旅とエッセイ 胡蝶の夢

横浜在住。世界、50ヵ国以上は行った。最近は、日本の南の島々に興味がある。

空を覆う鳥の群れ

2015年04月26日 10時53分23秒 | エッセイ
空を覆う鳥の群
 
 ヒッチコック監督の『鳥』という古い映画を知っていますか?年輩の人でこの映画を一度でも見たことがある人なら、「ああ、あれか」と思い出すことでしょう。とてもインパクトのある映画です。身近にいる鳥、あらゆる種類の鳥が原因は分からないが突然、群をなして人間を襲い始める。主演の女優さんが大変な美人で、金髪をきちんと結いスーツを身につけた彼女が、スズメのような小鳥の群に襲われて血だらけになっていくシーンは恐い。恐いがとてもエロチックだ。トンビやカラスと1対1で対決する訳じゃあない。何百何千何万という小鳥の群にいわれなく襲われたらたまらない。
 そんな恐怖を実際に一瞬味わった経験があります。所はタイの首都バンコク、時刻は夕暮れ時でした。街を歩く人が雨でもないのにボツボツ傘を広げ出したのが、その出来事の始まりだった。車や街の喧噪の他に、何にやらうるさく感じながら歩いていると、服にボトッと白い物が落ちてきた。んっ上を見ると、薄暗くなった空に飛び交う無数の影。さっきからこれが鳴いていてうるさかったのか、昼間はいなかったのに。ウハ、ミニ爆弾が頭に直撃した。それから先は一方的にやられっぱなしで、避けることも反撃することも出来ない。早くに当たった爆弾は乾いてきて固まり始め、その上に水分をたっぷり含んだ奴が次々に重なる。早く歩いても、ゆっくりしてもベチャベチャ又ベチャ。道路が瞬く間に白くなり始めた。
 陽は急激に傾き、夕方から夜に移行するにつれ鳥の数は増し、空は埋め尽くされた。ギャーギャーいう鳴き声は益々大きくなり、滑空場所が地面に近くなっているようだ。いやあすごかった。避けようもなくホテルに着くころには、全身頭から靴まで真っ白、道も車も真っ白になっていた。恐怖を覚えたよ。
 聞いたところではツバメの一種で、渡りの季節に毎年、二日間程こうなるそうだ。今でもそうなのかは分からない。何しろこれは四十年も前の話なのだから。



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