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王毅外相とブリンケン国務長官と再度会談 -アメリカは中国にイランへ働きかけ要請-

2023-10-29 | 小日向白朗学会 情報
 王毅外相が訪中しバイデン政権に「一つの中国」政策に回帰することを求めたことに対して同政府が同意したことで国際紛争の一つである台湾有事は解決の目途は立った。続いて、10月7日に発生したパレスチナ問題に米中とも軸足を移すことになった。
 その動きが、2023年10月28日、日本経済新聞『ブリンケン氏、中国にイランへ働きかけ要請 ガザ衝突』に表れている。
『……
【北京=田島如生】ブリンケン米国務長官は26〜27日、米国を訪れている中国の王毅(ワン・イー)共産党政治局員兼外相と会談した。イスラエルとイスラム組織ハマスとの衝突を巡り協議し、ハマスの後ろ盾とされるイランと友好関係にある中国に対し、イランの関与を防ぐための働きかけを要請した。
米国は中東問題を巡り「中国がより建設的なアプローチを取るよう」促した。パレスチナ自治区ガザでの衝突を大規模な戦闘に発展させないため、イランに影響力を持つ中国に対応を求めた。
中国外務省の発表では、王氏は「より大きな人道的災害を防ぐことが急務だ」と述べた。イスラエルとパレスチナが平和裏に共存する「2国家解決」の必要性を訴えた。
王氏は「大国は冷静かつ公平を貫くべきであり、国連は必要な役割を果たさなければならない」とも語った。米国が国連などの場でイスラエル支持の立場を明確にしてきたのを念頭に置いた発言とみられる。
……』
 ブリンケン国務長官が王毅外相に「イラン」への働きかけを要請したのは、イランとサウジアラビアの国交回復を仲介したのが中国であったからである。これにつてはNIDSコメンタリー『サウジアラビア・イラン国交回復における 中国の仲介的役割について』に詳しい[i]。
『……
2023年3月6日から10日にかけて、サウジアラビアのアイバーン国務相兼国家安全保障顧問とイランのシャムハニ最高安全保障委員会書記は北京で協議を持ち、中国の王毅・中国共産党中央外事工作委員会弁公室主任の仲介で国交回復に合意したことを発表した。それまで反目していた中東の二大地域大国が突如として国交回復を発表したこともさることながら、域外国である中国が仲介役を担ったことが世界の注目を集めた。この近年、中東地域において主に経済面で影響力を増していた中国が、政治面でもプレゼンスを高めており、そのことが中東地域の緊張緩和につながっていることを世界に印象づけたのである。 
……
(2)中国が仲介役を担った要因   それでは、中国がサウジアラビアとイランの国交回復で仲介役を担うことができた要因はどのようなものが考えられるだろうか。 第一に、中国政府が中東地域の紛争問題に対して積極的に関与する姿勢を見せつつ、協議の場を提供するなどの外交努力を続けていたことであろう。2014年から習近平政権は「中国の特色ある大国外交」を掲げており、この実践として「国際社会・地域において火種となる問題の平和的解決を推進する」ことを追求している。その一環として、世界のために「中国の知恵」、「中国のプラットフォーム」を提供することを掲げていた。2021年3月下旬に王毅外交部長(当時)がサウジアラビア、トルコ、イラン、UAE、バーレーン、オマーンの 6 カ国を訪問し、この訪問中に受けたプレスインタビューで、①相互尊重の提唱、②公平正義の堅持、③核不拡散の実現、④集団安全保障の共同構築、⑤発展協力の加速を旨とする「中東の安全と安定を実現する5つのイニシアティブ」を披露した25。この中では、シリア、イエメン、リビアなどの内戦問題、パレスチナ問題の解決、イラン核問題に加えて、湾岸地域国家の平等な対話と協議の推進を掲げ、これまでの経済中心の関与のみならず、政治や安全保障の面を含めた地域秩序形成に関与する姿勢を示していた。 習近平政権は2022年4月から「グローバル安全保障イニシアティブ(Global Security Initiative: GSI)」を掲げ、同イニシアティブの一環として中東における対話の促進や関係改善を位置づけ始めた。
……
実際に、国交回復の合意発表に同席した王毅中央委員は、サウジアラビアとイランの国交回復の仲介について、GSIの実践であるとの成果をアピールした。 イニシアティブの提起のみならず、これまでの外交的資産を活かした外交努力も展開された。国政府はここ一年の間に、サウジアラビアとイランに対して、首脳訪問を含む二国間協議、多国間協議(中国・GCC戦略対話、中国・アラブ連盟協力フォーラム、上海協力機構)、アドホックな協議(アフガニスタン隣国外相会議)など多層的なハイレベル協議の機会を活用して、自らの意向を伝えつつ、双方のコミュニケーションのチャネル役を務めてきた
……
こうした意味では、日本もサウジアラビア・イラン双方と比較的良好な関係を保っているとはいえ、米国との同盟関係やイランへの影響力の観点から、サウジアラビアとイランの双方から仲介役を期待されることは難しかったであろう。つまり、米国と一定の距離を置き、イランへの影響力を得ていることが、仲介者には求められたのである。
……』
 以上の経緯を踏まえるならば、ブリンケン国務長官が中国にパレスチナ問題に対してイランに働きを強めるように要請したのは、ある意味で当然のことなのである。
 それは、これまでの中東紛争とはことなる解決方法が求められるからである。
 つまり、イランとサウジアラビアが国交を回復したということは、これまで中東問題の原因をスンニ派とシーア派の対立に求めていたが、これでは説明できない状況が生まれてしまったということである。そのため、今次のパレスチナ問題では「イスラエルVS.イスラム教シーア派」ではなく「シオニストVS. オール・イスラム」となってしまった。これではイスラエルに勝算はない。イスラエルに残るはアメリカに介入を求める以外に方法はない。そして、いよいよアメリカがパレスチナ問題に軍事介入する直前で、米中は「国際社会・地域において火種となる問題の平和的解決を推進する」一環としてアメリカは「一つの中国」政策に回帰することを約束したのだ。つまり、パレスチナ問題解決を中国に要請する以外に方法はなくなったといことになる。ところで今回引用した論文であるが、最近の防衛省防衛研究所はウクライナ問題でプロパガンダとなって悪質なデマを流布する中心となっていたことを考えると、地道な研究を重ねている職員がいたことに留飲を下げる思いである。
 話をパレスチナ問題と中国問題に戻す。
中国はパレスチナ問題の本質が資源問題であるという認識に基づき、これまでの中東外交関係を利用して積極的な役割を果たそうとしている。その本気度を示す出来事が起きている。それは、王毅外相が訪米する直前に公表された李尚福国防相解任である。
 その様子を2023年10月24日、ロイターは『中国、動静不明の国防相を解任 外相に続き2人目』で紹介している。
『……
[北京 24日 ロイター] - 中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は24日、李尚福国防相の解任を決定した。閣僚の解任は7月の秦剛前外相に続き2人目となる。国営テレビのCCTVが報じた。
常務委員会は李氏と秦氏の国務委員の解任も承認した。
解任の理由などの説明はない。李氏の後任は任命されず、国防相は空席となる。中国は29日から地域の安全保障会議「香山フォーラム」を開催する。
李氏は2カ月前から動静不明となった。ロイターは先月、同氏が防衛装備品の調達などを巡る汚職で捜査を受けていると伝えていた。
……』
 ところで、現在の中国石油産業は「三桶油」とよばれる中国石油天然気(天然ガス)集団公司(China National Petroleum Corporation: CNPC)、中国石油化工集団公司(China Petrochemical Corporation: Sinopec Group)および中国海洋石油総公司(China National Offshore Oil Corporation.: CNOOC)の三大国有石油会社が圧倒的な地位を占めている。特に中国海洋石油総公司は、中国大陸沖合(東シナ海お含む)における石油および天然ガスの探査、採掘、開発を行っている。それと共に、中国海洋石油総公司(CNOOC))は人民解放軍と深い関係にあることは夙に知られていることである。その関係は、2020年11月30日、Bloombergは『米国、SMICとCNOOCをブラックリストに追加へ』で明らかになっている。
『……
米国のトランプ政権は中国人民解放軍とつながりのある企業として中芯国際集成電路製造(SMIC)と中国海洋石油(CNOOC)をブラックリストに加えようとしている。ロイター通信が文書および事情に詳しい匿名の関係者3人の話を基に伝えた。バイデン次期大統領が就任する前にトランプ政権が打ち出している対中強硬策の1つだ。
……』
 つまり、中国は、今次のパレスチナ問題を解決するため人民解放軍の抑止力(中国が中東に艦艇6を派遣)を利用してでも平和的解決するためには、中国解放軍トップが天然ガス関係会社と密接な関係を維持していては、パレスチナはもとよりアラブ諸国の同意を取り付けることが難しくなるとの判断から、これを避けるための処置ではなかったのかと考えられる。
 また、本年7月に解任された秦剛も李尚福国防相解任と同様の理由であろう。2023年6月18日、ブリンケン米国務長官が訪中した際に秦剛国務委員兼外相と会談を行い、米中が衝突回避のため双方の対話を継続するため秦外相(当時)をワシントンに招聘することとに合意している。そして中国外務省当局者も秦剛外相がブリンケン米国務長官の招請を受入れていた。そして秦剛外相が訪米する直前の国営新華社通信が2023年7月25日に解任を発表した。習近平は、アメリカの「一つの中国」政策に回帰することを求める交渉に秦剛が不適格であると判断したことから解任したと考えられる。

 習近平国家主席と王毅外相から、パレスチナ問題を平和的に解決しようとする並々ならない決意を感じる次第である。

 日本は、パレスチナを国家として承認し、イスラエルの残虐行為を国連のもとで裁くことを外交方針とすべきではなかろうか。これくらいの外交方針を立てなければ今年11月に行われるアジア太平洋経済協力会議(APEC)では「金魚の糞」と揶揄されるだけであろう。

尚、これまで米中関係については下記のスレッドで述べてきた。
・(2023.06.22)「上海コミュニケ
以上(寄稿:近藤雄三)

[i] 八塚 正晃「サウジアラビア・イラン国交回復における 中国の仲介的役割について」『NIDSコメンタリー』防衛研究所(2023年8月1日)。

http://www.nids.go.jp/publication/commentary/pdf/commentary269.pdf


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