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海洋天堂

2022-11-02 15:13:22 | 銀幕

薛暁路(シュエ・シャオルー)監督・脚本 2010年発表作品 中国・香港合作映画

平凡にして偉大なるすべての父と母へ

 

中国の、海に近い南部の街が舞台です。

王心誠(ワン・シンチョン)は水族館の電気や機械のメンテナンスの仕事をする職員。彼には21歳になる自閉症の息子大福(ダーフゥ)がいる。症状が重い大福は父なしでは日常生活ができない。大福の母であり心誠の妻は大福が小さい時に亡くなって、今は二人が身を寄せ合うように生きている。

息子と共に毎日水族館に通って、大福は水の中では魚のように自由自在に泳ぎ、巨大な水槽の中の魚と戯れ、来館者を喜ばせている。

心誠は末期癌を患っている。もう先は長くない。

たった一人の肉親の、父だけが頼りの息子をこの世に一人残した後、息子は生きて行けるのかと思い詰めて、海に連れてゆき足に重りを付けて心中しようとするけれど、泳ぎの得意な大福が縄をほどいて二人は命拾いしてしまう。

自分の意志を訴えない大福だけど、彼は生きることを選んだのだ。

それから心誠は自分が死んだあとの大福の生きる場所をさがし廻り、生活する術を教えてゆく。

それは普通に生きていくには当たり前な事ばかりだけど、物事をすぐには理解できない大福には覚えるのはとても大変で、辛抱強く何度も何度も繰り返し心と体に刷り込ませるように教えていく。その間も心誠の体は蝕まれていく。成人した大福を受け入れてくれる施設が見つからない。果たして、大福は自分の死後も暮らしてゆけるだろうか。

時には父親のいう事がわからずに勝手な行動をしてしまったり、パニックに陥ることもあり、その都度父親はわが身を省みず息子を助けます。

でもあまりにわからなくて苛立って声を荒げることがあり、涙を流す大福を見て、ハッとして謝り抱きしめる。

ああ、自分の必死さばかりに気持ちがいっぱいになって怒鳴った後、ハッとしても、だってお前がわかろうとしないからだ、と自分を擁護して更に相手を攻める事ってありますよね。私も過去にそんな間違いを起こしたことがあります。だけど、心誠は大福の気持ちを第一に思って自分の非を認めている。

やがておぼろげながら母親の死因が私達にもわかります・・・。

心誠は自分の死後に大福に孤独を感じさせないように、一計を案じます。

その愛情の深さに泣けて仕方がありませんでした。

 

心誠を演じたジェット・リー(李連杰)は並外れた身体能力で弱きを助け悪を倒すカンフーアクションヒーローとして一世を風靡した俳優。きっとだからこそ深く強さを考察し追及してきたのでは。そして、強さを極めた先にもう一つの強さとして心誠の姿があったように思えました。

この映画にアクションはなく、市井の父親が病を負った体をおして時にはもがきながら、自分の命以上に息子の幸せを願い精一杯奮闘する姿に、染み入るような強さと美しさがあります。

 

水族館の館長さんは父子を心配し見守り続け、近所の雑貨屋の叔母さん(叔母さんというには申し訳ないほど若いですが)は何かと気にかけ手助けをしてくれます。

水族館に巡業に来た旅芸人の一人鈴鈴(リンリン)と大福とのひと時の瑞々しくて切ない交流。鈴鈴は何となく昔亡くなった大福の母親と似ています。

 

父子の周りの人たちが皆良い人で心温まりました。きっと、現実はこんなに優しい人たちばかりじゃないと思うのです。が、この映画を通して鑑賞する私達にもこんな風に優しくサポートできる人と世界になれますように、と一つの形を見せてくれたように思えます。

心の片隅にこの映画を覚えていてくれたら、ハンディキャップを持つ方と保護者の方々に会ったときに、ふっと思い出して映画の人々と同じように温かく接していて欲しい。そして保護者がいざの時、安心して預けられる施設が足りない現状も示唆しています。

映画の影響力を信じて作っているように感じました。

 

だからこそジェット・リーはノーギャラでこの映画に出演したのでしょうね。

 

私は、これまでの人生で出会ったり交流があった大幅とつながりを感じる同級生やお子さん、そして成長を見守る保護者の方を思い出しました。

 

大福を演じたウェン・ジャン(文章)は重い自閉症青年をリアルに表現し、卓越した技術でしなやかに水槽奥深くまで泳ぎ回ります。

薛暁路監督が施設で働いた経験をもとに制作したそうです。

ブルーを基調とした画面、特に水の表現が素晴らしく清涼感があり、生活感のある場面には暖色系の色合いがポイントに使われてます。

何度も出てくるこの魚の模様のランプがとても素敵でした。

撮影はクリストファー・ドイル、「ブエノスアイレス」や「花様年華」と通じる映像美が感じられます。

久石譲の音楽も美しい珠玉の映画でした。

 

 


2 コメント

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号泣 (ごみつ)
2022-11-09 21:04:14
こちらにも

これはもう号泣しますよね。

「海洋天堂」は、ジェットリーの大ファンの方が日本公開のために署名を集めたりしてやっと公開になったんですよね。
私も当時署名して、劇場へ見に行きました。

アクションのまったくないジェットの姿に、涙涙でした。

ラストシーンも素晴らしかったですよね。
(;_;)
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知らなかった (himary)
2022-11-11 12:01:32
ごみつさん
ジェット・リーファンの方々が署名して日本で公開されたことを知りませんでした。
そうなんだ、ジェット・リー氏と映画を愛する方々に心から感謝
ごみつさんも署名してくださりありがとう!
今回私は遵命さんのご好意で鑑賞でき、感謝です♪
この映画は派手な内容ではなく社会問題とつながる市井の親子の物語だからこそ知名度の高いジェットさんが出演される意義を感じました。ジェット氏のおかげで見る人も増えていく。私もその一人です。
多くのヒーローを演じたジェット氏、この映画も”愛する人の幸せを守り抜く”ことにおいて、まさしくヒーローだと思いました。
見応えのある映画にしようという気持ちが込められていて、内容だけでなく映像も音楽も美しく才能が集まって作り上げた珠玉の作品ですね。

そして、映画の物語の進行とともに、ささやかながら私の人生で交流のあった方々を思い出し、ただただ泣けました。
国に関係なく示唆を与えてくれる映画でした。
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