吹く風がやわらかく、水が温むころとなりました。体を覆っていた衣服がだんだんと軽くなり、スカーフの色も桜色に変わりました。
この3月は、冬眠から覚めた虫たちのように、皆の動きが活発になってきます。そして、4月から始まる新しいステージに立つための準備と緊張の月でもあります。高校や大学の入学試験、卒業式、終業式、先生の離任式など、制服やスーツで会場や式典に向かう姿をたくさん見ることができます。
期待や願いがこもった人々の表情が目に浮かびます。
私の甥っ子は、今年大学受験でした。筆記試験は何とか自己との戦いで光が見えてきたようでしたが、その学部には、面接試験も課せられていて、彼にはそれが最大のハードルでした。
私も、幼少から彼の成長をそばで見て来ていたので、何とか力になりたいと思い、面接の対策をしてあげることにしました。もともと話すのがあまり得意ではなく、通っている塾の指導も急ぎすぎている感があって、彼は途方に暮れていたところでした。
学部の特徴と面接の傾向をネットで調べて、口下手な彼に合った短い言葉での対応の仕方を伝授しました。彼は、自分の言いたいことではないことを、長々と述べるよう指導を受けていたため、私のアドバイスで、自分の言いたいことを自分の言葉で言うことができて、本当にすっきりしていました。
彼は、晴れ晴れとした表情で試験に向かい、できるところまでやり切ったと報告に来てくれました。自分のお小遣いで、私におみやげまで買って来てくれました。
中国戦国時代の老子は「知人者智、自知者明」(人を知る者は智なり、自ら知る者は明なり)という言葉を残しています。「他人のことが分かるのは智者と言えるが、真の自分(己)を知る者こそ明智の人である」というのです。
自分のことは案外わからないものです。
日本では、明治期の啓蒙思想家で教育者の福沢諭吉の教え「心訓」と言われるものがあります。
一、世の中で一番楽しく立派な事は、一生涯を貫く仕事を持つという事です。
一、世の中で一番みじめな事は、人間として教養のない事です。
一、世の中で一番さびしい事は、する仕事のない事です。
一、世の中で一番みにくい事は、他人の生活をうらやむ事です。
一、世の中で一番尊い事は、人の為に奉仕して決して恩にきせない事です。
一、世の中で一番美しい事は、全ての物に愛情を持つ事です。
一、世の中で一番悲しい事は、うそをつく事です。
いくつも、心に沁みる言葉があります。
今は、あちこちで卒業式の声が聞こえ、私たちの学校でも、先日、厳粛に、卒業証書伝達式が執り行われました。式典は、九十九島フラッグスという西海国立公園内にあるリゾートホテルです。立派な会場で卒業生たちは、そわそわとなんだか落ち着きのない、緊張と興奮が入り混じった様子でした。一人ひとりに手渡される卒業証書には、1年間、2年間の頑張った思い出が詰まっています。立ち居振る舞いも1年前とは全く違っています。立派に成長した姿がそこにはありました。
私は、この学校を卒業して社会人となる学生たちに、自分を正しく捉える目を持ち、生きがいを持てる仕事人生を、これから大切に送ってくれるよう願ってやみません。
今月の写真は、ゴールテリア(チェッカーベリー)です。姫柑子(ヒメコウジ)とも呼ばれています。7月にアセビに似た白い釣り鐘形のかわいらしい花を咲かせ、冬の間は赤い実が観賞できる常緑の低木です。
葉の緑色とのコントラストが美しく、冬の寂しい景色に彩りを与えてくれるのが、最大の魅力です。人間ばかりでなく、庭を訪れる小鳥たちにも人気があります。
ほっと一息付けました。
Photo by mizutani