表8(5d1・5d2)の不変資本増大による可変資本増強
[資本財交換における生産財転換モデル3または4] 上記の資本回転は、生産規模を維持した可変資本減少モデルである。それは不変資本による生産性向上により、既存の可変資本を不要化する。しかしその不要化は、不変資本の可変資本との結合をすることでその生産力を増強する。もちろんこの不変資本は、可変資本減資ではなく生産規模の増大にも流用できる。(5d1)の表8で示したのは、蓄積資本を不変資本増大に割り当て、可変資本規模を維持して生産増大する資本回転である。そしてその実数値モデルが以下である。なおここでも不変資本は、先行資本回転の蓄積資本と等価である。そしてその不変資本による資本財の生産性も7倍になると想定している。
[資本財交換における生産財転換モデル8]
[資本財交換における生産財転換モデルでの商取引8]
ここでの第二回転の資本財部門も、先の表と同様、可変資本に割り当てる財代金から剰余価値を取得していない。しかしそれにも関わらず上記資本回転の利潤233Lは、可変資本増大での33Lより200L多い。これは第一に不変資本導入部門が、生産財を増大したことに従う。そしてこのことに準じて、第二に可変資本を減少させていないことに従う。可変資本が減少しないなら、不変資本による可変資本増強効果がそのまま可変資本に作用する。それゆえにここでのその効果は、7倍に維持される。ただしここでの不変資本導入資本は剰余価値取得をしていないので、その生産性向上も7倍にならない。したがって可変資本増大と同様に生産量を5/3倍にしても、可変資本増大と同量の利潤を達成できない。もしここでの部門支配者が可変資本増大と同量の利潤を得ようとするなら、その5/3倍に4/3倍を加えた3倍増を要する。なおここでも不変資本増大は資本の有機的構成を変更し、総資本における可変資本比率は減少する。しかし可変資本減資の場合と違い、不要可変資本放出による単発の特別剰余価値は生じない。
[蓄積資本の充填対象に対応する資本財部門総資本8] ※みなし差分は100F+1K=2/3(400F+60W)=267F+40Wに扱ったときの差分
すなわち1K=167F+40Wである。
表9(6)の特別剰余価値の伝播と消滅
導入不変資本がもたらす特別剰余価値は、同業他社が同じ不変資本を導入と生産財の価格競争を通じて消失する。しかしその実際の消失は、生産財の最終消費者において生産財の低廉化が実現するのを待つ必要がある。それまでの間、特別剰余価値は生産財の中間消費者に蓄積し、消失していない。すなわち低廉化で消失したはずの特別剰余価値は、必要財低廉化の恩恵を受ける別部門に伝播しただけであり、実際には消失していない。この特別剰余価値の伝播と消滅の実数値モデルが以下である。ちなみにここでの生産財の中間消費者は、消費財を不変資本にして資本財を生産する資本財部門である。そして生産財の最終消費者は、生産財を取得して代金を返すだけの第三部門である。しかし生産者は同時に消費者であり、生産場面に現れる消費財部門と資本財部門もやはり消費者である。すなわち第三部門に純化して現れる消費行動は、実際には各生産部門に内在している。もっと別の言い方をすると、或る生産財の生産と消費の両端に現れる二部門が、裏を返すと別の生産財の消費と生産の両端に現れる二部門になっている。
[資本財交換における生産財転換モデル9]
[資本財交換における生産財転換モデルでの商取引9]
中間消費者であるか最終消費者であるかを問わず、特別剰余価値は価格競争を通じて該当部門から消失する。ただし生産者が被る価格低廉圧力と逆に、消費者は価格高騰圧力を受ける。それゆえに最終消費者における特別剰余価値も別部門に伝播し、消滅する。しかしそれだと特別剰余価値は同じ伝播の渦に巻き込まれ、悪無限の伝播を繰り返す。それゆえに上記の特別剰余価値の伝播と消滅の運動も、最終消費者における特別剰余価値の最終的消滅だけを示している。当然ながらその価格競争は、特別剰余の消失の余地を持たない最終消費者でのみ終了せざるを得ない。そのような最終消費者に該当するのは、端的に労働者だけである。
(12f)表10の価値単位の変動に伴う財の低廉化と反騰
優位技術に立脚した不変資本がもたらす特別剰余価値が消失すると、その関連財が低廉化する一方で、非関連財が反騰する。同様に労働力の生活財が関連財の中心に近いほど、労働力自身も低廉化する。ただしその低廉化は、相対的に関連財ほどに低廉化しない。その場合に労働者の生活も一時的にせよ、生活財の低廉化により楽になる。一方で特殊な奢侈品や軍需品、または学術品などを除くと、生産財のほとんどは労働者の生活に関与する。それゆえにほとんどの技術進歩は、程度の差異があるにせよ、労働者の生活を楽にする。しかし労働力商品は、それ自身が価値単位として価格運動の中心にいる。以下の実数値モデルは、そのような生産財と財代金の変動を示したものである。すなわちそれは労働力を中心にした財と価格の相対的運動である。
[資本財交換における生産財転換モデル10]
上記の低廉化する消費財は、技術進歩の関連財である。そして反騰する資本財は、技術進歩の非関連財である。ここでもっぱらそれら資本財は、財生産の技術進歩を遊離した特殊な財として現れている。しかし先の特別剰余価値の伝播と消滅を見たとおり、それらの財も財生産の技術進歩を受け付ける。もちろんそれらの内に生産不能財も含まれている。しかしその非生産特性は、どのように成立しているのかを注視すべきである。実際には上記資本回転に現れる反騰財は、もっぱら自らを非生産財の如く装うだけの独占財である。この独占財は特別剰余価値の伝播と消滅を攪乱させ、特別剰余価値を部門支配者の元に滞留させる。しかしその反騰は、低廉化する労働力に対する財の相対的な価値増大にすぎない。労働者は自らのために、これら独占財が持つ非生産財の虚飾を剥ぎ取る必要を持つ。しかしその虚飾は種々雑多な暴力により塗り固められている。現代先進国において厄介なのは、この暴力の中心が自国の外に現れることである。このために現代の労働者は、常に自国と他国の暴力の除去を、どのように順位付けて対処すべきか考えざるを得ない。しかも他国の暴力は、自国労働者の手が届かないところにある。また労働者はその暴力に対処するにしても、相手と同じ暴力では問題を根本的に解決できない。すなわち暴力を行使するとしても、それは暴力の異なる形式を必要とする。このような現代世界の事情は、部門支配者が労働者を分断させ、その精神的牙城を突き崩す有効な手段になっている。
(2023/07/22)
続く⇒第三章(1)金融資本と利子 前の記事⇒生産財転換の実数値モデル
数理労働価値
序論:労働価値論の原理
(1)生体における供給と消費
(2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
(3)供給と消費の一般式
(4)分業と階級分離
1章 基本モデル
(1)消費財生産モデル
(2)生産と消費の不均衡
(3)消費財増大の価値に対する一時的影響
(4)価値単位としての労働力
(5)商業
(6)統括労働
(7)剰余価値
(8)消費財生産数変化の実数値モデル
(9)上記表の式変形の注記
2章 資本蓄積
(1)生産財転換モデル
(2)拡大再生産
(3)不変資本を媒介にした可変資本減資
(4)不変資本を媒介にした可変資本増強
(5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
(6)独占財の価値法則
(7)生産財転換の実数値モデル
(8)生産財転換の実数値モデル2
3章 金融資本
(1)金融資本と利子
(2)差額略取の実体化
(3)労働力商品の資源化
(4)価格構成における剰余価値の変動
(5)(C+V)と(C+V+M)
(6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
4章 生産要素表
(1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
(2)不変資本導入と生産規模拡大
(3)生産拡大における生産要素の遷移
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