〈「版元の疲弊に歯止めをかけるのは文庫が産む利益。販売低迷は作家にとっても命取りになりかねない」「(読者に)せめて文庫くらいは自分で買おうという習慣ができるのが重要」と理解を求めた〉
いささか古いのですが、
文藝春秋社長さんのお話です。
(産経新聞10/15大阪6版)
*Web産経ニュース:「図書館で文庫本貸さないで」文芸春秋社長が訴え 「文庫は借りずに買ってください!」
→http://www.sankei.com/life/news/171012/lif1710120020-n1.html
ま、当事者の切実な願いとして、
文庫くらいは買ってほしいというその見解自体は、
分からなくもないのですが、
どうもね、
「借りられるから買ってくれない」→「借りられなくすれば買ってくれる」という、
大いなる幻想を抱いているのではないかと思うんです。
借りて読んでそれで良し、
な人にとってその本はその程度のモノでして・・・
似たような話で、
リサイクル書店が新刊の売上を圧迫してる、
みたいな理論もあるのだけれど、
それだって、
安いリサイクル本がなければ定価で新品を買うというものじゃないんであって、
安くなってるから買うんです。
要は、
目の前にある本に対して、
いくらならお金を使うか(あるいは使わないか)という話でして、
今の世の中の数ある娯楽の中から(紙の)読書を選び取っている人なら、
本当に欲しい本であれば(そしてそれを書店で手に取って確認できれば)ちゃんと買いますよ。
何なら、図書館で借りてみて良かったから改めて買います、とかね。
えーと、少なくとも自分はそうです。
ちなみにワタクシ、年間で18〜20万円くらいは書籍に使ってます、たぶん。
(1/3〜半分くらいはリサイクルですけど)
そんなことを思っていたら、
この話題に関して2本の新聞投稿がありました。
まずは、82歳の無職さん〈耳疑う「文庫本貸さないで」〉というもの。
「年金暮らしの今」とか、
「読書好きの高齢者の心のよりどころ」とか、
そういう個人的な思い入れについては、
ちょっと引いてしまうのですが、
(投書欄においては採用されやすい表現ですが)
〈出版社のトップであるなら、収益の悪化を他者に転嫁するのではなく、いかにして収益を伸ばすかを考えるのが、一番の仕事だと思います〉
という結論には、ほぼ同意します。
文庫本(というか紙媒体全般)の販売低迷の原因は、
何かコレ、っていうのではなく、それこそ時代や社会の状況がフクザツに絡み合ってるわけでして、
特定のワルモノを見つけ出して愚痴っても何の解決にもなりませんから。
産経新聞10/26大阪6版)
で、もう1本は、58歳の主夫さん〈「本だけ無償」は通用しない〉です。
〈図書館がベストセラー本を大量に買い付けるという方法を続ければ、経営危機に陥る会社が出てくるかもしれず、われわれのためにもなりません〉
うん?
図書館が大量に買ってくれるんなら、
それはそれで経営上は良いんじゃない、
という気も・・・
いや、それはともかく、
「新刊本の一定期間貸し出し禁止」
という提案は、一理ありだと思います。
そういう制約があれば、
一刻も早く読みたいという人に限れば、
ひょっとして自分で買うかもしれません。
CD・DVDのレンタルショップなんかは、
そういう条件をつけてセルとの共存を図ってますしね。
にしても、
「本だけが無償で借りられて当然という理屈」というような、
人が言ってもないことを言ったことにして批判する手法には閉口します。
(産経新聞11/8大阪6版)
そうそう、考えても見れば、
単行本を文庫化したものと文庫オリジナルでは事情が違いますよね。
冒頭のグラフも、取次ルート、ってことは、
通販とか、それこそ図書館の購入分とかどういう扱いになってるんでしょう?
ともあれ、この話、
言いだしっぺの文藝春秋社長さんとしては、
もともと図書館関係者に向けてちょっと言ってみようと思っただけ、だったようで、
やや先走った報道で騒ぎになってしまった感があるのですが、
それにしても、
これだけ、関心をもってもらえたなら、
紙媒体にもまだ希望はあると捉えるべきかも、ですね。
もっとも、
関心を持ったのは、そもそも紙媒体の住民だけかもしれませんが。
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
ご参考までに、
以下、興味のある方はどうぞ。
〈松井氏は「文庫は自分で買うという空気が醸成されることが重要」と主張しているが、図書館で気楽に読書を楽しむ習慣が失われてよいのだろうか。松井氏自身「本の面白さを教えてくれたのは,間違いなく図書館です。」と予稿に書いているが、それが失われてしまうのだ。読書習慣がなくなれば書籍はますます売れなくなる〉
〈朝日新聞によれば「文庫は「収益全体の3割強」(松井氏)など、収益の柱だ。」そうで、松井氏はそれが失われると危惧したようだが、主張は論理性に欠ける〉
*アゴラ 言論プラットホーム:図書館は文庫本を貸し出すなと要求する文芸春秋
→http://agora-web.jp/archives/2028871.html
〈「ニュースではセンセーショナルに書かれていますが、発言自体は提案ではなく、今後議論していきましょうという軽いものだったようです。日本図書協会としても提案とは受け止めておらず、文部科学省としてコメントさせていただくような段階ではないと考えています。今後、それぞれの立場から意見が出てくることは望ましいと考えていますので、お互いの業界がいいかたちになっていけばいいと思っています」〉
*Business Journal:文藝春秋社長、図書館に「文庫本やめて」要望が波紋…図書館に人気本買わせる人への牽制か
→http://biz-journal.jp/2017/10/post_21081.html
〈地方の図書館でも、たとえば新潟の市立図書館の公式サイトを見ると、“利用者の方々からご要望の多かった文庫本コーナーを新設しました。文庫は現在550冊ですが、今後もどんどん増える予定です”と書かれているんですね。市川市の市立図書館も、“すべての新刊発行部数の約35%を占める文庫本。市川市の図書館でも文庫本コーナーを設けています”と書いています。このように図書館が文庫本の蔵書を増やし、文庫コーナーをつくるなどして、貸し出しを積極的にアピールする姿勢が明らかに加速しているので、ここで一定の歯止めをかけておかないと、出版社だけでなく作家、そして書店や図書館にとってもよくない状況に陥るという危機感があるのです〉
*ダ・ヴィンチニュース:図書館が文庫本まで貸し出しすると、出すべき本を出せなくなるかもしれません【文藝春秋 松井清人社長インタビュー前編】
→https://ddnavi.com/interview/409189/a/
〈借りた本と買った本は、やはり違います。図書館ではいま一人10冊ぐらい借りられますから、家族の人数分借りたら数十冊になります。そのなかで面白くないと思った本は読みもしないと思うんですね。でも自分でじっくり選んで買った本は読みますよ。身につくものも違うでしょう。それもマインドの問題で、もし図書館が文庫本の貸し出しをやめれば、文庫本は書店で買うものというマインドが生まれるはずです。図書館の方々には、そのマインドを生み出すための協力をしてくださいとお願いをしたつもりなんですが、そこがまだ理解いただけていないように感じました〉
*ダ・ヴィンチニュース:出版社と書店と図書館の共存のために、「文庫本は買うもの」というマインドを【文藝春秋 松井清人社長インタビュー後編】
→https://ddnavi.com/interview/409212/a/
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます