カトリック社会学者のぼやき

カトリシズムと社会学という二つの思想背景から時の流れにそって愚痴をつぶやいていく

巡礼は義務である ー イスラム概論7(学びあいの会)

2021-05-26 20:26:25 | 神学


2 コーランの思想 その2 ー 行


 イスラム教では「行為」が重視される。ただ信仰があればよいとは考えない。コーランにはムスリムが従うべき行為基準が具体的に述べられている。この義務的実践を「行」(イバーダート)という。内容は以下の5個なので、「五行」または「五柱」(アルカーン・ハムサ)と呼ばれる。

 ①信仰告白 ②礼拝 ③喜捨 ④断食 ⑤巡礼

 少し順番に見てみよう。

①信仰告白 シャハータ

 「アッラーのほかに神は無し。ムハンマドは神の使徒である」という定句を「アラビア語で」唱えること。
 前句「アッラーのほかに神は無し」は神の一神性を強調しており、後句「ムハンマドは神の使徒である」は、ユダヤ教やキリスト教とは違うということを強調しているという。

②礼拝 サラート

 人間が神に向き合い、その僕であることを表明すること。毎日5回祈るという(夜明け前、午後、日没前、日没後、夜)(1)。
 毎週金曜日の午後はモスクで集団で礼拝する義務がある。平日は一人で自宅でもどこでも礼拝してよい。
 礼拝への招きをアザーンといい、モスクの塔から礼拝を呼びかける人をムアッジンと呼ぶ。
呼びかけの内容は、「アラー・アクバル」(アラーは偉大なり)で始まり、信仰告白を含み、礼拝に来たれなどの文言だという。


(礼拝の基本動作)

 

 

 

③喜捨 ザカート

 貧者・困窮者・旅人・孤児のために富を提供すること。二種類あるようだ。
 定めの喜捨 ザカート:収入の2.5%(2)
 自由な喜捨 サダカ:

④断食 サウム

 イスラム暦9月(ラマダン月)には、病人・旅人・(子供・兵士)を除くすべてのムスリムは、日の出から日没まで一切の飲食を断ち、禁欲生活を保つ(性行為も禁止という)。そのため、日没後は普段以上に大食する傾向があるという。ラマダン月には食料品の売り上げが増大するといわれる(3)。

⑤巡礼 ハッジ

 イスラム暦の12月(スール・ヒッジャ月)の8日から10日の間ににはメッカのカーバ神殿へ巡礼する(4)。スンニ派では、ムスリムは一生に一度は果たさねばならない「行」とされる。
ハッジという言葉は、メッカでの巡礼者の将棋倒し事件の報道が続いて日本でも馴染みがでてきているようだ。
 カーバ神殿はアブラハムの子イシュマルとともに建てた神殿と伝えられ、そこに旅する能力(体力と資力)のある者にとっては義務である。
 巡礼の具体的行為は詳しく定められている。

イスラム暦12月7日 この日までに、白布2枚からなる巡礼服を着用し、「ライパイカ」(我、御前にあり)の章句を大声で唱えながらメッカに入り、モスク内のカーバ(黒い石)の周りを7回回る。その後、サファーとマルワの二つの丘の間を7往復する(タワーフ)。
12月8日 メッカ郊外のミナーの地で一夜を明かす
12月9日 早朝アラファートの地へ向かい、ラクマ山を中心にコーランを続唱し、悔い改めの儀式を行う 日没後にミナーとの間にあるムズダソファの地に至り、そこで一夜を明かす 翌朝ミナーに戻り、悪魔をかたどった3本の石柱に小石を投げる そのあと、子羊などの犠牲を捧げ、頭髪を切って巡礼服を脱ぐ
12月10・11日 ミナーで過ごした後メッカへ戻り、もう一度タワーフ(7回巡り)を行い、終了する

今日200万人の人が巡礼するという。巡礼した者は ハッジ(男)、ハッジャ(女)と呼ばれ、尊敬を受けるという。

巡礼は体力勝負、資力勝負だということがよくわかる。一夫多妻制と聖戦の話は次回に回したい。


1 カトリックでいえば、「聖務日課」と似ている。「時課」まではないようだ。
2 どこまで守られているのかはわからないが、キリスト教での「献金」よりは重要なようだ。2.5%は、キリスト教会の月定献金やお寺さんへのお布施(檀家維持費)、政党の年会費、ゴルフ場の年会費などとくらべて特に大きいとも思えない。
3 2021年は4月12日月曜日夕方から始まり、5月12日水曜日日没までだったようだ(地域によって少しは異なるらしい)。ラマダン月明けの三日間はお祭り(イード)なのでしばしば紛争の停止(停戦)がおこなわれる慣例があるようだ。2021年のイスラエルとガザとの抗争はラマダン月の最中だったので対立の根深さが際立ったといわれる。
 なお、イスラム暦(ヒジュラ暦)は太陰暦だが、日本の旧暦(太陽太陰暦)とは異なり、閏月がない。そのため、1年は12ケ月だが、年間約11日づつ季節や太陽暦とズレていくという。西暦との換算が面倒だ。ムハンマドがメッカからメディナへ聖遷した年(西暦622年)が元年で、1年は12ヶ月、1か月は30日(29日)だという。新聞やカレンダーには両方の暦が載っているという。
4 巡礼地はカーバ神殿が定められているが、メディナ(ムハンマド埋葬の地)、エルサレム(ムハンマド昇天の地)でもよいらしい。メッカ(ムハンマド生誕の地)はムスリムのみが立ち入ることができる街であり、市域全体が聖地とされているという。サウジアラビア以外の外国のムスリムのハッジ、外国人(異教徒)のサウジアラビア入国、街のインフラ維持・整備のための異教徒労働者の扱いなど、話としては面白い話題に事欠かず、S氏の体験談はおもしろかった。
 現在、巡礼希望者数は受け入れ可能数をはるかに超えており、また興奮に伴う政治的・社会的混乱を恐れてサウジアラビア政府はビザの発行で人数をコントロールしているという。
 なお、カトリックの3大巡礼地は、ローマ(サンピエトロ大聖堂)、サンティアゴ・デ・コンポステーラ(スペイン 聖ヤコブの墓)、エルサレム(イスラエル イエス昇天の地)とされる。

 

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