(6a)生産部門における寡占形成
金融部門の資本主義的利益を構成するのは、基本的に金融部門による貨幣資本の独占を背景にした特別剰余価値である。その独占を実現するのは、個別の生産部門にとって用意不能な貨幣資本の大きさに従う。また生産部門はその貨幣資本を、さらに上位の金融部門からも調達できない。もちろん金融部門の債務者が金融部門に融資を受けるのは、減税目的の赤字粉飾をするためかもしれない。いずれにせよ債務者にとって金融部門は、避けようの無い貨幣資本の調達手段である。ただし金融部門による貨幣資本の独占は、生産部門に対する独占に留まる。その独占の威力は、同業金融部門に対して有効ではない。しかし金融部門間の競争で競合する両者が目指すのは、互いに特別剰余価値の確保である。それは互いの貨幣資本独占の維持において暗黙に一致する。しかもどちらの金融部門においても、一般的な剰余価値搾取が困難である。それゆえに金融部門は、同業金融部門との競争を抑止する暗黙の利潤率を擁立し、それに即した貸出利率を設定する。一方で生産部門の資本主義的利益を構成するのは、一般的剰余価値である。基本的にそれは、生産部門による生産手段の独占を背景にする。その独占を実現するのは、労働者にとって用意不能な生産手段の大きさに従う。労働者にとって生産部門は、避けようの無い生産手段それ自体として現れる。ただし生産部門による生産手段の独占は、労働者に対する独占に留まり、同業生産部門に対して有効ではない。そして生産部門同士が競争するなら、互いの搾取剰余価値が減少する。それがたどり着くのは、生産部門における剰余価値の消滅である。それゆえに生産部門も、金融部門と同様に、同業生産部門の競争を抑止する暗黙の利潤率を擁立し、それに即した剰余価値率を設定する。そしてその剰余価値が、部門支配者のための資本主義的利益を充当する。この剰余価値率の先行決定は、生産物の価格構成に現れる。それは価格の内訳を、生産コストと利益として分離する。そこでの労賃は、労働者から見れば利益である。しかしそれは、生産部門から見れば既に利益ではなく、生産コストである。
(6b)寡占特別剰余価値の特異性
独占を形成した後の剰余生産物は、生産財の過剰生産に付随して現れる剰余ではなく、予定された剰余である。しかし結果剰余を予定剰余にするには、予定剰余に対応して生産財の予定生産量を減らす必要がある。そこで生産部門は、既存の生産実績に従って逆に必要可変資本を減少させる。それゆえにその生産財転換モデルは、前章の可変資本減資モデルに準じる。ここでの資本主義的利益は、あらかじめ剰余価値を価格面で確保することにより得られる。しかし剰余価値率が販売実績に応じて決まるのでなく、生産時点で計画的に決められると、その剰余価値はあまり剰余らしくない。本来の一般的剰余価値は、剰余生産物である、それゆえに価格構成の中に、剰余価値の居場所は無い。したがってその生産財単価は、あくまでも不変資本と可変資本の合算値(C+V)である。この価格構成における剰余価値の不在は、生産物取引を差額略取の無い等価交換にする。これに対して予定された剰余価値は、生産物の価格構成に、あらかじめ居場所を確立している。その生産財単価は、不変資本と可変資本および特別剰余価値の合算値(C+V+M)である。さしあたり寡占特別剰余価値は、やはり特別剰余価値である。そしてそれが特別剰余価値であるなら、その生産財単価も、(C+V+M)から競争を通じて、(C+V)に復帰すべきである。しかも予定剰余は、その可変資本に対する必要分の残余である。その剰余価値としての姿は、一般的剰余価値と変わらない。その生産財単価が(C+V)でなく、(C+V+M)であるのは、あらかじめ高目に吹っ掛けただけの名目価格であり、長期的に言うと実価格とならないように見える。この寡占特別剰余価値についてさらに確認すると、次のようになる。
(6b1)特別剰余価値と一般的剰余価値の相反する一体性
まず本来の特別剰余価値は、同業他社の生産コストとの比較で、その技術優位に従い現れる差分利益である。生産部門の手元に残る資本主義的利益は、あらかじめ優位技術が価格に滑り込ませた特別剰余価値である。それゆえにその生産財単価は、不変資本と可変資本および特別剰余価値の合算値(C+V+M)である。この価格構成は、等価交換における価格(C+V)と異なる。当然ながらこの価格構成が表現するのは、差額略取である。その差分利益は、同業他社の生産コストとの比較で生まれる。ところが寡占特別剰余価値は、同業他社との寡占で生じる特別剰余価値である。それは同業他社の生産コストとの比較で言えば、差分利益ではない。そもそも生産コストが競合部門間で同じなら、同業他社に対して差分利益が生じない。しかし寡占は価格に特別剰余価値を上乗せすることで、その差分利益を実現する。生産部門にこの差分利益を可能にさせるのは、生産財または生産工程または販売過程に対する独占ないし寡占である。ここでの生産部門は消費者に対し、元の生産物価値に特別剰余価値の上乗せを強要する。それは、生産物取得のための余計な労働力の上乗せの強要である。しかしもし寡占が無ければこの強要は無効であり、同業他社の競合が生産財単価を(C+V+M)を(C+V)に減じる。このときに消費者も、生産物取得のために余計な労働力の上乗せることも無い。この差分利益でありながら差分利益ではない差分利益は、寡占特別剰余価値を特別剰余価値と異なるものにする。しかしそれが特別剰余価値ではないのであれば、それは一般的剰余価値である。しかしその生産物における(C+V+M)の価格構成から言えば、この剰余価値はやはり特別剰余価値である。寡占特別剰余価値の特異性は、この特別剰余価値と一般的剰余価値の相反する一体性にある。
(6b2)価格構成における剰余価値の変動
寡占下における生産財単価は、一方で(C+V+M)を予定し、他方で(C+V)への減価圧力に晒される。その価格構成のギャップは、ヴァベルクが捉えた剰余価値理論の矛盾と同じものである。その価格構成は、一方で(C+V)に始まって(C+V+M)に至り、他方で(C+V+M)に始まって(C+V)に結果する。一見するとそれは、価格変化であり、価格構成の変化である。しかし価格構成の変化は、価格の変化ではない。価格が同一でも、価格構成は変動する。その例証に以下で労賃1万円、原材料1万円の商品を2個作るときの価格構成を考える。この場合に1個だけ2万円で売れると、剰余価値は生じない。
生産財1(販売20,000円) | 原材料 10,000円 | 労賃 10,000円 |
生産財2(不売0円) | →資本主義的利益ゼロ |
この生産財が1個だけ売れた時の価格構成は(C+V)であり、剰余価値Mが現れようも無い。しかし2個売れると、剰余価値が生じる。ただしその価格構成は(C+V)のままである。
生産財1(販売20,000円) | 原材料 10,000円 | 労賃 10,000円 |
生産財2(販売20,000円) | 資本主義的利益 | 20,000円 |
ところがこの価格構成を各生産財で平準化すると、次のように(C+V+M)となり、剰余価値Mが価格構成に入り込む。
生産財1(販売20,000円) | 原材料 5,000円 | 労賃 5,000円 | 資本主義的利益 10,000円 |
生産財2(販売20,000円) | 原材料 5,000円 | 労賃 5,000円 | 資本主義的利益 10,000円 |
しかし逆にこの状態で生産財が1個しか売れなければ、原材料と労賃について必要な売り上げが不足する。
生産財1(販売20,000円) | 原材料 5,000円 | 労賃 5,000円 | 資本主義的利益 10,000円 |
生産財2(不売0円) | →原材料5,000 | +労賃5,000 の | 損失 |
生産部門が最低でも単純再生産を目指すなら、生産部門はここでの損失に、資本主義的利益1万円を充当する。そしてそのように充当すると、その価格構成の内実は最初の(C+V)に復帰する。
生産財1(販売20,000円) | 原材料 10,000円 | 労賃 10,000円 |
生産財2(不売0円) | →資本主義的利益ゼロ |
(2023/10/09) 続く⇒第三章(5)(C+V)と(C+V+M) 前の記事⇒第三章(3)労働力商品の資源化
数理労働価値
序論:労働価値論の原理
(1)生体における供給と消費
(2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
(3)供給と消費の一般式
(4)分業と階級分離
1章 基本モデル
(1)消費財生産モデル
(2)生産と消費の不均衡
(3)消費財増大の価値に対する一時的影響
(4)価値単位としての労働力
(5)商業
(6)統括労働
(7)剰余価値
(8)消費財生産数変化の実数値モデル
(9)上記表の式変形の注記
2章 資本蓄積
(1)生産財転換モデル
(2)拡大再生産
(3)不変資本を媒介にした可変資本減資
(4)不変資本を媒介にした可変資本増強
(5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
(6)独占財の価値法則
(7)生産財転換の実数値モデル
(8)生産財転換の実数値モデル2
3章 金融資本
(1)金融資本と利子
(2)差額略取の実体化
(3)労働力商品の資源化
(4)価格構成における剰余価値の変動
(5)(C+V)と(C+V+M)
(6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
4章 生産要素表
(1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
(2)不変資本導入と生産規模拡大
(3)生産拡大における生産要素の遷移