(15)各部門における生産力の拡大による純生産物の生成
上記12)で示した資本財部門の分離は、あからさまな搾取者の分化として進行した。この資本財部門は消費財部門を支配し、その報酬を供物として得るだけの偽りの部門である。これに対して上記13)において分離した資本財部門は、消費財部門と対等な関係で物財を交換する。そしてその労働報酬の正当性が、搾取を消失させる。ここで現れる二つの資本財部門の差異は、消費財部門に対する支配力の有無に従う。それゆえに資本財部門は、12)の搾取者で始まり、13)の資本財生産者に転じることもできるし、その逆に13)の資本財生産者に始まり、12)の搾取者に転じることもできる。当然ながらそこには、搾取者と生産者の中間形態の資本財部門も現れる。その剰余価値搾取を含む資本財部門は、消費財部門との物財交換において、各種の権利的支配力を背景にして剰余価値を得る。その剰余価値は、資本財をその再生産に必要な消費財よりも多くの消費財と交換させる。あるいは同じことであるが、消費財をその再生産に必要な資本財よりも少ない資本財と交換させる。そこで生じる資本財部門における利益は、交換において生じる特別剰余価値として現れる。それは消費財と労働力交換の場面で生じる剰余価値と違い、物財同士の交換において現れる特殊な剰余価値である。あるいはむしろ逆にこの特別剰余価値は、一般化する以前の本来の剰余価値の姿にある。すなわちそれは、物財交換における直接搾取の姿にある。ただしひとまず以下では、消費財と資本財の各物財における特別剰余価値を想定しない。すなわち各物財とも、その物財の再生産に必要な労働力量で交換されるものと想定する。
資本財部門が正規の物財生産部門であるなら、消費財部門と同様に、資本財部門においても余剰生産物が純生産物として現れる。当然ながら消費財部門に限らず、資本財部門であっても剰余生産物の搾取者が正規部門の内側から現れる。したがって次に提示されるべきなのは、消費財部門と資本財部門の両方で余剰生産物と搾取者が発生する生産表である。そこでの搾取者における各種生産要素は、正規部門の生産要素に並行して、生産要素に対する剰余価値率に対応して現れる。ただし資本財部門における剰余価値率をここではm1とし、消費財部門における剰余価値率m2と区別する。それゆえに資本財部門全体の生産要素は(m1+1)倍で現れ、消費財部門全体の生産要素は(m2+1)倍で現れる。これらの構成内容で消費財部門と資本財部門の生産物財の内訳を描くと次のようになる。なお消費財部門が必要な資本財(m1+1)a2・x2 は、資本財部門労働力の必要消費財量(m1+1)cL1 と部門の必要消費財量(m1+1)a1・x1 の合計と交換され、交換された物財はそれぞれの部門で消費される。
m1 …資本財一単位に対する剰余価値量、つまり資本財部門の剰余価値率
m2 …消費財一単位に対する剰余価値量、つまり消費財部門の剰余価値率
ちなみに上記の内訳における消費財部門が必要な資本財(m2+1)a2・x2 は、資本財部門の部門および労働力に必要な消費財(m1+1)(cL1+a1・x1)に充当される。それは次の式の成立を前提する。
(m2+1)a2・x2=(m1+1)(cL1+a1・x1)=(m1+1)(v1・x1+a1・x1)=(m1+1)(v1+a1)x1=(m1+1)(1-b1)x1
(m1+1)x1=(m2+1)a2・x2/(1-b1)
cL1=v1・x1=(m2+1)a2・x2/(m1+1)-a1・x1
なお搾取者自体は資本財増産に関わらないとしても、消費財と資本財の生産が拡大しているなら、各物財生産に必要な消費財もそれに応じて増産する必要がある。それゆえにここでも消費財と資本財の両部門における搾取者の登場は、あらかじめ搾取者の登場に先行して、正規の資本財部門と消費財部門の生産要素が(m1+1)倍と(m2+1)倍に増大可能なのを前提する。
以下では剰余価値率の分だけ(m1+1)倍化、または(m2+1)倍化した各部門の値は、例えばx1やx2は、それぞれx1+やx2+の上付き+記号を付加して表現している。
[物財生産工程における生産要素8(不変資本導入ⅱ)]
上記要領で生産要素の相関を確定できれば、各種変数値の具体的数値設定により、上記表をエクセルシートなどの表計算ソフトで実現可能となる。
なお上記表における両部門を、その搾取者を含めた部門全体にまとめ直すと、以下の生産要素表になる。搾取は部門内部で完結しており、部門をまたがった搾取は発生していない。
[物財生産工程における生産要素12(二部門モデルⅲ)] ※①~⑫は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例
(16)価値単位増減の生産表への影響
先の8)の記述を繰り返すと上記の生産規模拡大は、搾取者が余剰生産物を消費する一方で、労働者が余剰生産物を消費するのも可能である。この場合の拡大再生産は、労働者の必要消費量増大により、その余剰生産物を消費する。そして労働者が余剰生産物を消費するので、それは剰余生産物として表面化しない。そして労働者が余剰生産物を消費することにより、生産と消費の総計一致が実現する。その労働者における人間生活の余裕は、価値単位cの増大として進行する。一方でその増大は、相対的に搾取者が取得する剰余生産物を減少させる。当然ながら搾取者の取得物財量の増大速度も相対的に減速する。ただしその相対的な減少は、剰余生産物量の絶対的減少ではない。搾取者は剰余生産物量の相対的減少の間でも、以前と同様かそれ以上の優雅な生活をできる。減少するのはせいぜい比率としての剰余価値率だけである。その同じ事情は、価値単位cの減少にも該当する。この場合に同一の剰余価値率は搾取者の剰余生産物量を減少させ、搾取者にも貧苦を強いるように見える。しかし実際にはそのようなことは無く、剰余価値率の増大が搾取者に以前と同様かそれ以上の優雅な生活を与える。いずれにおいても価値単位増減は、それだけで上記生産表の内容を変えない。つまり価値単位増減は、剰余価値率に影響する限りで上記生産表に影響するだけに留まる。したがって価値単位増減の剰余価値率への影響も、先の8)~10)の記載に準じる。
(2025/03/08)
続く⇒第四章(6)二部門それぞれにおける剰余価値搾取 前の記事⇒第四章(4)二部門間の生産要素表
数理労働価値
序論:労働価値論の原理
(1)生体における供給と消費
(2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
(3)供給と消費の一般式
(4)分業と階級分離
1章 基本モデル
(1)消費財生産モデル
(2)生産と消費の不均衡
(3)消費財増大の価値に対する一時的影響
(4)価値単位としての労働力
(5)商業
(6)統括労働
(7)剰余価値
(8)消費財生産数変化の実数値モデル
(9)上記表の式変形の注記
2章 資本蓄積
(1)生産財転換モデル
(2)拡大再生産
(3)不変資本を媒介にした可変資本減資
(4)不変資本を媒介にした可変資本増強
(5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
(6)独占財の価値法則
(7)生産財転換の実数値モデル
(8)生産財転換の実数値モデル2
3章 金融資本
(1)金融資本と利子
(2)差額略取の実体化
(3)労働力商品の資源化
(4)価格構成における剰余価値の変動
(5)(C+V)と(C+V+M)
(6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
4章 生産要素表
(1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
(2)不変資本導入と生産規模拡大
(3)生産拡大における生産要素の遷移
(4)二部門間の生産要素表
(5)二部門それぞれにおける剰余価値搾取