前回のブログで”北京に6月23日までに着かないといけないのでチベット族自治州には長くいれなかった”と書きました。それはなぜかというと、パキスタンにいる時に、ドイツ在住の大学時代からの友人なおくん(サッカー狂)からメールで連絡があり、4年に1度のサッカーのビッグイベント・欧州選手権の準決勝のチケットが入手できたので一緒に見ようと誘われていたのです。そして、そのフライトが北京からだったのです。中国からスイスまで行くなんて非常に遠いし時間もお金もかかるけど、それでも行くことにしたのは、ヨーロッパを旅している時に色々と世話になったなおくんの誘いでもあるし、欧州選手権の準決勝なんていうビッグマッチを生で見る機会なんてこれを逃すと一生無いかもしれないし、試合の会場がスイスのバーゼルで、スイスはヨーロッパの中で行かなかった国の一つだし、バーゼルは元日本代表の中田浩二がプレーしていた場所でもあるし、とても興味深かったからでもあるからです。
そんなわけで、西寧(シーニン)から電車に乗って約24時間かけて北京へ向かいました。
西寧の駅前にある巨大屋外ビリヤード場
なんで、ビリヤードを屋外で・・・。しかも、この日は小雨が降っていました。
まるで巨大な城のような北京西駅
北京で、地下の超高湿度ドミトリー部屋のユースホステルで2泊しました。同部屋のルクセンブルク人学生シルバン君がサッカー大好きで、彼と深夜までサッカーやEUROについて談義しました。そして、彼から僕が見に行く準決勝のカードはドイツ対トルコになったと聞かされました。これは完全に予想していなかった組み合わせです。EUROの準決勝といえば、フランス、イタリア、オランダ、ポルトガルといったスター選手を抱える国同士の試合になると思っていたのですが・・・・・・・。いや、まあドイツはそれなりにいいとして、トルコが勝ちあがってくるとは。トルコの準々決勝の相手はクロアチアだったので、どっちが来てもどっちもどっちなのですが・・・。ドイツに関しては、僕の好きなバラックやクローゼといった有名選手を抱えているとはいえ、やっぱり準々決勝の相手であった現在世界No.1選手のクリスティアーノ・ロナウド擁するポルトガルに勝ち上がって来て欲しかった・・・。デコやクアレスマも見たかった・・・。まあ今大会は、開催国のスイスとオーストリアという日本代表が普通にやっても勝てそうな弱い2チームが予選無しで参加してしまっているために、いつもよりは全体のレベルが下がっている印象は否めません。今年のチャンピオンズリーグを席巻したイングランドが予選落ちして出ていないのも残念でした。
ところで、シルバン君はフランスの大学に所属していて、代表チームとしてはフランス代表を応援しているらしく、今大会ではいいところ無く敗退したフランスについてあーだこーだと監督采配を批判しては嘆いていました。また彼は、フランスリーグも欠かさず見ているらしく、フランスのル・マンでプレーする松井大輔について「彼は今年とても良かった。確か来シーズンからストラスブールというより強いチームへ移籍したよ。日本代表には入っているの?彼を是非代表に入れるべきだよ!」と結構良いことを言っていました。同じ日本人として誇らしいですね。
北京から飛行機で10時間のドイツへ飛びました。ドイツに来て最初に思ったことは「ドイツ人はやっぱりでかいなあ」ということでした。ドイツでは再度ミュンヘンのなおくん宅に泊めさせてもらって、翌日なおくんの車でアウトバーンを走り、スイスのバーゼルへ向かいました。バーゼルまでは5時間ちょっとでした。車中では1年半ぶりの再会となるなおくんといろいろと話をしました。特になおくんの会社で働くドイツ人がいかに働かない使えない奴かという話が面白かったです。僕のイメージではドイツ人というのは日本人のように勤勉な民族という感じだったのですが、実際にドイツに住んで働いてみるとドイツ人の怠けっぷりというのは日本人の感覚からするとありえないレベルみたいですね。もちろん個人差はあるんでしょうけど。ドイツ人でそれなのだから、イタリア人やスペイン人なんて、もうすごいんでしょうね。
スイス入国の際、車税のようなものを払わされるのですが、イミグレーションオフィスはなく、当然パスポートチェックは無く、スタンプを押されることも無かったです。なんとも開放的ですね。
スイス・バーゼルののどかな風景
バーゼルは想像していたよりも小さな町でした。ひょっとしたらスタジアム周辺が田舎なだけで、別の場所にバーゼルの都会エリアがあったのかもしれませんが。
スタジアムに着くと、僕らはなおくんの持っているドイツ・サポーター・グッズを着用し、ドイツサポーターに変身しました。
なおくんはドイツのユニフォームとマフラー、僕はドイツ国旗のマント、そして2人ともドイツ帽を被って、いよいよ気分も盛り上がって来ました!
トルコサポーターも負けてはいません。
ムスリム女性サポーター!
僕らの席はトルコサポーター側のゴール裏でした。でもトルコサポーター軍団からは少し離れいていて周りはドイツサポーターでした。スタジアム全体を見ると予想通り8割くらいはドイツの応援のようです。なんせ隣の国ですものね。ところで、ドイツにはトルコ移民がたくさん住んでいます(僕もドイツ旅行中はよくケバブ屋に行きました)。そして、ドイツ人とトルコ移民はあまり仲が良くないらしいのです。この試合の直前にも、ドイツで起きたトルコ移民によるドイツ人暴行殺害事件の初公判が行われたみたいで、それが大きくニュースで扱われたりしていました。スタジアムに来るまでは、観客席にはそういった緊張感があるのかなと予想していましたが、実際はサッカーを楽しもう、という和やかな雰囲気が大勢でした。一部のドイツサポーターはトルコに対して激しいブーイングをしていましたが。
さて、実際の試合ですが、前半から意外にもトルコが試合を優勢に進めます。トルコは、僕の想像していたよりも遥かに強いです。試合前、なおくんも「トルコは意外と強いで。全然ヨーロッパっぽくない異色のサッカーやけどな。ほんまトルコがアジア予選にいなくて良かったで」と言っていました。トルコは、個々の技術とスピードでドイツを上回っています。特にアルティントップという攻撃的MFの選手のスピードと技術は凄まじく、ドイツ守備はほとんど対応できていません。ドイツは自陣でいいようにパスを回され、ドリブルで切り込まれ、次々とピンチを迎えます。しかもドイツは攻撃が全然つながりません。本来中盤のバラックを1.5列目に配しているためにゲームメーカーが不在です。その期待のバラックも体が重く、攻撃のブレーキにしかなっていません。そして、前半のうちにトルコが先制します。センタリングのこぼれ球を詰められたのですが、ドイツ守備は完全に崩されていました。しかし、ドイツの凄いところは、その直後に同点に追いついてしまうところです。それまでほとんどチャンスを作れなかったのに。ポドルスキーがカウンターから左サイドを抜け出し、そのセンタリングを右サイドMFのシュバインシュタイガーがゴール前まで突っ込んできて決めました。そのまま前半終了。
不調のバラック(白の13番)
後半も前半同様、トルコが主導権を握ってチャンスを作り続けます。バラックは相変わらず不調で攻撃のブレーキになっています。しかし、ドイツはボランチの一人をパス回しの上手い選手に交代したので、徐々に攻撃がつながるようにはなってきました。そして、左サイドからのセンタリングをエースストライカーのクローゼが素晴らしいヘディングで叩き込み、逆転しました。クローゼは、ここまでいるかどうかほとんど分からないくらい存在感が無かったのですが、やっぱりやる時はやります。日本にもこういう完全な点取り屋タイプのFWが出てほしいものです。トルコは、次々と選手交代をして同点を狙います。ドイツは次第に完全に押し込まれていき、後半40分、左サイドのポドルスキーとラームが個人技により完全に突破されて失点してしまいます。熱狂するトルコサポーターと消沈するドイツサポーター。完全なコントラストです。この時、TVスクリーンにこれまでの試合のデータが出ました。枠内シュートの数が、トルコ11に対して、ドイツはたったの2でした。ドイツは2回のチャンスを2回とも決めたということなのですが、状況は圧倒的劣勢です。コーナーキックの数もボール支配率も圧倒されていました。ドイツの圧倒的不利・・・。しかし、先ほどの同点ゴールで失態を演じたラームが意地を見せました。左サイドから長いドリブルで相手陣内に切り込み、パス交換してペナルティエリアまで突っ込んでいって、キーパーと一対一に持ち込み、自らが見事にシュートを決めました。今度は熱狂するドイツサポーターと黙り込むトルコサポーター。時計を見ると後半45分を過ぎていました。そのまま試合は終了し、ドイツは3-2でトルコに勝ちました。
点が入り喜ぶドイツサポーター
さすが欧州選手権の準決勝、試合はとてもレベルが高く、試合展開も劇的で面白かったです。予想以上にトルコが強かったことが印象的でした。しかし、ドイツはそれ以上に強かったです。技術やスピードで負けているのを身体能力と精神力で打ち破りました。非常に印象的な試合でした。僕のマン・オブ・ザ・マッチはドイツの1点目を決めたシュバインシュタイガーです。とにかく運動量が多く、右サイドにも左サイドにも前線にも現れて、攻守に効いていました。トルコでは、中盤のアルティントップはいつか世界的な選手になるかもしれません。あと、名前は知らないけど、ボランチの7番もかなり凄かったです。バラックは彼に手も足も出ませんでしたし、パス回しでも技術の高さを見せていました。
体をドイツ国旗色にペイントした気合の入ったドイツサポーター
この日は近くの小さい町で一泊し、翌日なおくんの車でミュンヘンまで戻り、そのまま飛行機に乗って北京に帰りました。2泊3日の弾丸ヨーロッパサッカー観戦ツアーでした。案の定疲れました。