唯物論者

唯物論の再構築

数理労働価値(第四章:生産要素表(4)二部門間の生産要素表)

2025-03-08 00:11:29 | 資本論の見直し

(12)生産規模拡大における資本財部門の分離

 上記まで生産物を人間生活に必要な全物財として一般化し、その単一の物財と労働力の交換過程において各種生産要素の量的遷移を見て来た。その単一物財と労働力の交換過程は、まず不変資本の無い単純再生産を実現し、次に不変資本を追加した実質的な単純再生産を実現し、それから本来の拡大再生産を実現する。ここで現れる不変資本の実体は、先行する剰余生産物搾取を通じて出現した純生産物である。そしてこの純生産物は、さしあたり搾取者の人間生活を体現する。つまり物財生産工程における不変資本も、最初は搾取者それ自体を体現する。この比較で言うと、消費財生産に必要な道具などの固定資本生産も、消費財部門の一画にすぎない。このためにそこでの不変資本を追加した交換過程も、搾取者の生活を追加して増大させただけの単純再生産および拡大再生産として現れた。いずれにおいてもその交換過程は、まだ一部門内の出来事に留まる。同様にその不変資本も、部門内の物財生産工程における単一物財生産の枠内にある。しかも上記までの考察は、労働力数自体の変動にも配慮していない。そこで経済学が次に注目するのは、この全体としての物財生産工程と交換過程において、内部的な生活消費財と不変資本(資本財)に分離した部門相互の運動であり、分離した二部門における人間生活の分配と蓄積の運動である。さしあたりこの不変資本導入における一部門版の生産要素表は、次のようなものであった。

[物財生産工程における生産要素3(不変資本導入)]


上記表における不変資本は、賦存物財量axが該当する。それは先行生産工程の純生産物量rとして想定されたものだが、別に消費財部門からあらかじめ搾取した余剰生産物でも良い。その場合にこの不変資本は、搾取者の生活消費財の姿のままに表現された剰余価値にすぎない。さらに言えばこのような不変資本は、搾取者自身の人間生活に等しい。それは不変資本の姿をした搾取者であり、期始に部門から徴収される所場代である。一方で上記表だと、生産工程の終わりに純生産物rはゼロになる。一見するとこの生産工程において搾取が消失する。しかし上記表は、純生産物量から賦存物財量axを控除している。そして控除された賦存物財量axは、次の賦存物財量に充当される。つまりそれは、搾取者の人間生活に充当される。したがってここでもやはり搾取が実現している。その搾取者は既に得た剰余価値を貸与し、再びそれを剰余価値として受け取る。それゆえにこの不毛な不変資本は、生産工程における無駄な支出となる。ただし不毛であるとしても、その不変資本は生産工程の不可欠な一部を装い、生産工程に自らの居場所を強制する。結果的にこの不変資本は、この生産工程において不毛な資本財として現れる。このような資本財部門の分離は、搾取者を外部に放出しただけの不毛な生産工程に留まる。下記表は上記表の生産要素を、各部門ごとに分離し、資本財部門を搾取者とみなして、その搾取者を表現するために、一部表現を労働力ではなく人員に変えた。またその人員数の行も追加している。一方で労働力の消費物財量と物財生産量は、搾取者により外的に規定される。このためにそれらの行を、人員の必要物財量の行の下に移す。なおここでの資本財部門は物財生産をしていないので、資本財イメージも生活消費材のままにしている。

[物財生産工程における生産要素7(不変資本導入ⅰ)]


上記表7の部門全体列は、先の不変資本導入時の生産表3の値にほぼ該当する。ただし生産表3の必要物財量は、搾取者を加えない労働力だけの必要物財量xである。これに対して上記表7の必要物財量は、搾取者も加えた人員の必要物財量(a+1)x である。両者の必要物財量の差異は、生産表3が人員数増加を考慮していないことに従う。上記表7と比較して言うと、生産表3の必要物財量xは、搾取者のための必要物財量axが欠落しており、投下物財量(a+1)Lと整合していない。また搾取者における物財生産量は0なので、搾取者の消費物財量axがそのまま物財量純生産物量にaxの不足値で転じる。そこで搾取者はこの不足値axを、賦存物財量axにより充填する。ちなみにここでは搾取者と労働者の消費生活を同一に想定しているので、搾取者を含めた一人当たりの消費物財量に変化は無く、また純生産物量もゼロのまま変わらない。とりあえずここでの搾取者は。不労所得で労働者並みの生活を享受する。もちろん余剰生産物が増加し、搾取者がその余剰生産物を取得するなら、搾取者は労働者以上の消費生活を享受できる。ただしその富裕度の表現は、例えばc>cとなる搾取者用価値単位cを別途用意する必要がある。なおそのcの増大方法は、取得剰余価値の増大手法としてマルクスの著作により既に巷に知られている。上記表7で搾取の有無を示すのは、賦存物財量または純生産物量である。純生産物量のマイナス値は生産する以上の消費を示し、逆に純生産物のプラス値は余剰生産物があるのを示す。そして全体での純生産物ゼロが、一方の余剰生産物を他方が消費しているのを表現する。


(13)資本財部門における搾取の消失

 上記表7の資本財部門が搾取者であったとしても、その搾取は消費財部門に対する債務の正当な償還を装う。贔屓目に捉えてもそこでの資本財部門は、生産手段を消費財部門に貸与しただけで何も労働をしていない。しかもその生産手段は、資本財部門が消費財部門から奪っただけの余剰物財である。それゆえにその債務の償還は単なる搾取として現れる。やはりその債務の償還は不当である。ところが実際に不変資本としての搾取者が生産工程の重要な構成要素であるなら、例えば生産現場の必要な統括作業を担うのなら、その搾取者は労働者となり、その搾取も正当な労働報酬となる。もちろん上記表7における賦存物財にそのような労働義務は課されない。またその賦存物財の由来についても度外視される。しかしその搾取が正当な労働報酬であるなら、上記表7における資本財部門の搾取も、消費財部門に対する債務の正当な償還に転じる。つまりこの生産工程において搾取が消失する。当然ながらその場合にここでの搾取者も、労働力の一部に転じる。そしてそのように上記表7から搾取が消失するなら、資本財部門において労働力数も登場しなければならない。そしてこの搾取の消失が、資本財部門が提供する不変資本を、この生産工程における正規の資本財に転じる。したがって賦存物財量の位置づけも、上記表7と変わってくる。本来の賦存物財は、各部門が生産を実現するための資本財である。ところが上記表7の賦存物財量は、資本財部門が前生産工程で消費財部門から無償取得した消費財にすぎない。そしてこれまでの記述は、生産工程にそのような資本財を想定していなかった。ただし消費財部門が生産を実現するために資本財を要するなら、むしろ賦存物財を必要とするのは消費財部門である。それゆえに先の生産表7にあった賦存物財量は、そのまま消費財に側に移される。これらの変更は、上記表7を次のように変える。なお下記表では搾取が消失しているので、一部表現を人員ではなく労働力に戻している。

[物財生産工程における生産要素8(不変資本導入ⅱ)]


(13a)部門ごとの生産要素の区分記載の追加

 上記までの表は、資本財イメージに生活消費材をそのまま踏襲している。そのために資本財でも生活消費財でも、物財単位数の配慮せずに生活消費財の生産量xを使っている。当然ながら生活消費財生産に対する必要資本財量も、生活消費財生産に必要な資本財の数量比率aを反映し、資本財の各数量もそのまま生活消費材の単純なa倍として現れた。しかし資本財と生活消費財は使用価値の異なる物財なので、その数量単位も異なる。また各財の生産に必要な労働力が変動する前提からしても、それらの数量も分けて表示すべきである。そこで消費財部門と資本財部門の各生産要素に目印を付与し、次のように表記し直して上記表8を書き直すと下記表9になる。ただしこの表は見栄えを変えただけで、上記表8と内容は変わらない。しかもこの資本財の単位表記の変更は、資本財の物財生産量が、単純に単位当たり消費財に必要な資本財の量比率a2に従うことを逆に不明瞭にする。なお数理計算式規則に従い、以下では乗算記号”×”の代わりに中点”・”を使用する。

  a2   …消費財一単位に対して消費財部門が必要な資本財量
  x1   …資本財部門の物財生産量(ここではa2・x2
  x2   …消費財部門の物財生産量(=消費財部門の必要物財量)

[物財生産工程における生産要素9(不変資本導入ⅲ)]  ※x1=a2・x2


(14)搾取者の無い二部門モデル

 上記表の消費財部門は資本財を不変資本として必要とする。しかし資本財部門も労働力の生活物資と別に、消費財を原料として必要とする。そのことは消費財部門にも該当し、消費財部門は労働力の生活物資と別に、自部門の消費財を自己消費する。同様に資本財部門も労働力の生活物資と別に、自部門の資本財を自己消費する。これらの都合から翻って上記までの資本財部門を見直すと、上記表の資本財部門はあまり資本財部門らしくない。それはむしろ消費財部門のための労働力サービス提供部門になっている。またこのことが、12)において資本財部門を単なる搾取部門に変えていた。これらの構成内容で消費財部門と資本財部門の生産物財の内訳を描くと次のようになる。なお消費財部門が必要な資本財a2・x2 は、資本財部門労働力の必要消費財量cL1 と部門の必要消費財量a1・x1 の合計と交換され、交換された物財はそれぞれの部門で消費される。



上記の内訳にも既に示しているが、内訳の詳細に追加すべき変数としてa2、b1、b2、L1、L2 があり、さらにv1、v2 を用意する。それらの追加変数の内容は、次のようになる。

  a1   …資本財一単位に対して資本財部門が必要な消費財量
  b1   …資本財一単位に対して資本財部門が必要な資本財量
  b2   …消費財一単位に対して消費財部門が必要な消費財量
  v1   …資本財一単位に占める労働力の必要資本財量(=1-a1-b1
  v2   …消費財一単位に占める労働力の必要消費財量(=1-a2-b2
  L1   …資本財部門労働力数
  L2   …消費財部門労働力数

1 は上記までの記述だと、単純にL2のa2倍であった。しかし変数a2、b1、b2 が登場すると、単純にL1=a2×L2 とならない。それゆえに消費財部門用の変数Lを部門ごとの変数L1、L2 に分ける。一方で各部門における労働力に必要な消費財量は、それぞれcLnである。annがそれぞれ部門に必要な他部門物財と自部門物財の内包比なので、cLnは部門の物財生産量xnの中で内包比(1-an-bn)で現れる。つまりcLn=(1-an-bn)xnである。しかしこの内包比(1-an-bn)をそのまま使用するのは冗長なので、cLnに該当する物財一単位に占める労働対価物財量をvnで表現する。当然ながらそれは次の恒等式を表現する。
  vn=cLn/xn
  c=vn・xn/Ln
またan+bn+vn=1が常に成立するので、次の恒等式も常に成立する。
  vn=1-an-bn
  an+bn=1-vn  ※1-vn:労働対価以外の部門必要物財量比
  1-bn=an+vn  ※1-bn:他部門物財以外の自部門消費物財量比
ちなみに上記の内訳における消費財部門が必要な資本財a2・x2 は、資本財部門の部門および労働力に必要な消費財(cL1+a1・x1)に充当される。それは次の式の成立を前提する。
  a2・x2=cL1+a1・x1=v1・x1+a1・x1=(v1+a1)x1=(1-b1)x1
  x1=a2・x2/(1-b1
  cL1=v1・x1=a2・x2-a1・x1
この点を改めてそれらの生産要素を追記した生産表を作成すると、次のようになる。なお価値単位行を除いた部門全体の値は、資本財部門と消費財部門の各列の値の合算値になる。

[物財生産工程における生産要素10(二部門モデルⅰ)] ※①~⑪は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例


価値単位cの部門間同一は、v1・x1/L1=v2・x2/L2 の数量比率として現れる。v1・x1とv2・x2はそれぞれ資本財部門と消費財部門の労働者が取得する物財量であり、その量比率が変わらなければ両部門の労働力L1とL2 の数比率も変わらない。仮にv1・x1に対して資本財部門労働力L1が相対的に増大すると、資本財部門の労働力当たりの消費財量が減少する。それは資本財部門の価値単位の減少であり、資本財部門労働者の生活を困難にする。しかもその影響は資本財部門だけに留まらず、消費財部門労働者の生活にも伝播する。例えばその伝播は、資本財部門から消費財部門への労働者の移動がもたらす労賃切り下げであり、資本財部門の様子に便乗した消費財部門経営者による労賃切り下げである。いずれにせよ一方の労働者の不幸は、他方の労働者に容易に伝播する。そしてそれが一般的な労働力の価値単位として確立すると、その貧困も一般的事象になる。もちろん中には別の労働者の労賃を受け取り富裕化するような搾取者の手下に徹した労働者も多い。しかし労働者全てが同じような搾取で富裕化することは不可能である。ちなみに一方の労働者の生活劣化が他方の労働者の生活劣化に伝播するように、一方の労働者の生活向上も他方の労働者の生活向上に伝播する。
(2025/03/08)

続く⇒第四章(5)二部門それぞれにおける剰余価値搾取   前の記事⇒第四章(3)生産拡大における生産要素の遷移

数理労働価値
  序論:労働価値論の原理
      (1)生体における供給と消費
      (2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
      (3)供給と消費の一般式
      (4)分業と階級分離
  1章 基本モデル
      (1)消費財生産モデル
      (2)生産と消費の不均衡
      (3)消費財増大の価値に対する一時的影響
      (4)価値単位としての労働力
      (5)商業
      (6)統括労働
      (7)剰余価値
      (8)消費財生産数変化の実数値モデル
      (9)上記表の式変形の注記
  2章 資本蓄積
      (1)生産財転換モデル
      (2)拡大再生産
      (3)不変資本を媒介にした可変資本減資
      (4)不変資本を媒介にした可変資本増強
      (5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
      (6)独占財の価値法則
      (7)生産財転換の実数値モデル
      (8)生産財転換の実数値モデル2
  3章 金融資本
      (1)金融資本と利子
      (2)差額略取の実体化
      (3)労働力商品の資源化
      (4)価格構成における剰余価値の変動
      (5)(C+V)と(C+V+M)
      (6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
  4章 生産要素表
      (1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
      (2)不変資本導入と生産規模拡大
      (3)生産拡大における生産要素の遷移
      (4)二部門間の生産要素表
      (5)二部門それぞれにおける剰余価値搾取


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