約を結び、
フランスはインドシナ半島を植民地化する際現地国家と条約を結び、
アメリカの白人はインディアンとたくさん条約を結んだ
つまり条約=合意の形を取ろうが侵略・植民地化には変わりないということ
これまた、相当に雑な(勢いのある?)仰りようで困ってしまうのですが・・・
香港が南京条約(九龍半島は北京条約)、インドシナがサイゴン条約、フエ条約等、国と国との条約締結により「植民地化」されたというのは、まあそうなんでしょうけど、いずれも条約締結前(!)に、実際の軍事行動があって、首都陥落やら占領やらという戦闘結果(!)を踏まえて結ばれた条約ですからねえ。
あと、英国とニュージランドのマオリ族、米国の白人とネイティブ・アメリカンが「条約」を結んだという話は初めて聞きました。簡単な「契約書」みたいなものがあったということなんでしょうかね。けれどワタクシとしては、国と国とが結んでこそ条約と言うんだと思ってたし、これはもう「国(国家)」とか「条約」とかの定義論争になるんで、この方がそのように「呼ぶ」のならそうなんでしょうとしか言いようがありませんね。
いずれにせよ、侵略・植民地化の実態が先にあって、それを認める条約=合意の形を取ったものと、軍事行動無しに(どうせ、軍事行動に近い圧力を加えていたとか言うんでしょうけど)結ばれた条約とを一緒くたにしてしまう論理には、ちょっとお付き合いしかねます。何よりかにより、まずはどういった行為について「侵略・植民地化」と仰るのか、そこのところを具体的に言っていただかないと、これもまた不毛な議論になりそうですしね。
って言うかさ、このテの方々は半島の方々に同情するフリで「それもこれも強制でした、スミマセン」とか言って「いい人」になってるつもりかもしれないですけど、その実、当時の大韓帝国皇帝や朝鮮半島に住む人々を馬鹿にしてることになる、って気付こうよ、って思います。
ついでに言うと、70年以上前のことを一所懸命言い募るんなら、今、現に「侵略・植民地化」されているチベットやウィグルの人々について、その窮状を同等かそれ以上の熱量でもって訴えましょうよ。まさか「条約を結んでないから侵略。植民地化ではない」とか言いませんよね? あるいは本国(中華人民共和国)と「地続きだからOK」とか?
最後に、冒頭画像についてちょびっとだけ。
桜の花出版『朝鮮總督府官吏 最後の証言』という本がありまして。
〈日韓併合の実態を行政側から解説できる朝鮮總督府官吏としての証言はおそらく西川氏が最後だろう。西川氏は80年前の朝鮮で朝鮮人の知事が統括する行政組織に奉職、朝鮮人と共に汗を流して働き、朝鮮は第二の故郷となった。 氏によれば、日本人と朝鮮人はとても仲が良かったという。特に地方行政府は朝鮮人官吏が主体の組織であり、官や軍による売春婦の強制連行などあり得ないこと、不可能なことが繰り返し述べられている。朝鮮人が日本人の上司になることも普通であり、朝鮮人と日本人は共に朝鮮の発展を願い職務に精励していたという。当時の貴重な写真も収録〉
という内容です。
*桜の花出版:時事・国際情報 朝鮮總督府官吏 最後の証言
→https://www.sakuranohana.jp/store/books/21/4434194450/
こちら(↓)厳密には違法かもですけど当該ページ、クリックで拡大できます。
氏の創設は自由 強制と誤解するな
総督から注意を促す
「氏創設にことに関してややもすれば誤解している向きもあるように聞くが、これは絶対に強制ではなく一視同仁の大御心から朝鮮同胞に内地人同様の氏創設の道が開かれたのであって、内鮮一体の具現化であり、この点一般にも誤解なきよう趣旨の徹底をはかってほしい」(原文は正漢字・旧仮名遣い)
これもね、「口ではそう言ったかもしれないが、実際には・・・」みたいなことを「専門家」は言うんでしょう。そして、アチラの方々は、自分ではよく読みもせず「コレを読め」とか言って優越感に浸るんでしょう。正直なところ、そういう方々を相手に真面目にモノを書くのもどうかと思うんですけど・・・それでも、ひょっとしたら、とも思うんです。言葉を尽くせば解り合えるかもしれない、こともあるかもしれない、とか。ワタクシ、人を信じやすい質なもので。
あ、でも「膝詰めで酒を酌み交わして」でないと解り合えないんでしたっけ?
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