罪障消滅、寺修行
25歳、会社員で宝石のセールスをやっていた。何で寺に修行に行ったのか、その理由を数ページに渡って書いたが、あんまり気乗りがしないので割愛することにする。
ある理由で日々モンモンとした思いでいたんだ。そんな時、社長が以前朝礼で話していた寺での修行、そこには一つ上の先輩が行った事がある、に行きたくなった。この急に行きたくなるという心のメカニズムがよく分からない。まあイジイジした自分を変えたかったんだろうな。
社長は二つ返事でOKし、直ぐに寺に連絡してくれた。この社長、周りの評判は相当に悪いが、自分にとってはある種恩人である。この寺修行の一年後に自分は会社を休職してNGOに入りタイとカンボジアの国境で井戸掘りをするのだが、その時も応援してくれただけでなく渡航費用を稼ぐ為に休職中に一日一万円のバイトをさせてくれた。休職してバイトって変な話しだが、助かったな。結局ボランティアから帰ってきて、疲れで一週間入院しその後退職した。それからは一度も会っていないが、お世話になりました。社長がこの文を読む事は無いだろうが自分は感謝しています。
さて指定された日の朝、着替えとブルーな思いを抱いて寺を訪れると、確かに話しが通っていてテキパキと案内され、午後から修行に入った。結局寺には一週間ほどいただろうか。5-6泊、或いは4泊位だったかも。30年以上経つと記憶も薄れるが、断片的には強い記憶もある。何しろ中身の濃い一週間だったんだ。
そこは日蓮宗の寺で、お坊さんの修行が厳しい事で知られているらしかった。朝は早く起き広い境内の庭掃除、本堂の雑巾がけ、本格的な修行は午後から始まる。食事は実に質素なものだった。一汁一菜、量も少ない。落ち葉の季節で、庭は一日で木の葉が積もり朝晩は寒かった。何故か修行中ずっと付きっきりで面倒を見てくれたおばさんがいて、終始この人の言う通りに行動した。
修行は正座をして太鼓に合わせて皆で大きな声でお題目、つまり『南無妙法蓮華経』を数限りなく唱える、というシンプルなものだが、30分も続けたら体から汗が出て頭がクラクラしてくる。これを午後一杯、休憩を挟んで延々と続ける。正座は空手で慣れていたが、段々厳しくなっていった。しかも2日目、3日目と修行が進むにつれ、体の中からケモノじみたものが出てきて(それを罪障と言うそうだ)体が震え、ついに正座をしたまま飛び上がるようになった。5cm,10cmとピョンピョン飛んで、その度に足の甲から落ちて赤あざが出来た。床は確か板敷きで薄い敷物を置いていたように思う。
修行中お題目を唱える人は、通いで来る人が入れ替わるので、その時々で人数と顔ぶれが変わるが、4-5人から多くて7-8人。じいちゃん、ばあちゃんが多い。3日目位になると、意識はしっかりしているものの体の制御が利かなくなり、勝手に口からフー、フーと息が漏れる。犬科のケダモノが体内にいるみたいだ。
付き添いのおばさん(この人には感謝しています。名前は忘れてしまってごめんなさい。)はここぞとばかり、背中をさすり、またはバンバン叩く。太鼓を叩くじいさんは打つ手に力を込める。この時、修行をしていたのは自分一人だった。日に日にクライマックスが近づいているのが分かるが、それがどんな物なのかは分からない。
つぃにその日の朝、住職の前に出された。体の中に狼を飼っているかのように、勝手に口からフー、カーと息が出、体がブルブル震えだした。恐いのではなく、逆に住職に飛びかかって食いつきそうだ。意志の力が弱くなり、罪障=狼が前面に出てきた。細かい手順は覚えていないが、次のような問答がなされた。「罪障、汝に問う。本人は答えなくて宜しい。」「カーカー」もう体はマラリアにかかったように震えている。「汝は何者なるや!」「カーカー」「重ねて問う。汝は何者なるや!」「ーーーーwa,ga,ma,ma,」自分の口から出たとは思えぬしわがれ声がそう言った。体は乗っ取られても意識はあるから、意外な答えに驚いた。そこで住職の喝!「罪障よ、去れ!」か「成仏せよ」か分からない。もうこの瞬間は頭も体も沸騰しかけていた。喝!で体がフッと軽くなった。罪障が抜けた。この日までの悪事の数々はいったん精算されたんだろう。
その後、住職にお茶をご馳走になり、良かったら出家しないかとスカウトされた。またいつでも遊びに来なさい、ここは成田空港に近いからね、と言われたがあの日以来一度も訪れていない。世話になったおばさん達に深く感謝して寺を後にした。
修行が終わり久し振りに帰宅する電車の中は、娑婆の俗気がきつかった。何だか車内の乗客の存在がギラギラして見えた。特に女学生の紺色のスカートからのぞく二つのひざ小僧などは、思わずつばを飲み、「南無ーー」と嗄れた声で唱えたくなった。って、単なる欲求不満かよ。ギラギラ感は、ものの数時間で跡形もなく消え、その後は自分自身がギラギラそのものに戻っていった。
25歳、会社員で宝石のセールスをやっていた。何で寺に修行に行ったのか、その理由を数ページに渡って書いたが、あんまり気乗りがしないので割愛することにする。
ある理由で日々モンモンとした思いでいたんだ。そんな時、社長が以前朝礼で話していた寺での修行、そこには一つ上の先輩が行った事がある、に行きたくなった。この急に行きたくなるという心のメカニズムがよく分からない。まあイジイジした自分を変えたかったんだろうな。
社長は二つ返事でOKし、直ぐに寺に連絡してくれた。この社長、周りの評判は相当に悪いが、自分にとってはある種恩人である。この寺修行の一年後に自分は会社を休職してNGOに入りタイとカンボジアの国境で井戸掘りをするのだが、その時も応援してくれただけでなく渡航費用を稼ぐ為に休職中に一日一万円のバイトをさせてくれた。休職してバイトって変な話しだが、助かったな。結局ボランティアから帰ってきて、疲れで一週間入院しその後退職した。それからは一度も会っていないが、お世話になりました。社長がこの文を読む事は無いだろうが自分は感謝しています。
さて指定された日の朝、着替えとブルーな思いを抱いて寺を訪れると、確かに話しが通っていてテキパキと案内され、午後から修行に入った。結局寺には一週間ほどいただろうか。5-6泊、或いは4泊位だったかも。30年以上経つと記憶も薄れるが、断片的には強い記憶もある。何しろ中身の濃い一週間だったんだ。
そこは日蓮宗の寺で、お坊さんの修行が厳しい事で知られているらしかった。朝は早く起き広い境内の庭掃除、本堂の雑巾がけ、本格的な修行は午後から始まる。食事は実に質素なものだった。一汁一菜、量も少ない。落ち葉の季節で、庭は一日で木の葉が積もり朝晩は寒かった。何故か修行中ずっと付きっきりで面倒を見てくれたおばさんがいて、終始この人の言う通りに行動した。
修行は正座をして太鼓に合わせて皆で大きな声でお題目、つまり『南無妙法蓮華経』を数限りなく唱える、というシンプルなものだが、30分も続けたら体から汗が出て頭がクラクラしてくる。これを午後一杯、休憩を挟んで延々と続ける。正座は空手で慣れていたが、段々厳しくなっていった。しかも2日目、3日目と修行が進むにつれ、体の中からケモノじみたものが出てきて(それを罪障と言うそうだ)体が震え、ついに正座をしたまま飛び上がるようになった。5cm,10cmとピョンピョン飛んで、その度に足の甲から落ちて赤あざが出来た。床は確か板敷きで薄い敷物を置いていたように思う。
修行中お題目を唱える人は、通いで来る人が入れ替わるので、その時々で人数と顔ぶれが変わるが、4-5人から多くて7-8人。じいちゃん、ばあちゃんが多い。3日目位になると、意識はしっかりしているものの体の制御が利かなくなり、勝手に口からフー、フーと息が漏れる。犬科のケダモノが体内にいるみたいだ。
付き添いのおばさん(この人には感謝しています。名前は忘れてしまってごめんなさい。)はここぞとばかり、背中をさすり、またはバンバン叩く。太鼓を叩くじいさんは打つ手に力を込める。この時、修行をしていたのは自分一人だった。日に日にクライマックスが近づいているのが分かるが、それがどんな物なのかは分からない。
つぃにその日の朝、住職の前に出された。体の中に狼を飼っているかのように、勝手に口からフー、カーと息が出、体がブルブル震えだした。恐いのではなく、逆に住職に飛びかかって食いつきそうだ。意志の力が弱くなり、罪障=狼が前面に出てきた。細かい手順は覚えていないが、次のような問答がなされた。「罪障、汝に問う。本人は答えなくて宜しい。」「カーカー」もう体はマラリアにかかったように震えている。「汝は何者なるや!」「カーカー」「重ねて問う。汝は何者なるや!」「ーーーーwa,ga,ma,ma,」自分の口から出たとは思えぬしわがれ声がそう言った。体は乗っ取られても意識はあるから、意外な答えに驚いた。そこで住職の喝!「罪障よ、去れ!」か「成仏せよ」か分からない。もうこの瞬間は頭も体も沸騰しかけていた。喝!で体がフッと軽くなった。罪障が抜けた。この日までの悪事の数々はいったん精算されたんだろう。
その後、住職にお茶をご馳走になり、良かったら出家しないかとスカウトされた。またいつでも遊びに来なさい、ここは成田空港に近いからね、と言われたがあの日以来一度も訪れていない。世話になったおばさん達に深く感謝して寺を後にした。
修行が終わり久し振りに帰宅する電車の中は、娑婆の俗気がきつかった。何だか車内の乗客の存在がギラギラして見えた。特に女学生の紺色のスカートからのぞく二つのひざ小僧などは、思わずつばを飲み、「南無ーー」と嗄れた声で唱えたくなった。って、単なる欲求不満かよ。ギラギラ感は、ものの数時間で跡形もなく消え、その後は自分自身がギラギラそのものに戻っていった。
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